天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~ 作:あじのふらい
『浮かれてますねぇ。気持ちは分かりますけど』
『新品の巫女服注文できたし、流石に気分も上がるよ!』
雑貨屋で前金と引き換えにもらった注文書を丁寧に鞄へしまう。
完成する日が待ち遠しい。
浮き立った気分のまま広場へ続く通りを歩いていると、簡素な露店の奥に見覚えのある猫耳が見えた。
「ファロさん!」
声をかけると、ぴんと立った耳がこちらを向いた。
「あ、ミコト。ちょうどよかった。元締めさんへの口利き、本当にしてくれてたんだね」
「伝えるって言いましたし当然です。帰ってきてすぐにお伝えしましたよ!」
「ありがと。昨日、商売の許可をもらいに元締め邸に行ったの。そしたら許可も簡単にもらえた上に、随分といい条件を出してもらえたから助かったよ」
「いい条件ですか?」
「そ。この集落、常駐して店構えるところには金銭面の支援してるらしいけど、旅商人とか行商人にはしてないらしいのよ。だけど、今後も頻繁に来るなら空いてる倉庫を家賃なしで専用にして使っていいって言って鍵まで渡してくれたの!」
証拠というかのような鍵を目の前にかざされた。
ファロさんの耳がピコピコと動いている。
上機嫌なのはなんとなく分かる。
「それっていい条件なんですか?」
「滅茶苦茶いい条件よ!! そもそも住んですらいない場所に倉庫持つのって規模の小さい商人からしたら痛いなんてもんじゃないのよ。家借りるのとそこまで変わらないような金額を月単位で請求されるし」
「そうなんですか?」
「そうなの! あたしが持ってるのってカルドラで自宅にしてる借家と、ヴァイスタールでお金を払って借りてる貸し倉庫だけだったのよ。そこに新しく商売できる場所が一つ増えるってことだから、ものすごく助かる。ここで売る商品を置いておけるし、近くの集落を回る拠点にもできるからね!」
「それならよかったです」
とにかくすごいというのは何となくわかった。
ファロさんがすごく嬉しそうにしていて私まで嬉しくなる。
私としてはただクロードさんへ話しただけだけど、それがファロさんの助けになったなら伝えておいてよかった。
「だから、ここでもガンガン商売していくよ! 競合の商売敵がこんなに少ないのに急発展してる集落滅多にないし超狙い目!」
ファロさんは、露店に立てられた注文受付中と書かれた板を指差した。
「置いてるものの販売以外にも、絶賛注文受付中! ヴァイスタールやカルドラはもちろん、他の国のものでも、あたしが行ける場所なら大体なんでも仕入れてくるよ! 一人で運べる範疇であれば隊商よりも早く! 隊商よりも安く! 旅商人ファロをよろしくぅ!!」
声を張り上げるようにしながらそこまで一息に言い切った。
間違いなく周囲の人への営業も兼ねた宣伝だった。
『前から思ってましたけどこの子商魂たくましいですよね』
『あはは……でもそれがファロさんのいいところな気はする』
それはそれとして……
「仕入れって遠くのものでもいいんですか?」
「うん? 場所によってすぐにとはいかないけど、それがあたしの本業みたいなものだしね。特定の地域に仕入れに行かないといけない場合は、他の注文との兼ね合いで少し時間もらうこともあるくらいかな」
その言葉を聞いた瞬間、神社で必要なものがいくつも頭に浮かんだ。
「それなら、お願いしたいものがあります!」
儀式で焚く香木と、本殿に安置する
思いつくままに伝えていく。
ファロさんは最初こそ頷いていたけど、途中から耳が少しずつ横へ倒れていった。
「……ちょっと待って、ミコト」
「はい?」
「貴女、まともな商取引をしたことある?」
「ありますよ。商店でお買い物もしましたし、食事処でもきちんとお代を払っています。さっきだってオーダーメイドで巫女服を依頼してきました!」
「……やっぱりそういう答えかぁ」
ファロさんは片手で顔を覆った。
猫耳まで力なく垂れている。
「それは、もう値段が決まってるもの、ないし注文に対するお金をその場で払って買った経験でしょ。今からするのは、あたしが条件に合う品を探して、買い付けて、ここまで運ぶ仕事の依頼。全然違う取引なのよ」
「違うんですか?」
「全然違う。あたしがしてるのって、お店が仕入れ元に対してやってる取引を個人でお客さん相手にしてるようなもので——って、その顔、まだ分かってないわね?」
ファロさんが疑わしそうに私を見つめる。
そんな顔をしていただろうか。
確かによく分かってなかったけど……
「ヴァイスタールで話した時も、契約したお金を払うのを渋る客がいることすら知らなかったもんね。善良なのを疑ってるわけじゃないのよ。貴女、相手も自分と同じくらい真面目に約束を守ると思ってるでしょ」
「契約をしたなら、守るのが普通なのでは……?」
「普通であってほしいけど、守らない人もいるの」
即答された。
ファロさんは小さく息を吐くと、露店の内側から椅子を二つ引っ張り出した。
「座って。口約束だけで進めたら後でお互い困るから、全部契約にまとめるよ」
さっきまでの軽い口調から、少しだけ雰囲気が変わった。
紙と羽ペンを机へ置き、真面目な口調で確認を始める。
「品名、必要数、品質、用途、払える金額の上限。分かる範囲で答えて」
「は、はい」
香木の香り、想定している鏡の大きさ、それぞれの数。
用途や形についてなら、私も故郷の神社で使っていたものを思い出しながら答えられた。
ファロさんは条件を短い文章にまとめ、仕入れ先の候補と、運搬費や手数料を含めた予想額を書き込んでいく。
提示された値段へ私が一つずつ頷いていると、途中で羽ペンが止まった。
「……ミコト。今あたしが言った値段、高いか安いか分かってる?」
「えっと……ファロさんがその専門家ですし、ちょうどいい値段なんじゃないんですか?」
「こりゃ駄目だ」
ファロさんは額を押さえ、通りへ顔を向けた。
「ちょうどいいところに……ルドガー!」
少し離れた場所を歩いていたルドガーさんが、面倒そうな顔で近づいてくる。
「なんだ。商売に口挟んだりしねぇぞめんどいし」
「ちょっとでいいからお願い。この仕入れ値と手数料、適正か見て」
「俺に何の得がある」
「今度、安くておいしい酒が入ったら優先して教える」
「……貸せ」
あっさり契約書を受け取り、上から順に目を通していく。
「香木はむしろ少し安いくらいだろ。鏡も破損のリスク込みで安全に運搬する手間考えりゃ妥当。手数料も取りすぎちゃいねぇ」
ファロさんが満足そうに頷いた。
「法外な値段ではないな。仕入れと運搬の手間を考えりゃ、普通に妥当だ。むしろ、全体的に多少安いかって程度じゃねぇか?」
「はい、ありがと。ミコトも今の聞いたわね」
「は、はい」
「相場を知らない客に、不当に高い値段を提示する商人もいる。あたしがそうじゃないってこと示したかったからルドガーに目を通させたけど、普通ここまでする商人いないから。こんなことを誰からでもしてもらえるなんて思わないで」
「なるほど……ファロさんは誠実な商人さんなんですね」
「そうやってすぐ全面的に信用するのが怖いって話をしてるんだけど? これ、あたしが傭兵のルドガーにお金掴ませてグルで騙そうとするパターンだってあるんだからね?」
「あれ?」
ファロさんが深い溜息を吐いた。
隣ではルドガーさんが肩を揺らしている。
その後、仕入れられなかった場合や品質が条件と違った場合、前金と残金の支払いまで契約書へ記載していく。
「他の依頼との兼ね合いもあるから、早くても一月以上。遅くても数か月以内には戻るつもりだけど、それで大丈夫?」
「はい。急ぎではないので。条件に合うものを探していただければ十分です」
互いに署名を入れ、控えを受け取る。
「これで契約成立。前金は神社へ請求する形でいい?」
「はい。神社の帳簿で管理してるので」
「そこはちゃんとしてるのね……」
なぜか、少し意外そうな顔をされた。
「おい、ファロ」
契約書を眺めていたルドガーさんが、ふと口を開いた。
「他国の品も仕入れられるって言ったな」
「言ったけど?」
「火酒も仕入れられるのか?」
ルドガーさんの目が、さっきまでより明らかに真剣になっている。
ファロさんは少し考えるように首を傾げた。
「仕入れられなくはないよ。エルツハイムの喉が焼けるくらい強いやつでしょ?」
「それだ」
「でも、洒落にならないくらい高くなるよ?」
「……どのくらいだ」
ファロさんはルドガーさんの近くへ寄り、小声で何かを伝えた。
聞いた瞬間、ルドガーさんの顔から力が抜けた。
「一本でか?」
「一本で。樽だともっと高値になる。火酒はほとんどバルグラント帝国との交易で外に出るから、買うなら帝国の商人を通すことになる。そこで帝国側の中間マージンが乗るし。割れ物だから少量だけ運ぶとなっても割高にせざるを得ないし」
「……直接買いに行ってもか」
「帝国の関所を通らないといけないから通行料がかかる。その辺り全部上乗せしてもいいなら買いに行くけど、どっちにしても高いよ」
ルドガーさんは項垂れた。
さっきまでの真剣な表情はどこにもない。
「……やめとくわ」
「賢明だね」
「酒一本にそこまで払うくらいなら、安酒を樽で買った方がいいな」
「そうした方がいいと思うよ」
ルドガーさんは心底残念そうに息を吐き、片手を上げてその場を離れていった。
背中がいつもより少し丸く見える。
『ものすごく落ち込んでますね』
『そんなに飲みたかったんだね……お酒ってそんなに美味しいのかな』
『んー……まずいとは言いませんけど好みは分かれますね。私はそこまで好きじゃないです』
『そうなんだ』
火酒というものがどれほどおいしいのかは分からない。
喉が焼けるほど強いと聞くと、私としてはそこまで飲みたいものだとも思えない。
トコヨの反応からして私もあんまり好みじゃない可能性が高そうな気がしないでもないし。
「ミコト様!」
今度は別の方向から、聞き慣れた声が聞こえた。
声の方を向くとサヨがこっちに歩いてきている。
走ってはいないけど、少し早足だった。
「サヨ。どうしたの?」
「ミコト様を探していまして……」
サヨはそこで、露店とファロさんへ視線を向けた。
「あっ、すいません。お取り込み中でしたか?」
「もう終わったから、大丈夫だよ」
「そそ。問題なし。あたしはファロ・ポロニア。旅商人だよ。よろしくね」
「サヨ・アマカワです。よろしくお願いします」
サヨが丁寧に頭を下げる。
ファロさんは少しだけ面食らった顔をした後、軽く手を振った。
「こっちの契約も今終わったところだし、ちょうどお開きにするところだったからね」
「契約ですか?」
「神社で使うものを仕入れてもらうことにしたの」
「なるほど」
なぜか目を輝かせながら頷かれた。
普通に必要なものを注文しただけだと思う。
「神社用だけじゃなくて、ミコト個人で欲しいものがあった時も言ってね。服でも本でも食べ物でも、大体なんでも仕入れるから」
「ありがとうございます。でも、今はお金がないので、私物は大丈夫です」
そう返した瞬間だった。
サヨの動きが止まった。
「……お金が、ない?」
「うん」
「ミコト様が?」
「そうだけど……」
サヨは何度か瞬きをしている。
何かおかしなことを言っただろうか。
「ヴァイスタールで、報酬金をいただいたんですよね?」
「うん。ただ、それは巫女服とファロさんへの依頼分をそこから支払うから」
「巫女服?」
「私とサヨが普段使うものと、儀式用の装飾付きのもの。完成したらサヨにも渡すね」
「それは、ありがとうございま——ではなくて!」
勢いよくお礼を言いかけながら、サヨはすぐに首を振った。
「ミコト様は、たまに食べ物を買うだけで私物をほとんど買っていませんよね。それでも、手元には何も残していないんですか?」
「うん。神社の再建にもまだまだお金が必要だから」
「……ミコト様のお給金は?」
「私のお給金?」
聞き返す。
サヨは真剣な顔でこちらを見上げていた。
「私には、お給金をくださいましたよね。ミコト様ご自身にも、当然同じようにお給金があるのではないのですか?」
「ないよ」
「ない?」
「うん。今はなるべく節約したいから、そこを削っちゃった」
サヨが固まった。
ファロさんの耳も、こちらへ向いたまま固まってしまった。
『あー……』
『なに?』
『いえ。これは少し面倒なことになりそうだなと』
トコヨが何かを察したような声を漏らした。
はっきり言ってほしいんだけど……
どう説明するか考えていると、ファロさんが首を傾げた。
「そういえば、サヨちゃん。ミコトを探してたって言ってたけど、何か用があったんじゃないの?」
「…………あっ」
サヨの顔から血の気が引いた。
「どうしたの?」
「治療院に、患者さんが来ているんでした!」
「えっ」
「建築作業中の怪我です。多分骨までは大丈夫だと思うんですけど、結構酷めの捻挫で。出血もしてなくて痛みも歩かなければ問題はないと。ですが、私の治癒では痛みを多少抑えるところまでしかできなくて……」
「それを先に言ってください!」
「も、申し訳ありません! お金のことがあまりにも衝撃的で……!」
大急ぎで神社の方へ走り出す。
サヨもすぐに後ろからついてきた。
「契約書、落とさないでねー!」
背後からファロさんの声が聞こえる。
走りながら振り返って頭を下げた。
とりあえず今は患者さんを治さないといけない。
その日の夜。
集合住宅の共有スペースで、私はシルヴィアさんと向かい合って座っていた。
机の上には、神社の収支をまとめた帳簿と、昨日シルヴィアさんへ提出した収支報告書が広げられている。
シルヴィアさんの隣にはサヨが座っていた。
背筋を伸ばし、真剣な表情で私を見つめている。
……密告された。
治療が終わった後、サヨが教会へ行ったのは知っている。
患者さんのことを共有しに行ったのだと思っていたけど、それだけではなかったらしい。
「ミコトさん」
「はい」
「昨日いただいた収支報告について、お話があります」
シルヴィアさんはいつもの穏やかな笑みを浮かべている。
でも、目が笑っていない気がする。
『あはー。明らかに怒ってますねこれ。普段のシルヴィアからは考えられない目してますし』
『や、やっぱりそうだよね……』
形容しがたい威圧感というか……そういう雰囲気を感じた。
「昨日は教会学校の準備や聖都への報告で忙しく、受け取ったまま確認できていませんでした。ですが、夕方にサヨさんからお話を伺いまして、先ほど全て確認しました」
「はい……」
「最初に申し上げます。サヨさんへの給金、治療院で使用した消耗品、聖水の瓶代、寄付金、集落からの補助金。いずれも問題ありません。記録も丁寧ですし、金額にも不自然な点はありません」
「よかったです」
「よくありません。問題はその後です」
少し安心しかけたところで、即座に切り捨てられた。
「まず、この特別収入とは何ですか?」
シルヴィアさんが、報告書の一箇所を指差した。
ヴァイスタールから戻った後に記載した、大きな収入だ。
「ヴァイスタールでいただいた報酬金の、私の取り分です」
「——やはりそうでしたか。ヴァイゲルト司教からの報告や皆さんから聞いたお話で報酬金が支払われたこと自体は伺っていましたので、何かは分かりました」
シルヴィアさんは額へ手を当てた。
「ミコトさん個人へ支払われた報酬金を、神社へ入れること自体が完全な誤りとは言いません。ミコトさんが神社へ寄付したいとお考えなら、それはご本人の意思です」
「じゃあ……」
「ですが! その場合は個人へ支払われた報酬を、ミコトさんから神社への寄付として記録してください。出所の分からない特別収入として一括りにしてはいけません」
「分かりました……」
「そして、より大きな問題がこちらです」
シルヴィアさんの指が、支出の給金の欄へ移る。
そこには、サヨへの給金が記載されている。
それ以外は何も記載していない。
「ミコトさんご自身の給金が、どこにも記載されていないのですが?」
「えっと、その……受け取っていませんから」
「なぜ、それをそのように堂々と仰るのですか」
シルヴィアさんの笑みが少し引きつった。
「神社の再建にはお金が必要です。私一人分でも受け取らなければ、その分を祭具や建物の整備に使えます。住居や食事には手持ちで困っていませんし……」
「ミコトさん」
穏やかだけど反論を許さないというようなはっきりした声で名前を呼ばれた。
それだけで、口を閉じるしかなくなる。
「宗教施設を取り仕切る者が、適切な給金を受け取らずに働いていては、下の者へ示しがつきません」
シルヴィアさんは、隣にいるサヨへ一度視線を向けた。
「上に立つ者が無償で働いていれば、下にいる者は自分だけ給金を受け取ることへ負い目を抱きます。いずれ、信仰に仕える者は無償で身を削るべきだと考える者が出るかもしれません」
「その通りです」
サヨが強く頷いた。
「私は、ミコト様ご自身が受け取っていないお給金を受け取ることなんてできません」
「サヨはしっかり働いたんだから受け取らないと——」
「だったら、ミコト様も受け取ってください!」
シルヴィアさんまで深く頷いている。
「それに、教会から支給された支度金には、設備の調達だけでなく当面の給金も含まれています。ミコトさんも給金を受け取ることも想定された上で支給されているのです」
「でも、その分を神社のために……」
「ミコトさんご自身も、神社を運営するために必要な方です」
また、何も言えなくなった。
「お金が足りないのであれば、収支を見直し、必要なら私やクロード様へ相談してください。給金を削ってでも復興資金に回したいという感情は理解します。ですが、ミコトさん一人の給金を消すことで帳尻を合わせるのは、適切な運営とは言えません」
「……はい」
「特別収入以外の記録は、本当に問題ありませんでした。神社のお金を私的に使った形跡もありませんし、不要な支出もほとんどない。むしろ丁寧すぎるほどです」
シルヴィアさんは、報告書を一枚めくる。
「それだけに、ミコトさんご自身のお金だけ、扱いが明らかにおかしいのです」
「うっ……」
的確すぎて何も言い返せない。
味方がいない。
サヨとシルヴィアさんの二方向から険しい視線を向けられていた。
「今後は、ミコトさんにも神社から適切な給金を支払ってください。金額は現在の収支を確認した上で、私も交えて決めましょう」
「はい……」
「削るなと言っているのではないんですよ。今後の健全な運営のためにも、透明性を持たせるべきだと言っています。どうしても資金が足りず、給金分を復興資金に回すというなら、きちんと給与は計上したうえで、寄付として戻す処理を記録してください。もちろん、全額の寄付など認めはしませんが」
「分かりました……」
「はい。分かってくれればいいんです。お願いしますね。先月分もその分を計上して収支計算をやり直してください」
私が了承の意志を返すとシルヴィアさんはにっこりと笑顔を浮かべた。
ここまではっきり言われると流石に反論もできない。
お母さん以外にこんな風に叱られるのは初めてだから気分もしょんぼりしてしまう。
そんなことをしていたら、サヨが勢いよく立ち上がった。
「私も収支の記録に関わります! それで、2人できちんとした収支報告を作りましょう!」
「別に記録自体はできてたから私一人でも問題な——」
「いいえ必要です! 私が必要だと思います! ミコト様の負担軽減にもなります! どう思いますかフェルト司教! 監督者として!!」
サヨはそう言うとシルヴィアさんに視線を向けた。
シルヴィアさんは少し考えこんでから強く頷いた。
「そうですね。それがいいです。物品の補充などはサヨさんもしていますし、その方が効率的にもいいでしょう。これからは2人で協力して作ってください」
「やった!」
「えぇ……」
思わず思った反応をそのまま出してしまう。
改善はするし私だけでいいと思うんだけど……
次の瞬間、シルヴィアさんの表情がさっきの威圧感を伴う笑顔に戻った。
「分かりましたね?」
「——は、はい! 分かりました!」
私が頷くと、シルヴィアさんの雰囲気はいつもの穏やかなものに戻った。
シルヴィアさん、思った以上にはっきりと叱って指導もするみたいだった。
普段の様子からはあまり考えられないけど、それだけ私たちのことを考えてくれているってことなんだろうとは思う。
ただ、完成する巫女服のことを考えて浮かれていた朝が、随分と昔のことのように感じられてしまった。