天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~ 作:あじのふらい
ライルさんたちが乗ってきた馬車に全員で乗って、集落には問題なくたどり着くことができた。
集落ではすぐにクロードさんが出迎えてくれた。
「お待ちしていました。私はこの集落の元締めのクロードです。ようこそ、世界樹の麓の集落へ。歓迎させていただきます」
「ご、ご丁寧にありがとうございます。私はリーゼ・システィーナ・エル・フェリークです。これからよろしくお願いします」
「もともとエルフの方々が生活していた様式を取り入れられるよう受け入れの準備を急ぎ進めているところですが、ひとまず休むことができる仮の住居をご用意しています。リーゼ殿下やエルフの方々は数日の間そちらで疲れを癒していただければ」
「で、殿下だなんて、私は……」
クロードさんの笑顔での応対に、リーゼちゃんがあわあわと慌てながら対応している。
……私もあんな感じになってたのだろうか。
なって、ないよね。
あわあわはしてなかったはず。うん。
筆頭らしく振舞えていたと思いたい。
リーゼちゃんの様子はかわいらしいけど、私はシスイやサヨたち、故郷の皆の前ではしっかりと筆頭として振る舞えるようにしていたい。
そんなことを考えていたら、クロードさんの隣をセシルさんが通り抜けた。
「クロード、約束の術式、忘れないでよ」
「あぁ、もちろんだ。落ち着いたら渡そう」
……セシルさん、また例のごとく結界の術式を条件に協力してたのか。
彼女は手をひらひら振ってそのまま私たちの集合住宅の方に歩いて行ってしまった。
「それでは、ミコト、リーゼ。2人から色々と話を聞かせてもらいたい。もう夜も遅い……どころか日が昇ってしまっているからな。疲れを取ってからで構わない。明日、2人がいい時に何があったのかを聞かせてもらえると嬉しい。その時に、今後のエルフの支援についても話し合おう」
「は、はい!」
「わかりました。私はいつでも大丈夫です」
私とリーゼちゃんの返答に、クロードさんが小さく笑みを浮かべて頷いた。
シルヴィアさんがいたらいつもの状態になっていた気がするくらいには様になっている。
「とりあえず当面の仮住居が必要なのは6人とフレスベルグだね。すぐに案内しよう。ついてきてくれ。ミコトは……サヨが心配していた。顔を見せてあげてくれ」
「あ、はい! ありがとうございます」
サヨが心配していた、となると、今回の使者の件が伝わっていたってことだろう。
クロードさんがそう言ってくれるなら、そうさせてもらおう。
リーゼちゃんを始めとしたエルフの方々に頭を下げて、いつでも気軽に声をかけて欲しいことを伝えて私も休むために帰路に就いた。
「お帰りなさいませミコト様!! 大丈夫でしたか!? お怪我はないですか!?」
「あ、あはは。うん。大丈夫。怪我もしてない。元気だよ」
家に入った瞬間にサヨに飛びつかれた。
危うく押し倒されそうになったけど、1回転してどうにか勢いを受け流してそのまま抱き留める。
「教会の使者としてエルフの集落に赴いたと聞いて、私、心配で心配で……」
「それは大丈夫だったんだけど、なんでサヨがそれを……?」
「へ? あぁ、えっと、クロードさんがセシルさんを呼びに来た時に、私も一緒に聞いちゃったんですよ」
「あぁ、なるほど」
納得してしまった。
確かに、セシルさんを呼びには来てただろうしそうなるか。
「あ、そういえば。ライルさんからミコト様とシルヴィアさんの荷物をお預かりしたので、お部屋に運んでおきましたよ」
「そうなんだ、ありがとう」
「いえいえ。ちゃんと丁寧に運んでおきました! シルヴィアさんのはフリッカが運んでくれたんですけど……多分きっと恐らく、手荒に扱ったりはしていないはずです」
「……あ、あはは。サヨ、あんまり信頼してなさそうだね」
「フリッカの普段の私に対する雑な扱いを経験すれば、ミコト様もお分かりになるはずです。多分ミコト様にはそんなことしないとは思いますけど」
サヨがちょっと影のある笑みを浮かべているのが気になるけど、私たちがいない間も上手くやれていたみたいで安心だ。
あ、そういえば。
「そういえば、サヨとセシルさんにお土産買ったんだ。今持ってくるね」
「ほんとですか!? なにを買ってくださったんですか!?」
「ふふ、それはこの後のお楽しみだよ」
目を輝かせているサヨの期待を煽りつつ、部屋に取りに行く。
サヨにはこの後渡せばいいけど、セシルさんにはタイミングを見計らって渡そう。
それから数日が経った。
リーゼちゃんと一緒に行われたクロードさんからの聴取も恙なく終わった。
仮住居での生活自体にはとりあえず最低限は慣れてくれたみたい。
やっぱり元の環境と違うから落ち着かないとは言ってたけど。
今は仮住居を訪れてリーゼちゃんたちの不安なことがないかとか、必要なことがないかを確認していた。
「色々ありましたけど、リーゼちゃんはこの集落でやっていけそうですか……?」
「……そう、ですね。不安がないと言えば嘘になります。私では、到底お母様のようにやれるとは思えませんし、開拓した森を使っていいと言われても、私たち6人だけでうまくやれるかどうかも……」
一応、クロードさんは集落近くの森をエルフに提供するつもりみたいで、その開拓を急ぎ進めているとか。
リーゼちゃんの表情が陰る。
……私もお母さんが亡くなって、いきなり筆頭としての役目を継がないといけないと気づいた時に同じように感じたから、気持ちは分かる。
これを数日で受け入れろという方が難しいだろう。
「それでも、私は私なりに、頑張ろうと思います! お母様が言っていた王族としての責務というのはまだ理解しきれませんけど、私にできることから」
「……そうですね。私にできることがあれば、なんでも手伝います! いつでも言ってくださいね! 本当に、なんでも手伝うのでっ!」
「ふふ、ありがとうございます。ミコトさん」
私が自分の意気込みを言葉にすると、リーゼちゃんも笑顔を浮かべてくれた。
リーゼちゃんのやる気自体はとても尊いものだと思うけど、一人で頑張ればいいってものじゃないもんね。
そう思った瞬間に、部屋の扉が凄まじい音をたてながら荒々しく開いた。
「リーゼ!!」
「っ!!? お、オデットさん? どうしたんですか?」
オデットさんというのは、リーゼちゃんと一緒に避難してきた子供の中では年長者の80歳のエルフのことだ。
そんな彼女が、普段の落ち着いた様子をかなぐり捨てて肩で息をしながら部屋に駆け込んできた。
私もリーゼちゃんもあまりの様子にびっくりして目を丸くして固まってしまう。
なにかあったのだろうか。
「しゅ、集落の、入り口に、はぁ、はぁ、エルフの、生き残りが、来てるの、リーゼのお——」
「っ!!」
オデットさんが言いきる前に、リーゼちゃんは走って部屋を出て行ってしまった。
オデットさんと顔を見合わせて、私たちも急いでついていく。
集落の入り口には、20人もいない程度の人数のエルフの一団がいた。
その中に、確かに見えた。綺麗な緑色の長い髪が。
リーゼちゃんをそのまま大人にしたような、理知的な女性が。
「お母様ぁっ!!」
「っ、リーゼ……よかった。貴方たちも無事だったんですね」
「おかあさま、おかあさまぁっ」
「……仕方ない子ですね」
セレーヌさんに抱き着いたリーゼちゃんは、そのまま大泣きし始めてしまった。
セレーヌさんも、静かにリーゼちゃんの頭を撫で始めている。
……よかった。生きてたんだ。
しっかり人数を数えたら、18人しかいなかった。
これだけしか生き残れなかったということなんだろうけど、むしろ、セレーヌさんが生き残っていることだけでも奇跡と言えるだろう。
……使者としてここに案内した手前、ちゃんと挨拶しないといけないよね。
そう思って、リーゼちゃんが落ち着いた頃合いを見計らって、セレーヌさんに近づいた。
「ご無事でなによりです、女王陛下」
「使者殿……確か、ミコトさんでしたね」
「はい。ミコト・アメノです。こうして再びお会いすることができて、とても嬉しく思います」
「……貴女の言っていたことに、嘘はなかった。賭けたことは間違っていなかった。それを痛感し、安堵するばかりです。リーゼたちを守ってくださり、ありがとうございます」
ぐずるような様子になってしまってまともな言葉を発することすらできないリーゼちゃんの頭を撫でながら、セレーヌさんが穏やかにそう言ってくれた。
ここまでの結果につながると思っていなかったのもあって、私も心から嬉しくて笑顔を浮かべてしまう。
……とはいえ、あの状況からどうやって生き残ったんだろう。
セレーヌさん自身も死を覚悟した感じだったと思うけど。
「皆、とまでは言えないまでも、こうして大人の方々も生きていてくださって、私としても言葉にできないほど嬉しく思います。……特に女王陛下は、死を覚悟されたようなご様子でしたし」
「……私も、死を覚悟していたのですがね。なぜか、帝国軍が途中で撤退し始めたのです。それがあったから生き残ることができた。あの状況で、理由もなく退くとは思えません。今回の件は騎士団の暴走にすぎないという教会上層部の説明に嘘はなかったと、そこでようやく信用できました。それもあって、生き残った者を連れ、リーゼたちの無事を確かめるためにここに来たのです」
「それは……」
バルグラント帝国が撤退した……?
一時撤退なのか、本格的な撤退なのかは分からない。
だけど、聖樹派の枢機卿たちがしていた働きかけというのが功を奏したということだろうか。
イリスさんの彼らへの信頼は正しかったということだ。
そんなやり取りをしていたら、クロードさんが歩いてくるのが見えた。
……これから、また受け入れとかの作業だろう。
私も使者として赴いた立場だし、出来る限りの協力はさせてもらおう。
セレーヌさんたちも含めた大人のエルフの受け入れ作業もようやく落ち着いた。
今はお祈りしてくれているサヨと一緒に日課の朝の舞をしている最中だ。
森の開拓も落ち着いてセレーヌさんたちエルフが集落近くの森に移住したから、集落内の工事も再開している。
そろそろ神楽殿が完成しそうで私としては嬉しい限りだ。
神社の方も、建物は完成している。
ただ、色々必要な道具や装飾がある。それはこれから調達していかないと。
……今は舞をしている最中だった。あんまり余計なことは考えないで、ちゃんとオリツキ様に祈らないと。
舞が終わって、仮設神楽殿の舞台から降りる。
そこには、昨日こちらに帰ってきたシルヴィアさんが待っていた。
シルヴィアさんも、聖堂騎士団の駐屯地では特に問題なく使者としての役目を果たせたらしい。
保護が成功したのかの確認のためにこっちに少しだけ戻ってきたけどすぐに聖都に戻ってしまって、それから数日イリスさんや枢機卿様方も交えた聴取や報告を行っていたとか。
一応、側付きの証はこの時にシルヴィアさんに渡しておいたからシルヴィアさんからイリスさんに返してくれたはず。
「ミコトさん、少しよろしいですか?」
「はい。もちろん大丈夫ですよ」
「猊下からアメノ筆頭巫女への親書です。どうぞ」
「親書ですか……?」
シルヴィアさんに手渡された親書を開いて中を確認する。
シルヴィアさんがわざわざアメノ筆頭巫女って言ったから、職務上の内容しか書いていないことは明らか。
……内容としては、今回のエルフ保護の成功は私の報告と提案あってのことだという大げさなお褒めの言葉と、神社と巫女の保護・布教の許可を行ったことを正式に発布したこと、神社の監督者を決定したことが書かれていた。
……肝心の監督者が書かれてないんだけど。
「えっと、監督者が決定したとあるのに、肝心の誰が監督者かが書いていないのですが……」
「それは私の口から伝えるようにと、猊下からご指示をいただいています。——ミコト・アメノ筆頭巫女、並びにサヨ・アマカワ見習い巫女」
「は、はい!」
「はい」
……この感じは、もしかしてもしかしなくてもそういうことなのだろうか。
「以前アメノ筆頭巫女にお伝えした通り、神社は正式に教会公認の組織となりました。それにあたって、通常の教会と同様、監督者である司教の監督を受けていただきます。この集落の神社に関しては、同じ集落の教会の司教であるシルヴィア・フェルトが担当することとなりました」
「承りました。以後、監督のほどよろしくお願いします」
2人で形式に則ったやり取りをして、少しの間見つめ合う。
その可笑しさに、思わず吹き出してしまった。
「——もう格式ばったやり取りは終わりにしましょう。ミコトさん、よろしくお願いしますね」
「はい! よろしくお願いします! まさかシルヴィアさんが監督者になってくださるなんて、思ってもいませんでした! それに、司教って……」
「今回のエルフと聖獣保護の功績を以って昇進した形になります。一応、もともと聖心の証は持っていたので資格自体はありましたし、今回大きな役割を果たしてくださったミコトさんの立場の保証や避難後のエルフの方々への対応との兼ね合いもあって、この機会にと。それで、この集落近辺が私の担当区域になったという感じですね」
「シルヴィアさんなら、私たちも安心です! ね、サヨ!」
「はい!」
サヨと顔を見合わせて笑い合う。
シルヴィアさんはもともと司祭で、司祭は1つの教会を管理監督する立場だと聞いていたから他の人だろうと思っていた。
どんな人が監督者になるのか不安だったけど、シルヴィアさん以上に安心できる人なんていない。
人となりは分かっているし、こちらの事情にも配慮して気を使ってくださる優しい人だ。
もう不安なんて一切なかった。
「というわけで、今後のことを少しお話したいのですが、よろしいですか?」
「もちろんです! サヨもご一緒していいですか?」
「はい。もちろん大丈夫ですよ」
「やった! ありがとうございます!」
今回は蚊帳の外にならなくてサヨも喜んでいる。
そろそろサヨもちゃんと聖魔法が使えるように時間を取って丁寧に指導もしてあげないといけないし、神社に必要なものもたくさんあるし、シルヴィアさんとのいろいろな調整もしないといけない。
やらないといけないことは山積みだ。