天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~ 作:あじのふらい
「あの、セシルさん……」
「なに」
「これ、本当に私がやるんですか……?」
声を潜めながら尋ねる。
場所は魔道図書館の写本台。
目の前にあるのは、分厚い魔術書と白紙の束だった。
少し前までなら、私に渡されていたのは魔力や魔素についての基礎理論だった。
文章をそのまま丁寧に写していけばよくて、細かい魔術陣や複雑な図もほとんどない。
セシルさんが、私でも間違えにくい場所を選んでくれていたんだと思う。
だけど、今目の前にある本は違った。
細かな文字の間に、いくつもの魔術陣とか魔素の流れを示すような図まで書き込まれている。
図の周りには小さな注釈がびっしりと並び、その一つ一つから伸びた線が別の図へ繋がっていた。
どこからどこまでが一つの術式なのかすら、全く理解できない。
それが、1冊ではない。
写本台の横には、同じくらい難しそうな本がさらに2冊積まれている。
「説明したでしょ。指定した範囲を、図と注釈も含めて全部写す。勝手に省略するなよ」
「それは聞きましたけど……量も、内容も……今までより、その……」
「多いし難しいね」
「そこは否定してくれないんですね……」
セシルさんは、自分の写本台へ視線を戻した。
目の前には、私の方よりもさらに分厚い本が置かれている。
それでも、セシルさんの手は迷うことなく動き続けていた。
「最初は写本そのものに慣れてなかったから。今は一応、致命的な間違いはしなくなったでしょ」
「それは、そうかもしれませんけど……」
「それにこれ、元々私がやる予定だった範囲だから」
……え。
「セシルさんがやる予定だったものを、どうして私に……?」
「覚えてないの?」
「何をですか?」
セシルさんの手が止まった。
すごく嫌な予感がした。
「魔物の討伐依頼を受けるって決めた時。私が、写本も終わってないって言ったら、ミコトは何て答えた?」
「えっ」
えっと、確か……
魔道図書館で、マルタさんから魔物討伐への協力を頼まれた時。
嫌がるセシルさんを説得しようとして、私は——
「……私が、もっと頑張ります、と」
「その後」
「……なんでも言ってください、と」
「そ」
セシルさんは満足そうに小さく頷いた。
「だから、言った通り頑張ってもらってるだけ」
「で、でも、えっと、あの……」
「私言ったよね。あんたには馬車馬のように働いてもらうって」
「言ってましたけど……あれ、本気だったんですか……?」
「冗談で言う意味ある?」
ない。
セシルさんなら間違いなく本気で言っている。
『見事に言質を取られてましたねぇ』
『でも、こんな難しいの渡されるなんて思ってなくて……』
『セシル相手になんでも言ってくださいなんて言ったのが悪いと思いますよ』
『それは……そうかもしれないけど……』
トコヨにまで言われ、何も言い返せなくなる。
「ミコトさん。一緒に頑張りましょう」
隣の写本台から、リーゼちゃんが苦笑しながら声をかけてくれた。
リーゼちゃんの前にも、分厚い本が置かれている。
こちらは風魔術に関係する本らしく、複雑な図と文章を交互に確認しながら、慎重に羽ペンを動かしていた。
「リーゼちゃんも大変そうですね……」
「はい。以前より難しくなっています。でも、セシルさんに教えていただいたことと繋がる部分もあって、すごく勉強になります」
「勉強に……」
私には、文字と図が延々と続く恐ろしい何かにしか見えない。
魔術の知識があるかどうかの差は大きいらしい。
「私もまだかなり残っていますけど、皆でやればきっと終わりますよ」
「リーゼちゃん……」
渡されてる本からしてちゃんとやれるか自体が不安だけど、リーゼちゃんの励ましに少しだけ元気を取り戻す。
「——頑張ります」
「ま、倒れない程度にはキリキリ書いてね」
「が、がんばり、ます……」
羽ペンを持ち直す。
原本の上にある細かな図を見て、白紙へ視線を落とした。
まずは、一番外側の円から。
形を崩さないように、少しずつ写していく。
「2人とも、随分難しいのを任されるようになったのね」
すぐ近くから、柔らかな声が聞こえた。
顔を上げると、何冊かの本を抱えたマルタさんが立っていた。
「マルタさん……助けてください……」
「ふふ。私に頼まれても、写本を代わってあげることはできないわね」
「そんな……」
「でも、初めて来た時よりずっと手慣れているわ。ミコトちゃん、最初は一頁写すだけで一刻近くかかっていたでしょう?」
「うっ……覚えていたんですか?」
「ええ。とても真剣な顔で、何度も原本と紙を見比べていたもの」
恥ずかしい。
近くにいた司書さんたちには、最初から全部見られていたらしい。
マルタさんは私の写本台を覗き込んで、書きかけの術式図へ視線を落とした。
「邪魔しないで」
「ふふ、そうね。ごめんなさい……セシルちゃんも、2人に無理をさせすぎちゃ駄目よ」
「今日中に全部やれとは言ってない。帰るまでに終わればいいって言ってる」
セシルさんは面倒そうに答えながらも、私の写本へ一度だけ目を向けた。
「今の速度なら間に合う。ミコトも前よりミス減ったし」
「……!」
思わず顔を上げる。
「それって、私ならこれも任せられると思ったってことですか?」
「そこまで大げさな意味はない。単に使える人手を使ってるだけ」
「でも、使える人手とは思ってくれたんですよね?」
「……調子に乗るなら、もう一冊増やすけど」
「すみません。黙って頑張ります」
すぐに原本へ視線を戻す。
マルタさんはクスクス笑いながら、本を戻すために書架の奥へ歩いていってしまった。
だけど、なんだかんだで少しだけ嬉しかった。
最初は簡単なところしか任せてもらえなかった。
それが今は、セシルさんが自分で写す予定だったものを渡されている。
大変ではある。
目も疲れるし、手も痛い。
細かい図を間違えないように写すのは、ものすごく神経を使う。
それでも、頼りにされているのなら頑張りたいと思えた。
『単純ですねぇ、ミコトは』
『でも、頼りにされてるし!』
『まぁ、それはそうですね。頑張ってください、馬車馬さん』
『——その代わり、トコヨもしばらく美味しい物我慢だよ! 私が食べる暇ないからね!』
『んなっ!? そんな殺生な!! 私の唯一の楽しみなんですよ!? ミコト? ミコト!? 聞いてます!? ミコトー!?』
トコヨに抗議しながら、羽ペンを動かす。
事件が起きる前と同じ、静かな魔道図書館が戻っていた。
それから数日後。
写本作業は、どうにか終わった。
最後の一枚を確認し終えたセシルさんから「まぁいいんじゃない」と言われた時には、その場に崩れ落ちそうになるくらい嬉しかった。
都市政府と学院からの報酬金も、受け渡しの準備が整ったと連絡を受けている。
あとは帰りの馬車へ荷物を積み込めば、ヴァイスタールを出られる状態だった。
そんな出発を翌日に控えた朝。
ファロさんがセシルさん宅に訪ねてきた。
「どうしたんですか? 急に」
「今日の昼にはヴァイスタールを発つことになったから、改めてお礼を言わせて欲しくてきたの」
普段の軽い雰囲気とは少し違う。
背筋を伸ばし、私たち一人一人の顔を順番に見た。
「本当に、ありがとう。命を助けてもらったことはもちろんだけど、あたしが困ってた客との問題まで解決した」
「お客さんとの問題も、ですか?」
「うん。前に話した、急に大量の食べ物を要求してきた得意先のこと」
ファロさんは少しだけ苦笑した。
「昨日、その人のところに行ってたんだけど、前に納品した契約分の代金を払わないなんて言ったことも、契約とは関係ない食べ物を無理に要求したことも、全部丁寧に謝ってくれた」
「正気に戻った、っていう感じなんですかね……? それならよかったです」
リーゼちゃんがほっとしたように言う。
「そうみたい。本人も、自分がどうしてあんな要求をしたのか分からないって言ってたし。あたしが断ろうとした時に、前の契約まで踏み倒すようなことを言ったのも覚えてて、顔を真っ青にしてたよ」
「ふぅん? 金も払われたの」
「ちゃんと全額払ってもらった。今まで何度も取引してきた相手だったし、今回のことを理由に今後の取引までなくすつもりはないって伝えたら、すごく安心してた」
ファロさんは、自分の胸元へ手を置く。
「だから、これも皆のおかげ。あのまま異常が続いてたら、どうなってたか……商売上の揉め事までなくなって、本当に感謝しかないよ」
「ですが、異変に気づくきっかけをくれたのはファロさんです」
私はすぐに首を横に振った。
ファロさんがいなければ、私たちは原因調査に移行していたかすらも分からない。
「ファロさんが、お客さんの好みが変わったことを教えてくれなかったら、食事量の変化には気づけなかったと思います」
「そうです。周辺の村を調べる際にも、ファロさんから教えていただいたことが大きな手掛かりになりました」
リーゼちゃんも頷く。
「私なんて最初は、ただ量が多い街なのかななんて思ってましたから……」
「それはミコトが鈍すぎるだけ」
「それはそうですけど……」
「でも、最初の手掛かりがファロだったのは事実。あんたの話がなかったら、魔物の異常だけ調べて行き詰まってた可能性は高い」
セシルさんはファロさんを真っすぐ見た。
「それで、一つ確認」
「なに?」
「都市政府と学院から、今回の報酬金が支払われる」
「あぁ、都市を救った報酬ってやつ?」
「そ。今は私、ミコト、リーゼ、傭兵で四等分にすることになってる。でも、調査に協力したのはあんたも同じ」
セシルさんは淡々と続けた。
「五等分にする?」
ファロさんが目を瞬かせた。
提案自体が意外だったらしい。
凄くきょとんとした表情を浮かべていた。
それから、少し困ったように笑う。
「ありがたい提案ではあるけど、遠慮しておくよ」
「金額すら聞いてないのに?」
「聞いたらあたしの心が揺らぐかもしれないから、聞く前に断ったんだよ」
ファロさんの声は、いつもより少しだけ真剣だった。
「あたしが皆の調査を手伝ったのは、命を助けてもらったお礼をしたかったから。報酬をもらうためじゃない」
「でも、情報を集めるために街中を歩き回ってたでしょ」
「それを含めて、命の恩を返すため。借りを返すためにやったのに、お金をもらったら変でしょ」
ファロさんは、そこで明るく笑った。
セシルさんは特に反論もせずに聞いている。
クロードさんが私が助けてもらってるお礼って言って無償で手伝おうとしたのを断ったのとは、ちょっと違うってことなのだろうか。
初めからお礼目的で協力していたかどうかで変わるってことなのだろうか。
難しい……
「それに、今回協力したおかげで、困り果ててた得意先との問題まで綺麗に片付いたんだよ。あたしはもう十分過ぎるくらい得してる。だから、本当に感謝しかないの」
セシルさんは、しばらくファロさんを見ていた。
「そ。ならそういうことで」
「うん。皆で受け取って。命を張って戦った分なんだから。——どうしても気になるなら、あたしのところでたくさん買い物してね!」
「あはは、商売には繋げるんですね」
「当然でしょ。そこは商人だもん。商機は逃せないよ」
ファロさんの耳がぴんと立った。
尻尾も楽しそうに揺れている。
「で、その商機に絡んだことを聞きたいから、わざわざお礼ついでに挨拶に来たのもあるのよ。皆が住んでる世界樹の麓の集落って、できたばっかりなんだよね?」
「……? はい。聞いた限りでは、できてから1年程度だったと思います」
「1年……」
ファロさんの目が僅かに細くなった。
さっきまでの明るい表情とは少し違う。
何かを計算している時の、商人らしい顔だった。
「じゃあ、まだ発展途中ってことだよね。店も多くない?」
「はい。少しずつ増えてはいますけど、まだ必要なものを行商人の方にお願いすることも多いです」
「人は?」
「私たちのように、行く場所がなくて移住してきた方が少しずつ増えています。最近は、リーゼちゃんを含めたエルフの皆さんも暮らし始めました」
「なるほどねぇ……」
ファロさんの尻尾が、ゆっくり左右へ揺れる。
「できたばかりで、これから人が増える集落。店はまだ少なくて、必要な品は外から仕入れることが多い」
「どうしたんですか?」
「商機よ。これは間違いなく商機なのよ」
「商機……?」
「物を買いたい人がいるのに、売る人が足りない場所ってことでしょ。旅商人としては、かなり魅力的だよ」
ファロさんは楽しそうに笑った。
「だから、いずれ販路開拓のために行かせてもらうね。皆がどんなものを欲しがってるのかも知りたいし、ヴァイスタールやカルドラはもちろん、それ以外の場所からも仕入れられるものは色々あるから」
「本当ですか?」
「うん。お礼とか関係なく、魅力的な場所で普通に商売したいからね!」
「そういうことなら、ぜひ来てください! クロードさん……集落の元締めさんにもお伝えしておきますね!」
ファロさんが来てくれるなら、神社に必要な品も頼みやすくなるかもしれない。
集落にいる人たちも、手に入れづらいものを頼めるようになる。
なにより、またファロさんに会えるのが嬉しかった。
「皆は、明日出るんだっけ?」
「昼前には出る。帰りの馬車も手配済み」
セシルさんが答える。
「そっか。まぁ、すぐにまた会えるだろうし、わざわざ丁寧に挨拶する必要もないわね」
ファロさんが片手を上げる。
「それじゃあ、またね」
「はい。またお会いしましょう」
「また!」
リーゼちゃんも笑顔で手を振った。
命を助けたことから始まった出会いだった。
だけど、これで終わりってわけじゃない。
そう思うと、別れを寂しいとは感じなかった。
それから一週間と少し。
帰りの旅は、行きよりも穏やかだった。
帰り道もルドガーさんが宣言通り全て対処してくれたから、私たちが馬車から降りる必要すらほとんどないまま進むことができた。
そんな長い馬車旅の果て。
窓の向こうに、見慣れた世界樹が見えた。
「戻ってきましたね」
リーゼちゃんが嬉しそうに窓の外を見つめている。
肩に乗っていたフレスベルグも嘴を小さく鳴らした。
「長かったです……」
「ん……なに、ついたの?」
「はい。もう世界樹も見えますよ!」
馬車が集落の中へ入る。
何もかもが、ヴァイスタールへ出る前と同じようで。
それでも、少しだけ懐かしく感じた。
馬車が広場の近くで止まる。
「そんじゃ、これで依頼は完了だな、依頼主殿」
「報酬はこの集落の元締めのクロード経由で払う。もう契約体系も伝えてある。元締め邸行けば貰えるようになってるからそっち行って」
「はいよ。そんじゃ、俺はこれで失礼するよ。仕事もありそうだし、ここには定期的に寄る。護衛がいるなら請け負うからまたごひいきに、お嬢さん方」
ルドガーさんはそういうと元締め邸の方に歩き始める。
あ、本当にこのまま行っちゃいそう。
お礼言わないと。
「ルドガーさん! 護衛、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
私が彼の背中にお礼を言うと、リーゼちゃんも続くようにお礼を言った。
ルドガーさんはひらひらと手を振ってそのまま歩いて行ってしまった。
最初から最後まで軽いというか、掴みどころがない人だった。
そんなやり取りを終えて、荷物を馬車から出した直後だった。
「ミコト様ーっ!」
聞き慣れた元気な声が響いた。
声の方向へ顔を向ける。
神社の治療院の方から、サヨが勢いよく駆けてきていた。
「サヨ!」
「おかえりなさいませ、ミコト様!」
サヨは私の目の前まで走ってくると、勢いよく頭を下げた。
顔を上げた時には、満面の笑みを浮かべている。
「はい。ただいま戻りました」
「ご無事で、本当によかったです! お怪我はありませんか? 長旅でお疲れではありませんか? お腹は空いていませんか?」
「大丈夫です。怪我もありませんよ」
「本当ですか? 無理をしていませんか?」
「本当に大丈夫です」
何度も頷く。
サヨは私の顔から身体まで何度も確認して、ようやく安心したように胸を撫で下ろした。
「サヨはどうでしたか? 治療院は大丈夫でした?」
「はい! ばっちりです!」
サヨは胸を張った。
「治療院での治癒はもちろん、エルフの方々への対応も恙なく! ミコト様に言われた通り、対処できない場合は迷わずシルヴィアさんに相談しました! 各種記録はもちろん、聖水のストックもばっちり作ってあります!」
一気に報告される。
内容を聞く限り、本当に何も問題はなさそうだった。
サヨはこういう細かい作業は得意みたいだし、本当に頼りになる。
私がいない間、サヨはきちんと治療院を守ってくれていた。
「ありがとうございます。あとで私も確認しますね。とても助かりました」
「……!」
サヨの頭へ、そっと手を置く。
頭を撫でると、サヨの表情が、目に見えて緩んでいった。
目を細め、頬を赤くしながら、私の手へ少しだけ頭を預けてくる。
「えへへ……ミコト様に、そんなふうに言っていただけるなんて……」
「サヨ?」
「私、もっともっと頑張ります……ミコト様のお役に立てるなら、なんでも……」
完全に蕩けている。
『ミコトー、これ、そろそろ危険水域だと思いますよー。依存が崇拝の域に入ってますよー』
『え、そう?』
『聞くまでもなくそうですよ。褒めて撫でただけで普通こうはなりませんって。フリッカ以外の友人関係がどうなってるかとかちゃんと把握した方がいいですよこれ』
『……そっか、分かった』
トコヨの言うことも尤もかもしれない。
とはいえ、サヨの年齢で両親を失ったばかりであることを考えると無理矢理引きはがすのも気が引ける。
見習い巫女として頑張ってくれてもいるわけだし……
……まぁ、追々考えよう。
「ん? あぁ、ミコトさん。帰ってきたんですね」
教会に続く道の方から、別の声が聞こえた。
シルヴィアさんが、穏やかな笑みを浮かべながらこちらへ歩いてくる。
「ただいま戻りました、シルヴィアさん」
「おかえりなさい、ミコトさん。セシルさんも、リーゼさんも、長旅お疲れ様でした。色々あったと聞いていますが、大丈夫でしたか?」
「あれ、知ってるんですか?」
「はい。ヴァイスタール近辺を預かっているヴァイゲルト司教から、お手紙をいただきまして。事の経緯はもちろん、ミコトさんが治療室の協力をしたことまで。司教殿から改めてお礼を伝えておいてほしいと」
ヴァイゲルト司教は、わざわざシルヴィアさんにまで報告してくれたらしい。
あの司教様なら、そういうことをしても不思議じゃないか。
「皆さん長旅でお疲れでしょう。お茶でも淹れましょうか?」
「結構。堕神官とお茶会とか逆に疲れるから。いない間に部屋とか触れてないだろうな」
「流石にそこまではしませんよ……」
「信用できん」
セシルさんはそこまで言うとすたすたと集合住宅の方に一人で歩いて行ってしまった。
うん、なんというか、いつも通りのやり取りで逆に安心する。
私とリーゼちゃんに対する対応とシルヴィアさんへの対応への落差が大きすぎて、見てても苦笑しか浮かんでこないけど。
「わ、私はいただきたいです!」
「……ふふ、それでは、久しぶりにお茶会にしましょうか」
「あ、あの! 私もいいですか!?」
「もちろんですよ、リーゼさん。ぜひ」
「では、私もお母様への報告を終えたら伺いますね!」
リーゼちゃんが嬉しそうに笑う。
その肩に乗っているフレスベルグも、短く鳴いて翼を揺らしている。
サヨもお茶会お茶会と嬉しそうにしている。
色々あったけど、無事に帰ってきたんだなって強く実感できた。