我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。八番隊五席にして、現世では空座高校の臨時英語教師「GTT」一護が死神の力を得た超重要かつシリアスな場面に、過剰なBGMと演出を引き連れて乱入。物語の根幹に関わる超重大な伏線を、空気を読まずに全バラシしてしまう男。
黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年。家族を守るため、ルキアから力を譲り受けて死神代行となったばかり。巨大な斬魄刀を振り回して虚を倒した直後、自分のクラスの変態英語教師が死神として現れ、さらには父親の秘密まで暴露されてキャパオーバーに陥る。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。一護に死神の力を譲渡した少女。一護の規格外の霊力に驚愕していたところへ、突然現れた八番隊の奇人(古男)に恋次との関係をからかわれ、激しく動揺する。
黒崎一心(くろさき いっしん)
一護の父。元・十番隊隊長「志波一心」。虚の襲撃で気絶していたが、古男に蹴り起こされた挙句、すべての説明を丸投げされる悲惨な元死神。
黒崎家を襲った巨大な虚は、一護の一撃で消滅した。
ルキアから死神の力を譲り受け、死覇装を纏った一護が振るった斬魄刀は、彼の身の丈ほどもある異様な大きさだった。その刃がフィッシュボーンDの面を叩き割り、巨体を真っ二つにした時、ルキアは地面へ座り込んだまま、その光景をただ見上げていた。
「……なぜだ……。死神が見える人間など聞いたことがない。鬼道を自力で破る人間など聞いたことがない。そして……斬魄刀がこんなにも大きくなるなど聞いたことがない!! ……奴は、一体何者なのだ……!?」
虚の身体が霊子となって夜気へ溶けていく。
一護自身も、何が起こったのかすべてを理解しているわけではなかった。ただ、家族を襲った怪物を倒した。それだけは分かる。
本来なら、その夜はそこで静けさを取り戻すはずだった。
カツーン…………カツーン……。
重い音がした。
一護が振り返る。
鉄でできた何かが石畳を踏みしめているような、妙に荘厳で重々しい足音だった。
続いて、住宅街には到底似つかわしくないパイプオルガンが鳴り始めた。低く沈む音へ聖歌隊の声が重なり、月明かりの下に薄暗い靄が広がっていく。実際には何も起きていないはずなのに、周囲の建物まで巨大な神殿の一部へ変わったような錯覚があった。
そして、どこからともなく男の声が響いた。
『……この世には………目には見えない闇の住人達がいる……』
一護は斬魄刀を構え直した。
「!? なんだこの声……それにこの音楽!?」
ルキアも顔を上げる。
「な、何奴!!?」
声は続いた。
『奴らは時として牙を剥き……君達を襲ってくる。俺は………そんな君達を守るため……地獄の底からやってきた………』
一護は声の出所を探し、やがて街灯の上を見た。
そこに男が立っていた。
月を背負い、漆黒の死覇装を纏い、羽織をマントのように風へなびかせている。腰には一振りの刀。学校では白いコートを着ていた男と同じ顔なのに、どういうわけか雰囲気だけは完全に別物だった。
『正義の使者………死神の十四番隊隊長だ!!!!』
「なっ!!!! 先生!!!!?」
一護の声と、ルキアの声がほぼ同時に上がった。
「ご、五席!!!!!」
だが説明を求める暇はなかった。
古男が街灯から飛び降り、そのまま一護へ向かって一直線に斬り込んできたからだ。
「ちょっ――何すんだ!!」
一護が反射的に身構える。
古男の刃は一護を斬らず、そのすぐ横を抜けた。
ズバァァァァン!!
大仰な閃光が夜空を裂いた。
一護の背後。
建物の影へ潜んでいたもう一体の虚が、いつの間にか真っ二つになっていた。
大して強くもない小型の虚だった。
それなのに魁湛の演出だけは凄まじく、斬られた虚の背後には巨大な光輪が現れ、断末魔まで妙に重低音になって夜空へ響き渡った。
光が消える。
古男は何事もなかったように魁湛を下ろした。
「………クックック………危なかったな。一護よ」
一護は斬魄刀を握ったまま古男を指差した。
「お、お前……! 戸川先生!? なんであんたがそんな格好して……死神!?」
古男は一護には答えず、今度はルキアへ顔を向けた。
「そしてルキアよ………」
「一護に惚れたか? 恋次に報告して良いか?」
「なっ……!? なぜそこで恋次が出てくる!!!」
ルキアの顔が一気に赤くなった。
一護は首を傾げる。
「恋次って誰だ?」
古男は待ってましたと言わんばかりに答えた。
「クックック……ルキアの幼馴染でな……。恋人同士なのだ」
「……そうなのか……」
一護は妙に納得した顔をする。
「ちがう!!あやつとは幼馴染で――最近まともに話してすら…… 何を言わすか阿呆が!!! 貴様こそなぜ現世にいるのだ戸川五席!!」
「クックック………流石は『志波家』の血筋よ。一護、実に良い姿だ。俺も鼻が高いぞ!!」
「………志波家?」
ルキアも固まった。
「え……………」
古男は二人の反応など気にせず、そのまま地面へ倒れている一心のところまで歩いていった。
黒崎一心。
虚の襲撃に巻き込まれ、気絶している。
古男はしばらく見下ろした。
そして腹を蹴った。
「コラ一心!! 貴様がいつまでもそんなけったいな義骸に入っているから、息子が愉快なことになったぞ!! 起きろ!!」
「うるせえっ!!!」
一心が勢いよく跳ね起きた。
「好きで脱げるならとっくに脱いでるっての……痛ぇな!!」
一護の頭が追いつかなかった。
父親が起きた。それ自体はいい。
問題はその前に聞こえた単語である。
「親父……!? お前、起きて……いや、義骸!? は!?」
ルキアも完全に混乱していた。
「ど、どういう事です!!? 五席!! 黒崎一護はただの人間では……それにこの男は……!?」
一護。
志波家。
義骸。
戸川五席。
そして、父親。
今まで互いに無関係だったものが、一瞬で一つへ繋がり始める。
古男はその場にいる全員を見回した。
「クックック……無知は罪……。だが、これを知れば貴様らは深淵に触れる……」
魁湛が低く鳴った。
またパイプオルガンが始まる。
背後へ巨大な黒い円環が浮かび、意味の分からない古代文字が周囲をゆっくり回転し始めた。
「我が記せし二万一千五百四十八文字の暗黒黙示録に刻まれた運命の通り……もう二度と後戻りはできなくなるぞ……!! このナイアルラトホテップの深淵にな!!!!」
一護は思わず怒鳴った。
「なんだよその中途半端にリアルな文字数は!! ナイアルラトホテップってクトゥルフ神話かよ!!」
「五席!! 意味が分かりません!! ちゃんと説明を……!」
さっきまで全力だった演出も、その瞬間だけ止まる。
ルキアと一護が次の言葉を待つ。
一心も嫌な予感を覚えたのか、ゆっくり後ずさりした。
古男の口元が持ち上がった。
「カーカッカッカッ!!! ではな!! あとの説明はそこな『元十番隊隊長』の一心から聞け!!!!」
一心の顔が引きつった。
「おい」
遅かった。
魁湛が鳴り響き、古男の足元へ巨大な魔法陣が展開する。白い光が住宅街を照らし、煙と黒い羽が一斉に舞い上がった。
「待て戸川!!」
一心が手を伸ばす。
光が弾ける。
古男は消えた。完全に。
「待てコラァ!!! 逃げ場を消して消えるな!!!! 全部俺に押し付けんじゃねえええええ!!!!」
返事はない。
残されたのは一護と、頭を抱えたルキアと、逃げ道を完全に潰された一心だけだった。
一護はゆっくり父親を見る。
「…………親父」
「ん?」
「元・隊長ってなんだ」
「…………」
一護の目が据わった。
「全部、吐け」
一心の額から汗が流れた。
「…………アハハ、一護ぉ〜!」
「笑って誤魔化すなよ」
「今夜は月が綺麗だなぁ〜!!」
「今それ関係ねえだろ」
「ほら見ろ! 満月じゃねえけど、それもまた風情ってもんが――」
「親父」
「はい」
一護が斬魄刀を少し持ち上げた。
一心は口を閉じた。
その横では、ルキアが両手で頭を抱えたまま動かない。
本来なら、それは一人の人間と一人の死神が出会い、新たな物語が始まるだけの夜だった。
だが古男が現れた結果、一護は死神代行になったその日のうちに、自分が志波家の血筋らしいこと、父親が義骸に入っているらしいこと、しかも元十番隊隊長だったらしいことまで知ってしまった。
そして、そのすべてを暴露した本人はもういない。
遠くの空からだけ、聞き覚えのある高笑いが微かに響いてきた。
「ハーーーッハッハッハ!!!!」
一心が夜空へ向かって怒鳴った。
「戸川ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
恋次(れんじ)
阿散井恋次。六番隊副隊長であり、ルキアの幼馴染。古男の適当なカマかけにより、ルキアは思わず本音を漏らしてしまった。
志波家(しばけ)
尸魂界の五大貴族の一つ。一心の本来の生家であり、一護は志波家の血を引いている。この世界線では貴族のまま。
義骸(ぎがい)
霊力を失った死神が現世で活動するために入る、特殊な肉体の器。一心はとある事情で特殊な義骸に入り続けている。
ナイアルラトホテップの深淵
クトゥルフ神話に登場する「這い寄る混沌」たる邪神の名。古男が雰囲気を出すためだけに、脈絡もなく適当に引用した。
21,548文字の暗黒黙示録
古男がハッタリで口走った謎の書物。妙に具体的な数字だが、その深淵なる意味は彼自身の脳内にしか存在しない。