秋は瞬く間に過ぎ去り、厳しい冬を迎え、また春節は巡ってくる。
厳しい寒さが和らぐころにこの施設に新寮生が訪れることになる。
有る者は嘆き悲しみの果て、またある者は嬉々として。
様々な事情を抱えた者がこのグレース女子児童福祉施設へ足を踏み入れるのである。
その先に待ち受けるのが救いなのか、果ては絶望なのか。
ここにいる寮生たちはただ抗う事も出来ずに受け入れることしかできないのである。
冬先でのブレアとの騒動以降、ブレアの口数は少なくなっていった。
私へ謝罪を申し入れ、私も受け入れたもののやはりお互い気まずい部分もあるのか、
最近では挨拶を交わす程度である。
あの騒動でブレアはグレースから戒告処分になった。
より、警戒されることとなったためお兄さんの捜索は困難を極めることとなったと
思うが当人は異常なまでの執念があるのか、諦めることなくこそこそ嗅ぎ回っているようだった。
ブレアはここに来て以来、頼れるムードメーカーとして存在していただけに
他の寮生も少し距離を取りつつも心配している様子だった。
リリリリリンッ!リリリリリンッ!
部屋の隅にある電話台のダイヤル式黒電話が鳴った。
「あ、電話。オミヨさん、少し待っててください」
三島先生が私の身体から聴診器を外して電話に向かった。
私は今、三島先生の部屋兼医務室に来ている。
ブレアとの一件以降、それが原因とは思えないが身体の調子がこの頃すこぶる悪い。
下り坂一方である。
熱がまるで波長のように上がったり下がったり繰り返すのある。
それも極めて短時間の内に。
それにかすり傷すら相変わらず塞がらない。
かすり傷が付くたびに三島先生や時にはグレースのババアが縫合や変わった塗薬を塗りたくっていた。
最近、私は給仕係を外された。
ジジイや親父どもの相手をしなくていいのは嬉しいことこの上ないのだが
だがある意味不安でもあった。
使い道のなくなった私をブレアから聞いたような酷い施設へ放り込まれるのではないかという
心配に急に襲われるのである。
(まだ時間があるうちに、出来るだけ世渡りができるよう勉学しなければ・・・)
「・・・・はい。はい、でもそのような・・・いえ・・・はい、承知致しました」
だが三島先生の私への手厚い対応を見るに辺り、そのような心配は杞憂に
終わるかもしれないとも私は思った。
・・・長々となにやら深刻そうに電話をしている。
しかし気になるのは黒電話のすぐ横に、同じ形の、不気味なほどに
真紅の”赤電話”があるのはなんだろうか?
(図鑑に載ってた防災電話?緊急電話?うーん・・・)
「オミヨさん、お待たせしてごめんなさい。今日の健診はこれで終わりにしましょう」
「もういいんですか?」
「ええ、実は来週のお迎えする”三期生”が急遽前倒しになって明日入寮することになったの」
そうだった。来週、新たに私(一期生)、ブレア達二期生の後輩になる三期生が新たにここへ来るのである。
今は三期生として迎えられる人間は日本各地の別の施設にいるはずである。
自身を犠牲に、ホンの一末の希望を求めて。
「前倒しするんですか?」
「ええ、事情は解りかねますが他の機関との調整が入ったようで・・・」
(機関?)
「ああ、そうだ。気分が悪くなったり、体調を崩したときは渡した薬を直ぐに飲んでくださいね」
「はい、わかりました。三島先生ありがとうございました、失礼します」
「お大事にオミヨさん」
私は、スツールから腰を起こし部屋をゆっくり後にした。
ドアをゆっくり占めた後。
直ぐ隣から艶めかしい声をかけられた。
「ごきげんようオミヨさん。今日も先生とお医者さんごっこ?フフフ」
「加古さん」
壁に寄り添って開いたドアから見えないところにいたのか。
加古さんがいた。相変わらずニヤニヤしている。
嫌な奴に出会った、露骨な顔が表に出てしまったであろうか、
こいつに会うとせっかく持ち直した体調が瞬く間に下り坂である。
「そんな露骨な顔をしないでくださいまし。仲良くしませんこと?」
「仲良くって貴方散々・・・」
加古は壁から身体を離すとオミヨに向き合った。
「私も心を改めましたの、いつまでもこのままではいけないって、ねえ田中さん」
加古の直ぐ傍らにいた田中さんも恐縮しながら言った。
「私は最初から、いじめなんかしたくないし・・・ねえゲロイム?」
田中さんは持っていたゲロイムの人形を両手で掲げた。
なにか小声で呟いている。
(うわぁ、気持ち悪いなあ。これでよく給仕係が勤まるわね。あ、現実逃避の一環なのかな・・・)
両手に握られている人形をまじまじと見つめる。
このゲロイムって人形、漫画かなにかのキャラクターらしいが酷い出来である。
全身モップのような土色の毛糸で覆われ、頭は大きく、顔はまるで
海洋図鑑で見た”チョウチンアンコウ”のような口と目をしている。
あんまり見てると夢に出そうで止めた。
「それよりももう聞きまして?三期生の話」
加古が人形遊びに夢中になる田中さんを他所に私に問いかけた。
「ええ、なんか急遽明日に入寮するとかなんとか・・・」
「その通り、そうですわ。オミヨさんは歓迎挨拶代表でしょう?私達も歓迎の準備に追われておりますの
これから一緒に準備や段取りなさいません事?」
「ええっ、今からですか・・・?」
加古は顔をニヤつかせて私に答える。
「もちろんですわ。オミヨさんにも張り切っていただけ無くては。
わたくしは聞きましたの、この度の三期生は色々”特別”ですのよ!
今から考えただけでもゾクゾクしますわ、フフフ」
そう言って薄気味悪い顔を浮かべている。
横から顔を覗き見た田中がドン引きしていた。
ああ、そうか。
自身の興味が私から三期生に移っただけの話なのか。
まあ、私から興味を無くしてくれるのは願ったり叶ったりだが。
「さあ、早く行きますわよ」
加古はそう言うと珍しく私の手を引いて歩き出した。
態度の急変に戸惑いながらも私はしぶしぶ付き合うことにした。
・・・しかし、気になることが有る。
”特別”とはなんだろうか?
確かにここへ来るのは堕ちた名家の人間や権力が失墜した家族が殆どである。
それをここでは”普通”扱いなのだから”特別”とはまた出所が変わってくるという事である。
(まさか誰かの身内とか・・・いやそんな訳ないか)
加古に手を引かれながら私は様々な思惑を巡らせていた。
この時、私はまだ思いもよらなかった。
この三期生こそが混沌を持ち込むことを。
そして。
全てを変貌させること。
そして。
全てを絶望させること。
そして。
全てを終わらせること。
次の日の歓迎会。
「私の耳がおかしくなったのかしら?もう一度自己紹介を―――」
グレースは目を見開いて眉間にしわを寄せながら、露骨な態度で嫌悪感を露わにしながら問いかけた。。
「私は我妻ですわ!皆さん!私はここに多額の出資しているアガツマ製薬の人間ですわ!
くれぐれもしつれ・・・」
バシン!
グレースの平手打ちが我妻に飛んだ。
寮生は騒然としている。皆一様に我妻と名乗る少女を見ては、騒ぎ立てる。
「”松本”と名乗ると言ったはずではないですか!」
「いいえ!私は御爺様の血を引いた正統な我妻家の人間なのです!」
両者は一歩も引かなかった。
「アガツマ・・・製薬の人間なのか・・・?」
ブレアは呟いて静観しながらもその目はギラギラと光らせていた。
「フフフ、来ましたわね。アガツマの”訳アリ人間”」
加古は予め分かっていたのか相変わらず卑しい顔をした。
「なんなのぉ、いったい」
田中はゲロイムを抱きしめ不安そうに事の成り行きを見つめていた。
「まさか、そんな・・・我妻家の人間が」
三島先生は目の前の光景が信じられずただ狼狽する一方である。
「あれが、アガツマの人間・・・・・・・・・・・・おとうさん、おかあさん」
「ヤガミさん?」
以外にも今回、一番変化が現れたのは私の隣にいたヤガミさんだった。
小声で何かつぶやいている。
ああ、今夜は眠れそうにもない。
その夜、ヤガミは給仕係の当番であった。
ヤガミは裸体でうつ伏せになる初老の背中にまたがり、腰を両手で押していた。
「そうそう、もっと力を入れて。ほら、腰を入れんか!」
両手に力を入れる際、否が応でも股座を密着させなければならず、
それが心底嫌だったヤガミは出来るだけ腰を浮かせていた。
そんな些細な抵抗が男は気に食わなかったのか、時々手で太股をひっぱたたいた。
「痛い!すみません、すみません!」
「解っとんなら、早ようせんね。おっ、いいね、なまらぬるぬるしとるけん」
初老の男はその感触に光悦の笑みを浮かべた。
(チッ、気持ち悪い・・・)
ヤガミは心で悪態を付きつつも心中で静かな青い炎をたぎらせる。
事情の最中でもその脳裏は”あのことで”一杯。
もはや居ても立っても居られない。
そう思い出すのは夕方の歓迎会、三期生。
そして家族の事だ。
数年前―――。
私の父は有名な外科医だった。
国立大学付属病院で難解な手術をこなし、学会にも知らぬ顔がいないほどの名医だった。
私はそんな偉大な父や家族と何不自由無いとても幸せな日々を送っていた。
そう、あの日の出来事までは。
「アガツマ製薬?」
私は父が突然何を言い出したのかあまり理解できなかった。
暫く留守にするということだけは解った。
その時まだ小学の私には理解が乏しかったのだろう。
「ああ、新薬の臨床試験でね。
主に外科手術に使用するものだから先方さんから立ち会ってほしいと言われてしまって・・・」
「だから一週間だけ、従兄弟の叔母さんのところでお留守番出来ますね」
(いっちゃだめ。)
母が申し訳なさそうな顔をして私に行った。
母は父の助手で看護師を務めている、どこへ行くのも一緒なので今回も同行するのだろう。
父は不安そうに見つめる私を両手でギュッと抱きかかえると天井に当たらんとばかりに
高く掲げた。
「そう心配するな、この度はアガツマさんから目玉が飛び出るほどの謝礼金が出るんだ。
終わったら暫く休みを取って家族水入らずで旅行に行こう!!」
「ちょっと、あなた!この子は学校が有りますでしょうに」
(お願い行かないで。)
父は母の制止も聞かず私と笑顔でたわむれた。
「大丈夫大丈夫。お前は優しく頭も良い、ちょっとぐらい遅れたって平気さ」
「もう・・・」
(駄目、全てが壊れてしまう!)
そう、かけがえのない、何気ない家族の幸せ。
そんな何気ない幸せは、思いもよらずもろいものだった。
父と母がアガツマ製薬の研究所に行って数日後。
叔母と叔父が朝刊と私を交互に見て何やらこちらに聞こえぬよう密談している。
「ねぇ、おばさん、おじさん。どうしたの?
新聞に何が載ってるの?」
今日の朝から気になっていた。
叔母が露骨に私を見る目が急変している。
「あんた、じゃあ教えても良いね?レンちゃん、落ち着いてね。今日の朝刊を見てごらん」
叔母は叔父に確認すると私に朝刊を差し出した。
私はその場で床に座り込んで新聞の一面を広げた。
「レンちゃん、気を確かにな」
叔父が私を気にかけ、心配そうに見つめる。
私はまず新聞の写真に目が釘付けになった。
写真は三枚、アガツマ製薬第三研究所と書かれた門柱と建物が移っている。
他の二枚には・・・私の父と母が写っていた。
「なに・・・これ・・・アガツマ製薬株式会社・・新薬・・無認可・虚偽・・摘発・・・」
「基準値を大きく上回る危険性・・・研究者・・現場責任者を逮捕・・・」
「会社側は関知しておら・・・ヤガミ夫妻(容疑者)は・・・事実を否定して」
「・・・ヤガミ容疑者」
「ヤガミ容疑者」
嘘・・・。なんかの間違い・・・。絶対。絶対。
「叔母さん、叔父さん。これ違うよ。私のお父さんとお母さんはお医者さんだよ?
研究員だって・・・」
叔母さんと叔父さんはため息交じりに私の肩に手を置くとこう声をかける。
「解ってるよ、レンちゃん。とりあえず叔父さんと叔母さんは今から警察に行ってくるからね。
待っててね」
「わ、私もつれてって!お願い!」
「今はまだ待ってなさい。わしらも解らんことだらけだ」
叔父は焦る私をなだめる。
「そんな・・・嘘だ・・・絶対!」
感極まり目から大粒の涙があふれだした。
私は訳が分からなくなり、ただ部屋の隅でうずくまってひたすら泣いた。
それから、数年がたった。
逮捕されたのは私の父と母で間違いがなかった。
裁判はいずれも有罪で現在は再審の申請をしている。
聞いたところによると、両親は医者であると同時にアガツマ製薬にも顧問研究員として出入りしていたという事実だった。
何度も面会を叔母に希望したが、両親が憔悴しきっているということと子どもを拘置所に向かわせたくないという理由で拒否された。
そして、ある日の朝の事だ。
「・・・御免ください」
「来たか」
そう呟くと叔母たちが急いで家の玄関へと向かう。
居間の引き戸の隙間から覗き見ると何人もの背広(スーツ)を来た背丈のいい男の人がいた。
「はい、はい・・・解りました。これにサインですね。」
叔父は何かの書類に急いでサインをしている。
叔母は男の人から分厚い封筒を手渡された、隠しようのない卑しい顔をしながら中を確認している。
(・・・お金だ)
封筒には大金が入っていた。叔母はそれをそそくさと懐にしまうとこちらに向かって来た。
「え、なに」
おもむろに今にやってきた叔母は私に無機質に伝える。
「さぁ、迎えが来たよ。残念だけど今日で叔母さんたちとはお別れなの」
叔母はそう言うと別の部屋から大きな旅行バックを持ってきた。
私の私物や服が入っているのだろう。
「嫌だよ。私ここに居たいよ、それにお父さんお母さんはどうなるの?」
「それは・・・迎えに来た世話役の人が教えてくれるわ。ささ、急いで」
「そんな、酷いよ!叔母さん!叔父さん!」
嫌がる私を強引に引っ張り出し、男たちの前に突き出した。
「さあ、この子です!よろしくお願いいたします」
「レンちゃん、元気でな」
「嫌だ、そんな、助けて!」
嫌がる私を他所に、背広の男たちは両腕を抱え、私を力づくで連れだした。
「ご協力感謝します。では、くれぐれも」
「は、ハイもちろんです」
叔母たちは恐縮しながら、私を見送っていた。
私はその下品な顔を忘れることはないだろう。
男たちに車の後部座席に乗せられ、暫く混乱して泣きじゃくっていた。
道中をひた走り。暫くして。
街並みが田舎町になった頃。
「・・・落ち着いたかね?」
私は返事もうなずくこともなかった。
「私たちはグレーズ女子児童福祉施設からきた者だ。
心配しなくていい、実は前から君の叔母さんと叔父さんから相談を受けてね。
施設で生活した方が君の為になるのではないかと判断してとのことだ。
多少強引だったのは謝罪しよう、すまなかった」
助手席の男はまだ話の通じるような人間だった。
だから、少し質問することにした。
「両親は・・・私のお父さんお母さんが帰ってきたらどうするんですか」
「ん、獄中自殺聞かされてないのか?」
・・・・・・え。
「こら、馬鹿お前!」
「あ、スマン!ヤガミさん、今のは忘れてくれ!」
・・・・自殺?
・・・。
お父さん、お母さん。
お父さん、お母さん、お父さん、お母さん
たのもしいおとうさん、やさしいおかあさん。
「いやあああああああああぁあぁっぁぁぁっぁぁぁ!!!!!!!」
車内で暴れまくった。
男たちを蹴りまくったり、力の限り暴れまくった。
両脇の男たちに決死に取り押さえられ、運転士がなにかを叫んで助手席の男がなにかを取り出した。
注射器だ。
「くそっ、大人しくしろ。このメスが!」
腕に、容赦なく注射器針を打ち付けられ、なにかを注入される。
「ぎゃぁっぁぁっぁぁっぁあああああ!」
自分でも驚くほどの絶叫を上げた。
急激に朦朧とする意識の中。
私は見逃さなかった。
注射針を取り出した袋に書かれていた印字。
―――――6A2鎮痛剤 アガツマ製薬。
「ほれ、また腰が止まってるけん!」
初老の親父がまた私の太股を叩いた。
私はクルリと身体を反転させると初老の首に近い肩を掴んだ。
「ギャアアアアアアアアアアア!!!」
目を開いて絶叫する初老。
あれ、そんなに力入れてたっけ?
「あ、ごめんなさい。力入れすぎちゃった、考え事してたんです。本当にごめんなさい!」
謝罪する私を見るやいなや親父は私を勢いよく押しのけた。
「ひぃ!!!」
「あれ、どうしたんですか・・・」
親父は恐怖に慄き、震えていた。
おかしいと思い、直ぐ壁にあった姿見を見ると。
そこには血走った目の現実離れした顔の私がいた。
(ああ、いけない。こんな顔して。)
でも、でも。隠しきれない。
だって、だって、ようやく来たんだもの。
恥辱と苦痛に耐え続け、ようやく来たんだもの。
アガツマの人間が。
動乱の第三期生の歓迎会は早々に打ち切られ、舞台は引き続き談話室での懇親会へと持ち越された。
終始立腹であったグレースのババアは執務室へと引きこもってしまい、
三島先生が寮生を落ち着かせながら懇親会での場を引き継ぐことになった。
「皆さんとりあえずどこでもいいのでそれぞれ席に座って、さあ三期生の皆さんもこちらに・・・
座られましたか?それでは、改めて私の方から順番に紹介してゆきますわね。
ああ、田中さん、厨房に用意してある飲み物とコップを持ってきてください」
三島先生が促しながら、対面して座る三期生数名を順番に紹介していった。
それぞれ紹介を受けた寮生は軽く会釈をしたり、挨拶をしている。
そして、渦中の一人へと順番が回ってきた。
三島先生が恐る恐る問いかける。
「えと・・・我妻さん、でいいのですね」
「ええ、構いませんわ。最初から偽名など名乗るつもりなど毛頭御座いませんもの」
凛とした表情で我妻さんは答えた。
すると先生はすかさずフォローを入れる。
「先程歓迎会においての我妻さんの自己紹介で皆さんの混乱を招いてしまった件なのですが、
皆さんもご存じのように当施設は政府の基金と民間企業のアガツマ製薬の出資で支援されております。
確かに彼女はアガツマ製薬の関係者では有るのですがここには特別な事情があっての事。
皆さんもそれは同じでしょう?」
寮生はそれを聞いてそれぞれ耳打ちしたり、俯いたり、不貞腐れていた。
「色々と混乱を招くのでは無いかと思い、そこで私とグレース先生と相談して寮でのネームを
名乗っていただこうと思い立ったわけです」
「じゃあ、私も名乗っていいですか?んー小生は~ゲロイムとか?」
「ブレアさん」
「なにそれー」
「へいへい」
先生がちょっかいを出してきたブレアと叱責する。
ちょうどお盆に紙コップとジュースの瓶を載せて持ってきた田中さんも驚いて素っ頓狂な声を上げていた。
そういえばここに来る前、三島先生はグレースと幾つか言葉を交わしていたのを見た。
それがこの理由付けなのだろう。
「ああ、こわいこわい。皆様の視線が刺さりますこと」
寮生の視線が集中するが我妻さんは何ら動じることなく、恐れを知らぬ目で私達寮生を舐める様に見回した。
「改めて自己紹介する必要はございませんわね。私(わたくし)は我妻です。
皆さんご存じのようにアガツマ製薬の経営者一族の一人ですわ。
ここがどんな場所は存じております、ですが勘違いなさらないでくださいまし。
私は皆さんと違って進路も後見人もございますの。
皆さんはそれぞれ”明るい進路”を勝ち取るために給仕係なるものに熱を上げておられるようですが
私はそのような事は一切致しませんので悪しからず、
ってか皆さん大変けがわらしいので清潔になさってくださいまし」
寮生一同が一気にざわついた。なかにはチョットした怒号を上げる寮生もいる。
「み、みなさん、落ち着いて、静かにしてください」
騒ぎは収まることもなくより加熱する一方だ。
「それじゃあ、どういうこと?!ここには興味本位で来たというの?」
騒めく中、ブレアが座っていた椅子を跳ね除け我妻さんに詰め寄った。
「孫」
「はい」
「なっ!!」
詰め寄るブレアの目の前に我妻さんの隣に座っていたまだ紹介されていない
二人の少女が瞬く間にブレアの前に出てはその眼前で手刀を寸止めした。
二人とも顔が似ている・・・双子か?
「残りの寮生二人は改めて私が紹介いたしますわ。
この双子の姉妹、長髪の方が孫李是(リーゼ)、短髪の方が孫紫杏(シアン)ですわ。
二人とも私の世話役で来ておりますの、私共々よろしくお願いいたしますわね」
「・・・・・・」
孫姉妹は口を開くこともなく暫くブレアと睨み合った後、
狼狽するブレアを尻目に踵を返して席に戻ると音もなくゆっくり椅子に腰かけた。
「我妻さんっ、孫さん達もっ、来て早々暴力沙汰は止めてくださいっ」
三島先生が窘めるも我妻さんはフンッと鼻をならして、なんら動じることもなく机に頬杖をついた。
「私はしってますわ、貴方、アガツマ製薬会長の”隠し子”なんでしょう?」
今まで、事の成り行きを静観していた田中さんがいきなり切り出した。
ああ、もうこれでは懇親会どころではない。動乱の歓迎会の二の舞だ。
「へぇーこんな、没落貴族の身体を売るしか能のない連中の中にもキレる方がいらっしゃるのね」
「何をおっしゃいますことやら、今まで色欲会長のジジイの金で何不自由なく贅沢な日々を送っていたにもかかわらず、欲に駆られて親族会議にいきなり顔を出して血縁と跡継ぎを名乗るもんだから、奥方の激昂をかって全てを没収された挙句、放り出された”家なき子”さん」
それを聞くや否や我妻の余裕に満ちた顔は見る見る硬化し、田中さんに鋭い眼光を向けた。
「我妻さん」
「いいわ、じっとしていて」
リーゼがなにか耳打ちするのが見えたが我妻さんが制止し、
急に立ち上がると田中さんの前に立ちはだかった。
「訂正しなさい」
「は?なにをよ、全部事実じゃない」
田中さんは両手の平を上にあげて理解できない仕草をする。
「”色欲”会長よ。お父様とお母様は愛し合っていた、まぎれもない事実。
色欲でも何でもないわ!」
それを聞いた田中さんは頬を膨らませ、思わず噴いた。。
「ぷっ、愛ですって?フフフフフフッ!中々笑わせてくださいますわね、フフッ!」
田中につられて他の寮生も思わず噴き出した。
「笑うな!」
我妻さんの叫びも空しく寮生たちはさらに熱が入り笑い出した。
「愛ですって?そうね、ここにいれば嫌というほど聞かされますわ」
「男の口から出る”愛”ほど信用できないものは無いね」
「まあ、イクときはいうんじゃない?愛してるよーあけみーって、あけみって誰って?」
アッハッハッハ!
寮生の悪乗りは更に加速していった。
「ちょっ、あなた達!止めなさい!黙りなさい!」
三島先生が寮生を叱責するがまるで聞き耳を持たなかった。
「孫!」
「了解」
バ―――――ンッ!!!
突然、凄い破裂音が部屋の中に響き渡った。
静まり返る室内。
舞い上がる埃や塵。
身をこわばらせ、目を丸くする寮生たち。
第三期生の目の前に有った長机が真っ二つに割かれていた。
孫の双子姉妹が手刀で叩き割っている恰好があった。
「・・・嘘でしょ?」
「あの机、どれだけぶ厚いと思っているの・・・」
そこにいる全員がこの事実に衝撃を受けていた。
「・・・懇親会は無事盛況に終ったようですね」
グレースのババアが空いている扉から呆れた顔をしてこちらを見ながら呟いた。
「もう夜も更けてきました。皆さん、今日はお終いにしましょう。
そこの二期生あなた達は机を焼却炉に持って行って・・・ああ、オミヨさん、あなたはここの掃き掃除を」
グレースはよりにもよって私に後始末を命じた。
なんてことだ、一分一秒でも早く部屋に戻りたいのに。
「さあ、他の者たちは早く部屋に戻る様に!三期生も明日から新しい生活が始まります。
早く休むように」
グレースに促され、皆それぞれ部屋へと戻っていった。
しかし、まだ興奮冷めやらぬのか寮生たちの声はあちこちから聞こえてきた。
私は一人取り残され、仕方なく傍らにあった箒と塵取りをもって談話室の机の残骸の後かたずけを始めた。
(何で私が・・・)
「これでよし・・・と」
部屋をあらかた片づけ終わって、カーテンを閉めて部屋に戻ろうと踵を返したところで
信じられない人間がそろっと部屋に入ってきた。
我妻と孫の双子の片割れ、短髪のシアンである。
「失礼、私達の所業で大変な迷惑をかけてしまいましたわ。許してくださいまし。」
我妻さんとシアンが謝罪と共に軽く礼をした。
根は悪い人間ではないのだろうか?
「確か、名簿では大宮美生・・・オミヨさんでよろしいかしら?」
私の名前を知っている。
そうか、なまじアガツマ製薬の関係者ならば知っていても当然か。
「ええ、みんなからはオミヨって言われているの。よろしくね、その・・・我妻・・さん?」
「遠慮はいりませんことよ、少なくとも私はあなたの味方ですわ」
味方・・・どういうことだろうか?
「少なくとも、私は”此処”の事を誰よりも知っているしもちろん貴方の事も知っている。
こうしている間にも私に詰め寄りたくて仕方がない人間がしびれを切らしているはずですわ
・・・特にブレアと貴方のルームメイトのヤガミさんは」
「ヤガミさんが?なんで・・・?」
予想だにしてない名前に思わず声が裏返ってしまった。
「込み入った話はおいおい致しますわ。でもとりあえずはご確認だけさせて頂きたいことが御座いますの。
少しでいいので質問に答えてくださいまし」
「は、はい」
我妻さんの勢いに押されて思わず即答してしまった。
「大丈夫、今リーゼにドアの外で見張りをさせていますの。
聞き耳を立てる人間はいませんわ、それではよろしいですわね」
そう言うと我妻さんは矢継ぎ早に質問した。
内容は主に私の身体に関すること。
薬を入れる頻度や、三島先生の健診のこと。
ここ数年における体の変化やその他生活でのこと。
意外だったのは給仕係に関する質問は一切されなかったことだ。
「やはり・・・では最近では傷が塞がらないので縫合しているのですわね」
「かすり傷ぐらいなら塗り薬で胡麻化すんだけど・・・」
「後、これが最後ですわ。私は今”15歳”ですわ。オミヨさん、貴方は私よりずっと年上ですわね?
そして年齢に関してグレースや”三島”に他言無用と口留めされている」
・・・・・・・・。
・・・・・・。
「うん」
彼女、何を知っているの?
「確信しましたわ、やっぱりここで間違いなかった。
落ち着いて聞いてくださいまし、貴方が此処に来てから受けている治療ですが」
なんだろうか、何故か心が激しくざわついた。
心の奥底から不安が湧きあがってくる。
聞いちゃダメだって。
もう戻れないって。
そんな声が、遠くから。
お父さんお母さんが叫んでる気がした。
「治療じゃない、間違いなく臨床試験ですわ」
・・・・・・。
「アガツマ製薬最高機密社外秘、無認可人体臨床試験―――その№5B9X・通称、不老不死薬」
私の意識はそこで飛んだ。
7歳ぐらいのころ。
私のお父様は”理事長”という立派なお仕事をしている人だと母から聞いた。
母はお父様の秘書としてずっと傍らにいた。
お父様は絵本に出てくる”おじいさん”みたいな感じだった。
保育園の参観日でみたお友達のお父さんはみんな母と同じぐらいに若かったけど、
それでも私は自分のお父様が一番好きだった。
お父様は一週間に一度だけしか私に会うことがなかった。
それでも私はいつも父に会うのが楽しみでいつも会う日を指折り数えていた。
お父様は私に凄くよくしてくれたし、プレゼントもいっぱいくれた。
ある日、母はお父様に内緒でお仕事の場所に連れて行ってくれた。
私はとてもわくわくした。
でも、直接会えないみたいで”秘書室控”と言う小さな部屋でお仕事の部屋を覗いていた。
お父様がいた。
お父様は母ではない別の女性に腕くみされながら何か恰幅の良い人とお話ししていた。
その女性は私と同じぐらいの子供の手を繋いでいた。
私の母はそこからすこし離れて遠巻きで少し寂し気な顔で俯いていた。
お父様は他の女性とベタベタしてるのに何で怒らないのだろうか?
それにあの子は誰なんだろう。
12歳ぐらいのころだ。
お父様は相変わらず一週間に一度会いに来てくれた。
でも、最近はプレゼントやお小遣いをもらっても胸が苦しくなるだけだった。
理由は分からない。
少し嫌がる私を見てお父様はとても残念そうな顔をした。
そのやり取りを見ていた母も寂しいそうな顔をしていた。
でもその代わりお父様は色々なお話をたくさんしてくれた。
世界の事、科学の事、医学の事、社会の事・・・。
それはどれも知的好奇心にあふれるものでとても楽しかった。
そんなお父様を見て、私はやっぱりうれしく思うしお父様みたいな立派な人間になりたいと思った。
私は明日から都内の国立女学院に入ることになる。
私もお父様のような立派な研究者になれる様に頑張ろうと思う。
14歳の頃ですわ。
私は自分の立場がどういうものか此処に来て理解しましたわ。
それでも私は身の上を呪ったりはしない。
お父様、そしてお母様も私の愛すべき家族。
私は自分の境遇に負けたりなんかしない。
私こそがお父様の会社、日本屈指の大企業、アガツマ製薬の後継者。
あの肥えたお父様とは似ても似つかない愚息の豚社長やそのボンクラ子どもにいいようにさせるものですか。
負けるものですか。
私はもう飛び級で欧州への留学も決まっているのよ。
お父様、待っててください。
ある日、母が急に女学院の寮へと面会にやってきた。
とても顔色が悪く具合が悪そうだった。
「お母様、急にどうなさったんですの?」
「いい?時間がないの。とりあえずこれを学生鞄のわからないところに仕舞いなさい」
母がそう言うと私の座る椅子の隣にあった鞄を無造作に開けると色んな書類の束と多額の現金を押し込んだ。
「後で、誰もいないとき、目を通して。頭のいいあなたなら理解できるはず。お願いよ」
「お母様?」
その時、面会室のドアの遠くの方が何か騒がしかった、誰か来たのだろうか?
「もう、時間がないようね。いい?お母さんは何があってもいつでもあなたの傍で見守っているわ。
だからお願い、貴方のお父さんを―――」
ドンドンドン!
「すみません、担任ですが部屋の鍵を開けていただけますか?!
至急お会いしたい方がいらっしゃるそうです!」
「もうこれまでなのっ」
母は小声でつぶやくと立ち上がって部屋の窓を築かれぬようこっそり開けた。
「ここに居たらマズいわ、早くこの窓から逃げて」
「そんなっ、お母様」
たじろぐ私を無理やり窓へと押しやり、外へと追いやった。
「お母さん、貴方に会えるのが今日で最後だと思う」
外に追いやる最中、背中越しに伝えられる。
「・・・っえ?!お母様?」
その時、ドアを大きく叩くような音が聞こえ、蹴破っているのが分かった。
私は訳が分からなかったがとりあえず外の生い茂る草むらに急いで身を潜めた。
その時、部屋から担任と一緒に数人の人間が入ってきた。
母は背広の男数名に取り押さえられていた。
(お母様!!)
その乱暴な様子に堪らず飛び出そうと思ったが、母に向かって何かを叫ぶ見覚えのある顔が目に飛び込み軽い衝撃を受けた。
僅かだが声が聞き取れる。
「・・・淫売秘書!忌々しい隠し子は!どこに追いやった!」
このお父様の妻を名乗る豚女。
お母様、絶対助けるから待ってて。
15歳。
アガツマ製薬株式会社最上階。
常任委員会重役会議、その会議室前にて。
私(わたくし)は勢いよくその観音開きのドアを蹴破った。
親族・取り巻きを含めた管理職・重役どもの視線が一気に私へと向けられた。
「おやおや、これはこれは。・・・最近の若い子は過激ですな」
「その席は元々お父様の席ではなくって”アガツマ”社長」
突然の事に全員が騒然としていた。
皆口々に何かを言ったり、威勢のいいものは怒鳴り声を上げたりしている。
構わぬものですか。
それよりも皆が目を奪われたのは私が首から下げている母の遺影に他ならない。
「皆さん!私こそ、会長から認められ、我妻家の会長の血を引く正統な後継者ですわ」
宣言したとき、自称妻の豚女の顔がみるみる青白くなっているのを見てしてやったりと思った。
豚社長は何食わぬ顔で気にもせず警備員に連絡を入れた。
直ぐに傍にいた警備員が私を取り押さえる。
そう、まずはこれでいい。
血縁の流れを乱すのが重要なのですわ。
・・・ほらみたことか、血縁でない管理職の人間が途端に騒ぎ出しましたわ。
駆けこんできた警備員に引っ張られる最中、部屋中に聞こえるような声で叫んだ。
「母を薬で殺し、お父様を・・・会長を生ける屍にした報い、必ず受けさせますわ!!
そしてこの呪われた魔窟をっ―――!!!」
「それから私は豚の正妻の制裁を受けて企業の金で買われた家族に無理やり養子縁組させられ、
我妻家から追い出されましたわ。
でも、幸いにお母様のかつての同僚から助力を得ることができてこの二人の付き人と一緒にこのグレース家にやってまいりましたの」
私はベッドから身を起こして我妻さんの話に聞き入っていた。
今、私は自室に戻っている。
どうやらショックで気を失った私を部屋まで運んできてくれたみたいだった。
私を部屋まで運んでくれたブレア・ルームメイトのヤガミさん・双子の孫姉妹・そして我妻さんがいた。
「で、この二人ってのは我妻家の人間なのか?」
部屋の片隅で壁にもたれ掛かり窓を見つめながらブレアが尋ねた。
「いえ、私たちは違います。リーゼ?」
双子の姉妹、妹のシアンが姉のリーゼに促す。
リーゼは少しぶっきらぼうな性格なのか頭をボリボリ掻きつつ答えた。
「私たちは、元々我妻会長の直接出資して作られた別の児童福祉施設の出身なんだよ。
元秘書だった我妻さんのお母様にはとてもよくしてもらった。
今回、私たちは我妻会長の側近から依頼を受けてボディガード役を私たちが買って出たって訳」
「私たちはゴロツキの外国人街で鍛えられてるからね。アガツマ製薬にも多少は詳しいよ。
それに我妻会長は悪い人じゃないよ、悪いのはその取り巻き。
いわゆる”甘い汁”を啜ろうとする社長を始めとした管理職の連中よ」
シアンは爪を弄りながら誰に語り掛けるでもなくひとり呟いた。
「ということは三人とも”直接的”な我妻の人間ではないという訳だな?肩透かしになっちまったか」
ブレアは期待外れと言わんばかりにため息をついた。
「いえ、そんなことはありませんわ。ジャック・ブレアさん」
ブレアは驚き顔をこわばらせ、ギョッとした眼で我妻に向き直る。
「どういうことだ」
「母の渡してくれた資料にもあなたの事が記載されておりましたの。
もしかして、行方不明のお兄様・リチャードを探してここに来たのではなくって?」
聞くや否やブレアは我妻さんに詰め寄り、両肩をガッと掴んで詰問する。
「お、教えて!お願い!リチャードは!生きているの?」
「痛い、痛いですわ」
「ス、スマン」
ブレアは我妻の苦しむ顔を見てハッと我に返り、手を離した。
孫姉妹が止めようとしたが我妻が手で静止していた。
「・・・私も、詳しくは存じませんが臨床試験リストに名前が記載されておりましたわ、存命しているはずです」
「そんな・・・・・・でもいるんだね、よかった」
ブレアはそれを聞いてまるで緊張の糸が切れたようにその場にへたり込んでしまった。
よかった、よかったというか弱い声が僅かだが聞こえてきた。
「・・・あのっ、我妻さん。その、臨床試験の事なんだけど」
話に意外な人間の横槍が入った。ヤガミさんだ。
「わたしあの、ヤガミって言います。あの、父がその、有名なお医者さんで・・・」
我妻さんはヤガミさんに向き直り、あらかじめ想定していたかのように答えた。
「ヤガミ教授の娘さんでしたね。夫妻の投獄中でのこと、お悔やみ申し上げますわ」
「やっぱり、ううっ、お父さんお母さんは製薬会社の人間に・・・」
ヤガミさんも・・・アガツマ製薬の関係者なの?
「ヤガミさん、すべてはアガツマ製薬の上層部と政界の人間が仕組んだことですわ。負けないで、一緒に戦いましょう」
我妻さんはべそをかくヤガミさんに熱く語りかけた。
「今、私に確実に言えることは一つ。ここにいる全ての人間は”何らかの形”でアガツマ製薬に関わっておりますわ」
我妻さんは立ち上がりみんなに向かって宣言した。
「アガツマ製薬の不正・違法・違反・不祥事・汚職・・・ありとあらゆる証拠をここで手に入れて、白日の下にさらし、
社長を始めとした人間を叩きのめしますわ!そして、私がお父様の会社を取り戻しますの!」
私はそれを聞いて驚きと疑問を持って思わず口をはさんだ。
「そんな証拠が、ここに、あるというの?」
「もちろんですわ。あなた達が将来と引き換えに身体を売っているのももちろんのこと、ここの事はお母様が
お父様・・・つまり会長に頼まれて調べては付いておりますの・・・それにあなたこそが証拠なのですわ、オミヨさん」
「わたしが?」
我妻さんはそう言って私の冷たい手を取っていった。
「あなたはアガツマを倒すためにはなくてはならない仲間ですわ。一緒に戦ってくださいまし!」
そう言って我妻さんはニッコリ力強く笑った。
仲間・・・初めての感覚だった。
こんな高揚した気持ちは初めてだった。
気づけば部屋のみんなが微笑んでいた。
久しぶりだった、こんな気分。
後は、みんなで乾杯出来たら最高なのに。
「さあ、夜はまだ長いですわ。今から情報を共有しますわよ!」
・・・今夜は眠れそうにない。
部屋のドアの―――外の廊下で―――聞き耳を―――立てている―――者がいた。
(へぇー面白くなってきましたわ。フフッ)
(立ち聞き止めようよーねえ、ゲロイムぅ)