我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現・八番隊五席。過剰なまでの厨二病言動と、斬魄刀「魁湛」が巻き起こす謎の派手な演出で周囲を絶えず困惑させる男。彼が本気で自分を十四番隊隊長だと信じ込んでいるのか、単に高度なごっこ遊びを楽しんでいるのかは、誰にも分からない。
京楽春水(きょうらく しゅんすい)
八番隊隊長。古男の突飛な言動や謎の演出を「面白がって」温かく(?)放任している。
伊勢七緒(いせ ななお)
八番隊副隊長。生真面目な苦労人。古男の書類不備や怪しい言動に容赦なくツッコミを入れる怒涛の事務方。
山本元柳斎重國(やまもと げんりゅうさい しげくに)
護廷十三隊総隊長。古男の常軌を逸した不敬な態度を、なぜか極めてナチュラルにスルーする絶対的トップ。
雀部長次郎(すずめばち ちょうじろう)
一番隊副隊長。古男の奇行にも動じず、冷静に必要な対応だけをして去っていく。
八番隊隊士たち
古男の巻き起こす怪異と独特すぎる空気感に日々振り回される一般死神たち。
死神。
それは三界のバランスを保つため、虚を滅し、整を成仏させ、尸魂界の治安を守る――実に素晴らしい仕事だ。
無論、この俺もその崇高なる使命を背負う者の一人である。
俺の名は――フッ、現世の名などとうに捨てた。
人は俺を『護廷十三隊十四番隊隊長』と呼ぶ。
「おーい、戸川五席! 伊勢副隊長がお呼びですよー!」
……訂正しよう。
一部の無知なる者どもは、俺を戸川古男五席と呼ぶ。
隊舎の廊下から聞こえてきた声に、俺は静かに振り返った。
「フッ……今日も俺の加護と叡智を求める不吉な依頼が舞い込んだか。今行く。……だが俺のことは隊長と呼べと言ったはずだぞ」
「はいはい……」
なんとも敬意の足りぬ返事である。
俺ほどの者ともなれば、この程度の無礼にいちいち目くじらを立てることはないが、その隊士が去ったあと、近くにいた若い隊士たちが俺を見ながら何やら話しているのが耳に入った。
「あの人って誰?」
「戸川古男五席。八番隊の」
「知らんなあ……いや、異様に目立つんだけどさ。言動が突飛すぎるんだよな……」
ふむ。
新入りか。
ならば仕方あるまい。この俺の存在感を一度に理解しろという方が酷というものだ。
七緒の待つ執務室へ向かって歩き出すと、どこからともなく荘厳な合唱が響き始めた。
天上より降り注ぐ光が俺の身体を包み、歩を進めるたび、木の廊下に重々しい音が響く。
ガツン……ガツン……。
背後で先ほどの隊士が呟いた。
「……草鞋だよな?」
「ああ」
「なんで鉄靴みたいな音がするんだ?」
「知らん。考えるな」
理解できぬものを無理に理解しようとしない。その判断だけは褒めてやってもいい。
やがて執務室へ入ると、七緒は机いっぱいに書類を広げていた。
俺が姿を現すなり、彼女は早くも頭痛をこらえるような顔をしている。
「伊勢七緒。我が絶対的な権能を求めるか? 求めよ! さすれば与えられん!!」
「いいえ。先日の任務における報告書が提出されていません。今日中に提出してください」
「……と言うか! 建物の中では草鞋を脱ぎなさい!!」
「何を言うか!! 我が手による『禁断の呪文書』は、既に『閃光の闇の使者』へと送付させた!!!」
「その意味不明なポエムと暗号で書かれた紙切れでは、一番隊の受付で『受領不可』と突っぱねられたと言っているのです!!!」
机の向こうから書類が一枚突き出された。
そこには確かに俺の筆跡で、
『黒き月満ちし刻、我は北天より来たりて穢れを祓う』
と記されている。
任務報告として何が問題なのか、俺にはよく分からない。
「まあまあ七緒ちゃん、そうカリカリしなさんな」
部屋の隅では、春水がいつものように呑気な顔で茶を飲んでいた。
「隊長は黙っていてください!!!」
「はいはい」
そんな男へ呆れの眼差しを向ける。
「むう……春水。副隊長への躾がなっておらぬぞ。ようく言っておくように」
「無礼者!!! 隊長に対して何という口の利き方を!!!」
これ以上ここにいては、我が高貴なる精神まで俗世の怒気に染められかねない。
「フッ……では俺はこれより『十三聖騎士隊首会議』があるのでな。失礼させてもらう!」
袖を翻し、その場を後にする。
漆黒の羽が舞い、光の残像が走り、風が巻き起こった。
「う〜ん、これから八番隊の席官会議なんだけどねえ。……あ、行っちゃった」
「連れ戻してください!!!」
聞こえぬ。
俺には何も聞こえぬ。
十四番隊隊長とは常に多忙なのである。
◇◇
前庭まで出た俺は、腕を組んで空を見上げた。
青空。
流れる雲。
吹き抜ける風。
そして、間もなく俺に託されるであろう重大なる使命。
「ククク……この俺にそのような些事を任せるとは……どうなっても知らんぞ。三界を天地鳴動させる我が霊圧の前に、たかが虚一匹ごときなど……!」
少し離れたところを歩いていた隊士二人がこちらを見た。
「なあ……あの人、なんで一人でずっとブツブツ言ってるんだ……?」
「しっ。ああいうのに関わるとろくなことにならない。実害がないならほっとけほっとけ」
賢明である。
そのまま己の道を進むがよい。
ところがそこへ、八番隊舎から七緒が怒りに任せて飛び出してきた。
後ろから春水がのんびりと追ってくる。
「隊長!! なぜあのような男を席官のままにしておくのですか!!」
「いや~、彼、面白いでしょ? あの演出が意外と楽しくなってくるんだよねえ」
「護廷十三隊は芸人に給料を払う組織ではありません!!」
「でもさ、彼、僕が隊長になる前どころか……僕が護廷十三隊に入る前からずっとあの調子でここにいるしねえ……」
「……え?」
◇◇
だが、その疑問を追及する暇はなかった。
庭にいた隊士たちが一斉に姿勢を正したからだ。
向こうから、一人の老人が歩いてくる。
護廷十三隊総隊長、山本元柳斎重國。
「山本総隊長だ……!」
「あっ、おい! 戸川五席を下がらせろ! 早く!」
何やら周囲が慌ただしい。
だが俺にとっては、見知った老人が一人やってきただけのことである。
悠然と山本へ近づいた。
「おい、待て」
「誰か止めろ!」
「いや無理だ、もう近い!」
隊士どもが騒いでいる間にも、俺は山本の真正面まで歩み寄った。
そしてその禿頭へ手を伸ばす。
ぺち。
ぺちぺち。
「ククク……山本元柳斎重國……。貴様……老いたな……」
庭から音が消えた。
誰も喋らない。
誰も動かない。
数人など完全に顔色を失っている。
山本は俺を見下ろしたまま、眉一つ動かさなかった。
「たわけが。油を売っておる暇があるなら掃除でもせんか。ではな」
それだけ言うと、何事もなかったかのように通り過ぎていった。
皆がその背中を見送る。
そして、十分に離れたところでようやく息を吹き返した。
「なんか普通にスルーされたんだけどーーーっ!?」
ふむ。
どうやら山本め、俺に新たなる使命を与えていったらしい。
「ククク……なるほど……尸魂界における霊子討滅を我に任せるか……」
「掃除しろって言われただけだろ!」
「ハッーーーッハッハッハ!! ならばこの『聖なる魔の箒』にて、黒き穢れを掻き出してくれよう!!」
「聖なる魔の箒って何だよ……」
その問いに答えるように、横から一本の竹箒が差し出された。
一番隊副隊長、雀部長次郎である。
「こちらの箒を使え。それはよその家のものだ」
自分が握っていた箒を見る。
確かに柄の部分に小さく『四番隊』と書いてあった。
「副隊長まで普通に対応してる……」
雀部から正当なる箒を受け取り、満足して頷いた。
「ふむ……雀部よ。あのようなジジイではなく俺に仕えないか? 貴様ほどの死神なら特別に『十四番隊・副副隊長』にしてやっても――」
そこまで言って隣を見る。
誰もいない。
いつの間にか雀部の姿は消えていた。
「……フッ」
なるほど。
「姿を消すとは見事な隠形術。ハーーーッハッハッハ!!!!」
足元へ、一枚の落ち葉が転がってきた。
さらに二枚。
三枚。
風が吹き、五枚に増えた。
七緒が無言でこちらを見ている。
俺も無言で七緒を見る。
やがて彼女は眼鏡を押し上げた。
「戸川五席」
「なんだ」
「掃除してください」
「……ククク。よかろう」
竹箒を両手で構える。
「見るがいい! これこそ十四番隊にのみ伝わる奥義――」
「普通に掃いてください!!!」
護廷十三隊(ごていじゅうさんたい)
尸魂界(ソウル・ソサエティ)の防衛および現世との霊子バランス維持を担う死神の実行部隊。一番隊から十三番隊までで構成されている。
十四番隊(じゅうよんばんたい)
護廷十三隊には存在しないはずの幻の隊。戸川古男が自称し続けている組織。
魁湛(かいたん)
戸川古男の所持する斬魄刀。使用者の「格好いい」という妄想を具現化し、攻撃力ゼロのド派手な光や音楽、効果音、演出を無制限に生み出す奇妙な能力を持つ。
閃光の闇の使者
古男の脳内にのみ存在する連絡機関。現実では「一番隊の書類受入窓口(あるいはただの書類提出ポスト)」を指していると思われる。
聖なる魔の箒
ただの竹箒。古男の手にかかると三界の穢れを払う神器のように語られるが、近所の民家からの借り物であった。