星の王子と花の姫君 作:百合魔神
図書室の入口に、新しい展示板が置かれていた。
大きな画用紙に書かれているのは、『私に夢をくれた一冊』という題名。その下には、生徒がおすすめする本と手書きの紹介カードを並べるための空間が空けられている。
「紹介したい本がある人は、今日中にカードを書いてね」
昼休み前、図書委員のゆいから用紙を受け取ったはるかは、寮の部屋から持ってきた『花のプリンセス』を机へ置いた。
本を選ぶことに迷いはなかった。
表紙には、色鮮やかな花に囲まれたプリンセスが描かれている。何度も開いたため角は丸くなり、背表紙にも細かな皺が刻まれていた。
はるかは紹介カードの最初の欄へ、迷わず題名を書く。
次の「この本があなたにくれたもの」という欄には、「プリンセスになる夢」と書きかけた。
そこで、鉛筆が止まった。
本を開くと、最後の見開きに王子とプリンセスが描かれている。花咲く城の前で、白馬から降りた王子が片膝をつき、少女へ手を差し出していた。
以前なら、見るだけで胸が高鳴った場面だ。
しかし今は、その手に別の光景が重なる。
白い王子服をまとったきららが、青いドレスのレイナへ手を差し出す。腰を抱き留め、優しい眼差しで見つめる姿まで思い出したところで、はるかの胸がまた落ち着かなくなった。
――きららちゃんが、ほかの子の王子様になるのが嫌。
どうしてあんなことを言ったのか、今も分からない。
きららは仕事をしていただけで、レイナも何も悪くない。それなのに、昨日の自分は撮影を見ているだけで苦しくなった。
王子様とプリンセスは、物語の中ではいつも幸せそうだった。
それなら、自分は何が嫌だったのだろう。
「はるかちゃん?」
ゆいに呼ばれ、はるかは顔を上げた。
「さっきから、同じところを見てるけど……どうかした?」
「うん。プリンセスのことを考えてたの」
「プリンセス?」
「私、ずっとこの絵本みたいなプリンセスになりたいって思ってたでしょう? でも、プリンセスって何なのかなって、急に分からなくなっちゃって」
はるかは最後のページをゆいへ見せた。
「プリンセスって、王子様に選んでもらったら完成するのかな」
ゆいはすぐには答えず、絵本と空白の紹介カードを見比べた。
「はるかちゃんは、今までそう思ってたの?」
「たぶん……そうだったのかも。王子様に見つけてもらって、手を取ってもらえたら、夢が叶うんだって」
「それなら、もう一度最初から読んでみたらどうかな」
「最初から?」
「うん。昔のはるかちゃんと、今のはるかちゃんでは、見つけるものが違うかもしれないから」
ゆいは答えを教える代わりに、絵本をはるかの方へ戻した。
昼休みになると、はるかは『花のプリンセス』と書きかけの紹介カードを持って、中庭のテーブルへ向かった。
すでに昼食を広げていたみなみが、はるかの手にある絵本へ気づく。
「懐かしい本を持っているのね」
「ゆいちゃんの展示で紹介しようと思ったんです。でも、書くことが決まらなくて」
「はるかがその本について迷うなんて、珍しいね」
きららは紙パックのジュースへストローを差しながら、紹介カードを覗き込んだ。前日のことを思い出したのか、はるかと目が合う直前に視線を逸らす。
その不自然な動きに、はるかは気づかなかった。
「みなみさん。プリンセスって、王子様に選ばれた人なんでしょうか」
「難しい質問ね」
みなみは箸を置き、少し考えてから答えた。
「王女という立場なら、家柄や国の決まりで定められることもあるでしょう。でも、はるかが目指しているプリンセスは、それとは違うのではなくて?」
「そう、ですよね。生まれた時から決まってるなら、頑張ってなるものじゃないですもんね」
「そうね。少なくとも、誰か一人に選ばれなければ努力が無駄になるような夢ではないと思うわ」
はるかは頷いたものの、まだ表情は晴れなかった。
きららがジュースのストローから口を離す。
「別に、王子様なんていなくてもいいんじゃない? 自分でプリンセスになればいいでしょ」
「でも……」
はるかは絵本の表紙を撫でた。
「カナタに、夢を信じることを教えてもらったのも大切な思い出だよ。キラくんと約束したから、頑張れたこともあった。それも、間違いだったのかな」
きららの指が、紙パックの側面をわずかにへこませた。
王子に頼らなくてもいいという言葉は、はるかなら自分で夢へ進めるという意味だった。だが、その言い方では、はるかが誰かに支えてもらった記憶まで否定することになる。
「……別に、間違いって言ったわけじゃないけど」
「きらら?」
「何でもない。はるかが自分で考えないと、意味ないでしょ」
きららはそれ以上続けず、残っていたジュースを飲み切った。
放課後になっても、紹介カードの半分は空白のままだった。
図書室の隅に座ったはるかは、何度も鉛筆を持ち直していた。「勇気をくれた」「夢をくれた」「諦めないことを教えてくれた」と書いてみても、どれも大切な何かが抜けている気がする。
ゆいは返却された本を整理しながら、時折心配そうにはるかを見ていた。
「まだ書けてないの?」
聞き慣れた声に振り返ると、鞄を肩へ掛けたきららが立っていた。
「きららちゃん。帰ったんじゃなかったの?」
「教室に忘れ物したから取りに戻っただけ。それで図書室の前を通ったら、まだいるのが見えたの」
「そうなんだ」
「その顔じゃ、何も決まってないみたいだね」
きららは向かいの椅子を引き、当然のように腰を下ろした。
「ゆい、絵本を読んでもいい?」
「もちろん。私は返却作業をしているから、ゆっくり読んで」
ゆいがカウンターへ戻ると、はるかは『花のプリンセス』を二人の間へ置いた。
「きららちゃん、このお話を読んだことある?」
「小さい頃、はるかに何回か読まされた」
「読んであげたんだよ」
「あたしは別の本で遊びたかったのに、同じところばっか見せてきたじゃん」
「だって、最後のページが一番ステキだったんだもん」
はるかが頁を開くと、古い紙の匂いがした。
物語は、王子の登場から始まるわけではない。
主人公は、城から遠く離れた村で花を育てている少女だった。豪華なドレスも宝石も持たず、毎日土に触れて暮らしている。
少女は、育てた花を自分だけのものにはしなかった。
病気で外へ出られない人には、窓辺へ飾れる花を届けた。喧嘩をしていた子どもたちには、同じ花の種を分けて渡した。嵐で村の庭が荒れた時には、泥だらけになりながら折れた枝を集め、倒れた苗を植え直した。
はるかの指が、あるページで止まった。
嵐が過ぎ去った後、荒れ果てた花畑の中で、少女が膝を抱えている。顔には雨粒のようなものが描かれていた。
「この子……泣いてたんだ」
幼い頃は、雨に濡れているだけだと思っていた。あるいは、最後に現れる王子の姿ばかりを見て、途中の涙を覚えていなかったのかもしれない。
次のページで、少女は自分で立ち上がっていた。
泣いた跡を残したまま、土を掘り返している。少女に助けてもらった村の人々も集まり、隣で花を植えていた。
その絵を見つめていると、擦りむいた膝の痛みと、小さな手の温かさが蘇る。
――泣いても、また立てばいい。
あの言葉を聞いた時、どうしてあれほど嬉しかったのか。今なら、少し分かる気がした。
キラは泣かない自分を褒めたのではない。泣いた後にもう一度立とうとした自分を認めてくれた。
「私、このページをちゃんと見てなかった」
はるかが呟くと、きららも絵を覗き込んだ。
「最後に王子が出てくるところばっかり好きだったからね」
「うん。でも、この子は王子様が来る前から、ずっと誰かのために頑張ってたんだね」
二人は続きをめくった。
花畑を蘇らせた少女の噂を聞き、旅をしていた王子が村を訪れる。王子は、少女が育てた花と、村の人々の笑顔を見た。
最後の見開きで、王子は少女へ手を差し出す。
『あなたこそ、花のプリンセスです』
少女は驚きながらも、その手を取る。二人の周りには、村人と色とりどりの花が描かれていた。
「王子様が来たから、この子が優しくなったんじゃない」
はるかは最初のページから、ゆっくりと絵を見直す。
「誰かに見つけてもらうために花を育ててたわけでもない。誰にも選んでもらえなかったとしても、この子がしてきたことは同じなんだ」
「うん。誰にも見つけてもらえなくても、やったことは消えないでしょ」
きららの言葉に、はるかは大きく頷いた。
「じゃあ、王子様が来る前から、この子はもう花のプリンセスだったんだね」
「王子は、それに気づいて手を差し出しただけ。プリンセスにしてあげたわけじゃないってことじゃない?」
「そっか……」
はるかは最後の見開きをもう一度見つめた。
同じ絵なのに、今までとは違って見えた。
王子が少女を選ぶ場面ではない。別々の道を歩いてきた二人が出会い、これから同じ方へ歩こうとしている場面だった。
きららは閉じられた絵本の表紙へ手を置いたまま、しばらく黙っていた。
「あの約束も、そうだったのかな」
低い声に、はるかが顔を上げる。
「約束?」
「ほら。小さい頃、あたしが言ったやつ。はるかがプリンセスになったら、迎えに行くって」
きららは表紙のプリンセスから目を逸らした。
「今考えると、勝手な約束だよね。まるで、あたしが認めなきゃ、はるかはプリンセスになれないみたいじゃん」
「そんなこと……」
「この前も、あたしの中にある正解へ、はるかたちを無理に合わせようとした。昔から変わってなかったのかもね」
未来を知っているというだけで、仲間を決められた位置へ置こうとした。
幼い頃も、自分は王子の役へ逃げ込み、はるかをプリンセスの役へ押し込めていたのではないか。はるかが本当はどんな人になりたいのか、一度でも尋ねただろうか。
「あの時のあたし、はるかがどんなプリンセスになりたいのか、ちゃんと聞かなかった」
「うん。聞かれなかったかも」
「そこは否定してよ」
「でも、本当だもん」
困ったように笑った後、はるかは真剣な眼差しできららを見た。
「それでも、あの約束は間違いじゃないよ」
「どうして?」
「私は、キラくんに合格してもらうために頑張ってたんじゃないから」
はるかは胸元へ手を当てる。服の下には、今も花の指輪がある。
「キラくんが迎えに来てくれるって思ったから、頑張れた日もあったよ。夢を笑われた時も、失敗して泣いた時も、いつか会えたら、ちゃんとプリンセスを目指してるって言いたかった」
「はるか……」
「胸を張って、自分の夢を話せる私になりたかったの」
約束は、はるかの夢を決める檻ではなかった。
立ち止まりそうな時に、もう一歩だけ前へ進ませる目印だった。
きららが恥ずかしさから消してしまいたいと思っていた言葉を、はるかはずっと大切に育てていた。
「だから、迎えに来るって言ってくれて嬉しかったよ。でも今は、もう迎えに来てもらわなくても大丈夫」
「え?」
「だって、もう会えたでしょう?」
はるかは花が咲くように笑った。
「今度は、迎えに来てもらうんじゃなくて、一緒に歩きたいな」
きららの頬が一気に熱くなった。
昨日は、ほかの子の王子様になるのが嫌だと言われた。今日は、一緒に歩きたいと言われている。
はるかに深い意味がないことは分かっている。分かっているからこそ、問い詰めることも、軽く受け流すこともできない。
「きららちゃん?」
はるかが不思議そうに覗き込んでくる。
「……昨日の今日で、よくそういうこと言えるね」
「昨日?」
「分からないならいい」
きららは顔を背け、頬の熱が引くのを待った。
やがて、もう一度はるかを見る。
「じゃあ、約束を変えようか」
「変えるの?」
「プリンセスになったら迎えに行くっていうのは、もうおしまい。はるかが自分で歩くなら、あたしが迎えに行く必要ないでしょ」
「うん」
「その代わり、はるかがなりたいプリンセスになるところを、ちゃんと見てる」
はるかの瞳が輝く。
「近くで?」
「まあ……あたしが置いていかれなければね」
「置いていかないよ!」
図書室に響いた声に、何人かの生徒が振り返った。はるかは慌てて口元を押さえ、きららは笑いを堪えるように肩を震わせる。
「図書室なんだから静かにしなよ」
「きららちゃんのせいだよ」
「あたし、何もしてないじゃん」
「置いていかれるなんて言うから!」
二人は声を抑えながら笑った。
笑いが収まると、はるかは紹介カードへ向き直った。
今度は、鉛筆が止まらなかった。
『この本があなたにくれたもの』
その欄へ、はるかは一文字ずつ丁寧に書いていく。
『プリンセスは、王子様に選ばれた人ではありません。自分の夢を信じて、自分の足で歩きながら、誰かの夢にも手を差し出せる人です。私は、そんなプリンセスになりたいです』
書き終えた文章を読み返し、はるかは小さく息を吐いた。
「これでいいのかな」
「あたしに聞くの?」
「だって、きららちゃんも一緒に考えてくれたから」
「はるかが本当にそうなりたいなら、それがはるかのプリンセスでしょ」
きららは紹介カードへ合格を出さなかった。間違っているとも、正しいとも言わない。
その答えを選んだのは、はるか自身だった。
「うん。私、これがいい」
はるかは空白のなくなったカードを両手で持ち上げた。
図書室を出た頃には、窓の外が茜色に染まっていた。
みなみはまだ生徒会の仕事をしており、ゆいも展示の準備が残っている。はるかときららは二人で、寮へ続く中庭を歩いた。
花壇の向こうでは、夕焼けの名残が薄れていく空に、一番星が輝き始めている。
「ねえ、はるか」
きららが足を止めた。
「なあに?」
「結局、はるかはどんなプリンセスになりたいの? カードには書いてたけど、もっと具体的に」
「えっとね……」
はるかも立ち止まり、夕空を見上げた。
「強くて、優しくて、美しくて。失敗して泣いても、もう一度立てる人。自分の夢を信じて、誰かが夢を諦めそうになったら、今度は私が手を差し出せる人になりたい」
そこにあるのは、王子を待つプリンセスの姿ではなかった。
自分で歩き、誰かの隣へ行こうとする、はるか自身の夢だった。
「欲張りだね」
「駄目かな?」
「誰が駄目って言ったの。はるからしくていいんじゃない?」
きららは微笑んだ。
「じゃあ、次はきららちゃんの番だよ」
「あたし?」
「きららちゃんは、どんなトップモデルになりたいの?」
今さら尋ねられるとは思わなかったらしい。きららは目を瞬かせた後、腰へ片手を当てた。
「世界中のランウェイを歩く。パリも、ミラノも、ニューヨークも。ママの娘だからじゃなくて、天ノ川きららだから呼ばれるモデルになる」
「うん」
「あたしが出た瞬間、見てる人が目を離せなくなるの。ショーが終わっても、服とあたしの名前を忘れられないくらいにね」
そこまで言って、きららは少しだけ考える。
「それで、あたしを見た誰かが、自分も夢に手を伸ばしてみようって思ってくれたら……まあ、最高かな」
「ステキすぎる!」
はるかは両手を胸の前で合わせた。
「私、きららちゃんが世界のランウェイを歩く時、一番に応援するよ!」
「一番って、世界中のファンと競うつもり?」
「負けないよ!」
「そこは張り合うところじゃないでしょ」
きららは呆れたように笑った後、静かに続ける。
「あたしも、はるかがプリンセスになるところをちゃんと見てる」
「隣で?」
「……置いていかれなければね」
「だから、置いていかないってば」
はるかはきららへ手を差し出した。
小さかった頃とは逆だった。
泣いていたはるかにキラが差し出した手ではない。自分の夢へ歩こうとするはるかが、きららへ差し出した手だ。
きららは少しだけ迷い、その手を取った。
「寮まででいいからね」
「明日も一緒に歩こうよ」
「朝は撮影があるから無理」
「じゃあ、明後日!」
「気が早いって」
二人は手をつないだまま、同じ歩幅で寮へ向かった。
図書室へ戻ったはるかは、完成した紹介カードをゆいへ渡した。
ゆいは文章を最初から最後まで読み、柔らかく微笑む。
「書けたんだね」
「うん。きららちゃんと、もう一度絵本を読んだの」
「王子様のことは書かなかったんだ」
「王子様も大切だよ。夢を信じることを教えてくれたり、一緒に歩いてくれたりするから。でも、王子様にプリンセスにしてもらうんじゃないって分かったの」
はるかは展示板へ置かれた『花のプリンセス』を見る。
「自分がどんなプリンセスになりたいのかは、自分で決めるんだよ」
「そっか。はるかちゃんらしい答えだね」
「きららちゃんも、一緒に歩いてくれるって言ってくれたの」
「きららちゃんが?」
「うん。でも、置いていかれなければって言うんだよ。きららちゃんの方がずっと歩くのが速いのに、不思議だよね」
はるかは本当に不思議そうに首を傾げている。
ゆいは何かを言いかけ、それを胸の内へ戻した。
歩く速さの話ではないことに、きらら自身もどこまで気づいているのだろう。少なくとも、目の前のはるかよりは分かっているはずだ。
「ゆいちゃん?」
「ううん。二人なら、きっと大丈夫だと思っただけ」
「うん!」
はるかの笑顔を見ながら、ゆいは紹介カードを展示板へ留めた。
その夜、はるかはベッドへ入る前に『花のプリンセス』を本棚へ戻した。
最後のページを閉じても、王子とプリンセスの物語が終わったようには思わなかった。手を取った二人は、きっとその先も歩き続ける。
どちらかが転べば、もう一人が手を差し出す。疲れた時には隣で休み、それぞれの夢へ向かってまた歩き出す。
そんな二人なら、ステキだと思った。
本を棚へ収めた時、机の引き出しから澄んだ音が聞こえた。
「何の音?」
引き出しを開けると、ケースに収めていた三本のドレスアップキーが淡い光を放っている。
「キーが光ってるパフ!」
ベッドで眠りかけていたパフが飛び起きる。窓辺にいたアロマも羽ばたき、光るキーを覗き込んだ。
「こんな反応、初めてロマ!」
「ゆいちゃん、みなみさんたちを呼んで!」
はるかがキーを手にした瞬間、廊下から扉を叩く音がした。
「はるか、いる?」
きららの声だった。
扉を開けると、きららも光る三本のキーを持って立っている。その向こうからは、同じようにキーを手にしたみなみが駆けてきた。
「二人とも、あなたたちのキーも?」
「はい。急に光り始めたんです」
「あたしのも。何かに反応してるみたい」
三人がそれぞれのキーを近づける。
九つの光が重なった瞬間、寮の廊下が眩い輝きに包まれた。
パフとアロマが息を呑む。
九本のキーは細かな音を響かせながら同じ方角へ傾き、閉ざされた窓の向こうを指した。その先にある夜空には、見たことのない光の道が浮かび始めている。
はるかは隣に立つきららを見る。
きららもまた、何かを決めるようにはるかを見返した。
二人はもう、王子とプリンセスではない。
それぞれの夢を抱き、並んで次の場所へ進もうとする仲間だった。
九つの鍵が奏でる音に導かれ、閉ざされていた新たな道が、今まさに開こうとしていた。