織田信時の人生   作:秋月 了

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四年の道――蝦夷地を結んだ宴

 

 

 蝦夷地における織田家の統治は、順調に進んでいた。

 

 だが。

 

 順調という言葉は、何事もなく進んだという意味ではない。

 

 誰もが諦めたくなるほどの失敗を重ね。

 

 それでも歩みを止めなかった末に。

 

 少しずつ前へ進んでいたという意味だった。

 

---

 

 最初に行われたのは、土地の測量だった。

 

 半兵衛を中心に測量隊が組織され。

 

 和人の役人だけではなく、アイヌの案内人たちも加わった。

 

 山。

 

 川。

 

 湿地。

 

 海岸。

 

 集落。

 

 狩り場。

 

 冬を越すために使われる道。

 

 春になれば雪解け水で沈む土地。

 

 地図へ記すべきものは、あまりにも多かった。

 

半兵衛「この辺りは、夏には道として使えますね」

 

シャムセイン「冬は使えない」

 

半兵衛「雪で埋まるのですか」

 

シャムセイン「違う」

 

シャムセイン「春になると川になる」

 

 半兵衛は、手元の地図を見た。

 

半兵衛「……では、道を引き直しましょう」

 

測量役「またですか」

 

半兵衛「またです」

 

測量役「これで三度目です」

 

半兵衛「三度で済めば、運がよいでしょう」

 

 実際。

 

 三度では済まなかった。

 

---

 

 蝦夷地の冬は、厳しかった。

 

 雪は人の背丈を越え。

 

 吹雪は数歩先の人影すら消した。

 

 秋までに作った道が。

 

 冬を越した後には、どこにあったのかすら分からなくなる。

 

 杭は折れ。

 

 橋は流され。

 

 雪解け水によって川の形まで変わった。

 

織田家臣「大殿」

 

信時「何だ」

 

織田家臣「これ以上は無理です」

 

 その言葉を。

 

 信時は何度も聞いた。

 

織田家臣「道を作っても、冬になれば消えます」

 

織田家臣「川へ橋を架けても、雪解けで流されます」

 

織田家臣「測量を終えても、次の年には地形が変わっております」

 

織田家臣「人の力で、この土地を変えることはできません」

 

 信時は、雪に埋もれた道を見つめた。

 

 去年まで。

 

 確かにそこには、荷車が通れる道があった。

 

 だが今は。

 

 白い雪原が広がっているだけだった。

 

信時「ならば」

 

織田家臣「はい」

 

信時「この土地に合わせて、やり方を変えよう」

 

織田家臣「しかし」

 

信時「人の力で土地を無理に変える必要はない」

 

信時「雪が道を消すなら」

 

信時「雪が消えた後でも分かる目印を作る」

 

信時「川が橋を流すなら」

 

信時「流されない場所を探す」

 

信時「それでも駄目なら、船を使う」

 

織田家臣「大殿は」

 

織田家臣「諦めないのですか」

 

信時「諦めれば」

 

信時「この先に暮らす者へ、薬も食糧も届かない」

 

信時「それで死ぬ者がいる」

 

信時「なら、諦める理由にはならない」

 

---

 

 道だけではない。

 

 五稜郭城と各地の集落を結ぶ、連絡網も整備された。

 

 交易品。

 

 収穫物。

 

 衣類。

 

 薬。

 

 火災や病の知らせ。

 

 外敵の接近。

 

 それらを、一日でも早く届ける仕組みが必要だった。

 

時継「父上」

 

信時「何だ」

 

時継「南部では早馬が使えます」

 

時継「ですが、北部は雪が深すぎます」

 

シャムセイン「犬を使う」

 

時継「犬を?」

 

シャムセイン「橇を引かせる」

 

シャムセイン「馬より雪に強い」

 

 信時はすぐに頷いた。

 

信時「試そう」

 

織田家臣「犬に荷を引かせるのですか」

 

シャムセイン「アイヌは昔から使っている」

 

信時「ならば、我らが学ぶべきだ」

 

 冬には犬橇。

 

 夏には馬と荷車。

 

 川では舟。

 

 海岸沿いには小型船。

 

 山間部では、アイヌの案内人が荷を背負って進んだ。

 

 どの方法が優れているかではない。

 

 土地と季節に合う方法を使えばよい。

 

 信時は、そう考えた。

 

---

 

 最大の問題は、雪だった。

 

 五稜郭城と城下では。

 

 冬になるたび、雪を捨てる場所が足りなくなった。

 

 道の端へ積めば。

 

 道そのものが狭くなる。

 

 城壁の近くへ積めば。

 

 敵が侵入するための足場になる。

 

 雪解けの時期には、水が町へ流れ込み。

 

 家や蔵を傷めた。

 

幸村「大殿」

 

信時「何だ」

 

幸村「雪との戦は」

 

幸村「ロシア軍より手強いですな」

 

玉藻「雪をすべて燃やしましょうか」

 

信時「町まで燃えます」

 

玉藻「加減はしますよ」

 

信時「信用できません」

 

幸村「大殿」

 

幸村「やはり、どなたかと話しておりますか」

 

信時「気にするな」

 

 信時は川を見た。

 

 そして。

 

 ある案を出した。

 

信時「川幅を広げる」

 

半兵衛「川を」

 

信時「ああ」

 

信時「川底も深くする」

 

信時「冬の間に集めた雪を、ここへ運ぶ」

 

半兵衛「雪解け水を、そのまま川へ逃がすのですね」

 

信時「町へ流れ込む前にな」

 

シャムセイン「川の流れが変わる」

 

信時「魚に影響は出るか」

 

シャムセイン「やり方を間違えれば出る」

 

信時「ならば、魚の集まる場所は避ける」

 

信時「アイヌの漁師たちにも意見を聞こう」

 

 工事はすぐには始まらなかった。

 

 川の流れ。

 

 魚の遡上。

 

 春の増水。

 

 下流の集落。

 

 すべてを調べた上で。

 

 少しずつ川幅を広げ。

 

 川底を掘り下げていった。

 

 雪を運ぶための橇も作られた。

 

 川沿いには、雪を落とすための斜路が設けられた。

 

 それ以外にも。

 

 屋根の角度を変え。

 

 雪が自然に落ちるようにする。

 

 家と家の間隔を広げる。

 

 食糧庫を地面から離して作る。

 

 吹雪の中でも道を見失わぬよう、高い柱を並べる。

 

 雪崩が起きやすい場所には、家を建てない。

 

 和人の知恵。

 

 アイヌの知恵。

 

 そして。

 

 玉藻をはじめとする、人ならざる者たちが持つ知識。

 

 使えるものは、すべて使った。

 

---

 

 それでも。

 

 信時自身が倒れたこともあった。

 

 吹雪の中で現場を見回り。

 

 凍えたまま城へ戻り。

 

 高熱を出した。

 

玄作「大殿」

 

信時「大丈夫だ」

 

玄作「大丈夫な方は、立ち上がろうとして倒れません」

 

信時「明日の工事が」

 

玄作「中止です」

 

信時「だが」

 

玄作「中止です」

 

 玄作は信時を布団へ押し戻した。

 

玄作「道を作る方が死んでは」

 

玄作「誰が最後まで責任を取るのですか」

 

 信時は黙った。

 

玉藻「まったく」

 

玉藻「人には無理をさせぬくせに」

 

玉藻「自分だけは別だと思っているのですね」

 

信時「思っていません」

 

玉藻「では、眠りなさい」

 

信時「命令ですか」

 

玉藻「忠告です」

 

信時「同じでは」

 

玉藻「眠りなさい」

 

信時「……はい」

 

 信時が倒れたと聞いた者たちは。

 

 作業を止めようとした。

 

 だが翌朝。

 

 信時はまだ熱が下がらぬ身体で、書状を書いていた。

 

信時「俺が寝ている間も」

 

信時「測量だけは続けてくれ」

 

時継「父上」

 

信時「無理はするな」

 

時継「それを父上が言いますか」

 

信時「俺が悪い例になった」

 

時継「自覚はあるのですね」

 

 誰よりも無理をし。

 

 倒れても。

 

 失敗しても。

 

 決して諦めない。

 

 その姿を見て。

 

 家臣たちも。

 

 職人たちも。

 

 アイヌの者たちも。

 

 再び立ち上がった。

 

織田家臣「もう一度、道を引き直します」

 

アイヌの案内人「春になれば、俺たちが川の形を教える」

 

職人「次の橋は、必ず流されぬようにします」

 

シャムセイン「今度は最初から、我らの冬の道を地図に入れよう」

 

半兵衛「では、四度目の測量を始めます」

 

信時「頼む」

 

---

 

 一年目。

 

 道は冬に消えた。

 

 二年目。

 

 橋が雪解け水で流された。

 

 三年目。

 

 北部の集落へ薬を届ける途中、吹雪によって隊が引き返した。

 

 だが。

 

 四年目。

 

 五稜郭城から出た荷が。

 

 冬の最中にも北方の集落へ届いた。

 

北方の使者「薬が届いた!」

 

北方の住民「子供の熱が下がった!」

 

 別の集落では。

 

 不作によって食糧が不足したが。

 

 連絡を受けた近隣の集落と五稜郭城から。

 

 すぐに保存食が送られた。

 

アイヌの族長「昔なら」

 

アイヌの族長「春までに多くが死んでいた」

 

シャムセイン「今は道がある」

 

アイヌの族長「道だけではない」

 

アイヌの族長「呼べば来る者がいる」

 

 それこそが。

 

 信時が作ろうとしたものだった。

 

---

 

 苦節四年。

 

 ついに。

 

 蝦夷地に存在するすべての集落と、五稜郭城が結ばれた。

 

 道。

 

 川。

 

 海路。

 

 連絡所。

 

 宿場。

 

 診療所。

 

 食糧庫。

 

 どの集落から知らせが出ても。

 

 必ず別の集落や五稜郭城へ届く。

 

 同時に。

 

 蝦夷地全土を記した地図が完成した。

 

 海岸線。

 

 河川。

 

 山脈。

 

 平野。

 

 湿地。

 

 集落。

 

 季節ごとに変わる道。

 

 すべてが細かく記されていた。

 

 その正確さは。

 

 後の時代に作られた地図と比べても。

 

 ほとんど違いがなかったという。

 

 五稜郭城の大広間。

 

 半兵衛が、完成した地図を信時の前へ広げた。

 

半兵衛「大殿」

 

信時「うん」

 

半兵衛「完成しました」

 

 信時は、しばらく地図を見つめていた。

 

 何度も書き直された跡。

 

 新しい紙を継ぎ足した部分。

 

 アイヌの言葉で書かれた地名。

 

 和人が使う呼び名。

 

 川の流れ。

 

 冬の道。

 

 すべてが一枚に収められている。

 

信時「……終わったのか」

 

半兵衛「はい」

 

信時「本当に」

 

半兵衛「はい」

 

 信時は、目を閉じた。

 

 喜びよりも先に。

 

 長い疲れが押し寄せた。

 

信時「四年か」

 

時継「長かったですね」

 

幸村「ロシア軍を追い払うより、はるかに時間がかかりました」

 

シャムセイン「戦なら、敵を倒せば終わる」

 

シャムセイン「国を作る仕事には、終わりがない」

 

信時「ああ」

 

信時「だが今日は」

 

信時「一度、終わったことにしよう」

 

---

 

 信時は命じた。

 

 この計画に関わった者を。

 

 可能な限り五稜郭城へ招くように、と。

 

 織田の家臣。

 

 兵。

 

 職人。

 

 医師。

 

 船乗り。

 

 測量役。

 

 アイヌの族長。

 

 猟師。

 

 漁師。

 

 薬師。

 

 道案内を務めた者。

 

 雪の中で荷を運んだ者。

 

 男も。

 

 女も。

 

 和人も。

 

 アイヌも。

 

 そして、人ならざる者も。

 

 その日は。

 

 身分も立場も関係なかった。

 

 大広間だけでは足りず。

 

 城の庭と城下の広場まで使った、大きな宴が開かれた。

 

---

 

 並べられた料理も。

 

 一つの文化だけのものではなかった。

 

 米。

 

 味噌。

 

 越前から運ばれた酒。

 

 鮭。

 

 鹿肉。

 

 山菜。

 

 干した魚。

 

 木の実。

 

 アイヌの料理。

 

 和人の煮物。

 

 異国との交易で手に入れた香辛料を使った料理。

 

 誰もが好きな物を取り。

 

 好きな場所へ座った。

 

 信時も上座にはいなかった。

 

 族長たちと同じ場所に座り。

 

 大きな木皿から料理を取っていた。

 

アイヌの族長「信時」

 

信時「何ですか」

 

アイヌの族長「お前は、この国で一番偉いのではないのか」

 

信時「一応は」

 

アイヌの族長「なら、なぜそこに座っている」

 

信時「ここに料理があるからです」

 

 周囲から笑いが起きる。

 

シャムセイン「この男は、いつもこうだ」

 

信時「何か問題があるか」

 

シャムセイン「ない」

 

シャムセイン「だから皆が困る」

 

信時「なぜだ」

 

シャムセイン「偉そうにしない者ほど」

 

シャムセイン「皆が勝手に従いたくなる」

 

 信時は苦笑した。

 

信時「それは皆の自由だ」

 

玉藻「本当に」

 

玉藻「人を従わせることだけは、お上手ですね」

 

信時「玉藻殿」

 

玉藻「何でしょう」

 

信時「今日は食べるだけにしてください」

 

玉藻「では、その酒をいただきます」

 

信時「それは俺のです」

 

玉藻「無礼講なのでしょう」

 

信時「そうでした」

 

 幸村には。

 

 信時の隣で酒を飲む狐耳の女性が見えていた。

 

幸村「大殿」

 

信時「何だ」

 

幸村「俺はもう」

 

幸村「あの方が宴へ混ざっていても、驚かなくなりました」

 

信時「それはよかった」

 

玉藻「慣れとは恐ろしいものですね」

 

幸村「今、俺を褒めましたか」

 

玉藻「いいえ」

 

幸村「やはりですか」

 

---

 

 宴に細かな決まりはなかった。

 

 男も女も。

 

 身分の高い者も低い者も。

 

 同じ料理を食べ。

 

 同じ酒を飲んだ。

 

 アイヌの若者が歌い。

 

 和人の兵が調子を合わせる。

 

 織田の職人が踊り。

 

 アイヌの女たちが笑う。

 

 言葉が完全に通じなくても。

 

 互いの表情と仕草で、何を伝えたいか分かった。

 

 かつて。

 

 和人とアイヌは。

 

 交易の場で互いを疑い。

 

 時には刃を向け合っていた。

 

 織田が最初から戦を選んでいれば。

 

 この宴はなかった。

 

 多くの集落は焼かれ。

 

 多くの者が死に。

 

 生き残った者も。

 

 心から同じ席に座ることはなかっただろう。

 

 少し離れた場所で。

 

 時継。

 

 義近。

 

 幸村。

 

 半兵衛。

 

 孫一。

 

 玄作。

 

 織田家の家臣たちは。

 

 宴の光景を見つめていた。

 

時継「父上が」

 

時継「あの時、戦を選ばなくてよかった」

 

義近「ああ」

 

義近「戦なら、もっと早く終わっていたかもしれない」

 

幸村「ですが」

 

幸村「得られたのは土地だけだったでしょう」

 

半兵衛「人の心は、力では測れません」

 

孫一「俺たちが鉄砲を持って来ていたら」

 

孫一「今、あそこで笑っている者の何人かは」

 

孫一「ここにはいなかった」

 

玄作「助けられたはずの命も」

 

玄作「失われていたでしょう」

 

 時継は。

 

 族長たちと笑い合う父を見た。

 

時継「これでよかったんですね」

 

半兵衛「はい」

 

半兵衛「これが、大殿の望んだ勝利です」

 

---

 

 宴の途中。

 

 信時は立ち上がった。

 

 騒がしかった広場が。

 

 少しずつ静かになる。

 

信時「皆」

 

 和人も。

 

 アイヌも。

 

 織田家臣も。

 

 族長たちも。

 

 信時を見た。

 

信時「四年間」

 

信時「本当によく働いてくれた」

 

信時「何度も道が消えた」

 

信時「橋も流された」

 

信時「地図も何度も書き直した」

 

信時「俺自身」

 

信時「何度も、もう駄目かもしれないと思った」

 

 半兵衛がわずかに笑う。

 

半兵衛「大殿も思っていたのですね」

 

信時「思うだけなら自由だ」

 

 再び笑いが起きる。

 

信時「だが」

 

信時「諦めなかった」

 

信時「俺一人ではない」

 

信時「ここにいる全員が」

 

信時「できることを探し続けた」

 

信時「アイヌの知恵がなければ」

 

信時「冬の道は作れなかった」

 

信時「和人の職人がいなければ」

 

信時「橋も連絡所も完成しなかった」

 

信時「医師がいなければ」

 

信時「多くの者が病で倒れていた」

 

信時「雪の中で荷を運んだ者がいなければ」

 

信時「この道は、線を引いただけの地図で終わっていた」

 

 信時は、完成した蝦夷地の地図を掲げさせた。

 

信時「これは」

 

信時「織田の地図ではない」

 

信時「和人の地図でも」

 

信時「アイヌだけの地図でもない」

 

信時「ここで生きる者すべてが作った」

 

信時「我らの土地の地図だ」

 

 静寂の後。

 

 シャムセインが立ち上がった。

 

シャムセイン「信時」

 

信時「何だ」

 

シャムセイン「違う」

 

信時「何が」

 

シャムセイン「これは、ただの土地の地図ではない」

 

シャムセイン「我らが」

 

シャムセイン「互いのもとへ行くための地図だ」

 

 信時は。

 

 しばらく言葉を失った。

 

 そして、深く頷く。

 

信時「ああ」

 

信時「その通りだ」

 

 族長たちが杯を掲げる。

 

 織田の兵も。

 

 職人も。

 

 女たちも。

 

 子供たちも。

 

 それぞれの器を持ち上げた。

 

信時「この道が」

 

信時「人を救う道であり続けることを願って」

 

信時「乾杯!」

 

一同「乾杯!」

 

 声が。

 

 五稜郭城の空へ響いた。

 

 和人も。

 

 アイヌも。

 

 人も。

 

 妖も。

 

 その夜だけは。

 

 誰も互いを分けなかった。

 

 ただ。

 

 同じ土地で生き。

 

 同じ仕事を成し遂げた仲間として。

 

 同じ料理を食べ。

 

 同じ酒を飲み。

 

 心から笑っていた。

 

 その光景を見つめながら。

 

 織田家の者たちは、皆。

 

 同じことを思った。

 

 これでよかったのだ、と。

 

 もし最初に戦を選んでいれば。

 

 この光景を見ることはできなかった。

 

 土地を得るだけでは。

 

 国を得たことにはならない。

 

 そこに生きる人々が。

 

 自ら同じ道を歩もうとした時。

 

 初めて。

 

 その土地は一つの国になる。

 

 四年かけて完成したのは。

 

 道でも。

 

 地図でもなかった。

 

 織田とアイヌが、ともに生きるための。

 

 新たな国そのものだった。

 

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