天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~ 作:あじのふらい
「具体的でなくても大丈夫ですが、行きたいところなどはありますか? 特になければ私がいいと思う場所を案内していきますけど」
シスイとライルさんと合流してから、すぐにシルヴィアさんがそう切り出した。
シルヴィアさんは聖都出身だって言ってたし、それくらいこの街を熟知してるってことなんだろう。
行きたいところ……そう言われると思いつかないな。
「俺は特に希望はないです」
「うーん……お、そうだ。武器屋とかあるか? あの集落じゃまだ鍛冶屋も武具屋もないからなぁ」
「あぁ、それなら正門のあたりにありますよ。聖堂騎士団の方々や旅の方がよく利用していたはずなので規模も十分かと。後ほどご案内しますね」
『串焼き!! 私は串焼きが食べたいです!!』
……まだ諦めてなかったらしい。
さっき観光するときにって言った手前拒否も出来ない。
早く意見を伝えろと言わんばかりに私の周りをすごい勢いで飛び回りながら『くっしやき! くっしやき!』とか言い続けている。
なんだこの駄幽霊。
ライルさんとシルヴィアさんの会話的にさっき行ったあたりには行くだろうし、わざわざ行きたいと言わなくても近くを通った時に食べてみたいとでも言えばいいだろうか。
シルヴィアさんも、あとは私の希望があるかどうかを待ってくれているという感じだった。
見たいところ……あ、そうだ。
「あの、セシルさんにお土産を買って帰る約束をしたんです。なので、お土産に出来そうなものとか、本とかを色々見て回りたいです」
「ふふ、もちろん大丈夫ですよ。私がよく行っていた書店もありますし、よさそうなところを案内しますね」
私の希望に、シルヴィアさんも笑顔で頷いてくれた。
シルヴィアさんの行きつけなら問題なさそうな気がするし、私も安心だ。
そんなことを考えていたら、私の目の前にトコヨが回り込んできた。
『……み、ミコトー? 串焼き……串焼きは……』
『正門の方に行くって言ってたから、その時にね。忘れてないから大丈夫だよ』
『それならよしとしましょう! ふふふ……楽しみですねぇ』
トコヨの表情が不安そうな表情から締まりのない顔へとせわしなく変わっていく。
相変わらずお気楽というか子供っぽいというか、こっちの気が抜けてしまう感じだ。
「今まで通ってきたこの通りが中央通りです。来るときも歩いてきたところなので雰囲気は分かりますよね?」
「おう。門の周辺の方が賑やかな感じで奥にいくにつれて静かになる感じだよな」
シルヴィアさんが簡単に説明しながら案内してくれるのについていく。
来た時と同じように、奥の方、つまり大聖堂に近づくにつれて静かな雰囲気の穏やかな街になっていく。
さっきとか鐘が鳴ると同時に周囲の人が一斉にお祈りし始めたからびっくりした。
シルヴィアさん曰く、鐘自体はただの時報の鐘でしかないけど、聖都に住む信徒の慣習として時報の鐘に合わせて祈るというのがあるらしい。
ご自分の祈り方でいいのでご一緒にって言われたのもあって、私も普通に巫女としてのやり方でオリツキ様へのお祈りをしておいた。
シスイは私と、ライルさんはシルヴィアさんと同じように祈っていた。
今はそんな皆が皆信徒といった雰囲気の場所を抜けて、正門付近に戻ってきていた。
「先ほども説明した通り、正門付近は旅の方などが利用しやすい場所となっています。旅の休息や観光目的ならこの辺りを、聖地巡礼目的で来たならば大聖堂周辺を見て回った方がいいですね。ですので、今日は正門付近を重点的に回りましょう」
「はい!」
この辺りも故郷の村や神社とも世界樹の麓の集落とも全然違う。
見て回るだけでも楽しそうだ。
人混みにはなれないけど、こういう雰囲気を知っておくのもいいと思う。
「ミコトは大聖堂で数日過ごすんだろ? 俺たちは俺たちで明日以降に適当に大聖堂なりを勝手に見て回るから特に異論はないな。だろ、シスイ」
「はい。俺たちのことは気にしないでもらって大丈夫です」
2人も同意してくれてそういう方針になった。
正門から入ってすぐの広場の噴水みたいなモニュメントの説明を受けてから、周囲のいくつかのお店を見て回った。
うん、やっぱり故郷の村とは全然違う。
全部村の人たちや巫女の手作りで賄われていたから仕方ない部分ではあるんだけど。
世界樹の麓の集落でも故郷だと考えられないほど出来がいい縫製の衣服とかを扱っててびっくりしたけど、ここはそれ以上だった。
そんな感じで見ていって、多分ライルさんの目的のお店だろうなぁという場所に案内された。
うん、流石にこれはすぐに分かる。
騎士の人の甲冑の見本みたいなのが沢山置かれてるのが店の外からも見えたし。
ライルさんもそれに気づいたのか、さっきまでより目に見えて表情が明るい。
「ここがそうか?」
「はい。ここが旅の方や若手の騎士の方がよく使っている武具店ですね」
「若手以外の騎士の方が使う場所もあるのですか?」
シルヴィアさんの説明に、シスイが不思議そうに質問する。
確かに少し気になるかも。
このお店自体もすごく広そうだけど、別の場所にもあるのか。
「騎士団がまとめて発注したりしている武具店が大聖堂の方にあるにはあるのですが……騎士甲冑などに特化しすぎていて、おそらくライルさんとシスイさんのご要望には合わないと思ったのでこちらにご案内しました」
「甲冑は……流石に俺は使わないですね。動きが遅くなってしまいますし、軽防具で十分だ」
「あーそれは確かにそうだ。俺もそうだし、そっちはダメそうだな。とりあえずここ入ってみようぜ。じゃあ悪いけど、俺らは少しの間この店物色してるぞ」
「はい、お好きなだけどうぞ」
男性2人は意気揚々とお店の中に入っていった。
心なしかシスイも少し足早に店内に入っていった気がしないでもない。
口数は少なかったけどやっぱりこういうのが好きなのだろうか。
シルヴィアさんは2人を笑顔で見送っている。
……私はどうしようかな。
正直武具にはそこまで興味がない。
最低限必要なものは既に揃えてあるし、わざわざ更新したりしないといけないものもない。
「ミコトさんは……あはは、やっぱりあまりご興味ないですよね」
「えっ……ひょ、表情に出てました?」
「いえ、そういうわけではないのですが……ミコトさんが楽しそうにしているときは、目が輝いているので。フリッカの耳と尻尾を触らせてもらっていた時とかもそうでしたし」
「あれは……その、フリッカの耳と尻尾がもふもふすぎるのがいけないと思います」
思わぬ暴露に顔が熱くなっていくのを感じる。
『あー、確かにそうですね。最近は目新しいものを見かけた時とかは大体そんな感じでしたし』
『トコヨ気付いてたなら言ってよ』
『言う必要ないと思ったんですよ。特に悪いことでもないですし、そういう時のミコト可愛いですし』
子供扱いされている感じしかしない。
そのせいで可愛いという恐らく誉め言葉と思われる言葉を言われても素直に受け取れない。
「ここで何もせずに待っているのもなんですし、近くに先程言っていたおすすめの書店があるのでそこに行きましょうか」
何も言えずにいたらシルヴィアさんはそう言って話を切り替えてくれた。
なるほど、確かにそれならいい時間潰しになるかもしれない。
そう思って納得していたら、シルヴィアさんがすぐ側まで近づいてきて耳元に顔を近づけてきた。
「あと……その書店、私がいつも小説を買っているお店なんですよ。なので、ライルさんたちがいない方がこちらとしても都合がよかったり……」
「な、なるほど……確かに、シスイたちに見られながらだと、流石にそういう本は見づらいですもんね」
シルヴィアさんが苦笑しつつ言うその言葉に、私も思わず苦笑してしまう。
確かに恋愛小説を物色しているところを、男性陣に見られるのはちょっと恥ずかしい。
シルヴィアさんなんて趣味を隠しているから特にそうだろう。
まぁ時間を潰しつつ色々な本を物色したり、セシルさん向けのお土産探しも兼ねたりすればよさそうだ。
武具店に入ってシスイたちに声をかけてから、私たちは書店に向かった。
「うーん……セシルさんが好きそうな本ってどんなのですかね……?」
「一般的な書店で売っている魔術書は……大体持ってそうですよね」
「……もしかして、セシルさん向けのお土産に本って向いてないですかね……?」
「あはは……そうかもしれないですね。何度言っても片付けようとしてくださらないあのお部屋にない本を把握すること自体至難の業ですし」
シルヴィアさんと色々と盛り上がりながら本を物色して、いくつか勉強の参考になりそうな本やシルヴィアさんに勧められた小説を選んだ。
この本屋は中古本と完成している人気作の写本を売りつつ、写本の受注生産なんていうのもしていたらしい。
見本誌が置いてあって後日完成した写本を渡すっていうのもやっているとかなんとか。
幸いにも買おうとしてたのは中古本と完成している写本だったからそのまま購入できた。
その後にセシルさん向けのお土産にできそうな本を探してみていたんだけど、大きな問題に直面してしまった。
セシルさんが持っていない本が分からないのである。
いや、まぁ、あんな本の山に埋もれる生活をしているセシルさんが持ってない本とか、私なんかが把握できているわけなかった。
少しでもセシルさんの役に立てばなんて思って、お土産に本なんてどうだろうと思った自分がいかに愚かだったかを理解させられてしまった。
『トコヨはセシルさんの持ってない本とか知ってたりは……』
『逆に聞きますけど、ミコトは私がそれを知ってると思うんですか?』
『……うん、ごめん』
呆れたような表情で逆に聞き返してきたトコヨに、謝ることしかできなかった。
あの本の山の全容とか、セシルさん本人以外把握しているはずがなかった。
うん。諦めよう!
「……本をお土産にするのは諦めようと思います!」
「そうですね、それがいいかと。被ってしまったりセシルさんのお役に立たない本だったりすると意味がないですし。後で日持ちするお菓子が売っていそうなお店にご案内しましょうか? 一月から二月くらいなら大丈夫なものが売っている場所は知っていますよ?」
「ありがとうございます……」
そうだよね、無難なのはそうなるよね。
それなら後はせめて好みに近いお菓子を……あれ。
「も、もしかして私、セシルさんの味の好みすら知らない……?」
「……それは私も知らないです。セシルさん、そういうことはお話してくださらないので」
「そうなると、どうすれば……」
なにか、なにかなかっただろうか。
セシルさんに嫌がられず、むしろ少しでもいいから喜んでもらえそうな種類のお菓子とか……
そこまで考えてようやく思い至った。
「……手が汚れない、お菓子とかですかね……? この間夕食をご一緒した時に、そういう基準で選んでいるって言ってましたし」
「あぁ、それならよさそうですね。クッキーや飴なら、書き物をしながらでも摘まめるんじゃないでしょうか」
シルヴィアさんの具体的な提案に一も二もなく頷いてしまう。
それなら研究中に小腹が空いた時にでも食べてもらえるだろうし。
「それと……私からもご相談が」
「……? なんでしょうか」
「ミコトさん! 一緒にクロード様へのお土産を選んでいただけませんか!? 私だけではどうにも無難にまとめようとしてワンパターンになってしまい!! 以前差し上げたものばかりが思い浮かんでしまうのです!! これではダメです!! ダメなんです!! ダメだと思いますよね!? クロード様につまらない女だと思われてしまうかもしれません!! あ、いえクロード様は決してそのようなお考えをする方ではないのですが、でもやはりミコトさんの新鮮な視点があればもっとクロード様に喜んでいただけるのではないかと——」
「わ、分かりました! 協力します! 喜んで協力させていただきます!」
凄まじい勢いで距離を詰めてくるシルヴィアさんの鬼気迫った表情で如何に彼女にとって重大な事案なのかが伝わってくる。
正直クロードさんならなんでも微笑んでお礼を言ってくれると思うんだけど……なんでもいいなんて言ってしまったらシルヴィアさんも怒りそうな気がする。
今日までお世話になりっぱなしだし、私も協力を求められるのは大歓迎だ。
結局そんな話になって、自分たち用に選んでおいた本だけ買って書店を後にした。
書店を物色していただけで結構な時間経っていたらしい。
シスイたちは既に伝えていた合流地点の噴水のモニュメントのところで待ってくれていた。
シスイは新しい胸当てみたいな軽防具のようなものを、ライルさんは小手のようなものを買ったみたいだ。
「お待たせしました」
「全然待ってないから気にすんな」
シルヴィアさんが声をかけると、ライルさんはにこやかに応じてくれた。
お互いに購入したものの話をしつつこの後どうするかもそのまま話し出してるけど、どうしたものだろうか。
別に私自身に希望とかがあるわけではない。
問題は、どうやってトコヨの希望を通すかだ。
串焼きの屋台にそのまま誘導するのは……率直に言えばいいだけなんだけど、流石に少し気恥ずかしい。
というか、私の好みとしてはどちらかというとそっちじゃなくて果物とかを売っているお店の方だ。
……まぁ、お腹が空いたから何か食べたいって言うしかないかな。
そう思っていたら、向かいに立っていたシスイが口を開いた。
「……シルヴィアさん」
「はい。シスイさんは見たいものとかはありますか?」
「いえ、そうではなくて……到着してから何も食べていなかったので、小腹が空いてしまいました。あそこで売っているものは美味しいのでしょうか?」
「あそこ……あぁ、あれですね。はい。私も食べたことがありますよ。大聖堂で出てくる食事とはだいぶ傾向が違いますが、とても美味しかったです。食事はもう少ししたらきちんとした食堂に行こうと考えていましたが……食堂に行く時間を少し遅らせて、屋台で売っているものの食べ歩きもしましょうか。ミコトさんとライルさんもそれでよろしいですか?」
「おう。問題ねぇよ」
「は、はい。私も問題ないです」
私が何も言わなくてもそういう方針になってしまった。
いや、確かに助かるんだけど、これは……
「シスイ……? もしかして……」
「……俺の小腹が空いてしまっただけです、ミコト様」
「……そうですか。でも、ありがとうございます」
多分視線とかで私が気にしているものに当たりを付けたのかな。
そんな気がする。
実際、シスイがすぐに向かい始めたのが私がチラチラ見ていた串焼きの屋台と近くのフルーツの盛り合わせを売っているお店の方だし。
串焼きはトコヨの為に食べたい。
果物は私が食べたい。
なんかシルヴィアさんが微笑ましそうな感じの笑顔を向けてきてる気がするけど、きっと気のせいだ。
隣でトコヨが『くっしやきー!!』とか騒いでるのも煩わしいけど、無視することにした。
そんなこんなでやってきた串焼きの屋台。
トコヨは待ちきれないと言わんばかりにはしゃいでいる。
シルヴィアさんが先頭で頼みに行ってくれている。
「4本お願いできますか」
「はいよ。嬢ちゃん……じゃねぇな。もう司祭様だったか。嬢ちゃんって呼ぶのもアレか」
「……えぇと……あはは、そうですね」
「今日はもう一人はいないのか? 確か……リィスちゃんって言った「しーっ! しーっ!」
……シルヴィアさん、店主さんと知り合いなのだろうか。
にこやかな雰囲気で声をかける店主さんに、シルヴィアさんは慌てて静かにするように促している。
リィスさんって人の名前が出された瞬間に顔を真っ赤にして慌て始めていた。
店主さんは店主さんで大笑いしている。
シルヴィアさんは気まずそうに品物を受け取ると、お礼を言ってそそくさと離れていった。
「シルヴィアさん、あの店主さんとお知り合いなんですか?」
「……知り合い……そうですね。一応、お知り合いです。あまり詳しいことは言えませんが」
あんまり突っ込んで欲しくなさそうな雰囲気。
踏み込まないでおくか。
リィスさんって人のことを言われた瞬間の慌て方からして、多分そこが触れて欲しくない部分なんだろうし。
そう思って、買ってきてくれた串焼きを少しずつ食べ始めた。
味はちゃんと美味しかった。
クラウスさんのところの料理に負けてないと思う。
独特な味付けのたれが焼き立てのお肉に絡んでいてとてもいい感じ。
トコヨも満足そうにうなずいている。
とりあえず街に来てからずっと騒いでいたトコヨの目的も達成できたしよかった。
皆が串焼きを食べ終わった後はフルーツの盛り合わせのお店に寄ってから食べ歩きをした。
やっぱり一番美味しかったのはフルーツだった。
故郷では見たこともないような様々な果物があってすっごくおいしかった。
ブドウとか、故郷ではあまり見かけなかったものがたくさんあって夢中で食べてしまった。
サヨにも買って帰りたかったけど、生ものだし流石にこれは無理だと思ってしまった。
ただ、ドライフルーツなんていうものがあったからサヨにはこれを買っておいた。
多分干し柿みたいなものだろうし、シルヴィアさんの反応的にも間違いなさそうだったし。
それが終わってからシルヴィアさんの案内で色々なお店や名所を見て回った。
セシルさんのお土産としていい感じの瓶詰めの飴とクッキーも買えて大満足だ。
今度はシルヴィアさんの目的の方だ。
「さて……クッキーなどはいい案ですが、以前渡してしまったわけです……どんなお土産にしましょうか……」
「土産? 何の話だ? セシルとサヨのはもう買ったんだろ?」
「もちろん! クロード様へのお土産です!」
「あ、あぁ……なるほど」
……ライルさんがいるのを忘れていた。
クロードさんの名前が出た瞬間に分かりやすくテンションが下がった。
『正直なんでもいいんじゃないですか? クロードならなんでも喜びますよ』
『うーん、私もそう思いはするんだけど……』
「やはり普段から使うものとかがいいでしょうか? ペンや衣類とか? ですが衣類であれば手編みのものも捨てがたくこのような機会で差し上げてしまっては私が手編みしたものを差し上げる機を逸してしまうかも——」
『なんというか、これを見てると真剣に考えてあげたいなって。お世話になってるし、そういう機微に詳しくない私でも空回りしてるのが分かる感じだし』
『……まぁ、そうですね。こういうシルヴィアも面白くはありますが、シルヴィアは純粋……純粋? 若干不純な気持ちはあってもクロードを喜ばせたいのは間違いないみたいですし……』
すごい勢いで口が回るシルヴィアさんを苦笑しながら見つつ考える。
ライルさんは気落ちしてて、シスイはそのライルさんを気にかけているから戦力外だ。
というか、シスイのこの感じだとライルさんはシスイには話したのかな、多分。
『クッキーとかは前にあげたって言ってたよね。サヨに買ったドライフルーツとかはダメなのかな』
『そうですねぇ……なしではないとは思いますけど、この子の感じからしてあわよくばという考えもあると思いますし……あぁ、そうだ。紅茶なんてどうです?』
『紅茶?』
『えぇ。ミコトも淹れてもらったことがあるでしょう? シルヴィア、紅茶の淹れ方に関しては超一流だと思いますよ。手順も丁寧で淹れ方にもこだわりを感じます。個人で楽しむ範疇を超えてますね。多分ですけど』
『確かにすごくおいしかった……』
『なので、シルヴィアが好みの紅茶をお土産として買うんですよ。ここはシルヴィアが幼少期を過ごした場所っぽいですし、お気に入りの紅茶くらい売っているでしょう。紅茶をお土産として渡しつつお茶会に誘って紅茶淹れさせてほしいって言えば、クロードの性格的にも拒否しないと思います。シルヴィアの好みの紅茶にすればそれで会話を広げられますし、ついでにクロードの好みでも聞き出して次のお茶会につなげちゃえばいいんです』
『おー。すごい、言われてみるとその通りかも。……もしかしてトコヨって恋愛経験豊富?』
『ミコトよりもずっとずっと人生経験豊富ですからね、私。このくらい朝飯前です』
ドヤ顔で小さな胸を張るトコヨにお礼を言いつつ、未だにヒートアップして思考のドツボにはまっているシルヴィアさんに近づいた。
「シルヴィアさん、一ついい案があるのですが」
「はい! なんでも仰ってください!」
舞い上がっているシルヴィアさんに耳打ちするようにしてさっきトコヨが言っていたことを伝えてみる。
耳打ちという形にしているのは一応ライルさんへの配慮だ。
私が言葉を紡いでいくにつれて、シルヴィアさんの表情が明るくなって輝いていくのがすごく分かりやすかった。
「いい!! すごくいいですよミコトさん!! 是非その案で行きましょう!! ありがとうございます!!」
「いえいえ。お役に立てたならよかったです」
「それでは、私がいつも紅茶を買っていたお店へ行きましょう! こちらです!」
ほとんどというか全部トコヨの発案だなんて口が裂けても言えない。
言ったところで皆はトコヨのことを知らないから伝わるわけもないんだけど。
シルヴィアさんについていきながら、ついでにどんよりしているライルさんの方にも近づいておく。
「あの、ライルさん」
「……おぉ、どうした?」
「いえ、一つ助言というか、このあとシルヴィアさんが買う紅茶、ちゃんと見ておいた方がいいですよ」
「……どうしてだ?」
「私がシルヴィアさんの好みの紅茶を買ってお土産にしましょうって提案したんです。なので、この後シルヴィアさんが買うのは自分の好みの紅茶ですよ。シルヴィアさんの好みを知るチャンスです」
「お、おお!! まじか!! ありがとうミコト!!」
ライルさんが分かりやすく元気になって足早にシルヴィアさんの方に向かった。
あまりにも分かりやすいその様子に、シスイと顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
紅茶は恙なく買うことができて、そのまま観光を再開した。
シルヴィアさんは本当に聖都の色々なところを熟知しているみたいで、初めてこういう大きな街を見て回ったけど、すごく楽しかった。
夕暮れになってきた辺りで、神官だと割引してくれるっていう人気の食堂で4人で食事をとって、今日の観光はおしまいになった。
明日は謁見の準備でシルヴィアさんと色々することになってるから、頑張らないと。
そう思って、気を引き締めた。