天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~   作:あじのふらい

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EX2-5 ドワーフの鍛冶屋さん

村を歩いていたら、商店の方で小さな人だかりができているのを見かけた。

 

『あそこって……』

 

『確か鍛冶屋が準備中だったところですよね?』

 

『開店したのかな?』

 

リーゼちゃんに集落を案内していた時に鍛冶屋シュミットっていう看板がかかっていた場所だった気がする。

人だかり……と言っても5、6人くらいでしかないんだけど、その中に見知った背中を見かけた。

 

「シスイ、ライルさん、何を見てるんですか?」

 

「あぁ、ミコト様。こちらの商品の剣を見せてもらっていました」

 

「おお! ここの剣すげぇぞ! 歪みやムラが一切ない洗練されたまっすぐな刃! 装飾は最低限に、下手な小細工すらしてねぇ実用性重視の渋い作り! 軽く持っただけでも分かる重心の違い! ここの親方が用途をしっかり決めて打ってるのまですぐ分かるくらいだ!! これでオーダーメイドまで受け付けてくれるとなったら……! なぁ!」

 

「嫌でも期待してしまうな」

 

「な、なるほど?」

 

ライルさんの勢いが恋愛小説絡みの時のシルヴィアさんみたいなことになっていた。

……シスイ、口では結構淡泊な反応してるけど、多分内心はライルさんと同じ感じだよね。

シスイとライルさんが子供みたいに目を輝かせてるのとか、初めて見た。

 

『どうしよう、すごい剣なのはわかったんだけど、私全然違いとか良さとか分からない』

 

『あはは、私もですよー。こういうのは男性の方が興味を持ちやすいですよね』

 

トコヨに泣きついたらトコヨまで乾いた笑いを浮かべていた。

……うん、集まっている人たちも皆男性だし、そういうことなんだろうね。

女性の剣士ならおそらくこういう話にも興味を持てるんだろうけど、私はそうじゃないし。

 

「そんなにいい剣なんですね。そうなると、購入を検討していたり?」

 

「そうしたいのは山々なんですが……」

 

「買わないんですか?」

 

「いや、買いたいんだが……すげぇ高いんだよこれ。作り置きですらそこらの鍛冶屋で一級品のオーダーメイド級の料金、オーダーメイドはその数倍はしやがる……特に俺の場合大剣だから余計に値段が嵩みやすいし。安いのもあるっちゃあるが、それは今のからわざわざ買い替える必要性を感じないしなぁ」

 

「俺の細剣ですら気軽に買える値段ではないので。しばらく貯めて、いつか買いたいといった感じですね」

 

「な、なるほど……」

 

高級志向のお店だったのかここ。

でも、貯めてまで買う価値があると捉えられるくらいだからきっと腕は確かなんだろう。

そんなことを考えていたら、お店の中からこの前会ったドワーフの人が出てきた。

 

「すまんな。俺としちゃもう少し安くしてもいいんだが、あんまり安くし過ぎると里の方でドヤされるんだ」

 

「物が物です。当然の判断かと。貴方がこちらの鍛冶師の方ですか?」

 

シスイがすごく畏まった様子で話しかけ始めた。

ここまですぐに敬意を払うべきと判断するほどの剣だったらしい。

 

「おう。俺はバルツ・シュミットってんだ。見てわかる通り、ドワーフだな。俺が店にいるときならいつでもオーダーメイドを受け付ける。必要になったら声かけてくれ」

 

「必要額が貯まったら絶対買いに来るぜ親方!!」

 

「親方か……ま、好きに呼べ」

 

「あの、ちょっと気になったんですけどいいですか? 里ってどちらのことなんですか?」

 

「里は里だ。ドワーフの里のエルツハイムのことだよ」

 

「エルツハイム……?」

 

聞いたことがない名前。

いや、セシルさんに借りた本の中でちらっと見かけた気がしないでもない気はする。

 

「グリムフェルス火山のところにあるただの集落だよ。……嬢ちゃん、また来たんだな。なんだ、剣に興味があるのか」

 

「い、いえ。知り合いが盛り上がっていたのが気になった感じなので」

 

「そうかい。俺ぁ娘っ子へのセールスは苦手なんだよ。とりあえずお前さんが興味持てそうなもんの説明できるやつ呼んでやる」

 

「私が興味を持てそうなものですか?」

 

バルツさんはそのままお店の奥に入っていく。

中から「ミーナ!」なんていう声が聞こえるから、言っていた通り説明できる人を呼んでくれているんだろう。

そういえば、初対面の時に妻が来たらなんて言ってたから、奥さんを呼んでいるってことなのかな。

 

それから少しして、私が少し距離を取ってシスイ達を見守っていたらバルツさんと一緒に小柄な少女が店の奥から出てきた。

バルツさんはそのままシスイたちの方に戻って聞かれたことに熱心に答え始め、少女の方は私の方に迷いなく歩いてくる。

……小柄どころか、サヨよりも小さいし……娘さん?

いやでも背で言ったらバルツさんも小さいしドワーフが皆こんな感じ?

……多分、奥さんだよね。娘さんじゃない……と思う。

 

「この子ね。私はミーナ・シュミット。貴女のお名前を聞いても?」

 

「あ、私はミコト・アメノです。よろしくお願いします。えっと……バルツさんの、奥さん、ですか?」

 

「あははっ! まぁ人間からしたら分かりづらいわよね! 私はバルツの妻よ! ついでに言うと、ミコトちゃんより二回りくらい年もいってると思うわよ?」

 

「えっ」

 

二回り…………二回り……?

いやでもセシルさんに借りた本にはドワーフの特徴として男性の髭と、女性の若い容姿の維持が挙げられていた。

若い容姿が若いどころか幼いなのはちょっと意外だけど。

 

『……ミーナが意外に見えるってことは、ミコトは私をどのくらいで見積もってるんです? なんなら私もミーナと同じくらいの見た目してると思いますけど』

 

『え? えっと……うーんと……見た目だけだと、12歳くらい……? でもそれだとおかしいくらい変なこと沢山知ってるし……見た目抜きにすると数百歳? でもそんなに老成してる感じもしないし、なんなら子供っぽいし……見た目相応なことも多いし……』

 

『見た目相応……!? それは流石に聞き捨てならないんですが!!』

 

あ、まずい。口……いや、思考を滑らせた。

無視しとこ。ミーナさんとの話に集中しないと。

 

「え、っと、私15なんですけど、失礼ですがおいくつなんでしょうか……?」

 

「40よ。バルツも同い年。幼馴染なのよね」

 

「よ、40……失礼しました。とてもお若く見えたので私の感覚とのズレが激しくて」

 

……バルツさん40歳だったのか。

むしろそっちは髭のせいでもっと高く見積もってた。

下手なこと言わないようにしておこう。

幸いミーナさんは特に不快そうな表情とかも浮かべていないし。

なんかさっきから後ろの方で『ミコトー!!』とか言ってる駄幽霊がいるけどそれは無視。

 

「慣れたもんだから気にしないでいいわよ。それで、ミコトちゃんはあっちの男性陣の空気についていけなかったのよね?」

 

「え、えぇ……恥ずかしながら、剣には詳しくない上に自分でも扱わないので」

 

「ま、そうよね。それなら、こういうのはどうかしら」

 

そういって差し出されたミーナさんの手には、小さなネックレスのようなものが収められていた。

中央に宝石のようなきれいな石がはめ込まれたそれは、とても複雑で精巧な作りをしていて、様々な意匠が組み合わさって花のような模様になっている。

光りを受けてところどころ色が違って見えるのも不思議な感じ。

派手過ぎず小さくて邪魔にならなそうなのに、確かに目に留まる可愛さがあった。

 

「わぁ……! これ、ネックレスですか? とってもかわいいですね!」

 

「手に取ってみてもいいわよ。剣とかはバルツの方が得意なんだけど、私はこういう金属細工が得意なのよ」

 

「そ、それでは、失礼します」

 

手に取ってみると、その出来の良さはさらによく分かった。

軽い材質なのか重さを全く感じない。

首にかける紐の部分まで金属で作られているのに問題なく滑らかに動く。

故郷でも儀式の時とかに使っている装飾は確かにあったし、装飾付きの巫女服とかを着たりもしたけど、金属でここまで小さくしているうえに細かく丁寧な飾りは初めて見た。

 

「里に来る人間の商人とかも女の子とか貴族向けで結構仕入れて行ってたし、人気あったと思うわよ? その感じだと、ミコトちゃんの掴みもよさそうね」

 

「はい! とっても素敵だと思います!」

 

「今はまだ私がこっちに来たばっかりで商品を作ってる最中だけど、また今度来てもらえれば店の方にも並べておくし、既製品よりも値は張るけどオーダーメイドにも対応するわよ」

 

「アクセサリーもオーダーメイドとか求められるものなんですか?」

 

「そりゃそうよ。お貴族様なんて特に、一点ものであることに価値を見出してる人とかはね。並べておく既製品はどうしてもある程度の量の確保のためにデザインが似通うから、そういうのが嫌って人もいる。まぁ、並べてるものの見た目で気に入ってくれたものがあれば、そっちの方が安上がりだから沢山買えない人とかにとっては悪いものではないわよ。今ミコトちゃんが目を輝かせて見てたこれもその一つ」

 

「へぇ~」

 

故郷だと剣を作っていた鍛冶師の人が時間をかけて神社や巫女の装飾とかも対応していたから、金属細工の方が得意って人のものは初めて見た。

でもそれも納得の一品だ。

これだと、確かにどんな模様でも対応してくれそうだしオーダーメイドの需要はありそう。

 

「あとはそうね……異性にプレゼントしたいって場合には、プレゼントしたい異性の特徴を教えてくれればその子にあったイメージで作ったりもできるわよー」

 

「……?」

 

なんか今の部分だけ少し声を張り上げて別のところに視線を向けた?

そっちの方に顔を向けると普通に男性陣の人だかりの方だった。

まぁいっか。

——あれ、どんな模様でも対応してくれそう……?

 

「あ、あの! 一つ聞いてもいいですか!」

 

「? えぇ、なんでも聞いてくれていいわよ」

 

「えっとですね……」

 

適当な石を見繕って地面に求めているものの模様を描いてみる。

端的に言うと、今はほぼ仮設状態の神社の装飾が欲しかったのだ。

本殿の柱や主殿、それに神楽殿とかもある程度の見栄えはあった方がいい。

できることなら、故郷の長い時間をかけて完成された神社のような見た目までもっていきたい。

 

「こんな感じの、柱とかに装着するような飾りとかって作れますか……? 綺麗な模様の掘り込みとかもあると嬉しいんですけど」

 

「そういうことか。細かいサイズとかを教えてくれれば対応するわよ。ほら、あんまり興味ないかもしれないけど、あっちの剣の柄とか見てみて」

 

「あっちの……?」

 

そっちを見ると、確かに剣の柄とかには質素だけど綺麗な掘り込みが施されたりしていた。

 

「バルツの剣の柄とか鞘の装飾も私が作ってるのよ。求めているものさえ詳細に教えてもらえれば余裕で対応できるわ」

 

「それなら、すぐでなくていい、というよりも神社の方で金銭的な余裕が出来たら頼みたいものが色々ありまして……」

 

「神社?」

 

「あ、えっと、神社っていうのは——」

 

神社の飾りに対応してもらえそうな腕利きの鍛冶屋さんなんて思わぬ収穫だ。

神社の説明を簡単にしたら毛色の違う教会って理解してくれた。

教会の装飾とかにはドワーフ製の装飾も数多く使われているらしい。

それなら安心だし、お金の余裕を作ったらミーナさんに相談してみよう。

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