天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~   作:あじのふらい

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2-18 暗中模索

「……そいつを筆頭とした騎士団を相手取らないといけないんでしょ。クロードに戦闘を避けられる可能性は低いとまで……どうしたのミコト」

 

「——っ、な、なんでもないですっ! ごめんなさいっ! 話を続けてもらえると……!」

 

目が覚めたら馬車の中で、セシルさんが主導して話し合いをしている最中だった。

聞き覚えがある気がしないでもない会話。

馬車の中にはシルヴィアさんにリーゼちゃん、セシルさんにシスイがいる。

つまり今は、フレスベルグを助けに向かっている最中の馬車の中ってことだろうか。

 

「……とにかく、可及的に速やかに向かってフレスベルグと合流しろって話だけど——」

 

『トコヨ……? いるよね……?』

 

『……ちゃんといますよ。』

 

『ここって、リオレ大森林に向かってる馬車の中だよね……? 前と全然違う場所……』

 

『戻ってくる時間は、あの黒竜の時も決まった時間ではなかったですよ。その時々で変わっていたと思います。そんなに回数を繰り返したわけではないので、あくまで恐らくですけど……ミコト、手が震えてますけど……大丈夫ですか?』

 

心配そうな表情を浮かべたトコヨが目の前に飛んできて視線を合わせてくる。

確かに、私の手は震えていた。

甲冑を纏った騎士から雨のように降り注ぐ矢。

それに貫かれて傷ついていく皆。

飛び散る血飛沫と響く悲鳴や呻き声。

そして、自分に突き刺さった時の痛みまで頭を過る。

 

「……ミコト様? 大丈夫ですか? 何かあったのですか……? 様子が……」

 

「……っ、だ、大丈夫です。ごめんなさい、シスイ。今はちゃんと話し合わないと」

 

シスイが小さく声をかけてきたことで、意識が現実に引き戻された。

これ以上皆に不審に思われないために、荒くなりかけていた息をどうにか整える。

怖いけど、でも、もうここまで来てる状況だ。

どう考えても、引き返せるようなものでもない。

方針を変えて、それで皆で生き残れるようにしないと……

前回失敗した原因は馬車に戻ろうとしたこと、だよね……多分。

 

『トコヨ、馬車に戻らなければ、どうにかなったと思う……?』

 

『……正直に言えば、なんとも言えないとしか。騎士団があの暗闇の中で私たちを見つけることができるか。私とフレスベルグの警戒ある分、こちらに若干の分はあるかもしれませんが……相手は、騎馬なので。フレスベルグと合流後に戦闘に突入せずにやり過ごせるかは、運の要素が大きいと思います』

 

『でも、可能性はあるってことだよね』

 

私がそう言っても、トコヨは否定しなかった。

大丈夫。どうにかできる方法はあるはず。

逃げるなんていうのは、最後の手段にしないと……

 

「あの、セシルさん! フレスベルグと合流した後のこともしっかり話し合っておきたいですっ!!」

 

 

 

ダメだった。

フレスベルグを助けるところまでは上手くいった。

そこは同じだった。

そこからはだいぶ行動を変えたはずだった。

馬車の中でフレスベルグのことも話題に出るように、私から色々と先回りして先行脱出の話をしたりして、リーゼちゃんからフレスベルグの小型化を引き出した。

それをあらかじめ作戦に織り込んで、皆で速やかに森を脱出して、馬車には見向きもしないで隠密行動をし続けて暗闇に紛れて行動し続けた。

それで森がほとんど見えなくなるところまではいけたから、上手くいったと思っていた。

魔物との戦闘はあっても、全員で周囲を警戒しながら進み続けることができていた。

それなのに——明け方になってきた辺りで、背後から騎士団の強襲を受けた。

どうやってこちらの進行ルートを特定したのかは分からない。

私たちがリーゼちゃんと一緒にいたことで向かう場所にあたりを付けたのかもしれない。

それでも、一度見つかってしまったら徒歩と騎馬で速度に致命的な差がある以上、追いつかれるのは必然だった。

私たちは、この前と同じように包囲されて……同じ結末を辿った。

どうすればいい。どうすれば切り抜けられる。

どうすれば——

 

 

 

それから、何回繰り返したか分からない。

戻る地点は毎回違うみたいで、数時間くらいしか戻らないこともあれば、一番最初の頃みたいに日単位で戻ることまである。

そのたびに、その時点で最善と感じられるように修正して、調整して、誘導して、色々と試した。

 

馬車に戻らずに、集落にもまっすぐ戻らずに迂回して進行ルートを特定できないようにしたけど、なぜかまた背後から騎士団の強襲を受けて殺されてしまった。

背後への警戒を強めて、隠れてやり過ごしたりも選択肢にして行動したのに、隠れていたところを発見されて殺された。

全員で森の中に潜伏して2人ずつフレスベルグに運んでもらうという手段も取ったけど、フレスベルグが戻ってくるところを見られていたのか、再び森林の中に攻め入ってきた騎士団に、フレスベルグ不在の間に強襲された。

森の中でひたすら待ったこともあったけど、聖堂騎士団と帝国軍による挟撃にあってしまった。

ある程度のところまで脱出して同じようにフレスベルグに輸送してもらう手段も取ったけど、それも同じ結果。

戻った直後に集落にいたパターンの時には、クロードさんとも相談して色々と試したりもしたけど、悉く駄目だった。

 

フレスベルグを見捨てる。

そんな最低な考えが過るたびに、フレスベルグと再会した瞬間のリーゼちゃんの喜びようが脳裏に浮かんでしまって、そんなことしたくないと思ってしまう。

確かに、見捨ててしまえば私たちは生きられる。

それは間違いないとは思う。

だけどそんなことをしたら、リーゼちゃんは間違いなく一人で森に戻ろうとして、騎士と鉢合わせることになる。

戻ってくるたびに全部なかったことになっているせいで、関係自体は何も発展してない。

だけど、それでも、私は、やり直す前のことも全部覚えてしまっている。

今までを全部合わせれば、リーゼちゃんとも結構な時間を過ごしている。

もう、情も移ってしまっていた。

見捨てるなんてできない。

あれだけ素直で友達想いの優しい子を見捨てるなんて、間違ってる。

 

 

 

今回は、迂回ルートを取って、慎重に慎重に進んで、夜が明けて、リオレ大森林とは別の森を見つけてその中を通ることにして、また夜が来て……

そんな歩き通しの状況だったのもあって、休憩を挟むために焚火も起こさずに、ただ息を殺して休んでいた。

 

「本当に、申し訳ありません……皆さんをこんなことに巻き込んでしまって……」

 

「リーゼさんが気にすることはありません。むしろ、こちらから謝罪しなければならないことが多すぎるくらいで……」

 

沈痛な表情で謝るリーゼちゃんに、シルヴィアさんも謝罪で返していた。

シルヴィアさんが言っているのはまず間違いなく聖堂騎士団による襲撃のことだろうから仕方ないけど……

 

『トコヨはどうすればいいと思う……? どうすれば、リーゼちゃんとフレスベルグを見捨てないで済むと思う……?』

 

『私も、全く思いつかないんです……そもそも、前にもこうやって迂回して隠れていたのに見つかったことがあること自体がおかしいので……』

 

『今回はここまでこれたけど、この後、切り抜けられるかな……』

 

『……ごめんなさい。流石に、大丈夫と言い切ることができるほどでは……魔物との戦闘痕などもどうしても残ってしまっていますし、それを頼りに探されている可能性とかもあるので……』

 

……トコヨも明らかに自信がなさそうだった。

私はもちろん、ここまでの繰り返しでトコヨもたくさんの意見を出してくれた。

それでも、同じ結末を辿ってしまう。

トコヨの言う通り、おかしいとしか思えないのだ。

なんでうまく隠れていたはずなのにこちらの場所が分かっているみたいに見つかってしまうのか。

どう隠れても、どんなルートをとっても必ず見つかってしまうのか。

分からない。なにも分からない。

この繰り返しで、お互いに自信がなくなってしまうのは仕方のないことだった。

私だって、もう自信もなにもない。

思いついて試した方法が、悉く死に繋がっていく経験なんてして、そのたびに死の痛みと恐怖を味わって、身体が震えるのを抑えるのがやっとだった。

見捨てるなんて手段は取れない。取りたくない。

でも、これ以上どうすればいいのかが分からない。

行きに馬車で移動するのにも結構時間がかかった道を、さらに大幅に迂回して、森の中なんて通って魔物と戦闘しつつ進んでいるから、ここからまだまだ時間はかかる。

明日中に着いたらうまくいきすぎているくらいだと思う。

そんな状況で、騎士団の捜索の手を逃れることができるのか。

なぜこれほど聖堂騎士団が執着しているのかは分からないけど、絶対にまだ追ってきている。

今までの執拗さからしても間違いない。

ここまでは上手くいっているはずだけど、嫌な予感は止まらなかった。

 

その数時間後、私の嫌な予感は的中した。

森をちょうど出る辺りに騎士団員が巡回していて、森に引き返したけど、森に火を放たれて……また見つかって、囲まれて、殺されてしまった。

 

 

 

視界が急に開ける。

ここ最近で嫌というほど経験した、戻ってきた感覚。

それなのに、目の前の光景が、匂いが、いつもと違っていた。

戻ってきた直後は、馬車の中にいるか森で潜んでいる状況だったことが多かった。

だから、暗かったり、閉塞的な空間だったりということがほとんどで……今みたいに、明るい少し豪華な部屋の中——イリスさんの私室まで戻ってきたのは、初めてだった。

 

「ミコトさん? どうかしましたか?」

 

「あ、い、いえ! すいません。——このカップはどこに戻せばいいのかと迷ってしまって……」

 

「あぁ、それでしたら——」

 

手に持っていたのは、お茶会で使っていたティーカップ。

この感じからして、イリスさんとのお茶会の後、シルヴィアさんと片づけをしていたタイミングということだろうか。

咄嗟に口にした言い訳も間違っていなかったようで、シルヴィアさんがどの棚のどこにしまっておけばいいのかを丁寧に教えてくれた。

 

ここまで戻ってきたのは初めてだった。

確か、この次の日に集落に戻って、そこからリーゼちゃんを治療して、フレスベルグを助けて、脱出して、夜を越して、また夜が来て、明け方に殺されたから……大体、3日近く遡ってきてる……?

そこまで考えたところで、思い至った。

 

『トコヨっ!!』『ミコトっ!!』

 

トコヨも同じタイミングで閃いたみたいで、同時にお互いに声をかけていた。

今回の最大の障害は聖堂騎士団。

そこに最も公的に働きかけることができる組織。

権力的にも上の人。

その人の姿が、脳裏を過った。

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