天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~ 作:あじのふらい
この集落に来て数日が経った。
ここ数日でやったことはそんなに多くはない。
日課のお祈りとかは自室でやってるけど、他となると身体を休めるのと集落に慣れるために見て回ったりしていたくらいだ。
とはいえ、一応私はクロードさんと神社再建のための話し合いとかは続けてはいる。
今日は元締め邸で神社再建のためにどんな建物が必要かとかの話をしてきた。
なんでも、少し住居に余裕が出来るまで増築が済んだら神社も建ててくれるらしい。
お金も必要ないから安心してほしいとまで言われてしまった。
本当に全面的に再建の支援をしてくれていて恐縮してしまうばかりだ。
シスイ達同郷の他の人はというと……
サヨは神社再建の話し合いがないくらいで私と似たような生活。
フリッカに連れ回されている姿をよく見かける。
シスイはクロードさんから周辺に出没した魔物の討伐依頼を受けて報酬をもらったりしているらしい。
シラノさんたち3人はクロードさんに職の斡旋を求めたらしく、大工の親方さんの部下として働いていると聞いた。
住居建造に目途が付いたら、神社の設計とかは彼らと親方さんでやってくれるとクロードさんが教えてくれた。
そんなこんなで今日の話し合いが終わって元締め邸を出て、広場で商店の店主さんと巫女服のことを相談という体で話していたりしていたんだけど……
「あの……ライルさん、大丈夫ですか……?」
「……ん……?……あぁ、ミコトか……」
商店から出ると同時に、広場に設置されている簡易的な椅子に座ってすごく暗い雰囲気を纏っているライルさんを発見して、思わず声をかけてしまった。
重いため息も吐いていたし、何か悩んでいるのだろうか。
「どうかしたんですか……? すごく深刻そうな感じでしたけど……」
「あー、いや。違うんだ。そんな深刻なことではないっちゃないんだが……すまん、心配させちまったな」
「いえ、私は全然いいんですけど……何かあったんですか?」
私がそう問いかけると、ライルさんは俯いてしばらく考え込んだ後に、ゆっくりと顔を挙げた。
「……今日はシスイと魔物討伐をしてたんだが、終わって戻ってきたらちょうどシルヴィアと鉢合わせてな。で、まぁ……食事でもどうかって誘おうかと思ったんだが……」
彼は歯切れが悪い様子でそこまで言うと、静かに左手側を指で示した。
そっちには……
「クロード様の御用事はこれで終わりですか? それなら、教会と治療院の運営状況の報告や今後のことをご相談させていただきたいので、少しお時間をよろしいでしょうか! できれば、私に紅茶なども淹れさせていただけると落ち着いてお話ができると思うのですが……」
「あぁ、必要な話は済んだから、元締め邸で話そう。紅茶は……それでは、ありがたくいただこうか」
明らかに高揚感に満ちたシルヴィアさんが、クロードさんに話しかけていた。
紅茶もお願いされたシルヴィアさんは幸せの絶頂とでも言うかのように満面の笑みを振り撒いている。
なる、ほど……?
さっきのライルさんの情報と併せると……
『ソルミア王国にいた時から思ってましたけど、もしかしなくてもライルってシルヴィアのことが好きなんじゃないですか?』
『好き……?』
『えぇ。恋愛的な意味で。今の落ち込みようからしても多分間違いないと思いますけど』
『な、なる、ほど……?』
トコヨに言われて、改めて考えなおすと確かにと思わなくもない。
だけど、恋愛というのがあまりにも自分と縁遠すぎてあまり想像できない。
それでこんなに落ち込むものなのだろうか。
私なんかは、アメノの血を家訓的に残さないといけないからいずれ誰かと結婚しなければいけないとは思ってはいたけど、それはお母さんが結婚相手を選んで連れてくるという感じで考えていたし……
『そういうものなんですよ。恋愛って奥が深いんです。ミコトもいずれそういう気持ちが分かるようになりますよ』
『……なんか、子供扱いしてない?』
『そりゃあ、私からしたらミコトなんて赤子と変わらない程度の年齢ですし。なんだったら赤ん坊のころのミコトも知ってますよ、私は』
『それはそうだけどさぁ……』
幽霊のトコヨに文句を言ったところで、なんの意味もなかった。
おちゃらけ過ぎてるから分かりづらいけど、いつの時代の巫女かも分からないほど昔の幽霊だろうし。
『まぁいいじゃないですか。ほら、ライルが落ち込んでますし、相談にでも乗ってあげたらどうですか? ミコトの見識も広がると思いますし』
『……悩んでるのを放っておくのは気が引けるからそうするつもりではあったけど……』
特に異論はないし、とりあえずその方向でライルさんに聞いてみるか。
「あの、ライルさん。よかったら相談に乗りましょうか? 一人で抱え込んでいても暗くなるばかりですし」
「……相談、ね。……ミコトがいいなら、そうさせてもらうかな。女性から見た意見も欲しかったのは確かだ」
ライルさんはしばらく考え込んだ後にそう返答してきた。
私も女だ。参考になる意見が言えるかは分からないけど、ソルミア王国で沢山お世話になったライルさんのためだ。
役に立てるように頑張ろう。
その後はどこで話すかを簡単に決めて、私たちの集合住宅の共有スペースで相談を聞くことになった。
さっきの感じならシルヴィアさんもしばらく帰ってこないだろうし、多分大丈夫だろう。
ライルさんに共有スペースで備え置きされているお茶を出してからじっくりと話を聞いてみた。
端的に言うと、トコヨの言っていたことで正解だったらしい。
隊長さんに命令されて王都を出た直後に陥落したのが見えてしまって、失意の中でこの集落まで旅をしていたけど、その実情は死に場所を探す旅に近かったとかなんとか。
後先を考えない行軍を続けて、ここにつく頃には全身傷だらけで死にかけの状態だったらしい。
そんなところをシルヴィアさんに発見されて、献身的な治癒を受けて、彼女の容姿と相まってあまりの清廉潔白さ、必死さに心を打たれてしまって惚れたと、すべての経緯を包み隠さずに話してくれた。
「あとはミコトたちも知ってる通りだよ。帰ってきてから遠回しにアプローチかけてみたりしてるんだが、毎度毎度何かしらあってあぁなっちまうんだ」
「な、なるほど……」
「それでまぁ、相談したいことは……どうしたら振り向いてもらえるか、ってところか。クロードさんにべた惚れしてんのは見てれば分かるんだが、どうにかこう……少しでもいいから気にしてもらえねぇかなぁと……」
なんというか、タイミングが悪いというか運が悪いというか……
私と話してる時のシルヴィアさんはいつもの優しくて穏やかな感じだし、クロードさんが関わらない限りあぁなってるところは見たことがない。
つまり毎回毎回クロードさんが近くにいるとか、クロードさんのところに向かう途中のシルヴィアさんにアプローチをかけようとしてることになるわけだ。
でもどうしたらいいんだろうか。
ライルさん自身がしようとしていた食事に誘ってみるとかは普通にありだと思うんだけどな。
この前のお礼とでも言えば、人の気持ちを無下にすることはないであろうシルヴィアさんは絶対に断らないと思うし。
「食事に誘おうとしていたって言ってましたけど、それは伝えること自体はできたんですか?」
「……いや、伝える前にクロードさんが通りがかっちまった」
「会話はできるんですし、普通に食事に誘う形はだめなんですか……? シルヴィアさんなら断ることはないと思いますけど」
「……躊躇してたりして、決心して誘ってみようってなると、大体あぁなる」
な、なるほど……つまりまだ誘うこと自体できていないと……
でもこんなの誘っちゃえばそれで終わりじゃないだろうか。
一緒に食事をして、会話を上手い具合に広げて、それで次また一緒に何かをするなり何かに誘うなりする約束を取り付けておくとか……
そう思いはするけど、躊躇しちゃって誘うこと自体出来ていない現状のライルさんにこれをそのまま言うのはちょっと微妙そうな気もする。
『これはアレですね。所謂——』
「——ヘタレ」
「へ?」
トコヨがおそらく酷いことを言おうとした瞬間に、その言葉を引き継ぐかのような呟きが背後から聞こえた。
この声は間違いなくセシルさんでしかないんだけど……と思いながら振り返ると案の定セシルさんが通りがかるところだった。
部屋から出てきていたらしい。出かけるのだろうか。
「~~~~っ……なにも、なにも言い返せねぇっ……!!」
「せ、セシルさんっ……!」
「……なにさ。別に間違ったことは言ってないでしょ」
ライルさんが俯いて唸ってしまうのを見て、思わずセシルさんに抗議してしまう。
セシルさんは私の抗議を受けても素知らぬ顔で当然のことを言っただけみたいな雰囲気を醸し出していた。
状況が悪化しているっ……!!
どうすればいいんだこんなの。
私の対人経験の経験値でどうにかできることじゃない。
トコヨは茶化してはくるけど案を出さない辺り頼りにならなそうだし……
……そうだ!!
「セシルさん!! セシルさんはどんな方法があると思いますか!? ライルさんがシルヴィアさんと今よりも仲良くなるには!」
「はぁ? なんで私が——」
「お願いします……! 私では経験がないせいでいいアドバイスをしてあげられないんです……!!」
「……なんでそれで相談受けようと思ったんだこのお人好し箱入り娘は……」
ボソッと何かを言われたけど、それでもこれ以外にいい方法が思いつかない。
お願いだから助けて欲しいとセシルさんを見上げるような形で懇願してしまう。
「……はぁ……洗礼でもしてもらえばいいんじゃないの」
しばらく見つめあう形になった結果折れてくれたらしく、セシルさんは重いため息を吐いてから端的にそう続けた。
洗礼ってなんだ。
ライルさんの方を振り返ると、ライルさんはライルさんで考え込んでいる。
でもこの感じは洗礼が分かってないとかではなさそう。
「洗礼って……あの洗礼か?」
「他にどの洗礼があるのさ。あの堕神官、普段はあんなんだけど胸に世界樹のブローチつけてる高位神官候補でしょ。洗礼もできないわけないだろうし、あの城で言ってたあんたの悩んでたことを告白して洗礼してもらえばいいでしょ。その後はあんた自身でなんとかしろ。2人きりになる時間自体は確実に作れるだろうし」
「……なるほど。それは、確かにいけそうか」
ライルさんはそれで納得したらしい。
この感じだと、洗礼っていうのは教会の聖魔法とか儀式絡みの何かだろうか。
ライルさんの反応を見たセシルさんは、必要なことは言ったとばかりにすたすたと玄関の方に歩いていこうとしている。
「よし……よし、それでいこう。ありがとな!! セシル!! ミコト!! それでシルヴィアに相談してみるよ!」
「い、いえ。私は全然お役に立てませんでしたし……」
『……ミコトが頼み込まなかったらセシルは無視してたと思いますし、だいぶ貢献したと思いますけど……』
私が恐縮する一方で、セシルさんは一瞥すらせずに無言で玄関から出て行ってしまった。
とりあえず、これで一件落着、なのだろうか。
洗礼というのがなんなのか気になるから、シルヴィアさんに後で聞いてみるか。
出来れば、遠目にでもいいから見学とかさせてもらえないだろうか。
そんなことがあった数日後、私は教会に来ていた。
ライルさんは無事シルヴィアさんに相談出来たらしく、洗礼をしてもらえることになったらしい。
あの日の夜に、帰ってきたシルヴィアさんに洗礼について質問した。
洗礼というのは、なんでも教会で行われる魂の浄化の儀式のことらしい。
7つの大罪で汚染された魂を浄化する、浄化以上私の儀式未満の高難度の聖魔法だと教えてもらった。
そんな洗礼をいつでもいいから見学させて欲しいということを伝えておいたら、ライルさんにやる時に隠れた状態で遠目になら見学してもいいという話になった。
洗礼をする時は懺悔……自分の後悔や犯してしまった罪の告白もセットが基本だから、すぐそばで見学というのはダメらしい。
まぁこれに関してはライルさんのもともとの目的もあるからすぐそばで見学なんてさせてもらうつもりはなかったから問題ない。
シルヴィアさん的には、私も神官みたいなものだし、ちょうどフリッカに勉強がてら遠目に見学はさせるつもりだったらしく一緒に見学させてもらえることになった。
ライルさんにも話は通してくれているらしい。
新人神官、つまり助祭の子が、その教会の司教とかが洗礼をやるのを会話も聞こえないくらい遠目に見学するのはよくあることなのだとかなんとか。
そんな経緯があって私は、フリッカと一緒に教会の一室の内窓から聖堂の方を覗いていた。
フリッカは尻尾をブンブン振って興奮気味になっているのがよく分かる感じだった。
そんなに興奮することなのだろうか。
「楽しそうですね、フリッカ」
「はいっ! ずっと見たかったんです! 先輩の洗礼!」
「フリッカも見たことが無いんですか?」
「私がこの教会に配属されたの自体最近でしたから! そもそも洗礼って年に数回、たくさんの人にまとめてでしかやらないことなんですよ!」
なるほど。そういうことなら確かにそうなるのか。
シルヴィアさんもソルミア王国に遠征して不在にしていた期間もあるし、納得納得。
「なんで年に数回しかやらないんですか?」
「うーん……なんて言えばいいですかね。洗礼って、すっご~~~~~く難しいんですよ。私じゃ絶対失敗しちゃいます。そのせいで、失敗すると教会の威信にかかわる~とかで、許可がないと人に使っちゃダメって制限してるんですよね。大体どこの街も司教様とかがやらないといけなくなっちゃうんです。そのせいでそんなに沢山できないらしいんですよね」
「制限ですか?……あれ、そもそもシルヴィアさんって司祭ではなかったでしたっけ……?」
私がそう言った瞬間、フリッカがさらに目を輝かせた。
尻尾がさらにブンブンと振られていて、耳までピコピコ動いている。
「そう! そこが先輩のすごいところなんです!! 洗礼を行使していいのは聖心の証を持っている神官だけなんです!」
「聖心の証、ですか?」
「はい! 先輩がいつも胸元に付けてるブローチがそうです! あれって聖心考査っていうすっごく難しい試験に受からないともらえなくて、あれを持ってないと司教様以上にはなれないんです!」
もしかしなくてもここがフリッカのシルヴィアさん尊敬ポイントなのかな。
なんか勢いが凄い。
「聖心考査って教皇猊下や枢機卿様、大司教様の前で洗礼を含めた一通りの聖魔法を完璧に行使できるかを評価されるんですよ! 司祭様が何年もかけて受かるような試験なんです! それなのに先輩は……! 助祭になってから1年もせずに! 1回で受かっちゃったんです!! だから私、先輩のことすごくすごく尊敬しててっ……!!」
「ふ、フリッカ、落ち着いて」
勢いが凄すぎて少し怖い。
目を輝かせたまま鼻息荒く距離まで詰めてきてるし。
それだけシルヴィアさんがすごいのと、フリッカがそのことで尊敬しているのとって感じなんだろうけど。
つまり話を要約すると、司教になるのに必要なすごく難しい試験に助祭の時に1回で合格したすごい人ってことなんだろう。
こうまとめるとフリッカがシルヴィアさんを尊敬してやまない理由もすごくよく分かる。
……というか話をまとめると、シルヴィアさんは既に司教候補になっている?
ソルミア王国で聞いたシルヴィアさんの説明と今のフリッカの話を併せると絶対的にあり得ないスピード出世だ。
普通なら助祭である程度の年数の経験を積んで、さらに司祭になってから何年もかけて何回も何回も試験に挑戦して司教になる資格を得るってことだろうし。
それを16歳のシルヴィアさんが既に満たしている?
なにそれ怖い。
「ご、ごめんなさい。でも、とにかく先輩はすごいってことです!」
「シルヴィアさんのすごさも、フリッカがシルヴィアさんをすごく尊敬してるのも、すごくよく分かったよ……うん」
「そ、それほどでも……あ! でも私、ミコトさんもすごいと思ってますよ! 先輩からソルミア王国でミコトさんがやった儀式についても聞きましたし! サヨがミコトさんのすごい所を沢山お話してくれます!」
「えっ……さ、サヨ変な事言ってなかった? 大丈夫?」
「? えぇ。サヨはとにかくミコト様はすごい! って感じでしたし、褒め倒しでしたよ?」
「そ、そっか……ならよかった」
集落ではそもそもあまり他人と接する機会がなかったけど、自分の噂話をされるというのは流石に気になるしムズムズする。
変なことを言われていないならよかった。
そんな話をしていたら、聖堂から淡い光が漏れ出してきた。
いつの間にか懺悔は順調に終わって、洗礼に移ったらしい。
万が一にも懺悔が聞こえないように声を潜めながら会話を続けていたけど、もう必要ないかな。
『それでは、自らの悔い、過ちを思い浮かべてください。ただ静かに、落ち着いて自らを見つめ返すのです』
耳を澄ませると、かすかにシルヴィアさんの声が聞こえる。
ライルさんはシルヴィアさんの前に跪いて、静かに目を閉じていた。
少しすると、シルヴィアさんとライルさんを中心に、大きな聖魔法の陣が広がった。
温かい光が辺りを満たしている。
『皆人は主の目を逃れること敵わず、主の手が届かぬ者はいない。驕りは高き塔を崩し、強欲は富を荒野に変え————』
シルヴィアさんが静かに言葉を紡いでいくとともに、周囲を満たす光は輝きを増していく。
私の儀式と、似たような雰囲気を感じなくもない。
そんな荘厳な雰囲気の聖魔法だった。
『——偽るなかれ。その心を見据えるは主の御心。憐れみを。淀んだ魂魄を癒すは主の奇跡。悔い改めよ。罪深き魂に主の祝福を』
その言葉と同時に、周囲を満たしていた光がライルさんの周囲に集まっていき、一際強い輝きを放った。
そんな洗礼が終わって少し時間を置いてから教会を出た。
フリッカは治療院の方でもう少し聖水のストックを増やすって言っていたから教会で別れた。
シルヴィアさんとライルさんが一緒に教会から出たのも確認したし、大丈夫だろうと踏んでの判断だったんだけど……
教会から出て少し歩いたところで、見覚えがありすぎる長身の男性がどんよりとした空気を纏っているのを見つけてしまった。
「えっと……どうしたんですか、ライルさん」
「……あぁ……ミコトか……」
なんかすごく見覚えがある感じだ。
2人で一緒に教会を出ていたし、上手く行ったんだろうと思ったのにどういうことだと思ったら、割とすぐ近くにクロードさんと話しているシルヴィアさんの姿が見えてしまった。
……ライルさん、本当に運がないな。
「な、なるほど……理解はしました。…………元気出してください! ライルさん! きっといいことありますよ! きっと!」
『ミコト、流石にその無理矢理な励ましは無理があります……』
『トコヨうるさい!』
だってこんなのどう励ませばいいんだ。
トコヨも茶化すだけじゃなくてちゃんと助言してから軽口を叩いてほしい。
トコヨと内心で言い争いをしてると、話を終えたらしいシルヴィアさんが近づいてきていた。
「あぁ、ミコトさん。洗礼の見学は大丈夫でしたか? フリッカが騒ぎすぎたりとかは……」
「とても有意義でした。ありがとうございます。フリッカは……まぁ、大丈夫な範囲でしたよ。クロードさんの方はもう大丈夫なんですか?」
「はい。先日相談した今後の方針に関して、クロード様側からの返答があっただけなので」
それならよかった。
これでライルさんも心置きなくシルヴィアさんを食事にでも誘えるだろう。
そう思ったんだけど……ライルさんは、固まっていた。
何かを言おうとしてるのは分かるんだけど、考えのドツボにでも嵌ってるのか実際の言葉として出てきてはいなかった。
『……言葉は悪いですけど、不器用というか、セシルの言う通りヘタレですよね』
『トコヨ本当にだまってて』
本当にうるさい駄幽霊だ。
ライルさんにはお世話になったし、力になってあげたい。
シルヴィアさんに強制しない範囲で、ライルさんにとっても嬉しいであろう内容となると……
そうだ!
「あの、シルヴィアさん、今日ライルさんを夕食に招待しませんか?」
「夕食にですか? 私は構いませんが……」
シルヴィアさんの表情が、急にどうしてそんな提案をするのかという疑問で満たされているのがすごくよく伝わってくる感じになっていた。
「えっと……シルヴィアさんがクロードさんとお話ししてる間に少し話していたのですが、やはりソルミア王国での一件がライルさんにとって精神的な負担が大きかったみたいで、疲れているみたいなんです。なので、普段と違う食事をして、気分一新のお手伝いができないかなと思いまして……シルヴィアさんがいつも作ってくださる料理、とっても美味しいですし。もちろん、シルヴィアさんがよければですけど……」
「あぁ、そういうことですか。構いませんよ。ぜひご招待しましょう。ライルさん、いかがでしょうか」
よ、よかった。
シルヴィアさんは何の疑いもなくにこやかに了承してくれた。
集合住宅では、シルヴィアさんとフリッカがまとめて料理を作ってくれることが多い。
この料理がすごく美味しいのだ。
好きな人の手料理を食べられるならライルさんも嬉しいのではないだろうかと思っての提案だった。
ライルさん的にどうだろうと思ってそちらを見ると、歓喜に満ちた表情を浮かべて、シルヴィアさんの問いかけに何度も頷いていた。
正解だったっぽいかな。本当によかった。
「ふふっ。そういうことでしたら、この後少しお話を聞こうかと思っていましたけど夜で大丈夫そうですね。私は一度教会に戻りますので、また夜に」
「あ、あぁ! 洗礼、わざわざありがとな!」
ライルさんのお礼に、シルヴィアさんは綺麗な笑顔を浮かべて小さく手を振りながら教会に戻っていった。
それと同時に、ライルさんがゆっくりとこっちを振り返った。
「ミコト……本当に、本当に、ありがとうっ……!!」
「……いえいえ、お役に立てたなら良かったです」
……シルヴィアさん、ちゃんとアフターケア考えてたみたいだから、手料理と2人でじっくりお話ライルさん的にはどっちがよかったのかななんて思ったけど、この感じだと手料理はポイントが相当高かったらしい。
ライルさんが喜んでくれたならこれでいいかな、うん。
そう思って、私もライルさんと一度別れて帰宅の途に着いた。