天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~ 作:あじのふらい
謁見の日になった。
昨日一応謁見の準備としてシルヴィアさんと色々確認したけど、少し緊張してしまう。
立ち居振る舞いや言葉遣い自体は概ね問題ないってお墨付きはもらえた。
その上で、謁見の流れの確認やおそらく聞かれるであろうこと、提案されるかもしれないことを踏まえた失礼のない回答をある程度詰める作業を1日かけてしていたのだ。
服装の確認とかも事前にされたけど、ちゃんと綺麗に洗濯しておいた巫女服を持ってきていたし、シルヴィアさんにもそれで大丈夫だと言われた。
一番注意されたのは敬称の方だ。
シルヴィアさん、私がたまに教皇猊下のことを教皇様って言いかけてしまっていることに気付いていたらしい。
慣れない敬称だろうから仕方ないことではあるけど、なるべく間違えないようにって感じで念押しされてしまった。
そんな確認に確認を重ねた準備も終えて、今は巫女服に着替えた上で謁見をする場所のすぐそばまできていた。
なんでも、今回の謁見は非公開でやるとかで普段はあまり使わない小礼拝堂を使うことになったらしい。
私にはその辺りの違いがさっぱり分からないから説明されてもほぼ理解できなかったんだけど……多分教会の慣習で色々決まってるんだろう。
複雑で入り組んだ感じの通路を進んで行ったから、道順なんてもうさっぱり分からない。
シルヴィアさんが案内してくれたからいいけど、一人で向かわないといけないとかだと迷子になってたかも……
『トコヨは道順覚えてる……? 私もうさっぱりなんだけど……』
『まぁ一応? ただあんまり意識してなかったので確実かと言われると微妙ですねー。私の場合最悪壁を通り抜けちゃえばいいですし』
『あはは……まぁ確かにそうなっちゃうか』
普段から好き放題飛び回って壁をすり抜けてどこかに行ったりしているトコヨには今更な話だったか。
大体の場所だけ覚えておけばそれでいいのは確かだろうし。
トコヨと内心でそんな話をしながらシルヴィアさんにさらについていくこと数分。
少し大き目の扉があって、その近くの小部屋に案内された。
「この隣の部屋が謁見を行う小礼拝堂です。猊下は既に中で待ってくださっているはずです。心の準備は大丈夫ですか?」
「……はい。筆頭巫女として、恥ずかしくない振る舞いができるように頑張ります」
教会の最高権力者に、神社の代表として恥ずかしくない態度で接しないと。
ここで致命的な失敗をしてしまえば、私の印象だけじゃなくて神社全体の印象に関わる。
失敗をしないように、昨日練習した通りに。
そう思いながら、小さく深呼吸をする。
そんなことをしていたら、シルヴィアさんの方から控えめな笑い声が聞こえた。
「……ふふ。心の準備とは言いましたが、少し緊張しすぎかもしれないですね。もう少し肩の力を抜いて、リラックスしましょうか」
「でも……」
「大丈夫ですから。そうですね……ミコトさんは、猊下をどのような方だと想像していますか?」
「え……?」
教皇猊下がどんな人か……?
なんでそんな質問をするのかが分からないけど……私の教皇猊下のイメージなんて、伝聞で構築されたイメージでしかない。
教会というとても大きな組織の頂点に立つ人。
そのくらいしかないのだ。
司祭になるのでも何年も経験を積まないといけない。
司教になるには難しい試験にも合格しないといけない。
そのさらに上の大司教や枢機卿なんて、なるのにどんな途方もない時間がかかるのかが分からない。
そんな人たちの頂点と教えられているのだ。
そこにシルヴィアさん経由の曖昧な情報がいくつか追加された程度。
その結果の私のイメージは、威厳のある公平で厳格な方だろうという程度でしかないんだけど……
「えっと……威厳があって、公平で厳格な方、とかですかね……」
「まぁ、間違ってはいないんですけど、だいぶ先入観が強いですね。安心してください。とてもお優しい方ですし、尊敬出来るお方です。理不尽な物言いや威圧的な言動はまず取らない方でもあるので、落ち着いて受け答えをするだけで大丈夫ですから」
「そう、なんですか?」
「そうなんです。なので、少しリラックスしましょう。気楽に、とは言えませんけど、気負う必要はないですから」
シルヴィアさんはニコニコといつも通りの笑顔を浮かべながら私にリラックスするように促してくる。
確かに、彼女も緊張している様子は全くない。
慣れているのもあるのかもしれないけど、それでも、怖がる必要がないっていうのは本当なのかもしれない。
そう思うと、少し肩の力が抜けた気がした。
「ありがとうございます、シルヴィアさん」
「いえいえ。……もう大丈夫そうですね。では、礼拝堂に入った後は昨日確認した通りに」
「はい!」
私がそう答えるとシルヴィアさんは小さく頷いて、扉のすぐ側にいた女性に声をかけた。
「こちらの準備は整いましたので、猊下への取り次ぎをお願いします」
「承りました。少々お待ち下さい」
声をかけられた人はすぐに退室していった。
「今の人は……?」
「教皇猊下の側付きの方ですね。昨日説明した通り、謁見をする部屋に勝手に入室することはできないので、取り次いでもらって入室許可をもらう必要があるんです」
「側付き?」
「教皇猊下の職務に同行、同席して、入退室管理や取次、会議の理解補助から、必要であれば日常生活の支援まで行う……猊下の最もお側にお仕えしてお支えする秘書兼近侍のような役割の方というと分かりやすいですかね?」
「な、なるほど……」
知らない役職が出てきたから聞いてみたら思った以上に大変そうな仕事をしている凄い人だったらしい。
少ししてその人が戻ってくると、入室の許可が出たと伝えてくれる。
その言葉にシルヴィアさんが頷くと、ついてくるように促してきた。
開かれた扉を、シルヴィアさんに続いて通り抜ける。
開けた視界の先を見て、驚きで固まりそうになってしまった。
表の方の大聖堂とは少し雰囲気が違うこととか、礼拝堂のようなところなのに隅の方に大きな装置のようなものが置かれていることとか、そういうことにではない。
目の前に立っている人たちに驚いてしまった。
端の方に椅子と机の近くに立っている人は、シルヴィアさんが記録係のような人も同席すると言っていたから多分その人だろうけど、それ以外の人。
正面に立っている人たちの中央に、私やシルヴィアさんよりも少しだけ年上かな……? としか思えないような容姿の若い女性が立っていた。
その両脇を高齢の男性と犬耳のようなものが付いている高齢の男性で固めている。
立っている位置からして、あの女性が教皇猊下で、その脇を固めているのは教皇猊下の判断を補助する枢機卿のはず。
獣人の枢機卿様もいるからもしかしたら同席されるかもしれないとは聞いていたし、こっちは心の準備はできていた。
シルヴィアさんにフリッカと初めて会った時のように過剰反応しないようにって固く言われてたし。
だけど、教皇猊下がこんなにお若い方だなんて思ってもみなかった。
そんなことを考えたけど、挨拶をする前に顔をじろじろ見るのはよくないと思いなおしてシルヴィアさんに付き従って歩きながら若干顔を伏せる。
2人で定められたところまで進んで、シルヴィアさんが礼をすると同時に、私も母に教えられた最上級の礼法通りに優雅に見えるように意識しながら頭を下げて礼をした。
その後に少しだけ間を置いて、シルヴィアさんが口を開いた。
「教皇猊下、お時間をいただき恐縮に存じます。先日報告書にて奏上いたしました、ミコト・アメノさんをお連れいたしました」
シルヴィアさんに紹介されたら、私自身から自己紹介を。
そういう段取りだ。
敬称を間違えないように。そこを特に注意しながら、昔叩き込まれた言葉づかいで……
「この度は教皇猊下の貴重なお時間を賜り、恐縮至極に存じます。オリツキ様を奉じる神社の筆頭巫女……こちらでいう、神官の筆頭を務めておりました。ミコト・アメノと申します」
その言葉とともにさらに少し深く頭を下げる。
それを受けて、頭上から綺麗な女性の声が聞こえてきた。
「面をお上げください」
言葉を受けて、礼をしたままだった状態から静かに頭を上げた。
目の前の綺麗な銀髪の女性……教皇猊下は、背後のステンドグラスからの光を受けながら、穏やかな笑みを浮かべていた。
「私が教会の174代教皇、イリス・エストルンドです。フェルト司祭から事情は聞いています。故郷のこと、大変でしたね」
「お心遣い、痛み入ります」
歓迎の言葉に私が粛々と返答をすると、教皇猊下は小さく頷いて笑みを深めた。
「いくつか確認したいことがありますので、詳しいお話を聞きましょう。少し長くなるので、そちらに座りながら聞かせてください」
猊下はそう言いながら、私たちから見て右側の、記録をしている人が座っている近くの机の方を指し示した。
私とシルヴィアさんは、猊下に促されるままにそちらに移動した。
「まず、貴方方の神社で奉じている神について、もう少し詳しく聞かせてください。報告書では、時神オリツキ様を主に奉じているとありましたね。相違ありませんか?」
「はい。相違ございません。私どもの神社では、代々オリツキ様を奉じてまいりました。日々の祈りも、儀式も、すべてオリツキ様へ捧げるものです」
「主神オルディナ様や、他の神々への祈りは?」
「教会の聖典を拝読し、オルディナ様をはじめとする神々については学ばせていただきました。ですが、故郷ではオリツキ様以外の神々について詳しく教えを受ける機会はございませんでした」
そう答えながら、少しだけ不安になる。
これで問題ないのだろうか。
私たちにとっては当たり前のことだったけど、教会から見れば随分と偏った信仰に見えるかもしれない。
実際、教皇猊下の隣に座っているグレンマルク枢機卿様の目が、わずかに鋭くなった気がした。
「……一柱のみを奉じる信仰形態ですか」
低く呟くような声。
責められたわけではない。
それでも、その一言だけで背筋が強張る。
「グレンマルク枢機卿」
教皇猊下が穏やかに名前を呼ぶ。
ただそれだけで、グレンマルク枢機卿様はそれ以上言葉を重ねなかった。
教皇猊下は私の方に向き直ると、変わらない穏やかな笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「続けてください。貴方方がどのように祈り、どのように民と関わってきたのかを知りたいのです」
「はい、教皇猊下」
責めるためではなく、知るため。
そう感じられる声だった。
少しだけ呼吸がしやすくなって、私は故郷での神社が担ってきたことについて話し始めた。
筆頭巫女が集落の元締めも兼ねていたこと。
巫女たちは日々祈りを捧げ、儀式を行い、必要があれば聖魔法で村人を癒していたこと。
年に一度の大きな儀式では、筆頭巫女が集落全体の安寧を願って舞を奉納していたこと。
……話しているうちに、故郷の光景が頭に浮かんできてしまった。
水を張った神楽殿。
祈りを捧げる村の人たち。
厳しくも優しかったお母さん。
もう戻ることができない場所。
言葉が少しだけ詰まる。
すると、教皇猊下は急かすことなく、静かに待ってくださった。
「……失礼いたしました」
「謝る必要はありません。大切な場所だったのでしょう」
「はい。私にとっても、民にとっても、とても大切な場所でございました」
そう答えるだけで、胸の奥が少し痛んだ。
だけど、ここで泣くわけにはいかない。
私は神社の代表としてここにいるのだから。
「その大切な場所で培われた祈りが、ソルミア王国での浄化にも繋がったのですね」
「……恐れながら、あの儀式は私一人で成し遂げたものではございません。皆様が準備を手伝ってくださりましたし、フェルト司祭にも力を貸していただきました」
「フェルト司祭からも、そのように報告を受けています。ですが、彷徨っていた多くのアンデッドを浄化した中心にいたのは貴方だった、とも」
教皇猊下の視線が、まっすぐにこちらへ向けられる。
威圧されているわけではないのに、誤魔化しは許されないような気がした。
「私の故郷では、舞と祈りを通して聖魔法を行使する形がございました。ソルミア王国で行ったものも、それを応用したものです」
「聖魔法の行使の方法も異なる、ということですね」
「……はい。フェルト司祭とお話させていただき、思い知りました。教会の聖魔法と、私ども神社の聖魔法は、祈り方や手順などに大きな差異があると。儀式となると、舞を奉納する私どもの形態は見たことがない、とも」
そう答えながら、ソルミア王国で儀式を行う前にシルヴィアさんと話した時のことを思い出す。
私にとっては、舞い、祈り、神の奇跡をお借りするという流れは当たり前のものだった。
だけど、教会の神官にとってはそうではない。
聖魔法という同じ言葉を使っていても、その形は思っていた以上に違っていた。
それを知った時は戸惑った。
同じ神に祈る者同士であっても、ここまで違うのかと驚きもした。
だからこそ、この場でその差異をどう受け止められるのかが少し怖い。
教皇猊下はしばらく考えるように目を伏せていた。
隣に控える枢機卿様方も、何かを見極めるようにこちらを見ている。
その沈黙の中で、私は自然と背筋を伸ばしていた。
「なるほど。祈りの形も、儀式の組み立ても、教会のものとは大きく異なる。ですが、それによってソルミア王国の地下に満ちていたアンデッドは浄化された」
「はい。フェルト司祭のお力添えと、皆様のご協力があってこその結果ではございますが……」
「謙遜する必要はありません。貴方一人の力だけで成し遂げたものではないとしても、その儀式の中心にいたのは貴方だったのでしょう?」
教皇猊下の言葉に、すぐには返事ができなかった。
あの時のことを思い出す。
地下道に犇めいていたアンデッド。
竜が王城に迫ってくる音。
皆が必死に準備を進めてくれた中で、私はただ祈り、舞うことしかできなかった。
あれが正しい方法だったのかは、今でも分からない。
ただ、あの時はそうするしかなかった。
あの地下を彷徨う魂を、あのままにしておくことだけはできなかった。
「貴方はその時、何を願って祈ったのですか?」
「……何を、でございますか?」
問いの意味が分からず、思わず聞き返してしまう。
教皇猊下は責めるでも試すでもなく、ただ静かにこちらを見ていた。
「フェルト司祭の報告によれば、ソルミア王国の地下には、数多のアンデッドが彷徨っていたそうですね。貴方はそれを、舞と祈りによって浄化した。ならば、その祈りの中心に据えていたものを知りたいのです」
祈りの中心に据えていたもの。
そう言われて、あの時のことを思い出す。
あの時と違って、祈るのは村の安寧とかではなかった。
ただ、地下を彷徨うアンデッドが浄化されて、世界樹に還ることができるように。
死してなお苦しみ続けている魂が、少しでも早く苦痛から解放されるように。
私は、そう願って祈っていた。
「……地下を彷徨っていた方々が、これ以上苦しみ続けることがないようにと願いました。アンデッドとして留められていた魂が浄化され、世界樹へ還ることができるように。ただ、そのことを祈っておりました」
「生き伸びるためでもあったのではありませんか?」
「……はい。それも、ないわけではございませんでした。ですが、儀式そのものに込めた祈りは、亡くなられた方々の浄化と安寧を願うものでした。あの方々が、苦しみから解き放たれて、正しく還るべき場所へ還れるようにと」
教皇猊下はしばらく黙っていた。
隣の枢機卿様方も、記録係の人も、誰も口を挟まない。
静けさが少し怖くなってきた頃、教皇猊下はゆっくりと頷いた。
「死者を悼み、彷徨う魂に安寧を願う。その祈りは、私たち教会が重んじるものとも通じています。形は違っても、貴方の祈りが救いへ向けられたものであることは分かりました」
そこまで言ってから一呼吸置くと、教皇猊下はゆっくりと頷いた。
「最後に、教会に対する貴方自身の考えを聞かせてください。フェルト司祭から説明を受けているとは思いますが、貴方方の神社が今後この地で活動していく以上、教会との関係は避けて通ることはできません」
「……はい」
「率直に答えて構いません。貴方は、教会をどう見ていますか?」
少し迷ってしまう。
失礼のない答えをしないといけない。
だけど、教皇猊下は率直にと言った。
なら、取り繕いすぎてもよくないのかもしれない。
「恐れながら、まだ分からないことの方が多くございます。聖典も拝読いたしましたし、フェルト司祭からも多くのことを教えていただきました。ですが、教会の規模も、仕組みも、私にはあまりに大きく……正直に申し上げれば、少し恐ろしく感じるところもございます」
隣に座っているシルヴィアさんが、わずかにこちらを見た気がした。
言い過ぎただろうか。
そう不安になりながらも、言葉を続ける。
「ですが、フェルト司祭は私たちを助けてくださりました。ストラン助祭も、神社で共に祈ってくださることがあります。ですから……教会という大きな組織のすべてを理解できているとは申し上げられませんが、教会に属する方々の中に、信頼すべき方がいらっしゃることは存じております」
言い終えてから、少しだけ俯きそうになる。
これが教皇猊下への答えとして正しいのかは分からない。
でも、今の私が言えるのはこのくらいだった。
教皇猊下は、なぜか少しだけ嬉しそうに目を細めた。
「十分です。知らないものを、知らないと認められること。恐れを抱きながらも、目の前の人を見て判断できること。それはとても大切なことです」
「……恐れ入ります」
教皇猊下が、隣に控える枢機卿様方へ視線を向けた。
お二人は何か言いたげではあったけど、猊下の判断を待っているようだった。
「お話はよく分かりました。貴方方の信仰の形は、確かに私たちが知るものとは異なります。ですが、神を敬い、民を想い祈るその心は、私たち教会の教えと何ら変わるものではありません。教皇イリス・エストルンドの名において、神社と巫女による信仰と布教を認めましょう」
「……ありがとうございます」
教皇猊下の言葉に安堵して内心で胸をなでおろす。
穏やかな笑顔を浮かべている猊下は、さらに言葉を続ける。
「フェルト司祭からの報告書と今お聞きしたお話で、凡その人柄も把握できました。貴方がもともと担っていた筆頭という役の重さはもちろん、その経験と確かな信仰心は貴重なものです。そこで我々は、貴方を正式に教会の司祭として迎え入れたいと考えていますが、いかがですか?」
「司祭、ですか……?」
「はい。もしよろしければ」
突然の提案に、思わず思考が止まってしまう。
一応、シルヴィアさんから教会の役職を与える提案をされる可能性があるとは言われていた。
そのうえで、役職を受け取るか否かというのは大きな部分だから、返答の言葉が丁寧なものなら内容自体は私の判断に任せるとは言われていた。
その内容がどちらであっても、猊下なら悪くないように取り計らってくれるとも。
トコヨも助言をしてくれるつもりはないのかいつの間にかどこかに行っちゃったみたいだし……
どうすればいいだろうか。
司祭という役職の仕事は以前シルヴィアさんから聞いている。
1つの教会の管理をして、そこに所属する部下の教育を行うという感じだったはず。
それが私にできるか? とも思うけど、一応猊下は神社と巫女の信仰と布教を認めるとは言ってくれていた。
なら、司祭として巫女の指導という意味でいいのかな……?
だけど、そもそも私の扱う聖魔法も、祈りも、なにもかも形態が違うのは嫌というほど思い知らされた。
そんな私が、教会の枠組みの中で教会のやり方に従ってやっていけるのか……?
すぐにはできると思えない。
だけど、断るのも……
そうやってしばらく考え込んで、気づいた。
そもそも、神社と巫女の信仰と布教はもう認めてくださっている、よね?
それなら、無理に体制に組み込まれる必要はないのではないだろうか。
巫女のしきたりで、巫女のやり方で、神社を運営していけばいいはずだ。
それなら……
「もったいないお言葉です。ですが、私は教会のことは未だ何も知らず、フェルト司祭と話している中でも多くの差や違いを思い知りました。そのような私が司祭の位をいただくなどとても恐れ多く……。非常にありがたいご提案ではありますが、そのお話は辞退させていただきます」
なるべく謙虚に、相手の提案を尊重して検討したうえで辞退するという形をとる。
大丈夫、だよね? と思いながら猊下の目を見続けているけど、猊下の様子は変わらない。
どちらかというと、私が辞退するための口上を述べ始めた辺りから、枢機卿の方々の視線が険しいことになっている。
明らかに不快感を覚えていて、それを隠そうともしていない。
猊下の穏やかな笑顔は変わってないけど、内心でこのお二方と同じだったりしないだろうか。
対応を間違えたかと不安になってしまう。
枢機卿の方々が猊下に耳打ちをしたりする様子を見て待つことしかできない。
少し間があってから、猊下が口を開いた。
「そうですか……分かりました。貴方の意思を尊重しましょう。ですが、教会としても、神社と巫女の立場を曖昧にしておくわけにはいきません。そこで、神社を正式に教会公認の外部組織として承認することといたします」
「えぇと……?」
「これにより、貴方方は教会の役職は持ちませんが、教会公認の外部組織として活動することを許可されたという対外的なアピールができます。間違っても、貴方方の活動に異を唱える者はでてこなくなるでしょう」
これは、濁してるけど多分神聖派の攻撃対象にはされなくなるよって言ってくれてるんだと思う。
教会としても、認める以上は神社の立ち位置が曖昧だと困るという話は分かるから、教会の役職をもらわないならこういう形にしないといけないというのも分かる。
私としてもそこに文句はなかった。
「公認するにあたり、教会としての監督は必要となります。神社の活動を監督する者については、後日正式に決定し、連絡します。それまでは、引き続きフェルト司祭と協力し、今まで通り民のために尽くしてください」
「承りました。寛大なご判断に、深く感謝いたします」
これは一見すると監視するというような指示に見えるけど、教会の仕組みは聞いている。
そもそも教会自体、1つの教会を管理する司祭の上に、ある程度のエリアの教会を司教が管轄して、まとめて監督しているらしいのだ。
外部組織であっても、認める以上その枠組みには入ってねということでしかないだろう。
どこまで口を出されるのかは不安だけど、認めてもらう以上そこは仕方ない部分だ。
私がお礼を言うと、猊下は笑みを深めた。
そのまま静かに立ち上がると、口を開いた。
「それでは、これで本日の謁見は終了といたしましょう」
その言葉を受けて、私とシルヴィアさんも立ち上がって、猊下に礼をする。
これもシルヴィアさんと練習していたことだ。
猊下に背を向けて扉に歩いていく。
側付きの人が開けてくれた扉を通った辺りで、ようやく肩の荷が下りた気がした。