影我やばたにえん   作:かがみひこ

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第五章 混濁と混沌

口を開いたのはずっと無言で話を聞いていた鮎川だった。

「その少女は最終的に3C11投与が定着し、細胞クローン化に成功した唯一の人間だ」

ブレアは顔色を変えて鮎川を食い入るように見つめた。

「へぇ!へぇ!詳しいね。すごく詳しいね。鮎川君、いったい何者?」

「・・・・・・」

鮎川は急に押し黙る。

「・・・・どうしたの?」田中は神妙な面持ちをする。

「もう時間が無いんじゃないのか?」ヤガミが周りを見渡す。

「あと十秒だ。どうするよ」三島は、ブレアに決断を委ねる。

「さあ早く、鮎川君?」ブレアが迫る。

 

「僕は・・・・・・・・・・・・・・・」

 

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

「叔母さんに会いに来ただけだよ」

 

 

「お前、旧姓が”アガツマ”だろ」

 

 「田中さん!!!」

ヤガミが叫んだ。そして銃を後ろへ勢い良く投げ、それと共に田中は扉へ駆けて床に落ちた銃を拾い上げて自身の棺に投げ入れた。

と、同時に同方向から今度は潜んでいた扉の脇から荒井が飛び出し、

ヤガミの手投げ斧を渾身の力を振り絞り三島達の方向へ投げつけ、

片桐がチームの棺のロープを掴んで飛び出し突進してきた。

 

 「國枝さん!!!」

鮎川は叫んだ。そして盾を構えていた國枝リンがその身を床に伏すと、全く同じ背丈体系ですぐ後ろに潜んでいるのが解らなかった

レンが控えていた。すでに弓に手を掛けて矢を大きく引き、ブレアに狙いを定める。

そして、鮎川達の方向の扉からは雄たけびを上げながら弩羅が二期大杉の防弾パネルを前に突き出して

無数に連なる棺を引っ張って飛び出し、その後ろをラジコンが追走する。

 

 「今だ!」

三島は半ば怒号の様な号令を出した。

するとちょうどそれぞれの集結する丁度やや後方の天井やそれぞれの扉の近くの天井の石膏ボードが打ち砕かれて

それぞれのチームの後ろを取るような形で後藤田・長谷・向山が現れた。

 

 「くそっ!天井とはっ!!」

鮎川は丁度強襲をかけていた長谷と目が合った。

「しねぇぇぇぇぁあぁぁぁぁ!」半ば狂乱のように長谷は伸縮する盾可変させて突き出しながら、三期に迫ってきた。

その後方、飛んできた手投げ斧を寸でかわした三島は

そのまま足元にあった自身の棺から医療用メスを出現させる。

”ハヤクトウヤクシヨウ!”

同じく、ブレアも同様に棺から毒のこん棒を出現させた。

”ニイサンイカナイデ”

(もう少しで・・・でもいい、30秒で十分だ!)

ブレアはニヤリとして無防備に後ろ姿を晒して後退するヤガミに襲い掛かった。

 

そして今この職員室には

一期生(三島・ブレア・後藤田・長谷・向山)

二期生(ヤガミ・片桐・田中・荒井)

三期生(鮎川・國枝リン・國枝レン・弩羅・杉浦)

総勢14名による混戦の幕が開けたのである。

 

「後藤田!狙え!」ヤガミを追うブレアから二期生を挟み込むように配置に着いた後藤田に号令が飛ぶ。

「きぇっぇぇぇぇ!!!」

後藤田は極限の緊張状態の中、強張る顔でテイザーガンを構え、半ば闇雲に撃ち放った。

バンッ、と音を立てて勢いよく針が飛び出るも寸でヤガミの顔横を通り過ぎる。

「馬鹿野郎!外しやがって!」

「ひぃ!!」

と叫ぶもつかの間。

”オマエイイカゲンニシロ”

前方から機械音が聞こえると同時に藤田のテイザーガンを持っている手の骨や肉がいきなり崩れた。

「んぎゃああああああああああああああああ!!!!!」

後藤田の絶叫が響くなか、時が止まったかのようなシーンでその手の上の宙を青色の金属の球が一瞬見えた。

(なんだ、音もなく球が飛んできた?!)

ブレアが視線を巡らせると、片桐が多分最初に死んだであろう二期・掛の武器・青いスリングショットを打ち込んだ

姿を捉えた。

「掛の無念は晴らしてやったぜ!!」

片桐は息巻いて後藤田に向かって叫んだ。

そして、ほぼ同時に自陣へと戻ったヤガミは二つの内のもう一方の手斧を取って自身の棺のロープも掴んだ。

「ナイス!片桐さん!」

「浮かれるな!来い、ヤガミはあと数秒も無いぞ!」

”トーキョートッキョダレトク?”

荒井は棺からレイピアを出すと同時に傍らのヤガミの棺からビープ音が鳴りだした。

「ヤバイ、毒が回りだす!急げヤガミ!三上、出ろ!」

”コロスゾオメー”

片桐はそう急かすと、今度は三上の棺から牛刀を取り出して、目前にまで迫るブレアと対峙し、

鍔迫り合いのように武器を交差させた。

荒井とヤガミはブレアと片桐には脇目もくれず、中央の先程のたまり場まで走り出した。

(武器を回収して、三島を三期生で挟む気か?だがな!)

ブレアは片桐と対峙したのも僅か、いきなり後藤田に向かって走り出した。

「なに?!こいつ!」

すかさず、それを追う片桐。

「痛い痛いぃぃいー、ああ、馬鹿、来るな、こっち来るな――――!」

「五月蠅い!」

ブレアは後藤田の元に着くと同時にその背後に即座に回って後藤田の髪を鷲掴みにする。

「ぎにゃぁ!」

(こいつ、盾にする気か?!)

片桐は目前で立ち止まり、牛刀を二人に突き出して構えなおした。

「ふんっ!!!!」

だがブレアは盾にはせず、後藤田の腰を後ろから前に向かって突くように蹴りこんだ。

「くっ、しまっ―――」

ひ弱な身体の後藤田はそのまま片桐の持つ牛刀に向かってその無防備な姿のまま前のめりに突っ込んだ。

「ぐふっ!!!!」

後藤田の身体はその片桐の構えていた牛刀に深く突き刺さった。

刺さった腹からおびただしい血があふれ出る。

(クソっ、牛刀がっ、抜けない!!!)

片桐は即座に牛刀を抜こうとするが深く刺さっている為か、全く抜けなかった。

このままではブレアに無防備を晒す為、手を放して逃げようとした瞬間。

今まさに妖艶な紫の光を放つこん棒を口に目掛けて突き出そうとするブレアと目が合った。

「悪いなっ!」

「まっ―――!!!」

片桐の口を貫かんばかりの勢いでこん棒が突っ込まれた。

その勢いで片桐の歯が何本か折れて床に無残に転がり落ちた。

ヤガミは中央に行く最中、それを脇目で目の当たりにした。

「片桐さ――――ん!!!」

「止まるなヤガミ!!・・・あ、クソ!!来るな弩羅、お前の相手は一期生だろうが!」

ヤガミはわずかだが行動を共にしていた片桐の惨状を目の当たりにして硬直してしまい、僅かなタイミングを逃してしまった。

そして、目の前に立ちふさがったのは一期生に向かったはずの弩羅である。

「よ、よう荒井ちゃん、さっきはしくじっちまったからなぁ、次はちゃんと殺してやるよっ!」

弩羅は盾とハンマーを持って荒井とヤガミの前に立ちふさがった。

その姿はまるでそびえたつ壁の様である。

警棒を構えなおした、荒井は意を決して雄たけびを上げる。

「オオオオオオオオオオオォ!!!」

警棒を何度も弩羅に向かって突くが弩羅はそれを巧みに盾で弾く。

「ちくしょおおおおおおおおおおお!!!!」

後ろからヤガミのすごい声が聞こえ、弩羅に気を取られながらもヤガミを脇見すると、信じられない光景が飛び込んだ。

「馬鹿お前っ!」

ヤガミは怒りの表情で持っていた手斧をブレアに向かって投げていた。

 

"LIMIT 28days 23:48:22 14-survivors"

 

(・・・!!!)

ヤガミの手斧は壁に突き刺さっていた。

ブレアの頬に一筋の斜赤線が奇麗に入っている。

もうあと少し、位置が違っていれば脳天に直撃していたであろう。

一瞬の放心もつかの間、ブレアは殺気を感じるとヤガミの方から正面を向き直った。

「くるなぁ、くるなぁ!!!」

田中さんが目の前で叫びながら銃を構えている。

(なに?!こいつはさっき自分の銃を仕舞ったはずだ、なぜ直ぐに出せる?!)

ブレアはその銃を凝視すると先程の話の物とは形状が違っていることに気が付いた。

(もしや、さっきのは松本の銃か?!どこかで拾ったな畜生め)

ブレアは最初に持っていた銃が既に使用済みの松本の銃であったことを見抜けなかったことに悔しさをにじませた。

「っく!!!」

ブレアは、銃相手では流石に分が悪いと感じ即座に後退した。

「おい・・・・田中さん・・・ヤガミの斧、もって・・・はやく・・・」

既に顔が真紫になり、息も絶え絶えの片桐が田中に決死の思いで伝える。

「う、うん、かたぎりさん、平気?!」

「は、はは、へいきな、もんか・・・・ヤガミに、よろしくな・・・はや、やく、い、いけ・・・」

「うん!」

田中が駆け出す、と同時に部屋中のあちこちからビープ音が鳴り響く。

タイムリミットがきたのである。

 

一方、混戦開始直後三島は長谷と結託して三期生と対峙していた。

國枝レンの放った奇襲の矢を三島は易々とかわした。

「チィ!」

与えられた矢は一本しかないためそのまま弓の先に付いている刃で三島へと襲い掛かるが

三島はそれを目にも止まらぬ素早い前蹴りで跳ね除けた。

勢いで國枝は後ろへと大きく転がり込んだ。

「オラオラァ!なめんじゃねーぞ」

「ぐっぅううぅぅ、腹がぁぁあああああくそおおお!」

すぐ背後には長谷が伸縮する盾を大きく伸ばして突進してきており、それを弩羅が必死で食い止める。

弩羅は既に負傷した傷がかなり痛むようで苦渋の表情を浮かべながら両手で迫る盾を辛うじて抑え込むのが精いっぱいだった。

その間に鮎川と國枝リンは弩羅の持ってきた各々の棺から武器を取り出す。

「鮎川、出ろ!」「やばたにえん五十嵐」

”ワタシアナタニイイワスレタコトガルノ”鮎川の丸鋸。

”アイツラガヤッタンデス!”國枝兄弟が仕留めた五十嵐の細い槍。

武器を取ったと同時にそのまま三島に向き直り攻撃に加勢しようとした瞬間。

「―――――なんだっ!」

國枝の持っている槍と弓は吸い取られるように明後日の方向へと飛ばされる。

鮎川の持っている丸鋸も急な引力により思わず地面へと落としてしまう。

「――――っっっ!向山さん!」

「すんません、こっちについた方が無難だと思うんで」

引き寄せられた視線の先には向山が自身の武器である電気磁石機を使って武器を奪い取っていた。

「よそ見している場合か?!」

「がはぁつ?!」

向山に気を取られている間に鮎川は三島の強烈な蹴りを浴びせられた。

その蹴りにより勢いで3m先まで転がり飛ばされた。

「向山、電源を切れ!メスが使えん!」

「うっす」

向山が磁石機電源を切ると、飛ばされないように強く握っていただけのメスを握り直して

丸腰になった國枝に襲い掛かろうとした、が。

「?!」

三島の眼前に三期杉浦のドローンカーが飛び込んできた。

先ほど見た時と違いドローンカーの軽トラックに搭載されているコンテナが閉じている状態から開いている。

そしてそこに現れた一本きりの筒状の物から火花が勢いよく出る。

”シネェ!!!”

杉浦の声がドローンから割れんばかりの音で発生された。

「ちくしょう!!!」

三島は即座に態勢を変えて大きく横へと飛び込むように回避した。

と、同時にコンテナから筒状の物、明らかにミサイルのようなものが飛び出し一直線に三島がいた場所へと突っ込んでいった。

「ちょっ、ま――――――――」

三島を狙っていたそれはそのまま当初のターゲットは外したもののそのまま直線状に居る向山の頭へと突っ込んでいった。

バァ―――――――――ン!!!

火炎と共に衝撃波が辺りを襲い、極小ミサイルの直撃を受けた向山の顔面は砕け散り、膝から崩れ落ちた。

そして三期生と一期生はそれぞれ床に伏せる様に倒れこむ。

「・・・・・クソっ!!!!!」

だが三島は怯まなかった。

その身を引き起こし、爆発の衝撃を受けても話すことのなかったメスを視界に入った弩羅の髪の毛を掴むと

ぐいぃぃと首を露わにするように引っ張ってそのまま首筋の動脈から突き立てて真一文字に切り裂いた。

「!!!!」

弩羅は声も発することもできずにそのまま首から鮮血を吹き出した。

「ぁぁぁぁっぁぁぁっぁ・・・・・」

弩羅は虚ろな眼をしながら視界に入る三期生達を眺めながら絶命する。

ピーピーピーピー!

ビープ音が鳴る。いずれも國枝の棺からで等にカウンターはゼロからマイナスへと突入していた。

「國枝さん、は、早くさがって、弓と矢を仕舞いに行ってください!」

鮎川は伏していた身を引き起こすと傍らにあった丸鋸をおもむろに掴んで三島へと襲い掛かる。

「くそぉおおおお!!!!」

丸鋸の電源を入れてトリガーを引き、回転数を最大限に上げて三島に向かって横へスイングを入れた。

「ぐうぅぅぅ!」

三島は所見、軽くかわそうと試みるも少しでも刃に当たると重傷は避けられないと思い後ろへと大きく後退する。

鮎川はそのまま三島に向かって二度、三度と横斬りを幾度も繰り返し、三島を追い込んでいった。

「はー、はー、大した奴だっ・・・・」

肩から息をしながら三島はその猛攻を必死にかわす。

その時、今度はいきなり部屋から奇声が上がる。

「きぇぇぇっぇえええええええ!!!!」

「っ!!杉浦っ、君では無理だっ、下がれっ!」

國枝が扉の方を見て制止を上げる。

部屋へと飛び込んできたのは南の鞭を持った杉浦だった。

ラジコンに付いているミサイルが唯一の攻撃手段だったのかそれを失った瞬間に何かが彼の中で吹っ切れたようだった。

「くそっ、くそっ、殺してやるぞ、あと少しだっ、少しで終わる、ふふっふふふっふふ!」

杉浦はぎらついた眼で辺りをぐるりと見回すと、今まさに片桐の致命傷を目の当たりにして棒立ちするヤガミに目を付けた。

「ぎぃぃっぃぃいっぃいぃいっぃいぃ!!!!」

杉浦はヤガミへと狙いを定め、一気に突っ込んでいった。

 

「ヤガミ、ああ、もう、ちくしょうがよ!!!」

荒井は仕方なくヤガミに構わず素早く駆けてヤガミの手斧を取りに行った。

そしてそれを回収したと同時にヤガミへと一目散に向かう杉浦が目に飛び込んできた。

「っ!させるかよ!」

荒井は反対の手に持っていた銀の警棒を投擲するような形に器用に持ち替えて杉浦に向かって投げつけた。

それは絶妙なタイミングで杉浦の太股へと直撃した。

「いぎやぁぁっぁぁぁぁっぁ!!!!!!」

突如襲う激痛と衝撃で転がり込むように倒れこむ杉浦。

「今のうちにっ、田中、それを棺に入れろ・・・あ、ヤガミ、行くなっ」

荒井の制止も聞かずにヤガミは自身の毒が回りだそうとするにも憚らず、絶命寸前の片桐の元へと駆け出した。

丁度田中と入れ違うように。

「ああああああっ!」

「?!」

その時、田中が突如絶叫する。荒井は何事かと思い田中を見ると、田中は自身の胸の辺りを食い入るような目で凝視していた。

「えっ?」

荒井は一瞬訳が分からなかった。

そして目線を辿って自分の胸を見ると細い棒状のものが貫いて辺りが鮮血へと染まって行くのを確認する。

「がはっ!!がは、しくじっ―――」

ゆるりと首を回して後ろの方を僅かに確認するとそこには國枝リンが向山に盗られた槍を再び手に取って

槍のギミックを発動し、槍のリーチを使って荒井の背中へと直撃させていた。

「ああ、あああああああああ、た、たなか、さん、あ、あいつに、むかっ・・・」

震えながら、國枝に向かって指差ししようとするも槍が今度は縮小して引き抜かれ、

そして心臓を貫かれたであろう胸からは引き抜かれた瞬間に血が大量にあふれ出た。

「うううううっあ、荒井さん―――」

田中は崩れ行く荒井を目で追いながらも國枝に向かって必死に銃を構えた。

 

片桐の元へと駆け寄ってきて膝まづくヤガミ、そこには既に真紫の顔をした片桐の姿があった。

「くそっ・・・・すまん、片桐さん。助けてやれなかった」

「・・・うううぅ、誰だ、ヤガミか?まえ、がもう、みえん」

片桐は息も絶え絶えにヤガミに答えた。

「・・・・ヤガミさん、頑張っていきろ、おれ、ら、ゴミだけど、い、いきてら・・・いいことも・・・」

「片桐さん」

「・・・はは、は、ひ、ひどい、じんせぃ、こんな、じん、せい、くそ」

小声で呟いて震えていた片桐は張り詰めていた糸がぷつりと切れる様に停止し、絶命した。

ヤガミはそれをただ悲壮な顔で見つめた。

「酷くても・・・必死に生きたじゃないか・・・片桐さん・・・」

ヤガミは自身の人生を呪いながら死んでゆく片桐をただ悔しさを滲ませながら眺めていた。

そのヤガミの首にロープのようなものが急に巻き付けられる。

「?!」

「ぎぃぃいっぃぃいぃいぃぃ!」

杉浦である。目を見開いて鞭を使い、ヤガミの首を必死に締め上げる。

「がはぁ!がぁっ!」

ヤガミは声ならぬ声を上げる。

「死ね、シネ、シネ、しね、ひひひひひ!!!」

杉浦は奇声を上げながら普段なら到底出ないような力に内心驚いて、半ば歓喜の笑みを浮かべながら鞭を強く締め上げる。

「・・・・・か!、は!、は!、は!」

ヤガミは首の気道・血管を強く締められて視界が暗転する中、必死に手をばたつかせる。

「うおぉぉおおおおおお!!!」

杉浦が止めを刺さんとばかりにさらに膝を使ってヤガミの背中を強く押し込んでさらに締め上げる。

「・・・・・・・・・・・・・」

全身の力が抜け落ち、視界が真っ暗になる瞬間。

首が解放された。

「っ!!!がはっ、ひゅーひゅーひゅーひゅーひゅー」

ヤガミはもはや意思とは関係なく身体が空気を取り入れる為に別の生き物のように必死に動き出した。

「ひゅーひゅーひゅー・・・うううううううっ」

苦しい呼吸をしながら辛うじて回復する視界で後ろを見ると杉浦の首が刃で貫かれていた。

「ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ・・・・・」

鮮血を溢れさせ、崩れ行く杉浦の背後に現れたのは加古だった。

 

「はやく呼んでよ、こんな楽しいパーティーするなら」

「か、加古さん・・・」

 

"LIMIT 28days 23:45:10 11-survivors"

「ヤガミさん、大丈夫か?・・・随分数が減ったようだな。」

加古は鋏を引き抜くとそれをズイと前に構えなおしながら周りをぐるりと見回した。

加古はいちにいさん・・・と、つぶやきながらその場にいる人間を数えている。

「ヤバいな、二期生が一気に3人に減っているじゃないか」

「お、遅い・・・今まで何してたんだよ」

ヤガミは態勢を立て直しながら鞭で絞められた首を苦しそうに撫でていた。

だが加古はそんなことは気にも留めずにこちらに鋭く睨みつけている一期生を眺めながら手で脇にいる田中を手招きして呼び寄せた。

田中はそれを目にして急ぎ小走りで駆け寄ってくる。

「ヤガミさん、田中さん、今からは固まっていくぞ。相手も覚悟の上でこちらに向かってくるだろう」

「加古さん!彦さんがいない!彦さんは、もう死んじゃったの?」

田中は加古が彦と行動を共にしていたことを覚えており、直ぐに口にした。

「それだよ、それがいないんだ。途中まで一緒にこっちに向かっていたんだけどね、

負傷もしているのに向かっている最中に突然消えてしまったんだ。

ギリギリまで探したんだが、こっちが始まっちゃったんで諦めてこっちにきたわけ」

そう言って加古は奥にある業務連絡用黒板に浮かび上がるホログラムを見た。

 

"LIMIT 28days 23:42:01 10-survivors"

 

「減っていない、この場の数と照らし合わせてもやはり彦は何処かに隠れている・・・

まさか定員になるまでバックレるつもりか?だとしたら意外だな・・・そんなことをするような狡猾な奴には見えなかったが」

そう言った瞬間。

ドンッ!!!

いきなりすぐ後ろに控えている田中の拳銃が破裂音と共に火を噴いた。

弾丸は加古の顔すぐ横を通り抜けそのままこちらに狙いを定める三期生に突っ込んでゆく。

「うぐっ!!!」

「兄さん!!」

「来るなレン、かすっただけだ。あのひょろひょろした奴に注意しろ、狙いが良すぎる」

リンはひそかに真毅の拳銃で狙いを定めていたが田中はそれを瞬時に見抜き、何と10mは離れているであろう

距離から手に持つ銃のみを撃ち落とした。

ロクに拳銃を撃ったことも無い素人が狙い通りに当てるなどまずありえない事だった。

「マジか田中さん、やるじゃないか。そのままあいつらに狙いをつけていてくれ」

加古は田中を若干苦し紛れに褒めるとヤガミに小さく語りかける。

「良いか、残り二人だ。俺達が生き残るためにはここからは寸分のミスも命取りだ、色々覚悟を決めろよ」

「覚悟って・・・俺はまだ武器が出せない、お前と田中さんの武器も残り時間僅か・・・・

いやまて、”色々覚悟”ってまさか―――」

「死ぬ覚悟も決めろってことだ」

そして、それまでの混戦から一転、二期生につづき一期生、三期生もそれぞれ身を寄せて固まって各々最大限威嚇する。

 

「三島タイガー、あんたが大将なんだろ」ブレアがハッパをかける。

「わかってる、おい長谷、前に出すぎるなよ」三島が息巻く長谷を窘める。

「五月蠅い、気が散る、お前ら頼んだからな!」そう言って長谷は武者震いを必死に抑えていた。

 

「田中さん、僕の指示が出たら直ぐに撃てよ。後、ヤガミさん、武器が出る様になったらすぐに装備を」加古はまっすぐ前を見据える。

「ヤガミさん、後ろにいてね。僕が、僕がやっつけるよ!」田中は震えながらも勇敢に銃を構えなおした。

「田中さん、加古さん、俺はもう―――こんな、こんなの」しかしヤガミはこの状況下の中戦意を喪失しつつあった。

 

「僕達兄弟が前に出るよ、鮎川さんは後ろに・・・リン、いいか?」國枝レンがリンに言ってアイコンタクトを取る。

「了解、鮎川さん・・・いや我妻さんか?君には生き残ってもらいたいからね、聞きたいこと山ほどあるし」

リンはレンに答え、鮎川もとい我妻にも振った。

「わかっています―――責任は全て我妻家なんですから。ここが正念場です、行きましょう」

鮎川はそう言ってズボンに縫い付けられているゼッケンを引きちぎった。

 

時間にしてほんの一瞬、その場にいる全員の決意とも取れる間。

そして啖呵を切る直前、誰かが言った。

「死ね」

 

”オオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!!!!”

 

全員の怒号が轟いたそのとき。

崩れかけた光の届きにくい三期生がいるあたりの部屋の壁の石膏がドカンという破裂音と共に崩れ落ち、闇から刃が飛び出した。

そしてそれは天から一直線に盾を構えている長谷の脳天を貫いていた。

バララララララッバラララッバララッラララッ!!!!!!

間髪入れずに小刻みなまるで爆竹の様な破裂音が部屋中に響き、長谷の体中に虫刺されほどの穴が大量に開く。

「なっな、な、な、ななぁ?!!!!」

盾を構えたままそのまま血だるまになって崩れ落ちる長谷。

近くにいた三島、ブレアは条件反射の様に双方床に飛び込んだ。

他の者も同様、そのマシンガンの様な破裂音に床にすぐさま伏せた。

―――――銃声が鳴りやむ。

そしてゆるりと、崩れた壁の闇から現れたのは小堺だった。

「ヲヲヲヲヲヲヲッ!」

既に顔は正気を失っているのが明らかで錆びついた日本刀と頭に大きなヘッドホンの様な被り物をしていた。

眼からは血を流しており、目は見開き、歯をむき出しにしている。

さらに背中には昔のテレビゲームマシンの様な機会をまるでランドセルのように背負い、そこから伸びる無数のケーブルが

後頭部に付けられた金属板に繋がっていた。

「オオオオオオオオオオオォ!!!」

そして小堺は負傷した自身の身体など気にも留めず周りに襲い掛かってきた。

「クソっ!!!!」

直ぐ近くにいた三島が直ぐに長谷の盾を拾い上げ、小堺の刃を受け止めた。

「?!こ、この力っ、体系に合わんぞっ!!!」

三島はその比較的小柄な小堺の身体から出る圧倒的なパワーに思わず怯み声を上げた。

「あれは・・・16bitマシーンメイデン!!そんな馬鹿な?!」 

我妻は目を見開いて驚きの声を上げる。

背中に背負うテレビゲームマシンにはカセットのようなものが刺さっており、

そこには”machine maiden”というシールが貼られていた。

「マシーンメイデン?」

事情を知るような口ぶりに我妻に三島が思わず問いかける。

「”会社”の資料で見たことが有ります。それは”昭和中期”に第三国で開発されていた白兵戦用の軍事兵器です。

だけど、あんなのも・・・失敗作でロクに動かずガラクタとして処分されたと書いてありました。

三島さん、気を付けて!付けているヘッドホンのようなものはロボットアニメに出てくるようなバルカンになっています!」

「ゲロイムの奴だ・・・バックレて隠れている小堺を見つけて無理やり戦闘に参加させたんだ、あのくそっ」

加古が立ち上がって鋏を持ち直して小堺に向ける。

「おい何やってんだ?!」ヤガミが加古を制止するが聞く耳も持たなかった。

「長谷が死んだ!あと、あと最後の一人だ!」

加古はわざとその場にいる皆に聞こえるような声の大きさで言った。

そう、狂乱化した小堺に犠牲になってもらおうと言う意味深な含みを持たせて。

それを床に伏していた國枝リン、レンがこちらを見て軽く頷き目で同意した。

盾で小堺の猛攻を押さえる三島、床に伏せていたブレアも目伏せで同意する。

「二期生の方、仕方ありません!」

心配そうに見つめている田中とヤガミに態勢を整えた我妻が呼びかける。

「仕方がないだって?!だって、彦は、頭撃たれた死んだ奴まで・・・・何とかならないかって、心配して、

だから、そんな、みんなで、寄ってたかって、お前らくるってんじゃねーか!もうやめろよ!

もう、やめろ!おいゲロイム、見てるだろ!これはルール違反だろ!中止しろ!なあ!聞いてんのか!」

ヤガミの声も空しく、ただ小堺の狂乱した声と三島の怒号が響くだけであった。

「?!」

その時三島が足元の異変に気が付いた。

足元には、ヘッドホンの一部が二つほど転がっている。

それがバルカンの弾倉であることに気づくのは一瞬の事であった。

(ヤバイ!向かってくる!)

盾を押す力が抜けた途端、小堺は身を翻して盾を持つ三島をそっちのけで他の者に狙いをつけ

バルカンを一斉掃射した。

バララララララッ!!!!!

 

「クソが!!」「兄さん!!」

回避行動を取る最中レンは床に転がっていた槍をリンから受け取って小堺に投げつけ、太股を貫いた。

だがそれをものともせず、小堺は止まらなかった。

 

「畜生!!!」

ブレアはすかさずテイザーガンを回収しそれをすぐさま発射した。

人間とも思えないほどの声を上げ、震えあがるも、小堺はとまらなかった。

 

「オラぁ!!!」

三島はしまっていたメスを再び呼び出し、決死の覚悟で間合いを詰めて横斬りした。

小堺の腕の肉が奇麗に横に裂け、骨の一部が見えた。それでも小堺は止まらなかった。

 

「ちっ!」

加古は鋏を大きく開いて、まるでブーメランのように投げつけた。

それは小堺の腹に突き刺さり、臓物のようなものが一部見えても、それでも小堺は止まらなかった。

 

「止まってくれ!」

鮎川は弩羅のハンマーを拾い上げ大きく投げ込んだ。

それは弧を描くようにくるくると回って小堺の脳天に直撃し、凄まじい流血がでた。それでも小堺は止まらなかった。

 

「彦さん、彦さん、ひどい、ひどい、かわいそう、だめ、こんなの、いやだ、いやだ、あああああああ」

田中は狙いを定めるも撃てなかった。その田中に向かって小堺はぐるりと目をむくように首を振ると

バルカンを放った。

バララララララッ!!!

「ぎゃああああああああああ、痛い痛い痛い痛い!」

「田中さん!!!」

傍らにいたヤガミは直ぐに田中に駆け寄って身体を掴み、転がっていた机に身を伏せた。

田中を見ると、左ふくらはぎ辺りから下にかけて無数の穴が開いている。

「くそっ!くそっ!くそっ!こんな、こんな、田中さん!!」

ヤガミは惨状を目の当たりにしてもはや泣き出してしまった。

そして、もうあきらめようとしたその時、先程死に際間際に言った片桐の言葉を思い出す。

(・・・・ヤガミさん、頑張っていきろ、おれ、ら、ゴミだけど、い、いきてら・・・いいことも・・・)

(・・・はは、は、ひ、ひどい、じんせぃ、こんな、じん、せい、くそ)

「片桐さん・・・・」

その時、ヤガミの棺に浮かび上がっているカウンターが消えた。

「ゴミで、くそで、それでも、頑張って生きて・・・」

そして、ゆっくりと立ち上がり。

「それでも生きて・・・何がいいって言うんだ!!!」

ヤガミは棺に向かって駆けた。

「やばたにえん、八神(やがみ)!!」

”オネガイタスケテ!”

機械音と共に棺からアームが飛び出し、手投げ斧が出現する。

それをすぐさま手に取って雄叫びと共に渾身の力を振り絞って投げた。

「フォオオオオオオオオォォォーーーーーーーー!!!!!」

投げられた斧は一直線に小堺に向かい、その刃は背負っているマシン越しに身体を突き抜けた。

小堺はその動きを止め、一瞬の間を置いて膝から崩れ落ちた。

「小堺さんっ!!!」

八神はすぐさま小堺に駆け寄った。

「あー、あー、あー」

「ううううううううっスマン、小堺さんっ」

八神はそういうと小堺の頭をゆっくり持ち上げ、共に寄ってきた三島がヘッドホンのようなものを外した。

「うー、うー、うー、あー、あ、あ、や、やがみ、さん」

最早絶命まで幾ばくも無い小堺はそのほんのわずかな間に自我を取り戻したのに八神は気が付いた。

「小堺さん、小堺さん!」

ただただ名前を呼び掛けてあげることしか出来ない八神に、小堺は最後の力を振り絞り呟いた。

「よ、よ、よか、った、ぶじで・・・・・」

八幡は小堺の力がスッと抜けるのを手のひらで感じた。小堺が絶命したのを身をもって感じ取ったのだ。

そしてその最後のセリフは全員の耳に届いたであろう。

各々、悲壮な表情や苦渋の表情を浮かべた。

「そんな、そんな、うううううっごめんよお、本当に、ごめんよお・・・」

八神は最早乾ききって流すこともできない涙を悔やみながら泣いた。

「ああ、ヤガミ・・・・・俺たちゃクソだ・・・・本当に・・・本当に・・・・・くそったれだ・・・」

傍らにいた三島はそう言って、小堺の瞼を優しく閉じた。

 

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