"本日は私達の・・・支援の・・・まこ・・・ありがとうござ・・"
流れる映像はかなり古いのか、音声はノイズ交じりで映像は間にさざ波や乱れることが多かった。
「女・・・中学くらいか?」怪訝な顔をしながら三島はホログラムを見つめた。
他の者も同様に皆一旦、作業を停めて映像を見つめる。
我妻は作業が中断になった事を内心安堵していた。
”きょう・・・も・・・・どの・・・・成長・・・・・”
音声には少女に続いて野太い男性の声も入ってきた。
そして、次に少女の服の中に手が無造作に突っ込まれ四肢のあちこちが揉みしだかれ始めた。
”イタイッ・・・・や・・・いの・・・”
”ふふふ・・・・こん・・・汗・・・・・”
「なんだこれ、ポルノか?」
「ハッ!カニバリズムを決心した俺達へのご褒美だろう?」
「これまだ女の子未成年でしょ?昔はすごいね、今じゃ無期懲役もんだよ」
映像を見ながら、ブレアや國枝兄弟達がぼやき始める。
その傍らで何やらすすり泣く声が聞こえた。
「うううっ・・・ぐすっ・・・ううう・・ぐす、あああ、うわぁぁぁん」
「田中さん・・・・?」
八神が何やらすすり泣く田中を見て心配になり歩み寄って介抱する。
「どうした、田中さん。何処か痛むのか?」
「うわぁあぁぁあああああん、うわぁぁぁん。お、お、お」
「田中さん?」
「 お か あ さ ん 」
その一言に、その場にいる全員の血の気が引いた。
それぞれが顔を見合している。
その顔は顔面蒼白である。
「田中さん、確かか?」震えた声で加古が尋ねた。
だが田中は答えることも無く、ただ映像から目を背け、耳を塞いでうずくまった。
それが、質問に対する何よりの答えであることは明らかだった。
「冗談じゃない、冗談じゃない、冗談じゃないぞ、ふざけんじゃ、ね、うううオラぁ!!!!
ゲロイムか、それとも誰がやってんだ!!!ふざけんじゃねーぞ、オラぁああああああ!!!」
加古が殺し合いの時の冷酷さとは打って変わり、激昂に身をまかして怒号をまき散らした。
「誰が!誰が!自分の母親が汚いオッサンにヤラレテいるところみて喜ぶ馬鹿がいるんだ!!!
ゲロイムッ!!!いい加減出て来いよ!いるんだろう!コロス!コロス!!!、コロ、うわぁぁっぁぁぁ!!!!」
「加古、落ち着け!誰か取り押さえるのを手伝え!!」
三島は何とか動揺から気を持ち直し、國枝と共に何とか暴れ狂う加古を抑え込んだ。
「畜生が・・・愚弄しやがってっ、おいお前ら、聞け!いいか、俺達の親は少なくとも全員
ここの関係者なんだ。解るか?田中さんだけじゃない、”お前ら”そして俺ら全員の動画を流す気だ!!」
「だとしても、どうにもならんだろう!」
三島と加古が取っ組み合いながら押し問答を繰り返す。
暫くの動乱の内、ホログラムに流れる動画は田中の母が果てるのを最後に暗転し、そして再びそれは現れた。
「・・・・今度は誰だ?」
「俺は見ないぞ!俺は絶対に!」
加古は母親がよほど好きだったのか部屋の片隅にうずくまって両耳を手で塞いでいた。
やがてホログラムに浮かび上がったのは意外にも、初老の女だった。
「なんだ?!随分と歳喰ってるな・・・・・これ白人か?」
「これ映像かなり奇麗なんじゃないか?もしかして最近撮られた奴なんじゃ・・・・」
ガシャーン!!
國枝兄弟が言い終わる前に後ろの方から金物を落とす音が飛び出した。
それは処理する遺体から血を貯めるために持っていた金属の器を落としたブレアだった。
「・・・・・・鬼か」
「―――え」
ブレアの傍らにいた八神が僅かに聞き取れた単語を確認するかのようにブレアの顔を覗き見る。
「お前ら日本人は鬼か」
「母さんはもう70にもなるんだ。こんな閉経した初老の女を犯すのか?
屑なのか、馬鹿なのか、愚かなのか、それとももともと人ですらないのか」
顔面が蒼白になりながら震えた唇でブツブツとつぶやくようにうわ言をブレアは言い出した。
「ブレア・・・・」
八神はその変貌ぶりに思わずブレアの背中に手を掛けたその時。
「サワルナ!!!!」
華奢でしなやかな腕からは想像もつかないような力で八神は押し返された。
そうこうしている間に、映像は裸のブレアの母を取り囲む仮面やマスクを付けたスーツ姿の男が何人も飛び込んできた。
そしてその男達は我先にとブレアの母に爬虫類がごとく群がっていった。
「ああ、ああ、サワルナ、サワルナ!!!ああ、母さん、母さん!クソ、クソ、畜生!こいつら!
許さん!許さんぞこいつら!絶対にコロス!どいつもこいつも皆殺しだ!
絶対に!今ここで誓うぞ!もう何がなんでも許さん!俺の全てをかけて!!」※外国語で言ってます。
「ブレア・・・お前・・・やめろ、こんなの見るんじゃない!!」
「五月蠅い!」
八神は驚愕した。
ブレアが映像から目を背け、もだえ苦しみ狂うのかと思いきや。
それとは真逆に、目を瞬きを忘れたかのように”カッ”と見開き、その光景を一秒たりとも逃さず記憶に焼き付けようと
血眼になって動画を見ていた。
「・・・どうやら、これが狙いという事か」
「三島さん・・・」
加古をようやく落ち着かせた三島が半狂乱のブレアを眺めながら我妻に呟く。
「国家、権力者、大富豪・・・そしてなにより社会的強者。
こいつらに憎悪感情を抱かせ、復讐心や嫌悪感を増大させるためのこの動画のホログラムだ」
我妻もそれを聞いて自分の考えを三島に伝え始めた。
「私も・・・なんとなく読めてきました。”影”・”我”・”漢”・・・我の影の漢・・・」
「私達は今・・・誰かの復讐の為の”道具”として”訓練”されている」
三島は辺りに聞こえないよう小声で我妻に言った。
「お前の探している叔母がやったのでは?」
「それは・・・何とも言えません、ですが当時の報告書などを見る限りとても正義感に溢れていますし、
こんな大それたことをやるなんて―――」
「わからんぞ、人間なんざいつ何時何をきっかけに豹変するか誰にも知る由もない」
「こんなことを・・・・叔母さんが」
我妻はそう言うと顎に手を当てまた少し考えこんでしまった。
そうこうしている間に画面が急に暗転し、また新たなる映像が浮かび上がった。
今度は凛とした顔立ちの少女の様だった。髪型は違うものの顔からして双子のようだ。
「ああ、やっぱり僕たちの母さん”達”はきれいだね」
「うれしい、こんな母さんたちの顔見るの初めてかも」
「お前ら・・・・」
八神は國枝兄弟が嬉々として映像に見張っているのを見て怪訝な顔をした。
「ふふふ、さすがぁやるなあ母さん達」
「あ、みんな今軽く引いてるでしょ?
でも気にしないでね、僕たちは小さいころから稼ぐために母さん達やってきたのを見た事あるし」
「最初は訳わからなかったけど、生きるためには仕方ないことだって母さん達自身が教えてくれたんだよ」
映像を眺めながら國枝リンがふと呟く。
「・・・・俺達ね、双子の母親だけど父親は同じなんだよ」
「しかも、同じ日に一緒にヤられて仲良く懐妊。何と出産日も時間も同じっていうミラクルさ」
そう言いながら乾いたような笑い声を辺りに響かせた。
そんな二人を信じられずに八神は叱責しようと前に出て顔色を覗き込むと思わず息を飲んだ。
「・・・・・!!!!!」
――――血の涙を流していた。
二人のために、母は文字通りその身を犠牲にしてきた。
それを今回改めて目の当たりにし、血の涙を流しているのである。
きっとそれは今回に限った話ではなく、幼少期から幾度となく繰り返されてきたことであることは
八神にも容易に想像がついた。
また、画面が暗転する。
そして再び照らし出されたとき、現れたのはツインテールの少し華奢な女の子だった。
「・・・・こんどは、誰だ?」
誰ひとりとも、反応がなかった。
暫くの沈黙の後、映像から音声が聞こえてきた。
”きょ・・・おこしくださ・・・・ありがー--”
その声を聴いた後、僅かに嗚咽が聞こえていた。
全員がその方へと振り向いた。
―――八神だった。
「あ、あ、あああ、お母さん、お母さんだ。うわぁぁぁっぁぁあん!」
まるで、堰を切るように、子どもの様に泣きじゃくるさまに一同は驚いた。
「ああ、お母さん、会いたかった、会いたかった!僕をおいて・・・・今までどこに行っていたんだぉ!!」
映像の母親に魔の手が忍び寄るのも目に入らないのか、ただその少女の顔をした
母親をみてホログラムの方に両手を広げてヨタヨタ歩み寄っていった。
その自我崩壊ともいうべき豹変ぶりに我妻は危険を感じ、すぐさま八神の方へ飛んでいった。
「八神さん落ち着いて、気をシッカリ持って!!」
「お、おかあさん、もうどこにもいかないで。そばにいて。もう一人にしないで。ずっと、ずっと、おかあさん!」
「八神さん!」
「駄目だ!映像を見せるな!八神、こっちに来い!」
三島と我妻は二人係で八神を制止するが、八神は身体を抑え込まれても蹂躙される母親の動画に夢中になった。
「かあさん、おかあさん、嬉しい。ようやく、あえた、僕は、ずっと、ずっと、あの日から、探していたんだ」
「八神・・・お前・・・・」
「おかあさん、もう僕を捨てないで」
"Life 27days 09:31:11 - 8 Capacity"
その後、映像は全員分度々流れた。
その中でも特にイリーガルなのは三島とブレアだった。
ブレアは最近、母親が拉致され蹂躙される様子を。
三島の母は先生として慕われておりながらも、逆に加害者側として寮生の少女たちに痛みを伴う過酷な実験や、
性的暴行を繰り広げている様子だった。
加古に関しては、想像を絶していた。
母親の逆に性を楽しむような様子に狂乱し、最早所狭しと暴れまわり叫び回って当たり散らした。
なお、我妻に関しては自身の若いころの父親と数名が年端もいかない寮生の少女を何人もはべらせ、性を弄んでいた。
「皆さん、よく覚えておいてください。これが人間の屑です」
そう言った我妻は怒りに打ち震え、瞳には青い炎が宿っていた。
そして一同が落ち着きを取り戻したのは、一通り映像が終わって暫くしてからだった。
"Life 27days 08:08:08 - 8 Capacity"
今、八人は解体しようとしていたフックに吊るされた遺体の前に取り囲むようにいた。
「やります」
その手には何の躊躇いもなかった。
全員の目はまるで生気を失ったかのような目をしていた。
そもそも、数日間何も口にせず限界突破の中での”上映会”。
全員の心にはもう正気というものは無くなりつつあった。
それは精神疾患を患う田中でさえも。
医療用メスは四肢を滑る様に這い、瞬く間に遺体は捌かれていった。
傍から見ればまるで魚でも捌いているかのようだった。
手分けして食用出来そうな部分を分け、ビニールにパックし、冷凍庫に放り込む。
そして、暫く作業に没頭したのちに二手に分かれて新たな作業を開始した。
システムキッチンのオーブンレンジに切ったばかりの肉を並べる八神。
「それはどこの部位?」
「そんなの聞く必要あるのか」
「重要だよ」
加古が必要に八神に尋ねるのでしぶしぶ答えた。
「・・・・これは、腕とふくらはぎ、だと思う。多分」
「まあ、”一番”マシと言うべきか」
「いちいち気にしてられるか」
全て肉を並べ終えて八神はレンジの扉を閉じた。
「八神、何分ぐらい?」
傍らに見ていた田中が操作用のボタンを押そうとする。
「何分って言ってもな・・・とりあえず、オーブンのボタン押して10分ぐらいで様子見だ」
「うん」
田中はそれぞれのボタンを押すと、ブーンと音を立ててオーブンレンジが動き出した。
「じゃあさてとっと」
加古は銀色のボウルに大量に入った血を”高性能ろ過機”と銘打たれた機械の中に入れ始めた。
「高性能ろ過機・・・うさん臭さ満載ですね」
我妻は怪訝な顔をしながら機械に付いている確認用のガラス窓を覗き込む。
血は見る見るうちに赤から透明色へと撹拌されていった。
「作業時間、2リットルで15分か・・・じゃあ飯の準備でもしますか」
「はぁ、俺達のやっていることは間違いなく狂気そのものだな」
溜息をつきながら八神はオレンジ色の光を醸し出すオーブンを眺める。
「牛の肉捌いてる人間みた牛も同じこと思うんじゃない?」
「ありえませんね、牛の知能ではそもそも理解が追い付かないはずです」
「それでも”死”の認識ぐらいは出来るだろう?」
意味のない不毛な言い合いをする中田中は笑いながらぽつりとつぶやいた。
「僕らも牛になろう、も~」
「・・・・・・・・」
一同が暫く沈黙したのち、八神が呟く。
「・・・・・それでいいのかもな、生きることにいちいち意味や理由を考えても仕方がない。
物がなんであれ、俺達はまず生きなければならないんだ」
「だな」
加古があきれたように言った。
そしてほどなく遺体を二体ほど解体していた三島達も終了し、全員はそれぞれ中央のローテーブルへと集合する。
全員の顔は疲弊に満ち溢れていた。
誰しもが枯れた唇、ガサガサの肌、潤いのなくなった顔、虚ろな眼。
そして、今目の前の食卓には粗末な料理が並んでいる。
それぞれの皿には鶏肉のササミを焼き上げた様な感じのかつての仲間、もしくは好敵手のステーキ。
そしてその横には、ろ過されて完全に真水となった仲間、もしくは好敵手の血。
今、厨房にはそんな倫理を覆した恐ろしい料理の匂いが充満していた。
人間は雑食なので焼くなどとなると悍ましい匂いを放つ。
しかし極限状態におかれかつまともに何日も食事をとっていない彼らにとっては鼻腔を強烈に刺激するほどの
食欲を誘った。
「さぁ喰おう、もう何だろうが我慢できん」
三島が啖呵を切る。
「そうだな、まさにこれぞ真のあなたの命を”いただきます”だ」
それぞれは決心をしてその焼き立ての肉を恐る恐る、または勢いに任せてフォークを使って口に放り込んだ。
・・・・・・・・・。
部屋に咀嚼音だけが響き渡る。
一口、口にして皆誰しもが思った。
うまいとか、まずいとか、好きとか、嫌いとかそんなちゃちな言葉ではない。
口が、身体が、全身が喜んでいるのだ。
生きることが出来ると。
全身の細胞が活性化し、脳が冴えて、目に生気が宿ってその輝きを取り戻す。
何日も狩りで獲物を得ることが出来なかったライオンが、
その困難の果てにたどり着いたようやくの獲物を食らいついた、そんな心境だった。
それがかつて自分と何ら変わる事のない人間であったとしても。
皆、無言で食事をした。
暫くして、誰かがすすり泣いた。
すすり泣きながら、その肉をほおばって咀嚼した。
また一人泣いた、泣いてかつては血だったその水を飲みほした。
ひとり、またひとりとみんな泣いた。
みな食べながらオイオイとただひたすら泣いた。
思いに、感情に身を任せて。
解っていた。
もう自分は二度と元に戻れないことを。
これはかつての自分との決別なのだと。
元々、身寄りも親も、友人すらままならぬ者たち。
さらにそこから追い打ちをかける様に奈落へと落とされる。
身も心も、ずっとずっと永遠に。
彼らはただその血塗られた運命を呪いながら食事を終えると
みなそので肩を寄せ合うように眠りについた。
それはまるで、全てに見捨てられ不安で肩を寄せ合いながら眠りにつく孤児のようであった。
"Life 26days 23:42:34 - 8 Capacity"
"Life 26days 20:23:16 - 8 Capacity"
起きた時には外は雨模様だった。
その日は何をするわけでもなく、みな呆然と過ぎ去るときに身を任せていた。
各々は何をするわけでも無く、ただひたすら時間を過ぎるのを待った。
皆どこかに集まる訳でもなかった。
会話をすることも無かった。
廊下などで偶然出会うと、ぎこちなく挨拶をしたりもしていた。
暫くすると時々身体を動かして運動する者もいた。
ただひたすら眠る者もいた。
しかし、食事の時間になると皆それぞれ厨房に顔を出して全員で調理に係ったのである。
それはある種の儀式のようにも感じられた。
内容はともかく、十分ではない量だが水・食が確保されたことによりやがて八人は徐々に体力を取り戻していった。
だが八人はやはり無気力さを払しょくすることが出来ずに、そのまま暫くは無駄な日々を過ごしていった。
"Life 21days 18:44:01 - 8 Capacity"
”♪~~~~♪~~~~”
(??なんだ?歌か?)
八神は荒れ果てた教室で物思いにふけりながら横になっていると真上の方から歌声の様な音が耳に入ってきた。
(この上は・・・音楽室・・・誰か歌ってるのか?でもこの面子の中に歌なんて歌うような奴がいるか?)
怪訝に思いながら、音源の頭上を見上げる八神。
(いやまてよ、もしかして・・・ゲロイムの奴が流してる新しい動画か?!)
先日の母親たちのポルノ動画上映以降、様々な動画が不特定に流されるようになっていた。
それは日常的な風景から暴力的なものまで様々で、そのたびに八人は八者八様の反応をしていた。
八神は母親の動画を見て以来、それがどのような内容でも我を忘れる様に見入っていた。
(そうと分かれば、急いでいかなければ。もしかしたら、母さんの映像かも・・・)
そう思い立った八神は足早に教室をでて、かつての二期生のスタート部屋である音楽室に足早に赴いた。
かつて自分の目覚めた場所。
そこには、かつて頭を打ちぬかれた掛さんや二期生のメンバーはもうほとんどいない。
そう、彼を除いて。
「田中さん」
「♪~~~」
「驚いたよ。これは、”アベマリア”かな?すごいよ、こういうのを才能というのかな?僕にはこういうのはほとんど縁がないからね」
先客として椅子に座って聞いていた加古さんの隣に座って小声で話す加古さんと歌声に聞き入る。
暫くすると、後ろからも背中越しに声をかけられる。
「大したもんだ。今の俺達にはこれ以上に無いほどの贅沢、かけがえのない癒しだよ」
後ろを振り向くとそこには三島とブレアがいつの間にか椅子に座って聞き入っていた。
窓の方を見ると景色を見ながら國枝兄弟も遠い目をしながら歌声に聞き入っていた。
「皆さん、今は無粋な私語は厳禁ですよ。御静かに」
いつの間にか姿を現していた我妻さんに軽くたしなめられて、歌声に引き寄せられ集まった八人全員は歌声に聞き入っていた。
やがて、歌は終わりを迎え田中は一丁前にお辞儀をした。
八人はそれを見てにこやかに笑顔で答え、拍手喝さいをした。
國枝兄弟に至っては口笛を鳴らし、アンコールまでする始末である。
拍手を終えるころ、八神が田中に向かって声をかけた。
「凄いじゃないか田中さん、いったいどこで覚えたんだ?これだけの歌声、練習だけでも大変だっただろう」
八神の問いに田中は少しどもりながら恥ずかしげに答える。
「お、お母さんから教わったんだ・・・・でも、男だからあんまりこういう”テノール”歌うのとか変だと思って」
そんな恥ずかしがる田中に三島は半ば興奮気味にフォローを入れる。
「何言ってるんだ田中さん、立派だよ。こういう事こそ敬うべき事なんだ。素晴らしいことだ!」
「だね、今の腐り切った世の中には必要不可欠だよ」
ブレアも続けてフォローを入れる。
「うう、そんなもち上げても。僕なんか」
「いや、とても良いことだよ。こういうのは本当に人としてもっとも大事にすべきことなんだ」
「俺達底辺にまで堕ちた人間に言えることか?」
國枝兄弟が二人してノリツッコミを楽しんでいる。
「凄いな田中さん、見直しちゃったよ。俺にはこういう特技なんかないからうらやましいよ」
「八神さんも何か勉強しようよ!」
田中さんは落ち込み気味に話す八神へ励ますように答えた。
「田中さんの言う通りですよ。私達はもう・・・・その・・・人としてはもうダメなのかも知れませんが
それでも、なにか頑張りましょうよ!」
ブレアは我妻が息巻いて言うのを見て思わず噴き出した。
「ははっ!”人としてはもうダメ”って、お前そんなこと考えていたのか?」
加古が笑いながら我妻に言う。
「い、いえ違いますよ。ただ、その・・・”食事”を始めて以来、なんかみんな無力気味だし」
「ま、たしかにな。このまま食っちゃ寝して生活してても仕方がない。
どうだ?この際、お互いの理解を深めてみるか?」
三島が我妻の指摘を受けて提案し、そこにブレアも乗っかりだす。
「ま、確かにね。俺達はこの先、社会的に救いようのないにしろこの先に何か待ち受けているのは明白。
ここいらで俺達メンバーの事を知っておくのも悪くない」
「・・・・・・・・・そうさ、そうだよ。俺達は最早運命共同体との言えるんだ。
この先、大変な目に合うのは目に見えている。そうと解れば早速改めて親睦会といくか」
加古が提案し、八人もそれぞれ頷き賛同する。
それを見てふと八神が呟く。
「それにしても、酷いもんだよな。まさか血の食卓が俺達の結束を深める結果となるとはな」
「いや、あながちそれが今回の騒動を企てた人間の最もな目的なのかもしてない」
「まあいいんじゃないか、しかしそうと解れば時間が惜しい。一人ずつ教壇に立って挨拶でもしてみるか?」
「はあ?!なんでそんなさらし首みたいなこと、しなくちゃならないんだ?」
國枝リンが不貞腐れて腕組する。
と、そこに。
「いいからこいよ、それにこの先待ち受けているのがラスボスとして君臨するゲロイムだったらどうする?
あんな巨漢のバケモノ勝てっこないだろう!」
レンがリンをたしなめる。
「落ち着け、落ち着いてください。とりあえずだ、時間はまだたっぷりあるんです。焦らずに慎重に行きましょう」
我妻に促され、八人はまた厨房へと向かうのであった。
"Life 15days 17:09:51 - 8 Capacity"
人はその見た目の印象・態度などで八割以上を人格を決めてしまうという。
八人も例外なく初めて会った時から”こいつはこういうやつだ”という印象を持っていた。
それも、緊張状態且つデスゲームというのだからなおさらである。
しかしここに来て八人はそれ改め、より良い理解を深めていくことになる。
加古は意外にも絵を書くのがうまく、彼が暇つぶしに書いた教室の黒板の模写を八人は目の当たりにし驚いた。
とてもその性格からは想像もつかないとツッコミを入れられると意外にも苦笑いをしていた。
我妻はやはりというか当然というか、やはり医学生しかも大学院生と言う事もあり彼の健診・指導を
受け、最低限の食事にもかかわらず全員の健康は見る見るうちに回復していった。
國枝兄弟は博識で情報通であった。彼らは表・裏社会における実態などをよく皆に教えてくれた。
そして、ここから出た後も裏社会で生きていく手助けをするという意表を突くような親切心に溢れていた。
本当、普段は良い奴かも知れないと加古がボソッと呟いていた。
田中は言わずもがな素晴らしい歌声である。いつも一日に三回、朝昼晩とその透き通るような歌声を聞かせて
皆の心を落ち着かせ、癒していった。三島が演歌を歌ってくれと言ったらなんと怒り出し、一同は面食らった。
三島はその巨体に似合わず英才であった。ここの全ての機器などを直ぐに把握・理解し、他の者へ教授した。
さらに現状・今後の事を真摯に考えており、全員のために尽力を尽くす為色々策を全員に披露したりもした。
ブレアはとても料理上手であった。ただでさえ抵抗のある”食材”をあの手この手を尽くして皆があまり気兼ねしないよう
食事がとれるよう日々工夫を凝らした。仕事は飲食店などとは縁も無いもののなんでも母親の介護として日々料理をしていたらしく
いつの間にか趣味として定着したらしい。
八神は、特別なにか才能が有ったり技術が有ったりするわけではなかった。ただ、人並よりもだいぶ優しい性格であること以外。
他の七人はなぜかみな八神には何の気兼ねもせず話したり時にはふざけ合ったりもした。
特に田中は他の言う事は聞かないにもかかわらず八神の言う事はみずから聴きに行くこともあった。
加古曰く、人柄も一種の才能だという事だった。
そんな八人はある種の奇妙な相互理解を深めながら、日々を過ごすしていた。
だが彼らはいつも忘れていなかった。
これは影我漢と呼ばれる試験であり、誰かの陰謀の元自分たちは犠牲になっているという事を。
そして数日が過ぎたある日の事。
"Life 12days 19:39:22 - 8 Capacity"
厨房室、朝食の準備中――――。
「皆さん、ちょっと手を止めてこちらを来てください!!早く!」
いつものように食事の準備では死体をつるしてメスを入れる我妻。
その我妻の突然悲鳴じみた叫びに一同は思わずハッとして直ぐに我妻の元に集まってきた。
「どうした、何かあったのか!!」
三島の問いかけに我妻は腹を裂いた死体を指差した。
「皆さん、これを見てください!大変です!」
「大変って何が大変なんだ?」
「何も変わらないと思うが・・・まさか今になって人を”サバク”のに恐怖を覚えるようになったとか?」
「これじゃあ立派な検死医にはなれないぜ我妻よ」
國枝たちが茶化すが我妻は態度を変えずに皆に興奮気味に説明した。
「何を言っているんですか。彼の内臓を・・・肺の方を見てください、一目瞭然ですよ!」
一同はその言葉にそれぞれ身体を覗き見る。
確かに、今までと違って黒く澱んで形が今までの物より多少歪じみていたが
個人差と言ってしまえばそれまでで、驚くほどではなかった。
「ちょっと色が黒っぽいが・・・まあ他とあまり変わらないような気がするが?」
加古が顎に手を当てながら答える。
「いいですか、人間ってものはたとえ年寄りでも”中身”に関しては基本鮮やかなものです。
血も同じです。普段は奇麗なピンク色で、それが心臓を通り過ぎ、所謂”ろ過”すると皆さんが良く知るあの色になるのです」
「我妻さん・・・いったい何が言いたいんだ?本題が見えない」
八神が疑問を我妻に投げかける。
そして、我妻は意を決したように皆に伝えた。
「彼・・・今吊るされている彼は、癌です。かなり転移が進んでいますので内臓のどこから発生したのかはわかりませんが、
この状況から見ても、生前の頃から甘く見積もってもステージ3。大抵の医者は末期と診断してもおかしくない状況です」
「どういう・・・・?」
ブレアは怪訝な顔をして死体を眺める。
「いいですか?彼は、死に瀕しているような癌末期患者にも関わらず私達と何食わぬ顔して戦っていたんです。
本来なら痛みと苦しみで立つことすらままならぬ状況だったにも関わらず」
「待てッ!こいつの名前は?顔を見せてくれ」
三島は息を飲んで吊るされた死体の顔を上げて確認する。
「・・・・松本だ。俺達一期生の松本」
「松本?俺達、二期生の所に真っ先に奇襲をかけてきた奴じゃないか」
八神が驚いて三島と共に顔を見る。
「どういう事だ・・・?」
全員は顔を見合わせて息を飲む。
暫くして思い立ったかのようにブレアが八神や加古の二期生達に問いかけた。
「おい、松本は最初にお前たちが仕留めたんだったな?」
「ああ、間違いない。武器も他とは違ってかなり強力な拳銃だったと思う」
「松本のファイルを見たか?」
「見たには見たが・・・・他の人間とそう変わりないと思うよ」
ブレアの詰め寄りに加古は柄にもなくドギマギしながら答えた。
「もう一度、確認しに行った方が良さそうだ」
三島は何か思い立ったかのように言った。
「なぜだ?松本に何かあるのか?」
八神は三島に不安そうな顔をしながら問いかける。
「いや、お前らなら皆解ってると思うが、俺達一期生は最初の頃から分裂状態だったろう?
その原因となったのがこいつなんだ」
「松本が・・・?」
我妻は松本のズボンに縫い付けられているゼッケンを見つめた。
「何にせよ、急いで確認しに行った方が良さそうだね。レン、こいつの棺までいこう」
「ああ、皆、ちょっと待っててくれ」
國枝兄弟は急いで厨房を飛び出していった。
それを目で追いながら我妻は脱がした松本のズボンを手に取ってあちこち探っているうちに何か違和感を感じ取った。
「なんだ・・・?」
ゼッケンの内側にすこし違和感を感じて、指でなぞる様に確認した後思い切ってズボンから縫い付けられたゼッケンをはぎ取った
すると何か小さいものがチャリンとちいさく金属音を立てて転がり落ちた。
それを三島は拾い上げて目の前に持ってきて凝視し、何か文字が刻まれているのを読み上げた。
「”息子へ・・・”」
――――影我漢試験開始前。
「おい、それ仕舞えよ。お前も俺達と同じ”一期生”なんだろ?なら助け合って叱りではないのか?」
三島は出口を背に一同に向けて銃を構える松本に向かって叫んだ。
「ひ、ひ、ひ、ひ、ひ、ひ、なにも知らない馬鹿どもが。お前らが仲間?マジで笑える」
まだ若さを残した童顔に似合わない薄ら禿げの男はニタニタ笑うと棺を引き寄せながら言った。
「お、俺はついている、ツキにツキまくっている。これから始まる大虐殺・・・
あのゲロイムとかいうバケモノの言ったことは意味不明だが、俺は助かる!!」
それを聞いた南はやれやれといった顔つきで問いかけた。
「だからさぁ~お前が武器のクジ引き?でいいのか?・・・で良いもん引き入れたのは良いよ。
だけど相手さんだって何もってんか解ったもんじゃないのに一人で行こうってのはどうなのよ?
まだ、皆でいた方が生存確率上がるぜ?」
するとそれを聞いた松本はいきなり狂ったように笑い出した。
皆、松本にとって何がツボったのか解らずお互い顔を見合わせながら怪訝な顔をした。
「ば、ばかぁ、やっぱりこいつらは馬鹿だなぁ。多分こんなかで頭いいのは三島ぐらいか?
あと日本語ベラベラのブレアか?ま、まあいい、や。俺はな?”特別”なんだよ!お前らとは違うんだよ!
俺の武器も偶然じゃない、必然的なものだ!俺は生き残れるんだ。これからも、外に出てからも、永遠にな。
だって、だって。俺は、選ばれたんだぜ?影我漢に!俺は”影我漢”なんだ!ざまーみろ屑ども!」
その狂った物言いに三島は大きく溜息をついた。
「はぁ・・・・じゃあもういい。お前は好きにすればいい。なにが頭いい奴は、だよ。おまえは教養が疑わしいレベルだ」
「じゃ、俺も一人で行動しよう、俺は群れるのは嫌いなんだ」
三島の脇を通り過ぎながら三上が棺を引きながら大声で言った。
「やめとけよ、相手が群れや罠掛けで出来たらどうする?飛び道具だってあるんだ、お前の様な頑丈な身体と武器でも危ういぜ?」
ブレアは三上の背中へ向けて警告する。
だがそんな警告にも耳を貸すことなく、三上も松本のいる扉の方へ向かう。
「ふんっ、俺は握力70オーバー、脚力、瞬発力共に平均以上アスリート越えなんだ。
お前らなんぞの力なぞ無用」
「このナルシストが・・・・」
そして二人揃って出口に出る間際、松本が皆に向けてなにやら一同にはいまいちわからないことを履き捨てた。
「でも、でもだ。お前らも良かったな、俺と同じチームで。俺がとっとと他の連中をぶっ殺してきてやるよ。
なんせ、なんせ、俺は”影我漢”なんだ。お前らは泣いて俺に感謝し、頭を垂れるよ。そのときは俺がリーダーとして率いてやる」
「おい待て、お前何言ってんだ・・・・?お前は影我漢について何か知ってるのか」
三島は松本に問いかけるが松本は高笑いしながら去っていった。
だが去り際に、声に出ずに僅かに唇だけが動いているのをブレアは見逃さなかった。
「・・・・・おか、あさん、が・・・ついてる・・・っていったのか?どういう事だ?」
「?????」
ブレアの呟きを耳にし、三島も怪訝に思うも既に本人は薄暗い廊下の向こうに消えていった。
「あのときの呟き・・・ひょっとしたらこれに答えが有るのかもしれん」
三島は”息子へ”と書かれた金属片が精巧な小さなカプセル状になっているのを発見し。
そこから小さなシートのような中身を取り出した。それは細かく文字の刻まれた手紙の様だった。
「精巧に作られてるな・・・手書きじゃない、何かの機械を使って書いたのか?」
目を凝らしながらその細かい文字の羅列を他の物にも聞こえる様に読み上げていった。
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”息子へ”
母さんです。
これを読んでいるときには既にあなたは囚われ、影我漢試験と呼ばれる殺し合いに参加させられていることでしょう。
誰もいないところでこれを読みなさい。そしてこのことを誰にも話してはいけません。
長い間あなたに会うことが出来なくてごめんなさい。
今これを書いている私も今のあなたと同じように囚われ、悍ましい奴の為に研究を強いられることとなりました。
この間、貴方が私がせっかく用意した仕事を私が居なくなった為に屑どもに職を追われることになったと知りました。
貴方に大変惨めな思いをさせてしまいました。本当にごめんなさい。
でも安心して、ここを出たら母さんが全て元通りにしてあげるからね。
今から次の事を頭の中に叩き入れなさい。
まず、貴方に与えられている武器は必ず強力で相手に打ち勝てるほどの物に母さんがやってみせる。
次に、だれも信用してはいけません。あなたの周りにはかつての悪鬼魔女どもの子供がいるはず。
その中には犯罪者も多数存在しているようです。
強制される仲間については適当にあしらうなり話を合わしてやり過ごしなさい。
そして次に試験は生き残りが八人になるまで続きます。
それまでは戦う素振りはして、逃げ続けることを心掛けなさい。
もしも失意と見なされればゲロイムというバケモノが
あなたに強制的に戦うよう器具を取り付けようとするはずです、気を付けて。
戦いが終われば、試験は終了されてあなた達は身体検査を受けるはず。
生き残った八人(試験参加者全員)は8ーNー10と呼ばれる抗体を所持しています。
それは貴方がなによりも選ばれた証拠です。
きっと解放されるころには日本は阿鼻叫喚の地獄と化していることでしょうが貴方は生き残れるのです。
いま、私もここを抜け出せるように何とかチャンスを伺っています。
また二人で暮らせる日を母さんは信じています。
貴方は賢い、どうか生き残って!また会いましょう。
オミヨに気を付けて。
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「オミヨって誰なんだ?誰かのファイルにも書いてあったがやはり首謀者なのか」
「主催者は我妻の叔母なのでは?」
「そんなの・・・・解る訳ないじゃないですか・・・・それにしても、抗体所持?8ーNー10なんて聞いたことないですよ、それに・・・」
我妻が言い終わる前にブレアが遮った。
「ここを出るころには外は阿鼻叫喚の地獄??どういう事だ?」
我妻を始め、手紙の内容を知った各々はそれぞれ思案を巡らせた。
そこに松本のファイルを取ってきた國枝が戻ってきた。
「取ってきたぞ、これだ」
「なんて書いてある?」
加古が國枝の取ってきた松本の個人ファイルを取って眼前に持ってきた。
他の者もそれを肩越しに覗き見る。
2. 松本 徹(まつもと とおる) 33歳 170cm 67kg
中肉中背 母親はグレース研究所の元研究員(グレース事件の逃亡者の一人)
権力者であった母親が失踪したことが原因でコネで入った公務員職を辞職。
現在は代行タクシーの従業員 インテリに対して敵意を持つ。
内向的 独り言多し 頭悪し 使用武器はダブルカラム(銃)
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Selection test of eiga
First group-2/8 touru matumoto (age 33)
Equipment weapons Double-column(GUN)
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「たったこれだけか?」
「またグレース事件・・・・僕の母親がかかわった事件だよ」
加古がため息をつきながら言った。
「そもそもの話、”グレース事件”って何なんだ?」
八神が加古に問いかけた。
「僕も詳しくは知らない。だけどこの旧グレース女子児童福祉施設の影で行われた権力者たちの性暴行への
復讐を主にした強盗傷害事件と言われている。ここの所長や寮生数名も行方不明、そのうちの一人に
我妻の叔母がいる、で間違いないか?」
加古は確認する様に我妻に振った。
「ええ、詳細は省きますが世間体が知る情報としては概ね間違いないかと」
ブレア腰かけていたキッチンから立ち上がって、松本の個人ファイルを引ったくり眺めた後呟く。
「オミヨだよ、きっと。こいつは行方不明者の一人で何らかの理由でグレース事件の関係者を集めて何かを企んでるに違いない。
ほら、オミヨに気を付けてってあるだろう」
「でも憶測にすぎない、関係者であることは間違いなそうだが情報が少なすぎる。所長という線は?」
八神がもっともらしいことを言う。
「考えにくいな・・・事件のあったときの所長の年齢は40代後半、現在なら生きていれば八十近い年齢のはず。
復讐は無理があるのでは?」
我妻が八神の考えに疑問を示した。
各々が考えを巡らせ、議論し合い、やがてある結論を二つ出した。
「とりあえずだ、解ったことが二つある。
一つ、この試験はグレース事件の関係者とその息子が巻き込まれている。
一つ、それはグレース事件の被害者である人間、オミヨや我妻叔母が仕組んだ可能性が高いという事」
そして最後に三島は周りの面々を見回し、ため息交じりに答えた。
「そして最後、癌持ちの松本が元気に歩き回っていたように
理由は不明だが俺達は身体に何らかの”抗体”と入れられているという事だな」
そうまとめ上げた時、八神が急に声を上げた。
「ちょっと良いか?」
一同が八神に注目する中、八神はふとこんなことを言い出した。
「凶暴性や前科者、心身虚弱の人間だが。
極限状態の殺し合いをして狂人的な精神力・体力を身に着ける。
凶悪な病気に打ち勝つ抗体を保有する。
処理はするものの雑菌や病気持ちの遺体を平気で食べることもできる。
生まれ育ちも底辺の人間が助け合うことができるようになる。
それは全て生きるためのバイタリティー。
ホントかどうかは知らんがこれからの阿鼻叫喚の地獄の為に」
それを聞いた加古が何かを悟ったのか目を見開いた。
「うーん、影我漢・・・試験・・・・ひょっとしたらもともと参加者は”全員影我漢”で
試験は俺達のいう合格不合格という受験的な試験ではなく・・・・・」
その傍らでブレアは加古が何を言いたいのか理解しつつ、そして自ら思い立ったことを言った。
「影我・・・えいが・・・eigaか?そうか、そうかアイスランド語だ!!」
「ブレアさん?どういう事です」
我妻は半ば興奮気味にブレアに食いついた。
「ゲロイムの言葉遊びに騙されるとこだった。
俺は航空会社の配送員でそっちの方の人間とたまに話していたから思い出したんだ。
アイスランド語でeigaは”所有する”を意味する。kanはヌル”null”だ。
何もないことを意味するがこの場合はゼロ・・・無くすという意味合いか?
とにかく、本来”えいがかん”とは抗体を”所有”しており何らかの病気などを無にするという意味・・・・つまり試験とは」
「待て待て待て、なぜいきなりアイスランド語なんだ?何の関係もないだろう」
三島が当然の疑問を投げかけるもそれを遮ったのは意外にも國枝兄弟だった。
「いやちょっと待ってよ、さっきの手紙の”外は地獄でも貴方は生き残れる”ってやつ。
もしかしてアイスランド、ノルウェー辺りにある世界の人類が絶滅に瀕しても作物が根絶やしにならないように
新しい人類の為に保管してる”種子の保存センター”。これに俺達をなぞらえているのか?」
「フフ、冗談だろ?もしそうなら、今この外では凶悪な病原菌やウイルスが蔓延し地獄と化し、
俺達は種子の保存センターの”お花の種”よろしく根絶やしにならないよう抗体を入れられて隔離されてるってわけだ。
こんな、社会の目の上のたんこぶでもあるこの世で最低の屑の俺達が?笑える・・・わらえる・・・」
しかしそれを聞いて八神は尚更疑念を深めた。
「しかし、もともと金持ちや権力者たちに導入する抗体を何らかの理由で表立って臨床試験できないために
こうやって”屑”の俺達を集めて使っていたのだとしたら・・・・・・?」
妙に説得力のある八神の仮説に一同は沈黙する。
そしてその場にいる八人すべてが自分たちに置かれている状況の真実をなんとなく悟った。
「マジか、つまり俺らは最初から”モルモット”だっていうのか?」