天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~   作:あじのふらい

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1-13 準備

「最低限必要になるのは錫杖と聖魔法の陣と……」

 

「神楽殿に水も張らないといけませんよね?」

 

「はい。聖水を床一面に薄く張りますね」

 

どういう感じで儀式をしていたのかを皆に説明した後、必要なものを挙げようとしたらサヨが確認するように声をかけてくれた。

出仕してから初めてあった儀式だったサヨがどの程度覚えているかは分からないとは思っていたけど、ちゃんと覚えていそうだった。

 

「聖水ですか……私も作ることはできますが、床一面となるとある程度量が必要ですよね?」

 

「毎年儀式の日の少し前から巫女総出で作っておく程度の量は必要になります……」

 

そう、問題はそこなのだ。

舞を舞う神楽殿は床に薄く水……もとい聖水を張っている。

聖魔法を用いて水に治癒の聖魔法の効果を少し持たせたものが聖水だ。

1回の聖魔法で作れる量自体はそんなに多くなくて、小瓶くらいの量の水を聖水に変える形になる。

聖水を作ってしまえばかけられた聖魔法の効果が切れるなんていうこともないから、神社では毎日巫女たちで少しずつ作り貯めて、作ったものを村にまとめて渡していた。

それで治療院に貯蔵したり、各家に数個ずつ分配したりしていたはずだ。

儀式の前になると総出で聖水作りの作業をする日があるくらいには量が必要になる。

聖水を作るのは普通の治癒の聖魔法よりも難しいから、治癒を練習中だったサヨにはまだ難しいだろう。

少なくとも、治癒を成功したという話も聞いてない。

そうなると私とシルヴィアさんの2人で作ることになるんだけど……

 

「一応確認しますが……サヨさんは聖水を作れますか?」

 

「ごめんなさい……私が巫女になって1週間であんなことになったので、聖魔法はまだ……」

 

「あぁ、いえ。責めているわけではありませんので、お気になさらないでください。そうなると私とミコトさんで聖水を用意することになりますが……ミコトさんがやらなければならない準備は他にはありますか?」

 

「聖魔法の陣は私以外に覚えている者はいないと思うので、私が準備する必要があります。もともと儀式をしていた建物に刻まれていたものを記憶を頼りに再現する形になるので……」

 

「なるほど……儀式の規模を考えると陣も大規模なものでしょうし、時間もかかりそうですね。分かりました。聖水は私が主体で用意しますので、必要な量などをこの後教えていただけると助かります」

 

シルヴィアさんは迷う様子なく手伝いを申し出てくれた。

凄く助かる。

こういう準備とか慣れてたりするのだろうか。

 

「……とりあえずそういうのは後でいいから、広さとかやる場所に必要な条件、他に必要な物、神官以外ができること、どのくらいの日数がかかりそうなのかをさっさとまとめるよ。やれることはこっちでやるから」

 

「あ、はい!」

 

セシルさんが半目で睨みながら早くまとめろと促してきた。

そうだった。まとめてたはずだったのにいつの間にか細かい話をし始めちゃってた。

慌ててセシルさんの方に向き直りつつ、必要なことを洗い出す作業を再開した。

 

 

 

そんなこんなで必要なことの洗い出しから役割分担まで終わらせて、各々別れて行動を始めた。

いくつかのグループに分かれて行動を始めていて――

場所探し:私、セシルさん、ライルさん

市街地で錫杖や必要な道具集め:サヨ、シスイ、シラノさん、避難民で協力を申し出てくれた人たち

聖水制作:シルヴィアさん

酒場警備:アサヅキさん、ナギノさん

食事作りとかの脱出までの日常生活支援:探索に出ない避難民の人たち

という感じだ。

 

儀式の場所はお城の中で適切な場所を探すのがいいのではないかということになって、お城に詳しいライルさんと、地下通路の地図を探して距離とかから最適な中心位置を計算してくれるってことでセシルさん、あとは儀式に一番詳しい私といった感じだ。

場所探しが終わったら道具集めをしてくれている人たちとも協力して場所を整備して、陣を描き始めるという流れだ。

お城の見取り図は近衛騎士団の兵舎からライルさんが見つけてきてくれて、現在は場所の検討をしていた。

とりあえずってことで中心部に近い広間に入ったところで、さっきまで後ろを飛んでいたトコヨが急に目の前に飛び出してきた。

 

『さぁ再びやってきましたお城の広間! ここは前回ライルが煤塗れになった場所です! 今回は一体どんな展開が――』

 

『……なにやってるのトコヨ』

 

『何って、ミコトの気分を盛り上げようとしてるんですよ!』

 

『そ、そっか……』

 

盛り上がる、のか?

なんか前の時もやたらと飛び回って興味を惹かれたものを私にも見るように促したりしてたけど、もしかしてわざとやってる?

いつものように馬鹿やってるようにしか見えないけど、酒場とかではやってない辺りあの時の記憶で気分が沈まないように盛り上げることで元気づけようとしているのかもしれない。

だいぶ無理がある気がするけど……

まぁとりあえず無視するか。

そんな感じで私が内心でトコヨにツッコミを入れていたら、セシルさんが机に見取り図を広げて口を開いた。

 

「で? どのくらいの広さが必要なの」

 

「えぇと……錫杖を振りながら円を描くように舞うんですよ。この部屋くらいの広さであれば机などを移動させればできると思いますが、小部屋では無理ですね」

 

「床に聖水で水張らないといけないんだったか? そうなると何かしらの枠組作るなりして水が漏れないような状態にしないといけないよな」

 

「それも含めた場所の選定が必要ってこと。となると候補は大広間、ここ、謁見の間とかだいぶ限られたところになるな……」

 

セシルさんは顎に手を当てて呟きながら、隠し通路があった場所を見取り図に印をつけて、通った階段や通路の形状から予想される通路の形状を書き込み始めた。

向かっていた通路の進行方向と王都周辺の地図を結び付けて近郊にある森の方向に向かっていそうとか、詳細な予想までし始めている。

隠し通路の場所と少しだけの内部構造しか情報がなかったのにここまで分かるものなのだろうか……正直ちょっと怖い。

 

「こ、こんなに分かるものなんですか……?」

 

「分かるものなの。こいつも言ってたけど、そういう脱出路の出口は普通簡単には見つからない場所につながるもんなんだよ。簡単に見つかったら逆に王城の中枢まで一気に侵入できる警備の穴にすらなるわけだし。だから入り口はもちろん内部構造なんかも、使う本人である王族とか教えても大丈夫な信頼できる側近にしか教えない。こういう予想が立てられるようになっちゃうから。むしろこの通路の出口に木を植えて森にして隠してたんじゃないの、これ」

 

「……いや、マジですげぇなセシル」

 

セシルさんがライルさんを指で示しながら説明すると、ライルさんと私は絶句することしかできなかった。

あの堕神官が教会の通路を知っているかすら言及しなかったのはそのため、なんてボヤくように続けている。

そこまでのものなのか……シルヴィアさんの話も含めて、私は全く理解できてなかった。

この反応の感じからしてライルさんもそうなんだろう。

確かに言われてみれば、セシルさんの言う通り平原のど真ん中にある王都の周辺で唯一森がある方向に向かって通路は伸びていたと思う。

通路の半ばまでしか進んでなかったけど、緩やかなカーブはあっても曲がり角や分岐路とかはなかった。

さっきの説明と併せて、そのまままっすぐ伸びていたらそこにつながるだろうという推測も納得できてしまう。

 

「でも、もし本当に森に繋がっているなら……」

 

「そ。竜の目を掻い潜ることができる可能性が高い。少なくとも、哨戒範囲から出るまでは森に隠れながら進めるかもしれない」

 

「ならやっぱり、ミコトができる儀式で地下通路のアンデッドを浄化できるかが鍵だな」

 

「本当に地上からあの大量のアンデッドを浄化できるなら、だけどね。できるんでしょ?」

 

「は、はい!」

 

『ミコト……そこはつっかえずに自信をもって答えないとだめですよ……』

 

『……う、うるさいな……仕方ないでしょ。私だってよく知らないんだし』

 

できるといったのはトコヨであって、私は本当にできるのかを知らないんだから仕方ないじゃないか。

私が内心でトコヨに文句を言っていると、セシルさんから色々と確認が入った。

山の麓まで効果があったけど山はどのくらいの規模だったのかとか、視覚的な影響はどの程度出る可能性があるのかとか、場所を選定するための細かい質問。

そこからなるべく広範囲の地下通路を範囲に収められるようにといった感じで候補を導き出していった。

最終的に、通路になるべく近く、かつ竜に視覚的な影響が少しでも気づかれづらくするために、1階の大広間が儀式を行うのに最も適しているということになった。

 

 

 

「おかえりなさい! ミコト様!」

 

「ちょ、サヨ、飛びついたら危ないですよ」

 

場所の選定も一区切りついて地下酒場に戻ってくると、既に戻ってきていたらしいサヨに抱き着かれた。

元気になって以前のような快活さが戻ってきているのは嬉しいとは思うけど、飛びつかれるのは結構危ない。

私も力がそんなにあるわけじゃないし。

 

「ミコト様、錫杖の代わりにできそうな杖は見つけたんですけど、確認してもらってもいいですか?」

 

「本当ですか?」

 

サヨに促されて酒場の机の上に置かれていた先端部分に装飾が付いている杖を確認していく。

杖の大部分が木でできていて、先端部分に金属で装飾が施されている綺麗な杖だった。

……お金になりそうな杖だけど、よくこれが残ってたな。

元の持ち主は避難の時にもっていかなかったのだろうか。

 

「……おそらく大丈夫だと思います。それにしても、こんな杖よく見つけましたね」

 

「地元の方が武器を扱っていた商店があった場所を教えてくださって、順番に回って見つけました。使えそうならよかったです!」

 

サヨが笑顔を浮かべながら少しだけ胸を張った。

本当に無理はしてなさそうだし、少し持ち直したのかもしれない。よかった。

サヨとそんなやり取りをしていたら、シルヴィアさんも近づいてきた。

 

「ミコトさん、場所の選定は……」

 

「セシルさんたちと話し合って、お城の大広間でやることにしました。見取り図はセシルさんが」

 

「助かります。サヨさんに儀式の様子を詳しくお聞きして聖水を床に張るための方法を考えていたのですが、大がかりな枠組みを作って水漏れを防ぐ必要がありそうだと思っていたので」

 

「そのあたりは俺らも手伝う。サヨも必要な規模は分かるんだよな? ミコトは陣とか聖水とかやることがあるって聞いてるし、木枠なりを作る話し合いにサヨも参加してくれるか」

 

「は、はい!」

 

ライルさんがサヨに声をかけると、サヨも勢いよく返事をしてライルさんの方に向き直った。

サヨがいてくれてすごく助かったかもしれない。

私以外にも儀式を最低限でも知っている人がいてくれるだけで、必要な時間が大幅に短縮できる。

これなら、木枠を作るのはサヨに監督を任せてもいいかもしれない。

神楽殿の大きさや聖水をどのように張っていたかを知っているサヨなら、規模感は完璧に把握してくれているだろう。

シスイたちも規模は分かるだろうけど聖水を張る準備とかには一切かかわっていないし、神楽殿は少し位置が高くなっていたから、下で祈っていた村の人たちだとどんな感じだったのかとかまでは分からないだろうし。

 

「それと、一応私が作った聖水で儀式的に問題がないかをミコトさんに確認してもらいたいのですが」

 

「はい、見せてください」

 

シルヴィアさんに促されるようにしてある程度作り貯めてくれている聖水を確認する。

出来は完璧と言って差し支えない。

聖魔法の効力は信仰心に依存するから、これほどの出来の聖水を作ることができるシルヴィアさんの信仰心は推して知るべしというようなものだった。

 

「完璧です。ありがとうございます」

 

「それならよかったです。では私はこのまま作り続けますね」

 

「お願いします。私も陣の構造をメモとして描き起こしたら聖水製作に合流しますので」

 

木枠ができて場所が完全に定まるまでは陣を刻むことはできないから、その準備だけしておいて私も聖水製作に合流すればある程度時間を短縮できるだろう。

 

「そうしていただけると助かります。サヨさんたちが街に出た際に聖水も探してくれたらしいのですが、見つからなかったそうで……」

 

「……! サヨ、そんなことまで……」

 

言われてみれば、既に完成している聖水を見つけることができれば手順は短縮できた。

見つからなかったとはいえ、サヨがそこまで気づいて気をまわしてくれていたことが嬉しかった。

サヨがいる方を振り返ると、ライルさんたちがしている話し合いに積極的に混ざってくれていた。

 

『よかったですね、ミコト。完全にとは言えないと思いますけど、サヨも前を向いてくれたみたいで』

 

『……うん!』

 

サヨ以外にも、避難民の人たちも活発に動いてくれていた。

それだけ、この閉塞的な状況を打開できるかもしれないという希望は大きいのかもしれない。

それを目の当たりにすると、気を引き締めないといけないと思うと同時に、久しぶりに気分が高揚してきている気がした。

そんな感情を抱えながら、トコヨに内心で声をかけて陣を思い出しながらメモに描き起こす作業を始めた。

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