ステーキ定食の食べ方がキショすぎてハンター試験に迷い込んでしまっただけの一般通過TS少女 作:排水溝の破壊神
──ザバン市に、隠れた名店があるという。
知る人ぞ知る、ステーキの美味い定食屋……。
行かない訳にはいかないだろう。
「おぉ~……都会は人が多いなぁ」
恥ずかしながら、僕は
地図にも載っていないような村に生まれ、おおよそ現代的なものからは隔離され、そのまま単なる
実に退屈だ。
退屈だから、抜け出してきた。
せっかく得た二度目の生。せっかく得た恵まれた容姿。
せっかく生まれた、新しい世界。
すべて堪能せずして、僕は死ねないのである。
というわけで、僕はこうして人生をエンジョイする第一歩として、ザバン市へとやってきたのだ。
美食家よろしく、美味しいものを食べるために。
──ぐぅ。
「お腹が空いたぜ……」
路銀はお世辞にも多いとは言えない。
村を出る時に
ステーキ定食を食べたら、そろそろ現実と向き合わねばならない。
さて、肉体年齢わずか十二歳の僕が路銀を稼ぐには、一体どうすればいいんでしょうね。
「……はぁ」
沈んだ気分とは裏腹に、お腹は激しく主張を繰り返す。
僕は急ぎ足で、親切なおじさんから教えてもらった住所へと向かった。
「ツバシ町の2-5-10……ここか」
いかにも普通の店だ。客層も普通。
サラリーマンが多いかな。しかし、いい匂いがする。
入口を潜り、熱気の籠る店内へ。中華鍋を振るう店主と目が合った。
「いらっしぇーい!!」
ビクリ。大きな声に身体が固まる。
いかんいかん、こんなことで動揺していては、見た目通りの女の子だと思われてしまう。
これでも中身は成人男性なのだから、シャキッとせねば。
「こ、こんに」
「ご注文はー?」
ダメだ、対人能力が死滅している陰キャの僕では、定食屋の店主に押し負けてしまう。
ここはただ、相手に従うことにしよう。
「ス、ステーキ定食──」
注文をしようとして、僕は迷った。
そうだ、火加減を決めていない。
ミディアムか、レアか……。
いや、せっかく僕の記念すべき新生活を飾る一食なのだ。
ここは普段は絶対に選ばない選択……すなわち、ウェルダンにしてみよう。
「──弱火で、じっくり」
「あいよー!」
「お客さん、奥の部屋へどうぞー」
「はえっ?」
お、奥の部屋?
いや、でも、普通に席空いてるんだけど……。
なんて、コミュ障の僕が言える訳もなく、店員のお姉さんに連れられて、謎の個室へと案内されてしまった。
随分と用意がいいようで、既に鉄板の上にステーキが乗っている。
ぐぅ。困惑しっぱなしだが、腹は正直だ。
僕は、椅子に座ってステーキを黙々と食べ始めた。
──その時だった。
「!?」
突然、部屋全体が下降を始める。
なんだ、何が起きている。地盤沈下?いや、そんな感じじゃない。周りの壁は、コンクリートで舗装されている。
なら、これはこの世界特有のサービスか?
ここってまさか、隠れた名店じゃなくて、SNS映えを狙った無駄の多い飲食店……?
「どこまで降りるんだ、これ」
エレベーターのように、部屋は下へ下へと降りていく。
そして遂には、僕がステーキを食べ切るより先に、最下層へと着いてしまった。
「んえ?B100……?」
出口のドアの上を見ると、とんでもない表記。
……異世界の定食屋って、凄いんだなぁ。
そんな風に呆けていると、ドアが自動で開いた。
そして視界に飛び込んでくる光景。
「えぇ……?」
人だ。人がいっぱいいた。
トンネルみたいなだだっ広い空間に、まるで年末年始の神社みたいに、人がたくさんひしめき合っている。
もしかして全員、僕と同じメニューを頼んだ客なのか……?
「デ、デスゲームでもさせられるのかな……」
どいつもこいつも、なんだかとても怖い顔をしている。
僕は残りのステーキを口に詰め込んで、恐る恐る部屋から出た。
すると、なにやら変な頭の形をした人間?がこちらに駆け寄ってくる。
「ようこそ、こちら番号札です!」
「は、はぁ……どうも」
なんだこれは。会計用の札?もしくは、ここから体験型アトラクションでも始まるのか?
困惑する僕を他所に、『238』と数字の書かれた札を渡した変な頭の人は、どこかへ歩き去ってしまった。
と、そんな僕の肩を、誰かが叩く。
「よう、嬢ちゃん。オレはトンパ。よろしく」
「うぇっ、あぁっ、えと、僕はシェノン……って言います。よ、よろしく……?」
振り返った先に居たのは、ずんぐりむっくりとしたおじさんだった。気さくな笑みを浮かべている。
「君、新顔だろ?ほら、これ。お近付きの印に、一本どうぞ。飲みな、喉乾いてんだろ?」
「あ、ありがとうございます」
トンパから缶ジュースを受け取った僕は、ちょうど喉も乾いていたので、プルタブを開けてそのまま中身をイッキする。うーん、温い。が、甘くてそこそこ美味い。
「も、もう一本持ってたりしません?ちょっと飲み足りなくて……」
「え?あ、あぁ。もちろんいいぜ。ほら」
優しそうなのでダメ元で聞いてみると、快くもう一本提供してくれた。またイッキする。ここ数日、そういえば水もご飯もろくに口にしていなかった。もう少し欲しいかもしれない。
「あ、あと三本くらい……」
「……よ、よく飲むね……」
イッキ。イッキ。またイッキ。
そこまで行って、ようやく喉の渇きが収まった。
僕はトンパに例を言って、手頃な壁に寄りかかる。
お腹が落ち着いたので、ちょっと食休みだ。
「ふぅ。落ち着いたら、眠たくなってきちゃったな」
目蓋が重くなっていく。
意識が彼方へ飛んでいくのに、そう時間は掛からなかった。