影我やばたにえん   作:かがみひこ

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第六章 八神

一同に暫くの間の静寂が流れたころだっただろうか。

ピンポンパンポーン↑

誰しもが呆然自失だった。

ただただ漂う虚無感、また、地獄をかいくぐって生還した達成感の中。

いきなり空気を読まないような素っ頓狂な館内アナウンスが流れた。

「お知らせいたします。生き残った皆さん、生き残った皆さんは、至急、1階厨房までおこしください。

なお、ただいまの時間を持って皆様の武器ならびに棺に関しては関連するすべての機能を含めて全て停止いたします、

どうか皆さま、不毛な殺し合いはなさいませぬようよろしくお願い申し上げます」

ピンポンパンポーン↓

「・・・・厨房?」

「誰だ?年増の女の声だったが」

「不毛・・・・ふざけやがって畜生・・・・誰がやらせたよ」

「まあいいんじゃないそんな事。追々解ることになるんだし、とりあえず行って見ようよ。厨房に」

そう言って持っていた武器を放り投げ、加古は大きく背伸びをした。まるで何事もなかったかのように。

「ほら八神さんも立って?てかその棺の内側に書いてある名前は八神(やがみ)という読み方だよね?

なんで目につくところはヤガミだったの?」

加古が尋ねても八神はただ小堺の骸の前で跪いたまま俯いていた。

ただ、無言で加古達を何か言いたげな表情をしていた。

「解ってる、お前が思うところは皆同じだ。だがこの試験とやらは終わってはいない。

でも少なくとももう俺達が殺し合うことも無いんだから、もう無理な緊張はするな」

直ぐそばにいた三島が八神の肩を抱いて半ば無理やりに立たせた。

「僕たちは先に行くよ」

國枝兄弟達が率先して広い職員室を出ていった。

「や、八神さん」

「田中さん」

八神が顔を上げると田中が心配そうな顔をしてこちらを見ていた。

「・・・・・大丈夫?」

「・・・・うん、大丈夫だよ。俺は・・・・」

田中に促され、八神はようやく重い歩を取った。

「三島、大丈夫か?」

ブレアが入口の方の壁にもたれ掛かってこちらを見ていた。

「ああ、大丈夫だ。お前には世話になったな」

「どうだか、まだ”世話に”なるかも知れないぜ・・・あと、我妻君、後で落ち着いたらまた話を聞かせてくれ」

ブレアの向かいには腕を組んで俯く鮎川こと我妻がいた。

「わかってるさ・・・いよいよ、会えるのか、あの人に・・・・」

我妻はなにか思いつめた表情をしていたが、何かを決心して共に歩き始めた。

そして、影我漢試験に生き残った定員8人

加古、我妻、三島、ブレア、田中、八神、國枝リン、國枝レンーーー。

彼らは様々な思いを巡らせながら足取り重く、厨房室へと向かって行った。

 

一階、厨房室。

最早、意識朦朧、体力も限界が近く、息も絶え絶えに一同は其処にたどり着いたのだが。

「何の冗談だこれは」

目の前の光景にリンがただぶっきらぼうに言った。

そこは、殺し合いの最中に入った時とはまるで様変わりしており、異様な光景が広がっていた。

 

一同全員がまず注目したのは目の前にある誰しもが欲してやまない一本そびえる水道だった。

中央システムキッチンの真ん中にそれはありクロムメッキが光る蛇口にプレートが立てかけてある。

”vitamin water 1DAY / 4 L ” と。

「おい皆、水道だ」

「み、水だ!水だ!やったっ!みず、早くッ」

「待てッ、罠かもしれんぞ」

「もう、罠でも何でもいいよ、俺は飲むぞ。」

「ああああああ、水だ、水だ、水、水!」

「順番だ!一口飲んだら次に交代だ!無理やり引っぺがすからな!」

「一日・・・・4・・・リットル?」

もはやプレートに書かれている注意書きも気に留めることも無く、我先にへと蛇口に飛びついた。

一同がひとしきり口にし、最後のブレアが一口、二口程飲んだ後、蛇口の水は出なくなった。

「なんでもう出ないんだよ!ふざけんなよ!畜生が!」

それでも水分補給を出来たおかげで一同はようやく安堵し、各々その場にへたり込んだり倒れこんだりした。

 

暫くしたのち、落ち着きを取り戻した一同は辺りを見回し始めた。

向かって入った部屋の右側、そこには比較的大きなポストのようなものにFellowship Box(親睦箱)と書かれており、

横にはPut your own files.(自分のファイルを入れてください。)と書かれていた。

またそのすぐ隣には一つ一つがカプセルに入れられた注射器のようなものが有り、

そのカプセルにはNanomachine neutralizer(ナノマシン中和剤)と書かれていた。

また、注として(棺の信号も受信しません)と記載されていた。

「ファイル・・・・これは俺達に入れられた毒の中和剤か?」

「身体に入っていたのはナノマシンだったのか・・・」

「ブレア、お前の武器毒付きだっただろう?なぜお前は大丈夫だったんだ?」

「最初に棺を開いた時、メモ書きに”お前は大丈夫”そう書いてあった。きっと子のナノマシンの影響もあるのかもしれん」

「俺達のファイルなのか?死んでる奴のファイルは居れなくていいのか」

「入れてどうするよ。生きてんのは俺達だけなのに」

「多分、こうして出てきた時点で俺達に入れろって言ってるようなもんだろう」

「どうする、職員室に取りに戻るか」

一同は一旦その場を後にし、職員室に残された棺から自身のファイルを持って再び厨房に戻ってきた。

そしてファイルをポストに投函すると小気味いい音と共にカプセルの蓋が一つ開き注射器を手にすることが出来た。

注射器には腕に刺して注射するような絵柄が描写しており、それに倣って各々腕に注射する。

「何も変わった気がしない」

「気にするな、もはや確かめる気力も出ん・・・」

 

そして向かって左側は様々な調理器具やろ過機、大型冷凍庫、X線滅菌装置、さらにはマタギや解体業者が良く使うような

獲物の解体器具が所狭しと鎮座していた。

「なんだこれは・・・最後は料理対決でもさせるつもりか?」

「どういう事だ・・・」

「これ見た事ある、テレビでチョウチンアンコウ捌くとき吊るしてた」

「各種包丁、お玉に、コンロ、鍋に、フライパン、ホットプレートまで」

「殺し合いの次はままごとか?」

「・・・・なあ、これ・・・」

「ちょっとまて、今考えている」

「冷凍庫を開けたけど中は空っぽだよ」

 

だがなによりも、最後に一同の目を引いたのは他でもない上部にあるホワイトボードに浮かび上がるホログラムであった。

 

"Life 28days 23:00:00 8 - Capacity"

 

「ライフ・・・?」

「どう思う?」

「どう思うって・・・!」

「嫌な予感する、悪い予感しか頭を過ぎらないんだが」

「なぁ、試験はもう終わったんだろ。出せよここから!出せよ!」

「ゲロイム!聞こえるか!放送の女でもいい!説明しろ!」

「まさか・・・ふざけやがって・・・ふざけんなよ・・・」

「28日・・・ほぼ一か月・・・」

 

一同の叫びが空しく響く。

そこに、我妻が全員の前に立って顔を青白くさせ震えながら言った。

「皆さん、僕は思ったんですが・・・私達はこれから恐らく一か月間、

ここで強制的に生活を強いられることになると容易に考えられるのですが、気になるのは」

「・・・・食料か、どうなる?」

「これは、あくまで予想の、現状から考えられるのは、いや、これは僕の考えではなく―――」

中々歯切れの悪い言い回し方が多いので同じ考えにたどり着いた加古が代弁した。

「恐らくは、”カニバリズム”だね?我妻君」

「カニバリズム?」

 

「今まで”殺して”きた人間を・・・今度は”喰え”というのさ―――」

 

そう言ったとき、ホログラムのカウントが暗転し、映像が流れだした。

 

八幡二炎 影我漢最終試験者 一覧 ※順不同

八幡の地で八百万の神に立ち向かう勇敢な ”八神達” 頑張れ!

 

1. 三島 泰賀(みしま たいが ”タイガー”) 29歳 181cm 90kg

   母親はグレース女子児童福祉施設の教師。

   三島先生(グレース事件の逃亡者の一人)。

   ※我妻製薬の連絡員としてグレース研究所にも出入りしてた様子、要はスパイ。

   参加者で最も大柄の漢。現在はアガツマホールディングス系列会社勤務。 

   中々良い筋肉をしている、母親は出生後に行方不明。

   以後は祖父母の下で育てられる。

   筋肉質の上頭脳明晰、使用武器は医療用メス。

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Selection test of eiga

First group-3/8 taiga misima "tiger" (age 29)

Equipment weapons Medical scalpel

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”ハヤクトウヤクシヨウ!”

 

2. クリストファー”B”江口 (クリストファーブレアえぐち) 35歳 184cm 78kg

   細身長身の日系人 母親はジャック・ブレア

   イギリスで航空会社の夜勤の積荷リフターをする(冬場は極寒の中の過酷労働)

   性格は基本明るいが偏った正義感がある。

   母の影響か、中々流暢な日本語ができる。

   襲撃事件の一味、ジャックからグレース事件についてある程度聞かされている。

   使用武器はラベンダー翡翠色のこん棒(3-B-11付)

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Selection test of eiga

First group-8/8 Christopher"B"eguti (age 35)

Equipment weapons Lavender jade-colored clubs

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”ニイサンイカナイデ”

 

3. 田中 大輝(たなか たいき) 28歳 163cm 60kg

   母親はグレース事件の強盗殺人事件の容疑者の一人。

   事件後、各地を転々としながら投資信託に手を出して

   失敗し多額の借金が有るなか突如失踪。

   自身は中度の知的障害を患っているが、薬を投薬すれば自制が利く・・・らしい。

   現在は就労支援施設で弁当を作っている。

   ひ弱。喜怒哀楽が激しく、臆病になる。

   使用武器は隠しピストル。

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Selection test of eiga

Second group-1/8 tanaka taiki (age 28)

Equipment weapons Hidden pistol

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"チギレチャウ!”

 

4. 八神 太朗(ヤガミ たろう) 35歳 170cm 60kg

   母親はグレース事件の強盗殺人事件の容疑者の一人。

   買い物途中に母親が行方不明。

   その後、遠縁の親戚に引き取られるがとても苦悩に満ちたものだったらしい。

   現在は零細企業の電気工事会社のさらに下請会社に勤務。環境は劣悪。

   やや筋肉質。 優しいがネガティブに陥りやすい。切れると最悪。

   使用武器は双子の手投げ斧。

   ※八神の苗字に関してはオミヨに要相談。

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Selection test of eiga

Second group-4/8 taro yagami (age 35)

Equipment weapons Twin Throwing Axes

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”オネガイタスケテ”

 

5. 加古 翔馬(かこ しょうま) 32歳 175cm 76kg

   母親はグレース事件の強盗殺人事件の容疑者の一人。

   その母親は恐喝罪で逮捕、勾留中に行方不明に。

   自身も詐欺師で荒稼ぎをしていた警察からマークされ、逃亡中であった。

   やや筋肉質。 基本優しいが狡猾でしたたか。嘘が得意。

   使用武器は金の剪定鋏。

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Selection test of eiga

Second group-8/8 syouma kako (age 32)

Equipment weapons Gold pruning shears

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”ハヤクタスケロ!ハヤクタスケロ!”

 

6. 國枝 レン(くにえだ れん) 27歳 168cm 56kg

   母親はグレース事件の強盗殺人事件の容疑者の一人。旧姓・孫。

   三期生3番國枝リンとは腹違いの”兄弟”。兄。

   元々外国人街に住んでいた母親譲りの日系人。

   母も双子であったが、少年時に抗争中に両名とも行方不明に。

   若者を中心に構成する”半グレ”集団の構成員の一人。

   リンと共に公務執行妨害で逮捕、勾留中であった。

   幼き頃から、ともに双子の母親である(父親は同じ)リーゼ・シアンより生きる術を学ぶ。

   きれい好き。努力家。ナルシスト。

   使用武器は鋭利な刃の付いた弓。

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Selection test of eiga

Third group-2/8 ren kunieda (age 27)

Equipment weapons Bow with a sharp blade

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”コレミヨガシニ”

 

7. 國枝 リン(くにえだ りん) 27歳 168cm 56kg

   母親はグレース事件の強盗殺人事件の容疑者の一人。旧姓・孫。

   三期生3番國枝レンとは腹違いの”兄弟”。弟。

   レンと同じく若者を中心に構成する”半グレ”集団の構成員の一人。

   レンと共に公務執行妨害で逮捕、勾留中であった。

   幼少期もレンと同じだが、物事においていつも優位なレンに嫉妬心が有るらしい。

   神経質。天才肌。ナルシスト。

   使用武器は毒の出る矢。

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Selection test of eiga

Third group-3/8 rin kunieda (age 27)

Equipment weapons Poisonous Arrow

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”ナグルケルノボウコウ”

 

8. 鮎川 賢士 旧姓・我妻(あゆかわ けんし) 24歳 166cm 54kg

   母親は現・アガツマホールディングス社長の娘。父親は総務部長。

   幼き頃より英才教育を受け、現在は国立医科大学の大学院生である。

   母より、それとなくグレース事件の件について(特に■■■)聞かされている。

   良識人、正しい正義感を持ち、情熱を持った性格である・・・らしいが。

   身分偽り参加意向の模様。

   ※オミヨに意見問う。

   アスリート系・頭脳明晰。

   使用武器は血の付いた丸鋸。

”ワタシアナタニイイワスレタコトガルノ”

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Selection test of eiga

Third group-5/8 kenshi ayukawa (age 24)

Equipment weapons Circular saw with blood

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「僕は元々、旧我妻製薬の不正を暴くために立ち向かった先代会長の隠し子であった

叔母さんを探していてこの事態に巻き込まれたのです」

我妻は静まり返る厨房室の片隅の壁に身を寄せながら、窓から見える森の木漏れ日を見ながら語りだした。

 

名前は我妻佳世――。

残っていた記録からわずかに得た情報は数少なかった。

昭和初期より戦争特需に始まり政府・財団関係とのズブの関係、果ては”勝くじ”と呼ばれる

金のなる木の”栽培”まで、大企業としての莫大な利益を築き上げた我妻製薬は世界にまで名をはせた。

そのためか、本来、特に現在ならば弾圧、言及は避けられないような不正・不良、さらには犯罪行為に至るまで

その財力を持って簡単にコントロールしていた。

そんな中、その難攻不落の城ともいえる大企業に昭和中期、ある一筋の亀裂が走ることになる。

彼女が父親・会長の意思を継いで反旗を翻したスキャンダル告発事件だよ。

「事件?」

事件、そう事件さ。何せ渦中の叔母さんが失踪して一応の幕引きとなったのだから。

彼女は過去に行われたありとあらゆる不正な人体実験・当時の政財界との癒着関係・隠蔽工作まで

数多くの証拠と共に白日の元に晒上げた。

初期の匿名によるものまで彼女ではないかと言われている。

なぜ彼女はそこまでしたのか。

さっき言ったよう会長の意思によるものではあるが、何よりも自身の不倫相手の隠し子という境遇。

そして、犠牲になっているのが自分と同じ年代の人間が多数いるのも追い風になっていると思う。

憶測だけどね。

会長自身も肥えに肥え切った会社の裏で行われる悍ましいまでの醜態に嫌気がさしていたんだと思う。

晩年は薬の服用が絶えなかったらしいし。

匿名での密告が行われる中、遂には彼女自身が一大スキャンダルを上げるために渦中の中に飛び込むことになる。

それがここ、グレース女子児童福祉施設またの名をグレース研究所さ。

ここは身寄りのない子供、特に血縁が殆ど追えないような子を全国からかき集めて、面倒見る傍らで

違法な臨床実験体に参加させていた。

その主導者・元締めこそが我妻製薬なのさ。

ただそれだけじゃないよ。

元々、身寄りのない子、救いの声を上げられない子ばかり。特に皆女と言う事もあって直ぐにきな臭い奴らが目を付けて

やってきた、沢山の”おかし”を抱えてね。

つまりここは、ときには我妻製薬の人体実験、そしてときには権力者たちの慰み物。

年端もいかない女の子たちの魔窟と化していたんだ。

彼女はここで、不正の実態を調査して自分の味方をしてくれる我妻製薬の側近たちを通して証拠や情報を提供

していたんだが急に連絡が途切れることとなる。

それからだ、まだここでの実態を明るみにするには情報や証拠が足りなかったにもかかわらず急に国が動き出した。

国は警察を総動員して対策本部を設置。

瞬く間に我妻製薬のありとあらゆる不正は暴かれ、逮捕者は多数、退職者や

はては自殺者まで毎日ネタには尽きなかったらしい。

ついには企業の役員は総辞職され、会社は再生されることとなった。

失踪したものの叔母さんの悲願は一応の達成されることとなったんだ。

「そこまではいいさ、だがなぜお前はその叔母さんを探そうとする?」

「そもそもの話、そこまでの大企業を潰されてお前は逆に恨んでいるんじゃないのか?

叔母がやらかさなかったらお前は世界屈指の大金持ちだろう」

はは、僕はたくさんの人間の苦しみの中で胡坐をかけるほどの根性は無いよ。

むしろ今の弱小ながらも健全なアガツマホールディングスが好きだね。

叔母さんは、その立場上爪弾き扱いだったけど、小さい時から勉学に励みかなりの英才者であったようなんだ。

そのおかげか叔母さんがここでの調査をする傍らで、どうも研究内容に関しても把握していたようでそれが報告に上がっている。

その一つに”細胞壁合成阻害におけるABC臨床報告書”がある。

「細胞壁合成阻害?」

少し難しい話だけど、抗菌薬と考えてもらって差し支えないよ。

これに関する研究データの中に、現在の医学でも解明されていない項目が幾つもあった。

さらに臨床実験で実際にかつてここにいた寮生にも投与されていたと書いてあった。

もしもこれが本当ならば、叔母さんはこの研究について詳しいことを知っているはず。

僕はそれをかつて叔母さんの側近の人に聞いて行方不明になった叔母を探すことを決意したんだ。

「なんだ、結局つまるところの”金”目当てじゃないか?」

ああ、そう誤解を受けるのは仕方ないことだろうと思っていたよ。

だけど僕は本気で病気に立ち向かっていきたいし、これによってたくさんの人を救うことが出来る。

でもね、それだけじゃないんだ。

少し怖いことが有ってね。

その項目の中に”軍事転用”があったんだ。

研究は見た限りではまだ諸段階の状態だったと思う。でも、それを見た途端嫌な予感しか脳裏を過ぎらなかった。

もしも、あれが何十年にも渡って研究が続けられていたのなら・・・。

だから僕は何としても叔母さんを探さなくてはならない。

死んでいたのならそれに越したことはない。

でも、もしかしたら・・・・。

 

"Life 28days 12:48:21 8 - Capacity"

 

数時間後。

八人は、無言のまま備え付けのスツールなどに腰かけてその身の丈程ある大型冷凍庫を見つめていた。

今その冷凍庫には影我漢に敗れたライバルたちが所狭しと裸でビニール袋に入れられ押し込まれている。

「毒で死んだ奴の顔色が元に戻っている・・・・」レンがボソッと呟くとブレアがそれに答えた。

「それがどうも、毒が体内から消えているようなんだ」

「そんな馬鹿な」三島は素っ頓狂な声を上げる。

「システムキッチンの隣に検査機やらX線滅菌装置が並んでるだろう、その中に毒物検査機もあった。

まさかと思って血液を調べたら”シロ”だと」

ブレアはそう呆れた物言いをした。

「でも俺は何にせよ”喰う”気になんか絶対になれないよ」

八神がそう語気を荒げていった。

するとたちまち室内は痛いほどの静寂を取り戻してしまった。

しばらくして。

「そうだ、八神君。君だよ」

「何が?」

加古が腰かけていた机から降りてヤガミに向かって問いただした。

「数時間前に見た動画だよ。まあ、ツッコミどころは各々あるのだろうけど

中でも気になったのは、冒頭のタイトル。

(八幡の地で八百万の神に立ち向かう勇敢な ”八神達” 頑張れ!)

あれだよ。どういうこと?まるで君が代表みたいなタイトルみたいじゃなかったかい?」

それに続き、三島も疑問を投げかけた。

「それに、各所に見受けられた”オミヨ”という人物も気になる。お前、何か知ってるんじゃないのか?」

「知らない、全く知らない。俺の苗字の記載が見える部分だけ何故かカタカナだったのも、そのオミヨとかいう奴も

俺は全く知らないし、聞いたことも無い」

八神は不貞腐れて俯いてしまった。

「八幡の地・・・八百万・・・そして、八神・・・・」

「何かさせようとしている、か?」リンとレンが各々呟く。

「とりあえず、疑問は尽きないでしょうが今は目の前の問題を考えましょう、これのね」

一同はそう言ってまた冷蔵庫を飽きもせず眺めた。

暫くして田中が呟く。

「喉乾いた・・・・」

「そうだな、蛇口をひねってみるか」

三島はそう言ってシステムキッチンに近づいて蛇口を捻るも水は一滴も滴ることはなかった。

「無駄だよ。きっと、ホログラムの日付が切り替わるまでは出ないね」

「一日四リットル・・・ビタミンウォーター、一人につき約500ミリリットル。とても足りる量ではありませんね。

成人男性の必要な最低限の水分は2リットルです。私達は日々の生活で知らずのうちにそれだけの量を

毎日摂取しているんですよ。500ミリリットルは正に私達が気狂いを起こさない最低ラインです」

我妻(鮎川)がプロフィールに記載されていたような医学生らしいことをようやく言って一同はクスリとほくそ笑んだ。

「そこに計量カップがあります。これからはそれを使って均等に分けていきましょう、異論はないですね」

全員は無言によってその問いに賛同した。

「そして、次は・・・やっぱり、これだね。どうする?」

「ホラー映画かなんか見た時に言ってた気がする。マズいって。だが栄養摂取にはなるだろうし腹は満たされるな」

「正気か?!俺は絶対に食わんぞ!」

笑いながら語る加古に八神は噛みついた。

「だが八神君、いや八神、考えてみろ。一か月間だ、一か月生きることが出来るか?まったく食べずに、たった僅かな水だけで」

「クッ!」

「まあ、実際一か月は長いと思う。特に仕事や何かをするわけでもなければなおさらだろう」

三島が二人のやり取りをなだめる様に言う。

「とりあえず、水は補給できたんです。今から少し頭を冷やしましょう。

いったん解散して、ホログラムの時計で今日の日付残り一時間でまたここに集まりましょう。

集合後、もう一度皆さんの意見を伺いましょう。

皆さん、疲弊しています。怪我もしてます。眠りたい人もいるでしょう。

さっき棚から見つけた毛布も配ります、怪我を見てほしい人は僕が見ましょう。

医療箱もありましたが最低限の物しか入っていないので出来ることは限られますが・・・」

我妻は率先して皆を促した。

「それと、解ってると思うがもう”殺し合い”は終わった。次は”生きるため”に協力し合わなくてはならない。

さっきまで殺し合っていたのに何言ってんだっていう気持ちは十分にわかるがそれは皆が同じなんだ」

三島は全員に向かって伝える。そしてこうも言った。

「少なくとも、俺はもう絶対殺し合いはしない。次またやれと言われてもだ。それだけは信じてくれ」

「ふざけんじゃない、当たり前だ。もう勘弁してくれ・・・・・」

そう言うと、八神は自分の毛布を取ってそそくさと部屋を後にした。

「皆、解散ってことでいいね。それじゃまた」

そう言って加古も部屋を抜けていった。

「田中さん、痛みを訴えていましたね。診てみましょう」

「ありがとう、えーと、あ、あ・・・」

「我妻でも鮎川でもいいですよ、呼びやすい方で」

「俺も見てくれ、リン。お前もこいよ」

「ああ」

部屋には治療を受けるべく我妻ら数人が残った。

そしてブレアは毛布を持って部屋を出ようをするときに誰に言う訳でなくただ呟いた。

 

「これを考えた奴は、最上級の鬼畜だよ」

 

"Life 28days 00:51:28 - 8 Capacity"

 

「もうすぐ日付が変わるな」

レンは誰に向けるでもなくホワイトボードに浮かぶホログラムを見ながら一言呟いた。

「そう言えばあれって日付を表すものなのか?終了時間までのカウントだろう」

リンは俯いたまま顔を上げようともせず言った。

「まあ、実際の時間とは違うでしょうが少なくとも私達には時間の目安を知る数少ない情報ですよ」

我妻はシステムキッチンにもたれ掛かって宙を何気なく眺めていた。

「時間、時間、皆あつまらないと」

田中は毛布にくるまりながら小さく呟き、虚ろいた目でカウントを眺めた。

あれから数時間、厨房は何処かに仕込まれている空調のお陰か思いのほか快適で

國枝兄弟、田中、我妻は治療を受けた後そのままここで仮眠を取っていた。

「さぁどうする?」

「どうするも何も、早くしないと”腐っちまう”。少なくとも最初に死んだ奴はもうだいぶ時間が経過している。

やるなら早いほうが良い」

「そうは言うが・・・・八神さんは断固として反対でしょうし抵抗の無い方なんていらっしゃらないと思います」

我妻は気の抜けた声で言った。

全員が丸々三日ほど何も食事に有りつけていなかった。

唯一得ることの出来たビタミン入りであろう水も一人当たり500mlという限りなく少ない状態である。

最早、思考も回らずただただ呆然とする中で時間だけが流れていった。

もう集合の約束の時間は過ぎている。

そう思って我妻は何気なくドアに目をやったとき、それはいきなり大きく開かれた。

「待たせたな!」

「っ、三島さん・・・・驚かさないでくださいよ」

我妻がそう叱責したが聞く耳持たずでドスドスと中へと入ってきた。

数珠つなぎの無数の棺を引っ提げて。

それに続いて加古も一緒にやってきた。もちろん三島と同じように棺を引っ提げている。

「三島・・・?」

リンがふと疑問形で名前を呼ぶ。

「まあ喰うかどうかは別にしてこのままにしておくわけにもいくまい。おい加古、急げ」

「人使いが荒いなぁ、こっちは一時間ほどしか寝てないのに」

「後でまた好きなだけ寝てればいい。なぁに、まだ時間は嫌というほど残っているさ」

三島はそう言うと棺の蓋を手動で開けた。

どうやら、最初の殺し合いが終わった時点でオートロックは切れていたらしい。

中を開けると武器やアームなどの機械類は取り払われており、先程まで生きていたであろう”者”。

今では”物”扱いの候補生が折りたたまれたように押し込まれていた。

「うげっ!!!くさい!くさい!おえぇええええ!」

棺を開けると同時に当たりに充満したのは悍ましいまでの死臭、そしてアンモニアや汚物の濃縮した匂いである。

田中は鼻を塞いで嘔吐をするような仕草を繰り返した。

とうぜん、胃の中には何も入っていないので吐くこともできない。

「急げ。おい國枝兄弟、さっきそこの棚の扉に”如何にも”なデカい真空パックに出来るビニール袋が大量にあったろう?

それを持ってきてくれ」

「既に死後硬直が終わって弛緩しているやつは”駄々洩れ”でどうしようもなかった。まあ耐えるしかないよ」

「ゴム手袋もあったろう!持ってきてくれ。田中、お前もおえおえ言ってないで手伝え」

三島はゴム手袋を付けると死体をビニールにいそいそと詰め始める。

田中は叱責されて仕方なく三島の持っている死体の足を嫌そうに掴んだ。

「・・・・・冷凍庫を開けましょう。目的は何にせよ、遺体の保管にもなるはずです」

「まだそんなこと言ってんかい?我妻君?」

加古は死体を持ち上げながらニヤニヤしながら我妻を見た。

「こんな壁一面を埋め尽くすほどの大型冷凍庫、目的なんて一つでしょ。

というより、見るからにいかにも病院の遺体安置室じゃないか」

「それでも・・・・」

「ま、いいさ、いまはね」

加古は苦笑いをしながら我妻にそう言うといそいそと作業に戻った。

そこに開け放たれた大きな厨房のドアの所で突っ立って、事態を呆然と眺めていた八神がいた。

「狂ってる・・・正気なのか・・・」

カサカサになった唇で枯れるような声で言った矢先、不意に背中から声をかけられる。

「狂ってるんだよ、皆、もちろん、俺も、君もね」

「ブレアか・・・」

後ろから声をかけてきたのはブレアだった。

「八神君は手伝わなくていいの?みんな生きるために必死だよ」

「ふざけんな、何言ってるんだ。俺はもう嫌だ。こんなこと」

「ふー-ん。ま、いいけどね。あ、彼は良いのかい?今三島が抱えてるけど」

ブレアはそう言って三島の方を指差した。

そこには悲壮な顔を浮かべたまま絶命している片桐の死体がビニールへ無造作に入れられようとしていた。

「くっ!!くそ、くそっ!こんな、こんな!」

そう言いながら八神は足早に三島の元に駆け寄った。

「三島!俺がやる」

「八神か、大丈夫か?」

「大丈夫なわけないだろう!でも、やらなくちゃしょうがないじゃないか」

「そうだな、今はそれでいい。何も考えるな・・・片桐はお前がバディを組んでいた奴か、お前が冷凍庫に運んでやれ」

「”物”扱いするんじゃない!!」

八神は三島に食いついた。

「誰も物扱いなどしていない!八神!お前こそ綺麗事を言うな!」

「はいはい、おしまいおしまい。時間ないんでしょ、いいから早く運ぼう。」

手を軽くパンパン叩きながらブレアが後ろからやっていて八神の肩を軽く抱いた後、彼を手伝い始めた。

 

"Life 28days 00:00:14 - 8 Capacity"

 

「圧巻だな」

ブレアがそう口にした。

今八人の目の前には壁側にある大型冷凍庫に敷きつめられた真空パックビニールに入れられた死体が所狭しと

押し込まれていた。

「早く閉めろ、凍らん」

「ああ、わかってる」

我妻は三島に急かされてて冷凍庫の複数ある扉を次々に閉じ始めた。

「結局、全員の遺体を?」

「いや、明らかに最初の方にやられてて腐敗の進行が始まったものは棺に仕舞ったまま放置したよ。松本や掛がそうだ」

加古はリンに尋ねられてそう答えた。

「で、結局の所、全員の結論はどうなんだ」

「そんなもの、多数決を取るまでもない。あと27日、どう考えても水だけで生きれる日数ではない」

「俺は喰わない」

三島の結論にやはり八神は反対した。

「八神君、お前の気持ちは解る。だが、喰わないままは危険なんだ」

「何が危険だって言うんだ」

八神の反対にブレアが全員の前に立って語りだす。

「俺はな・・・少しの間イギリスで軍に身を置いていた。日本語こそ母親に学んだが、他はまるで駄目でね」

歩きながら、冷凍庫の前を横切りシステムキッチンから文化包丁を取り出した。

「その軍でな、ある訓練があった。

それは、三日間の水食糧のみを持って一週間かけて寒冷地を目的地までチームで走破する訓練だ」

ブレア以外の人間は黙って話に聞き入っていた。

「チームは複数いる。だけどな、大半の人間がリタイヤを余儀なくされるなぜかわかるか?」

ブレアは文化包丁をまな板に落とすように突き刺した。

「寒さでカロリーが瞬く間に消費され、飢えと渇きが瞬く間に隊員を襲う。

暫くは耐えるんだ、だが限界が近づき隊員は正気を失ってゆき・・・どうすると思う?」

少しの間を開けて、ブレアは正面に向き直り言った。

「チームメイトを襲いだすんだよ。腕や足を噛まれた奴なんてザラだ」

「馬鹿馬鹿しい」八神は悪態をついた。

「八神、お前は人間を舐めている。人間は何でもする。

ゲロイムや試験を考えた奴が何を思っているのか解らんが、少なくとも俺らに人間の”本質”を見せようとしているのは

間違いない。さっき考えていたが、俺らに殺し合いをさせたのもその一環だ」

ブレアは顎に手を当てて、考えていた。

「影我漢試験・・・俺らにいったい何を求めているんだ」

三島はそう疑問を口にした。

「ゲロイムがまたやってきたら聞けばいいのさ、お前何様なんだって。あんた、俺らの何なのさって」

加古はそう言いながら流し目で三島を眺めた。

「とりあえず、さっさと始めようよ。手っ取り早く、先に死んだ奴からでいいよね」

リンはスツールから立ち上がるとサッと冷凍庫の方へ向かった。

「おい待てよ!何する気だ!」

八神はリンを止めようとして手を掴んだがそれを軽く払いのけた。

「何って、今から獲物を”サバク”のさ。俺もレンも外国人街の精肉店で”色々”手伝っていたからそんなに抵抗がある訳じゃない」

「僕はちょっと、いやかなり抵抗あるかな」

レンが苦笑いしながら言った。

「じゃ、お前は黙ってみてろよ。ただし、喰うのは俺だけな」

八神、そして田中や我妻もいよいよ現実味を帯びてきた”それ”に顔面蒼白だ。

流石に加古や三島も威勢はよかったものの顔を引きつらせている。

「ああ、じゃあこうしよう。捌いたものは、その捌いた人間が責任をもって食べるってのでどう?

もちろん手伝ってもいいし、捌いて作った肉に他の人間が手を出すのはダメ。

これなら公平でしょ」

リンは淡々とそう述べると早速冷凍庫の中から一体の遺体を引きずりだした。

「早くしないと、解凍するのが大変だからね。あ、でも一旦凍らせた方がバラスのが楽っちゃ楽か?」

リンは悍ましいことを言いながら屈託のない笑顔を浮かべた。

「リン、まあ待て慌てるな。みんなも、聞いてくれ」

そう言って三島はどよめく皆を一旦静止した。

「どうした三島、またリーダー気取りか?まあ、僕は何でもいいんだけどね」

レンがリンを手伝いながらぼやいた。

「良いから聞け!いいか、このまま怖気づいていても仕方がない。

本気で殺し合いをさせたゲロイムの事だ。

このまま約一か月間、少ない水だけで俺達に生活を強いることは確実だろう。

喰わなきゃ死ぬ。ならもう、覚悟を決めてやるしかないだろう。

もちろん全員でだ。ここで不公平を出して混沌を招くわけにもいかない」

全員はそれを聞いても返事はなかった。

だが、一人二人と、スツールから腰は浮かせた。

八神を除いて。

「・・・遺体を吊ろう」

 

レンとリンは二人で協力して南の遺体を持って両肩へと吊り下げられている鋭いフックを骨に引っ掛ける様にして吊り下げた。

まだ、完全に冷凍されていなかったであろうそれは、そこからおびただしいほどの死が流れていった。

「血は排水溝に流すんじゃない、ボールを置いて貯めよう」

ブレアが何の抵抗もなく口にして足元にサッと大きな料理用ボールを置いた。

「冗談、”ろ過”して飲む気?!」

「あの弩羅という大男が言っていた。そんなに喉が渇くなら殺して血でも飲めばいいと」

流石の加古もその台詞を聞いて絶句していた。

「さあ、まずは臓物を出さないとな・・・・」

リンは聞こえないほどのか細い声でそう言ったが、

その医療用メス持った手は震えており先程の威勢とは打って変わって顔面蒼白で

冷汗が止まらない様子だった。

それを察した、レンが皆に言う。

「当たり前だよ。これはニワトリや豚とは違うんだ。俺達だって怯むに決まってんだろ・・・」

レンの顔も悲壮に満ちていた。

「私がやります」

そう言ってリンから医療用メスを引ったくり、吊るされた遺体の前に立ったのは我妻だった。

「だ、大丈夫です。私は医学生です。これは手術の一環や司法解剖だと思えばいいんです・・・」

我妻も震えていたが、その表情は何かしらの決意に満ちていた。

「時間がかかってもいい。みんな一緒だ」

「ええ、わかってます」

三島から激励され、震えた手でメスをお腹の方に持ってきたときだった。

ピンポンパン!

「何の音だ?!」

突然の放送に一同は騒然となった。

そして、すぐさまホワイトボードに変化が現れた。

「何だ、映像かこれは・・・・」

一同の前に現れたのは、ホログラムに浮かび上がる、古ぼけた映像。

そこには可憐な少女の姿が映し出されていた。

 

"Life 27days 23:58:38 - 8 Capacity"

 

"Life 28days 00:51:28 - 8 Capacity"

 

「もうすぐ日付が変わるな」

レンは誰に向けるでもなくホワイトボードに浮かぶホログラムを見ながら一言呟いた。

「そう言えばあれって日付を表すものなのか?終了時間までのカウントだろう」

リンは俯いたまま顔を上げようともせず言った。

「まあ、実際の時間とは違うでしょうが少なくとも私達には時間の目安を知る数少ない情報ですよ」

我妻はシステムキッチンにもたれ掛かって宙を何気なく眺めていた。

「時間、時間、皆あつまらないと」

田中は毛布にくるまりながら小さく呟き、虚ろいた目でカウントを眺めた。

あれから数時間、厨房は何処かに仕込まれている空調のお陰か思いのほか快適で

國枝兄弟、田中、我妻は治療を受けた後そのままここで仮眠を取っていた。

「さぁどうする?」

「どうするも何も、早くしないと”腐っちまう”。少なくとも最初に死んだ奴はもうだいぶ時間が経過している。

やるなら早いほうが良い」

「そうは言うが・・・・八神さんは断固として反対でしょうし抵抗の無い方なんていらっしゃらないと思います」

我妻は気の抜けた声で言った。

全員が丸々三日ほど何も食事に有りつけていなかった。

唯一得ることの出来たビタミン入りであろう水も一人当たり500mlという限りなく少ない状態である。

最早、思考も回らずただただ呆然とする中で時間だけが流れていった。

もう集合の約束の時間は過ぎている。

そう思って我妻は何気なくドアに目をやったとき、それはいきなり大きく開かれた。

「待たせたな!」

「っ、三島さん・・・・驚かさないでくださいよ」

我妻がそう叱責したが聞く耳持たずでドスドスと中へと入ってきた。

数珠つなぎの無数の棺を引っ提げて。

それに続いて加古も一緒にやってきた。もちろん三島と同じように棺を引っ提げている。

「三島・・・?」

リンがふと疑問形で名前を呼ぶ。

「まあ喰うかどうかは別にしてこのままにしておくわけにもいくまい。おい加古、急げ」

「人使いが荒いなぁ、こっちは一時間ほどしか寝てないのに」

「後でまた好きなだけ寝てればいい。なぁに、まだ時間は嫌というほど残っているさ」

三島はそう言うと棺の蓋を手動で開けた。

どうやら、最初の殺し合いが終わった時点でオートロックは切れていたらしい。

中を開けると武器やアームなどの機械類は取り払われており、先程まで生きていたであろう”者”。

今では”物”扱いの候補生が折りたたまれたように押し込まれていた。

「うげっ!!!くさい!くさい!おえぇええええ!」

棺を開けると同時に当たりに充満したのは悍ましいまでの死臭、そしてアンモニアや汚物の濃縮した匂いである。

田中は鼻を塞いで嘔吐をするような仕草を繰り返した。

とうぜん、胃の中には何も入っていないので吐くこともできない。

「急げ。おい國枝兄弟、さっきそこの棚の扉に”如何にも”なデカい真空パックに出来るビニール袋が大量にあったろう?

それを持ってきてくれ」

「既に死後硬直が終わって弛緩しているやつは”駄々洩れ”でどうしようもなかった。まあ耐えるしかないよ」

「ゴム手袋もあったろう!持ってきてくれ。田中、お前もおえおえ言ってないで手伝え」

三島はゴム手袋を付けると死体をビニールにいそいそと詰め始める。

田中は叱責されて仕方なく三島の持っている死体の足を嫌そうに掴んだ。

「・・・・・冷凍庫を開けましょう。目的は何にせよ、遺体の保管にもなるはずです」

「まだそんなこと言ってんかい?我妻君?」

加古は死体を持ち上げながらニヤニヤしながら我妻を見た。

「こんな壁一面を埋め尽くすほどの大型冷凍庫、目的なんて一つでしょ。

というより、見るからにいかにも病院の遺体安置室じゃないか」

「それでも・・・・」

「ま、いいさ、いまはね」

加古は苦笑いをしながら我妻にそう言うといそいそと作業に戻った。

そこに開け放たれた大きな厨房のドアの所で突っ立って、事態を呆然と眺めていた八神がいた。

「狂ってる・・・正気なのか・・・」

カサカサになった唇で枯れるような声で言った矢先、不意に背中から声をかけられる。

「狂ってるんだよ、皆、もちろん、俺も、君もね」

「ブレアか・・・」

後ろから声をかけてきたのはブレアだった。

「八神君は手伝わなくていいの?みんな生きるために必死だよ」

「ふざけんな、何言ってるんだ。俺はもう嫌だ。こんなこと」

「ふー-ん。ま、いいけどね。あ、彼は良いのかい?今三島が抱えてるけど」

ブレアはそう言って三島の方を指差した。

そこには悲壮な顔を浮かべたまま絶命している片桐の死体がビニールへ無造作に入れられようとしていた。

「くっ!!くそ、くそっ!こんな、こんな!」

そう言いながら八神は足早に三島の元に駆け寄った。

「三島!俺がやる」

「八神か、大丈夫か?」

「大丈夫なわけないだろう!でも、やらなくちゃしょうがないじゃないか」

「そうだな、今はそれでいい。何も考えるな・・・片桐はお前がバディを組んでいた奴か、お前が冷凍庫に運んでやれ」

「”物”扱いするんじゃない!!」

八神は三島に食いついた。

「誰も物扱いなどしていない!八神!お前こそ綺麗事を言うな!」

「はいはい、おしまいおしまい。時間ないんでしょ、いいから早く運ぼう。」

手を軽くパンパン叩きながらブレアが後ろからやっていて八神の肩を軽く抱いた後、彼を手伝い始めた。

 

"Life 28days 00:00:14 - 8 Capacity"

 

「圧巻だな」

ブレアがそう口にした。

今八人の目の前には壁側にある大型冷凍庫に敷きつめられた真空パックビニールに入れられた死体が所狭しと

押し込まれていた。

「早く閉めろ、凍らん」

「ああ、わかってる」

我妻は三島に急かされてて冷凍庫の複数ある扉を次々に閉じ始めた。

「結局、全員の遺体を?」

「いや、明らかに最初の方にやられてて腐敗の進行が始まったものは棺に仕舞ったまま放置したよ。松本や掛がそうだ」

加古はリンに尋ねられてそう答えた。

「で、結局の所、全員の結論はどうなんだ」

「そんなもの、多数決を取るまでもない。あと27日、どう考えても水だけで生きれる日数ではない」

「俺は喰わない」

三島の結論にやはり八神は反対した。

「八神君、お前の気持ちは解る。だが、喰わないままは危険なんだ」

「何が危険だって言うんだ」

八神の反対にブレアが全員の前に立って語りだす。

「俺はな・・・少しの間イギリスで軍に身を置いていた。日本語こそ母親に学んだが、他はまるで駄目でね」

歩きながら、冷凍庫の前を横切りシステムキッチンから文化包丁を取り出した。

「その軍でな、ある訓練があった。

それは、三日間の水食糧のみを持って一週間かけて寒冷地を目的地までチームで走破する訓練だ」

ブレア以外の人間は黙って話に聞き入っていた。

「チームは複数いる。だけどな、大半の人間がリタイヤを余儀なくされるなぜかわかるか?」

ブレアは文化包丁をまな板に落とすように突き刺した。

「寒さでカロリーが瞬く間に消費され、飢えと渇きが瞬く間に隊員を襲う。

暫くは耐えるんだ、だが限界が近づき隊員は正気を失ってゆき・・・どうすると思う?」

少しの間を開けて、ブレアは正面に向き直り言った。

「チームメイトを襲いだすんだよ。腕や足を噛まれた奴なんてザラだ」

「馬鹿馬鹿しい」八神は悪態をついた。

「八神、お前は人間を舐めている。人間は何でもする。

ゲロイムや試験を考えた奴が何を思っているのか解らんが、少なくとも俺らに人間の”本質”を見せようとしているのは

間違いない。さっき考えていたが、俺らに殺し合いをさせたのもその一環だ」

ブレアは顎に手を当てて、考えていた。

「影我漢試験・・・俺らにいったい何を求めているんだ」

三島はそう疑問を口にした。

「ゲロイムがまたやってきたら聞けばいいのさ、お前何様なんだって。あんた、俺らの何なのさって」

加古はそう言いながら流し目で三島を眺めた。

「とりあえず、さっさと始めようよ。手っ取り早く、先に死んだ奴からでいいよね」

リンはスツールから立ち上がるとサッと冷凍庫の方へ向かった。

「おい待てよ!何する気だ!」

八神はリンを止めようとして手を掴んだがそれを軽く払いのけた。

「何って、今から獲物を”サバク”のさ。俺もレンも外国人街の精肉店で”色々”手伝っていたからそんなに抵抗がある訳じゃない」

「僕はちょっと、いやかなり抵抗あるかな」

レンが苦笑いしながら言った。

「じゃ、お前は黙ってみてろよ。ただし、喰うのは俺だけな」

八神、そして田中や我妻もいよいよ現実味を帯びてきた”それ”に顔面蒼白だ。

流石に加古や三島も威勢はよかったものの顔を引きつらせている。

「ああ、じゃあこうしよう。捌いたものは、その捌いた人間が責任をもって食べるってのでどう?

もちろん手伝ってもいいし、捌いて作った肉に他の人間が手を出すのはダメ。

これなら公平でしょ」

リンは淡々とそう述べると早速冷凍庫の中から一体の遺体を引きずりだした。

「早くしないと、解凍するのが大変だからね。あ、でも一旦凍らせた方がバラスのが楽っちゃ楽か?」

リンは悍ましいことを言いながら屈託のない笑顔を浮かべた。

「リン、まあ待て慌てるな。みんなも、聞いてくれ」

そう言って三島はどよめく皆を一旦静止した。

「どうした三島、またリーダー気取りか?まあ、僕は何でもいいんだけどね」

レンがリンを手伝いながらぼやいた。

「良いから聞け!いいか、このまま怖気づいていても仕方がない。

本気で殺し合いをさせたゲロイムの事だ。

このまま約一か月間、少ない水だけで俺達に生活を強いることは確実だろう。

喰わなきゃ死ぬ。ならもう、覚悟を決めてやるしかないだろう。

もちろん全員でだ。ここで不公平を出して混沌を招くわけにもいかない」

全員はそれを聞いても返事はなかった。

だが、一人二人と、スツールから腰は浮かせた。

八神を除いて。

「・・・遺体を吊ろう」

 

レンとリンは二人で協力して南の遺体を持って両肩へと吊り下げられている鋭いフックを骨に引っ掛ける様にして吊り下げた。

まだ、完全に冷凍されていなかったであろうそれは、そこからおびただしいほどの死が流れていった。

「血は排水溝に流すんじゃない、ボールを置いて貯めよう」

ブレアが何の抵抗もなく口にして足元にサッと大きな料理用ボールを置いた。

「冗談、”ろ過”して飲む気?!」

「あの弩羅という大男が言っていた。そんなに喉が渇くなら殺して血でも飲めばいいと」

流石の加古もその台詞を聞いて絶句していた。

「さあ、まずは臓物を出さないとな・・・・」

リンは聞こえないほどのか細い声でそう言ったが、

その医療用メス持った手は震えており先程の威勢とは打って変わって顔面蒼白で

冷汗が止まらない様子だった。

それを察した、レンが皆に言う。

「当たり前だよ。これはニワトリや豚とは違うんだ。俺達だって怯むに決まってんだろ・・・」

レンの顔も悲壮に満ちていた。

「私がやります」

そう言ってリンから医療用メスを引ったくり、吊るされた遺体の前に立ったのは我妻だった。

「だ、大丈夫です。私は医学生です。これは手術の一環や司法解剖だと思えばいいんです・・・」

我妻も震えていたが、その表情は何かしらの決意に満ちていた。

「時間がかかってもいい。みんな一緒だ」

「ええ、わかってます」

三島から激励され、震えた手でメスをお腹の方に持ってきたときだった。

ピンポンパン!

「何の音だ?!」

突然の放送に一同は騒然となった。

そして、すぐさまホワイトボードに変化が現れた。

「何だ、映像かこれは・・・・」

一同の前に現れたのは、ホログラムに浮かび上がる、古ぼけた映像。

そこには可憐な少女の姿が映し出されていた。

 

"Life 27days 23:58:38 - 8 Capacity"

 

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