影我やばたにえん   作:かがみひこ

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第八章 影我漢

"Life 1days 22:13:57 - 8 Capacity"

あれから十日以上が過ぎた。

気が付けば既にリミットが過ぎるまで残りあと一日と迫るとこであった。

「・・・・・・」

「黄昏れてんのか?意外にもナイーブな一面はあるんだな」

「ブレアか・・・・」

八神が部屋の分厚い防弾ガラス窓の向こう側に映る林を見ながら伏し目がちに言った。

小鳥が枝にとまって弱々しくさえずる。

「お前が母親主演の”映画”をかあさん、かあさん言いながら血眼になって眺めているのを見て

正直ヤバいんじゃないかと思ったがこうやって景色を眺めながら感慨にふけっているのを見ると

まだまともな神経を保っているんだと安心するよ」

そう言いながらブレアも窓際まで行って同じように景色を眺めた。

残念ながら二人とも窓を開けて外の新鮮な空気を吸う事は許させれない。

「だが、かく言う俺もあの”映画”には気が狂ったよ」

「二日は暴れまくったもんな、みんなして奇声を上げたりあっちこっち当たり散らしたり」

「まさにそう言う意味で言うと俺達は正に”やばたにえん”なのかもしれん」

「”やばたにえん”か・・・」

八神はやばたにえんと聞いて、ふと思い出す。

「そう言えば、あの最初に見た映像に出てきたこと、憶えてるか?」

「解ってる、”八幡二炎”だろ?それに八神達っていうのも」

ブレアは既に察していたようでさらりと答えた。

「結局あの後色々あって、後回しになってしまったが結局の所は何なんだろう。

八神達って言われても俺には何の心当たりも無い」

「それについては、三島や我妻とも話したんだが・・・」

「あ、それについては私から」

言い終わる最中に我妻も部屋に入って会話に紛れ込んできた。

「我妻さん」

「――――まず八幡という名称、これについてです。八幡というのは主に地名に多く使われます。

その由来については諸説ありますがどうも日本古来よりの八百万の神々から来ているという説が有ります。

所謂神様を祭っている・守っている土地という事」

「それに”炎”を加えて”八幡二炎”だろ?俺達に武器を使用する際名乗らせるのも”八幡二炎(やばたにえん)”」

ブレアは大よそ想像つくことを口に出す。

「多分、俺達はこれからテロリストまがいの事をやらされるんだろう」

「もう、日常には戻れないのでしょうか・・・?」

「戻りたいと思うのか今更?強制とはいえすでに何人も殺し、挙句にその肉を食べ、

自身の身体には得体の知れない物を入れられている。どう考えたって外に出られても無理な話しだ。

むしろ、状況から行っても国の連中は俺達に襲い掛かってくることは明白だぜ」

「ですよね・・・」

ブレアのもっともらしい意見に我妻はため息をつきた。

「何にせよ、もうこうなったら行きつくとこまで行くしかない。

その先が地獄だろうが煉獄だろうがゴミ屑の俺達にはどうすることもできない、まあもっとも我妻、お前だけは良いとこ出だから

何とでもなるけどな」

「馬鹿言わないでくださいよ・・・・もう、後戻りなんてできないのですから」

「だよな、俺達はいつの間にか運命共同体になってしまったな」

言い終えると沈黙する三人・・・・そして、我妻が再び口を開く。

「そうだ、あと八神達って書いてあった件なんですけど」

「そうだよ、自分の名前のことで疑問を持つのは変な感じだがどういう事なんだ?」

八神は我妻に問いかけた。

「あれ、もしかしてこの試験の主催者は八神さんのお母さんの事をよく知っている、そして思い入れがあるんじゃないかって

三島さんが言ってましたよ」

「三島が?」

八神が訝しげな顔をし、ブレアもそれに続く。

「あと、もう一つ可能性があるとするならば、八神。お前の母親は生きているかもしれない」

「え・・・おかあさんが・・・」

八神の顔が一変し驚きの表情で満ちてゆく。

「ああ、八神。聞いたところによるとお前の母親は買い物帰りだがに突然と失踪したんだろ?

生死は解っていない。なら、松本の母と同じように捕らえられて研究か何かに参加させられているのかもしれん」

「で、でもおかあさんは普通の人だった。仕事もスーパーのパートだったし、父親は最初からいない。

それらしいことは何一つないはずだ」

「でもですよ、八神さん。あなたも棺に入っている自身のファイルをご覧になったと思いますが

貴方のおかあさんは間違いなくグレース事件の関係者です。何が有ってもおかしくはありませんよ」

我妻は何か確信めいたように断言した。

「・・・・お母さんが、生きてる?でも、もし仮に生きているとしたらじゃあ、なんで、こんなことを―――」

疑問が疑問を呼び袋小路にはまっていく中、田中の間の抜けた朝食の時間を知らせに来た。

 

"Life 0days 00:05:12 - 8 Capacity"

 

数時間前から八人はただ静寂に、声を発することもせず厨房のホワイトボードに浮かび上がるカウントを見つめていた。

先程から一同はいつも食事の際に集う厨房に集まって来ていたのである。

ふと、加古が啖呵を切った。

「いよいよだね。どうする各々方」

それに三島が答える。

「どうするもこうするも無い、打合せ通りだ。もはや俺らに日常に戻る事など不可能。

ならこの先の運命を受け入れるしかない」

「また殺し合いしろと言われたら?」

國枝レンが笑いながら言う。

「冗談やめてくれよ、まあそのときは全員でゲロイムをブチのめしてこっから出る方法を考えるか」

リンも続ける。

「まあ、あいつヤバすぎるけどね。あいつのホントの名前が”やばたにえん”じゃないのか」

それを聞いて一同は軽く笑った。

そんな一同の後ろには所狭しと今までの武器が並べられている。

もはや決死の覚悟を決めていた。

「雑談もそれぐらいにしときましょう、そろそろ時間です」

我妻が指をさすと、カウンターがいよいよゼロに近づいてきた。

 

"Life 0days 00:00:56 - 8 Capacity"

 

「さあ、来いよ。今更失うものは何もないぜ」

「まさに真の”無敵の人”、だな」

 

"Life 0days 00:00:39 - 8 Capacity"

 

「長いような短いような一か月だったな」

「やめてくれよ、それ充実してましたって言ってるようなもんだ」

 

"Life 0days 00:00:25 - 8 Capacity"

 

「皆さん、いいですね。いざとなったら」

「無論だ」

 

"Life 0days 00:00:11 - 8 Capacity"

 

「ああ、お、おわる・・・っ」

 

「・・・・・おかあさん」

 

 

" 00:00:00 "

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

カウンターはゼロになった。

でも何も起こらなかった、前に聞いたチャイムの音も女性のアナウンスも聞こえない。

一同がやや怪訝な面持ちをする中、突然後ろから野太い笑い声が聞こえてきた。

全員が振り向くとそこにはゲロイムが後ろの扉を開放して仁王立ちしていた。

一か月ぶりとはいえ、その長身で迫力のある姿の新鮮味は変わらない。

ゲロイムは一同を見回してモップの様な毛なので表情は伺え知らないが

恐らくしかめっ面をして言った。

「凄いな貴様ら・・・・とりあえず、そのゾンビの様な見た目は誰もツッコミを入れないのは暗黙の了解か?

それにしてもえげつない匂いだ。自称バケモノの俺も鼻がモゲル程の即倒もんよ」

そう、一か月の間、血を浴び続け、肉のみを食らい続け、風呂などで身を清めることのなかった彼らは最早

”人間卒業”と言っても過言ではない風貌をしていたのである。

そしてそんなゲロイムの素っ頓狂な台詞にも動じることなく。一同は凄まじい速さで武器を構えた。

「ほほ、やめろやめろ。試験は終わりだ。コングラチュレーション!!おめでとう貴様ら!」

デカい両手をボフボフ叩きながらゲロイムは笑った。

「良い顔になったな。その目、その顔、お前らこそ影我漢よ!」

「何が影我漢だ。馬鹿なことを言うのは止めるんだゲロイム、俺達は最初からモルモットなんだろう」

三島はずいっと一同の前に立ってゲロイムと対峙する。

「フン、どうやらいくらか”横槍”や邪魔があったようだな。まあいいさ、お前たちの推理は大体の的は得ているはずだ」

ゲロイムはそう言うと踵を返して背中を向けた。

「なんだ、もう終わりか?じゃ、帰っていいんだな!?」

國枝リンがゲロイムに向かって叫んだ。

「はは、お前らえらく度胸もついたな、まあいいことだ。とりあえず、そんなゴミは捨てて付いてこい」

三島の持っていた武器を指差して言う。

「ついて来いってどこにだよ?」

ゲロイムは振り向いて、ニヤつきながら言った。

 

「影我漢・修了式をするんだよ!あ、でもその前にシャワー浴びさせるからな、百回ぐらい洗えよ!」

 

一同は今、位置的にはちょうど建物中央、その屋上のドーム状のプラネタリウム室にいる。

試験中は頑丈な鉄格子で屋上は頑なに封鎖されていたが今は解放されている。

ここに来る前に、同じく封鎖されていた寮棟各寮生部屋と浴場が解放されており

ゲロイムに案内されて約一か月ぶりの風呂に入った。

全員は無我夢中・狂喜乱舞してシャワーを浴び、備え付けのドリンクなどを浴びる様に飲んだ。

その誰もが我を忘れた様子で、ゲロイムは嬉々そしてそれを見つめていた。

そして八人はその後薄いゴムのような素材でできた基盤の配線ようなデザインの着用するよう促され、

もはや疑問を抱く余念もなく力なく着替え終えると、ここへやってきた。

「ふむ、まず貴様らは言いたいことや質問したいこと、そして何より暴れまくりたいことが山ほどあると思うがまずは堪えてくれ」

ゲロイムは八人をプラネタリウム中央に一列に並ばせて、自らは司会席へのっしのっしと歩いて行った。

八人はなにか言葉を発するわけでも無く、ただそれを目で追っていた。

「ではこれより、影我漢試験修了式を挙行いたします。一同、礼!」

ゲロイムは大袈裟なまでに礼をするが、八人はただ呆然と前を見据えたままだった。

「・・・・・・ゴホンっ、ではまずは当試験執行者そして、責任者である・・・・・」

八人は思わず生唾を飲んだ。

いよいよ、この狂った試験を取り行った人間と対面する。

・・・・・・・。

「”故・八神様”より祝電を賜っておりますのでご紹介いたします」

全員が驚愕の表情を浮かべた。

「なんだと?!」

「八神様?!」

「ちょっと待て、騒ぐなお前ら!」

「でも、八神って!」

「オミヨや我妻の叔母ではないのか?!」

「ゲロイムがこれから話すんだ、少し黙れ!」

「そんな・・・八神さん」

 

「・・・・おかあさんが?」

八神はこれまでの事の発端が自分の母親とわかり何とも煮え切らない表情を浮かべたが、

そんなショックに浸る間もなく、一同の一面のプラネタリウム室の照明が落とされ、やがて一面に映像が浮かび上がった。

それは、八神が知る子供の頃の母親の姿とは違い、憔悴しきった顔で車椅子に座り体中が管に繋がれた

年老いた八神の母の姿であった。

 

――映像――

”影我漢となった八人の皆さんへ”

初めまして、私の名は八神と申します。

もしかしたら、今そこに私の息子がいるのかもしれませんが息子の意思は今回の試験に何ら関係が御座いません。

今はどうか落ち着いて説明をお聞きください。

まずは、謝らなくてはなりません。本当にごめんなさい。

貴方たちはきっと今日にいたるまで壮絶極まりない地獄を強いられたことと思います。

しかし、それはこれから迫りくる脅威と立ち向かうために必要不可避なことだったのです。

それでは試験の目的についてお話ししましょう。

もはや、ここまでくれば感づいておられるかもしれませんが全ては”抗体”を作るためです。

貴方たちは皆現在、ある”〇〇〇”に対して抗体を所持しております。

最早あなた達はあらゆる病気に悩まされることはありません。

それだけではありません。

貴方たちは○○○や〇〇についても特殊な抵抗力を保有しております。

詳しくはリチャードさんが全てお話してくれます。

しかしここに来た時はあなた達の持つ抗体はまだ不完全の状態だったのです。

ならそれを完全にする方法は何なのか・・・。

それは大変理解しがたいことですが、

長年の研究結果で抗体を持つ人間同士で捕食し合う事で完全に至るという結論に至ったのです。

それゆえの試験(臨床試験)なのです。

今回、この影我漢(eiga-kan)試験とはそれぞれが持つ抗体をより完全のものとするための

最終シーケンスだったと言えるでしょう。

ここで疑問に思うことが有ります。

なぜ自分たちが聞いたことも無いような抗体を所持しているのか?

そもそも母親が保持者であり、自分は関係ないのではないか?

この抗体はかつてあなた達の居るこのグレース研究所で長らく研究されている物。

そしてその抗体の臨床試験体として私たち寮生が犠牲になっておりました。

貴方たちはその娘たちの子供・・・・。

この抗体は信じがたいことに遺伝そして吸収するのです。

それはまるでミトコンドリアのようなものでした。

 

その研究は昭和の中頃から始まりました。

数多くの犠牲と共に。

特に私達の扱いはとてもひどいものでした。

元より身寄りもない、社会的”最”弱者。

実験を始め、私達はほぼ言いなりとなっておりました。

耐えかねず自ら命を絶った者もいるのですが、なにより寮生のほぼ全てはこのグレース研究所を取り巻く組織に

よってほとんど”処分”されているのです。

人道に外れた政府ぐるみの犯罪行為を国際社会に出るのを恐れたのでしょう。

しかし、生きながらえた者もいます。

それは私を含めたグレース事件の関係者、そしてその騒乱にまぎれて逃げ出した者たちです。

ではなぜ今になって数十年になって抗体が脚光を浴びることになったのか。

それはあなた達も既に情報を掴んでいることと思いますがそこにはオミヨ、我妻という二人の寮生がかかわっているのです。

グレース事件はこのグレース女子児童福祉施設を隠れ蓑にした研究施設にて起こりました。

研究施設を襲った八人により所長は殺害され研究は中断されております。

結果、研究施設は公になる前に封鎖され、全ては闇に葬られたはずでした。

しかし、その事件の際グレース事件の実行犯の内二名、オミヨと我妻は事件の犯行グループによる内ゲバによって

この研究施設に囚われていたのです。

そこから、何があったのか解りませんが信じられないことに二人は囚われたままそこで数十年の時を研究に費やすのです。

やがてかつての研究”材料”の私達も捕らえられ、私達も強制に研究へ参加させられることとなりました。

そこにはかつて私達の知る”オミヨちゃん”、”我妻さん”ではなく、ほとんど悪魔に魂を売った化身となり果てていました。

二人はもはやこの社会を始めとしたこの世に対する復讐・憎悪しかなかったのです。

私以外にも、田中さんや加古さんも囚われましたが協力を拒んで殺されました。

最近になって、ずっと身を隠して逃げていたブレアさんが捕まったと聞きました。

オミヨと我妻は狂ったようにブレアへ強烈な仕打ちを行いました。

でも、ブレアさんは最後の瞬間、”これは宿命なんだ”と言っておりました。

息子さん、理不尽である事とは思います、ですがどうか、どうか気を確かに持ってください。

―――お悔やみを。

この試験自体を仕組んだのは、オミヨと我妻です。

ですが試験開始直前になり、その全ての結末と行く末を私とリチャードさんに委ねると言ってきたのです。

その後、二人は忽然と姿を消しました。

突然の事に呆然自失となりましたが、既に始まっていた試験をもはやただ見守ることしか出来なかったのです。

現在、そう、この映像が流されているころにはテロ行為は開始され、施設の外は大変な事態になっていることでしょう。

なぜならオミヨ・そして我妻はここに捕らえられたときグレース所長が所持していた

国家機密であった○○○○○○を入手し、旧我妻製薬の左派にコンタクトを取っています。

そして、それらを研究して更なる洗練を加えて”脅威”を生み出したゆえです。

二人はこの世の全ての理不尽に立ち向かうため●●●●や、●●●●●●、さらには●●●を使いこの国、

いや世界を今まさに亡きものにしようとしているはずです。

先日、その二人のある”最高傑作”が完成してしまいました。

そして今回の試験の最終結果・完成した抗体やデータも既に二人の元へ送られ、我がものとしているでしょう。

 

あなた達はいまその脅威に立ち向かうための”力”を少なくとも有しております。

貴方たちの持つ抗体は世界中の人間をたくさん救うことが出来ます。

その反面、見殺しにすることもできるのです。

――――――善悪も関係なく。

オミヨちゃんや我妻さんがなぜすべての決断をいきなり私に託したのかわかりません。

――――色々考えました。

――――すでに取り戻しの付かない状態。

――――もうどうすることも出来ません。

――――ですが。

――――ハッキリ言いましょう。

・・・・・私自身はこの社会を生かすも殺すもあなた達に委ねようと思います。

私達は皆、この社会で産み落とされた時から蔑まれ、貶され、虐げられ。

差別され、廃絶され、拒否された者達。

それは、決して許すことの出来ない”理不尽”と言う名の烙印。

 

社会に対して並々ならぬ憎悪を抱くものもいるでしょう。

それでも社会を救いたいと思うものもいるのでしょう。

自分には何の関係もないというものもいるのでしょう。

己が欲望のままに生きたいというものもいるのでしょう。

 

私にも最早解らないのです。

理性に従うべきなのか、本能に委ねるべきなのか。

解ってはいても、それでも納得できない憤り。

・・・・・・・・・・。

貴方たちは”八幡二炎”。

どう決断しても、私達・・・・おかあさんはそれを受け入れます。

 

私達の可愛い息子達。

ただ一つの心残りは息子を抱きしめてあげられなかったこと。

だから本当にごめんなさい。

 

―――映像は一度途切れるが再び再生される。

 

たろうちゃん・・・・。

愛してる。

何時までもいつまでも。

ずっとお母さんは。

いつも一緒だよ。

でも、いまは・・・・さようなら、たろうちゃん。

愛してる。ずっとずっと。いつまでも。

 

そして、八神は自らの車椅子に繋がる生命維持装置の電源を切って、絶命した。

 

――――映像終了

 

「・・・えー続きまして、修了証書及び記念品授与!ほらお前らびしっとしろびしっと!!!」

 

「そんな、おかあさん!嘘だろっ・・・おかあさん!」

八神が思わず叫び出したので三島が駆け寄って肩を抱いた。

「八神、落ち着けっ大丈夫か」

「はいはい、しょうがないだろ。

八神のおっかさんはホントならとっくにくたばっていても良いものを必死こいてお前らの為に生きていたんだぜ。

いい加減もう休ませてやれ」

ゲロイムの素っ気ない態度に同じく母親を蹂躙されたブレアが噛みついた。

「ゲロイム、貴様っ!!」

「あーやかましいやかましいわ、いい加減進めるぞ。証書兼記念品、”影我やばたにえん”!!」

”ジンセイサイコウノサンプンカンニシヨウ!”

突如としてプラネタリウム室の下から何かがせり上がってくるのを感じた。

「おいヤバイぞ・・・・皆、中央に固まれ!急げ!」

加古が呼びかけ、皆一斉にプラネタリウム室中央に集まる。

やがて床の一部、円を描くように部分的に穴が八つ開いておりそこからある物体が飛び出した。

それは彼らが嫌というほど目にしていた”棺”だった。

「また・・・これですか・・・・」

我妻の落胆した台詞にゲロイムはせせら笑い答えた。

「心配するな、前みたいな時限式ではない。そこに入っているのは貴様らの為の装備だ。

さぁさっさと開いてとっとと身に付けろ。あと、中にファイルが入っているだろう、それは”説明書”だ。

貴様ら、ゲームソフト買っても取説読まない口だろう?これはちゃんと読まなきゃ死ぬぜ、ぐはは」

ゲロイムがゲラゲラ笑ったその時である。

 

ダンダンダンダンダンッ!!!!

 

「なんだッ!!!」

一同は間近に聞こえた連続する破裂音に困惑した。

ゲロイムはチッとバケモノらしからぬ舌打ちをすると何かのパネルを開いて凝視した。

そして、次にその大きな手で巧みにコンソールを叩きだす。

「くそっ思いのほか早かったな・・・・・・全階セントリーガン起動、動体探知、一斉掃射。AAともにフルオートでいい、AI制御・追従だ」

「・・・・?ひょっとして今ここは襲われているのか?!」

國枝がプラネタリウム室の壁に耳を当てて辺りの音を拾い上げる。

そこには銃撃音に加えて、ヘリのローター音、そして数多くの人間の罵声なども聞こえてきた。

「馬鹿だなぁ~お前ら、これは最新のハエ叩きに決まってんだろっ。何ビビってんだ」

「嫌だ怖いようっ!!」田中が脅え悲鳴を上げる。

ゲロイムはコンソールを操作し終えると再び司会席へ戻っていくが、断続的に建物全体には振動や衝撃が伝わってくる。

「・・・・・・やはり、道理で最初から変だと思いました」

「何がだ?」

我妻が何か答えを見つけた様な事を言うので三島は問いかけた。

「分厚い防弾ガラス、増設された防火壁、侵入を阻む強固な鉄格子、ところどころの改修後・・・

それらは試験で僕達を逃がさないようにするためかと思いましたが、半裸の人間相手にはどうもオーバーすぎる。

そして、今何らかの襲撃を受けているのだとするのならば」

「そういうことか、つまりこれは最初からこれは”俺達を外へ逃がさないようにする”のではなく”外から俺達の身を守る”為か?」

「でしょうねきっと。つまり私達は既にお尋ね者になっています」

「何という事だ・・・・」

八人はそれぞれ名前の書かれた棺の所まで行き、扉を開くとウェアラブル端末の付いたジャケットや

各種ハーネス、見たことも無いような銃から刃物のようなものまでぎっしり詰まっていた。

そしてゲロイムは早く付けろと言わんばかりに急かしだす。

「よし貴様ら、もう時間がないから動きながらで良いから聞け。

まずお前ら最初にここに来た際に全員毒を入れられているといったろう、厳密に言うとそれは毒ではなく抗体だ。

元々母親から引き継がれた抗体を異常活性化させるナノマシン、いわばそれが毒だ。

そして、棺にはそのナノマシンを機能させるための電波を発生させる装置が備わっており、

その電波が発生されるまでのタイムリミットが3分だったというカラクリだった訳だ。

試験がひと段落した時にナノマシン中和剤を厨房で間違いなく打ったな?」

全員が作業しながらとりあえずゲロイムに目で答える。

「よし、まあいいだろう。とりあえずそれでもう異常化することはない、それどころか八神のおっかさんの言うように

貴様らは今までの捕食によって抗体が完全なものへと昇華している。

さっきお前たちの来ているファイバースーツから情報が来た、もれなく全員完全抗体持ちだ。

これで皮肉にもあの二人の研究は成功したという訳だ」

「ファイバースーツ?」

加古が自分の来ている基盤のようなデザインをしたスーツを伸ばしながら見た。

「そいつは身体における微弱な電気から汗、血液から心拍に至るまであらゆる情報を採取し、さらには専用周辺装備を繋げることで

身体を流れる電気信号だけで操作可能にする直ぐれもんよ。

さらにはスーツ自身にもお前らの健康・体力を維持するための機能が多数備わっている。

ちなみにそれは外部モニタリングできる。

俺だけでなく、オミヨや我妻もモニタリングしてるはずだ。詳しくは今見てる説明書を見ろ――――」

ドォ―――ン!!!

”・・・・・爆薬を持ってこい!!”

”5班は裏手・・・・・に回れ、正面は自動・・・・が・・・・装甲車・・・・”

”急げ急げ急げっ・・・・・・・・・・”

遥か下の方から、否が応でも修羅場の様な声、騒音が上にも響き渡ってきた。

「おいゲロイムっ!外は大変なことになっているんじゃないか?!一体何が来ている、警察か?」

「中に入ろうとしている?」

「ふははは、もっとヤバイもんかもな。最後に説明だけしておく、よく聞け」

一式装備をそろえた八人はまるで映画にでも出るような戦闘員のような出で立ちになっていた。

「ふ、いいじゃないか、まさに”馬子にも衣装”だ。

今から緊急用シューターを出す、お前らはそれに乗って脱出しろ。あとウェアラブル端末”影我やばたにえん”は衛星通信も出来る、

影我漢同士で連絡するならそれを使え・・・・さて、貴様ら・・・この先の事については八神のおっかさんの言う通りお前たちに委ねる。

自分をこんな目に合わせたオミヨと我妻のババアに復讐するもよし、私欲のために生きるもよし、

全てをほっぽり出して国に泣きすがるも良し・・・まあこの場合は凄惨な目に合うのは約束するが。

後自害するのも良しだ・・・それがある意味一番いいかもしれんがな。

折角八人”血の食卓”を囲んだ仲間だ、今後を話し合ってみるもの良いのかもしれん。

あともう一つ言っといてやる。

少なくともオミヨや我妻・旧我妻製薬という組織はお前らの味方をするはずだ。

どちらかと言うと敵は国かもしれん、だが国もお前らに取引やネゴシエイトを試みるはずだ。

信じられるのは八人、影我漢であるお前らだけだ。それを忘れるな」

「旧我妻製薬・・・やっぱりまだ存在していたんですね?叔母さんもそこに・・・」

我妻は決意に満ちた顔で問いかけた。

「フンっ、気になる事があるようなら脱出してから会いに行くといいだろう」

ゲロイムは吐き捨てる様に言った。

「ゲロイム、お前はどうする?どう考えても今押しかけてきてる奴らは武装集団・・・自衛隊か何かだ。

お前みたいなバケモン、射殺されてるのは目に見えてるぜ」

気になった國枝が問いかける。

「貴様らが知る必要なしだ。貴様らは自分の事、そして次の事を考えていればいい・・・」

ゲロイムは言いながらコンソールを弄ると、今度は部屋の中央の床が光りだす。

八人は慌てて飛び退くとゆっくり開いてボール状の緊急用シューターがせり上がって現れた。

「さあ乗れ、グズグズするな屑ども」

八人は顔を見合わせながら怪訝な顔をするも、開いたシューターの扉に入って着座していった。

そのシューターに入る間際、ブレアは歩みを止めてゲロイムに向き直る。

「・・・・あんた、もしかして本当に叔父さんなのか?

母さんから聞いた、リチャードという愛してやまない兄弟がいたと」

ゲロイムはバケモノなのでその表情はうかがい知れないが、それでも動揺することなく答えた。

「それがどうかしたのか、こんなバケモノの叔父が家系にいたらうれしいのか?」

「どうしたも何も・・・うちの家系は近年まで日本に住んでいた。

住んでいるにもかかわらずじいさんもひい爺さんも日本人を嫌って近親相姦で代を繋いでいた・・・

母さんに面と向かって訪ねたことはないが、ひょっとしたらお前は――――」

ドォ―――――ン!!!

”突っ・・・・ゴー・・・一旦・・・・”

すぐ近くで大きな爆発音がして建物が揺れ動いた。

「ブレア急げっ、ヤバそうだ」

「チッ、じゃあなバケモノ」

「ふふ、また会えるといいな”クリストファー”」

全員がシューターの中に入って着座し、シートベルトを付けた。

それを確認したゲロイムは最後に告げる。

「貴様らの”専用兵装”を呼び出すのは”ここで予行演習”した通りだ。安心しろ、必ず到着する」

やがてシューターの扉が閉じられ、床が開くと奈落の様な金属のトンネルが姿を現しカウントダウンに入った。

”シューター投下10秒前・・・8・・・7・・・”

その時、プラネタリウム室扉の外で大きな声が聞こえた。

「中から人の声!ここだ急げっ、突入班を―――」

「じゃあな屑ども・・・まあ・・・精々あがくんだな・・・じゃ、俺も退散すっかな」

扉の外には物々しい特殊作戦群の隊員たちが防護服や盾を装備して陣取っていた。

ガストーチを持って扉の開錠をしている隊員がそれを焼き切り、ゴーサインを出した。

”突入しろ、突入!突入!!”

隊員がドアを蹴破り、後方に控えていた武装した班がなだれ込むようにプラネタリウム室に入っていった。

「・・・クリア!クリア!」

「いないのか!臨床体は!!」

「・・・誰もいません!まてっそこっ!」

一人の隊員が部屋の中央にあるモップの様な人形にサブマシンガンに付けられたビームライトを当てた。

”ボンボコボーン!”

不気味な機械音と共にプラネタリウム室は大爆発を起こして吹き飛んだ。

 

 

長い長い落下の感覚を受けた後、やがてそれはジェットコースタ―の様にうねりを受けながらシューターは

果てしなきトンネルを突き進んでいった。

八人全員は一言もしゃべることも無く、ただ無言で到着するのを待った。

やがてシューターに響き渡る音がやがて小さくなり振動が落ち着きだしたころ、けたたましいビープ音が鳴り

赤色だった室内灯は昼白色へと切り替わった。

「・・・着いたのか。皆、無事か?」

「吐き気を催す以外は」

「とりあえず早く外に出よう」

「待て待て、出て早々ズドンは無いだろうな」

「なら、応戦できるように準備しておけ」

「俺は横に、お前はこっちに回って」

「一難去ってまた一難か?」

「・・・開けるぞ」

八神が開閉用のパネルを叩き、シューターの扉はおもむろに開かれた。

加古が銃を構えて扉の外へ飛び出す。

それに続くように國枝兄弟も双方に飛び出し警戒した。

「・・・誰もいないな」

「ここは・・・高速道路のトンネルか?案内板があれば正確な位置がわかるんだが」

三島が辺りを見回しながら言った。

「その必要はないみたいだぜ、端末見ろよ」

「端末・・・?」

三島は腕についているウェアラブル端末の画面を見るとそこには地図と共に正確な場所が表示されていた。

「○○県○○市○○午後16時11分・・・・なんでこんなところに」

そのとき、田中の悲痛の叫び声が聞こえた。

「み、皆大変っ。早く逃げなきゃ!!早く!早く!」

「どうした田中さん?」

加古が田中が指差した方を見ると脱出シューターの外側にカウンターが表示されており、三分から徐々に減っていっている。

「チッ・・・自爆して来た穴を塞ぐ気か」

ブレアが舌打ちする。

「こっちだ、とりあえずトンネルの出口に向かうぞ!」

「ちょっとは休ませてほしいもんだ」

八人は足早に急いでトンネルの出口に向かった。

出口についた途端、シューターが爆発したのか大きな音と地響きが伝わった。

「っマジか!トンネルも崩れかねんっ!」

「もっと離れるぞ!」

そのまま道路をひた走り、トンネルから少し離れたあたりでパーキングエリアが見えてきた。

「丁度いい、あそこに行くぞ」

「い、行くのは良いが・・・いまの俺達を見たら100%警察に通報されるぞっ」

「そんときゃそん時だ」

「いっそのことそのまま強盗でもするか?」

「サービスエリアでか?笑えるっ」

一か月ぶりに外に出たこともあってか解放感を押さえきれず、皆少しニヤつかせながらその足を急がせた。

 

「・・・・・米ってこんなにうまかったんだな」

「まあ今更だな、喰いすぎて吐くなよ」

八人はいまサービスエリア内にあるフードコートでインスタント類や飲料水を平らげていた。

人はだれ一人としていなかった。

「電気はついているのに人が一人もいないとはな」

「まあいいじゃん、返ってややこしくなくていいよ」

「でも妙ですよ・・・それになんか、変な感じです」

「うん、なんだろうな、この感覚」

各々がボヤく中、いきなり田中がハッとして外へ飛び出した。

辺りは既に日も暮れ始め町が夕焼けに染まるころだった。

 

田中は丁度近くの町が一望できるガードレールのところにいた。

「そんな、そんなぁ・・・」

「どうした田中さん?何でもいいけど、急に飛び出す前に一言言ってくれ」

加古はなぜか田中を放っておけないのか直ぐに駆け付けてくれた。

「だ、大好きな鳥さんが・・・・いない・・・鳥さんが・・・虫さんも・・・いない・・・」

「・・・・・・・」

加古はそれを聞いて一望できる町を見渡す。

「確かに、俺も気になっていた」

「多分、皆薄々感づいているはずです」

八神、そして我妻も姿を見せともに町を一望した。

やがて他の者も集まり、八人は黙って夕焼けに染まる静まり返った町を見渡す。

暫く見つめた後、それとなく口にした。

「・・・・いないな、誰も」

「ああ、人も車も当然として、鳥も飛んでいない、虫も見当たらない、そもそも生活音が感じられない」

「あれかオミヨか我妻の仕組んだテロとかのせいでみんな避難したとか」

「じゃあ俺達・・・・ヤバいんじゃないのか」

「さあ、どうだろうな?」

「・・・・・・どうする、これから」

「お前はどうしたい、八神?」

 

「俺は・・・・・」

夕焼けに染まっていた八人は、やがて夕闇にと包まれていった。

 

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