我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座第一高校一年生。黒崎一護を救出するため尸魂界へ乗り込み、その過程で六花を用いた戦闘技術を大きく成長させた。
雀部長次郎
一番隊副隊長。山本元柳斎重國を長年支え続ける古参の死神。
檜佐木修兵
九番隊副隊長。東仙要の離反後も九番隊に残り、隊務を支えている。
大前田希千代
二番隊副隊長兼隠密機動第二分隊長。砕蜂の直属の副官。
山本元柳斎重國
護廷十三隊総隊長。護廷創設期から千年以上にわたり十三隊を率いてきた死神。
黒崎一護
死神代行にして、現在は十番隊隊長代行。現世では普通の高校生として生活している。
茶渡泰虎
一護の親友。強固な肉体と特殊な両腕を持ち、現在は全身を覆う完現術形態『勝利の悪魔』へ到達している。
朽木ルキア
十三番隊所属の死神。一護とともに現世へ戻り、現在も彼との関係を巡って織姫やたつきと競い合っている。
阿散井恋次
六番隊副隊長。ルキアとは流魂街時代からの幼馴染。
「よし!! どっからでもかかってきてくださーい!!」
こんな誘い方をされるとは思わなかった。雀部には、目の前の笑顔がどうにも解せない。刀を構えるこちらへ、急かすように手を振っている。
「ほ……本当に良いのかよ、相手は俺たち副隊長三人だぞ……?」
「いくら何でも、人間の小娘が調子に乗りすぎだぜ!!」
大前田の口から煎餅の欠片が落ちた。檜佐木からは、構えたまま同意を求める目を向けられている。相手の威勢より、味方の足並みが気になってきた。
「……元柳斎殿に直接挑もうとするなど無謀の極み。まずは我ら副隊長が相手をすることで……これで納得してくれるか、井上殿?」
「え? ここにいる皆を倒せば、奥にいるおじいちゃんが戦ってくれるんじゃないの……?」
「いやいや!! 元柳斎殿に素手で挑むなど、千年早いというもの!!」
「嫌だなぁ雀部さん! 千年も経ったら、あのおじいちゃん寿命で死んじゃうよ〜!」
後ろを振り返る勇気はなかった。
千年早いとは、千年後の予約を受け付ける意味ではない。
寿命の心配を始める客人も珍しい。ご本人にも聞こえているので、その話はお控え願いたい。
「――無礼者ッ! 穿て、『厳霊丸』ッッ!!」
「仕方ねえ、怪我すんなよ! 刈れ、『風死』ッッ!!」
「ぶっ潰せ、『五形頭』ッッ!!」
雷を纏わせた切っ先へ踏み込ませるつもりで、左右の退路を二人に任せる。鎖を鳴らして風死が回り、五形頭も振り上げられた。
「あ!! 檜佐木さんの武器、すっごく死神っぽくてカッコいいー!!」
褒められた鎖鎌は、空を切った。逃げた先へ突き出した厳霊丸も届かない。刃を引くより早く、目の前を軽く跳び越えられる。
「なっ……あ、当たらねえッ!?」
「――『複天滅盾(ふくてんめつじゅん)』!! 私は!! 拒絶するッッ!!」
頭上へ散った六花の間を、光が結ぶ。飛び込んできた五形頭は、その線に触れたところから切れていた。
「ひぎゃあああっ!? 俺の斬魄刀がサイコロステーキみたいにィィッッ!!??」
床へ落ちる鉄片を避け、踏み込みを止める。もう一度間合いを測ろうとした時には、織姫の姿は檜佐木の足元にあった。
「ほいっと!!」
「うおッッ!? 足払いかよ――ぐわっ!?」
鎖鎌を戻す暇も与えず、倒れた胴へ飛び乗っている。
「ふっふーん! マウントポジションゲットー!」
「お………おいッ……!! 太ももが……太ももが直に当たって……ッ!!」
「えいえいえいえい!!」
助けに入ろうにも、光の線を跨いではいけない。手近な鉄片が、線に触れてさらに切れたばかりである。
その向こうからは、頬を叩く音が続く。檜佐木も両腕を上げて防ごうとしているが、反撃する姿勢を作れずにいる。
「お……おいおい……こんなビンタくらいで、俺が……落ちるわけが……ッ!」
「えいえいえいえいえいえいえいッッ!!!!」
先ほどとは音が違う。練武場の床にも響く一発を見て、雀部には一刻も早く引き離す必要が分かった。
「うぶっ……ぶへっ!! くべらッッッッ!!??」
「拳で殴ると自分の手が痛くなっちゃうもんねー!」
相手の顔については、一言もない。手を傷めない工夫は結構だが、叩かれる方への配慮も少し分けてほしい。
倒れたままの檜佐木から離れたところへ、一気に距離を詰める。
「む……ッ! よくも……おのれッ!!」
突きは横へ流された。すぐに手首を返して追うが、今度は刀の届かない位置から顔を覗き込まれる。
「あれれ??? 雀部さん……もしかして私相手に、すっごく手加減してる……?」
「何を言うか!! 相手が女性とはいえ、戦場で手加減などあるものか!」
「でもでも……雀部さんの霊圧に、見えない『底』が隠れてるよ??」
返す言葉が見つからない。切っ先を向けられているのに、少しも怯えずこちらを見ている。
「手加減されるのは、私すっごく傷つくなあ。私は……黒崎君を守るために、誰よりも強くなりたいのに……。――じゃあ……『五天拡盾』」
五つの盾に囲まれた体から、霊圧が膨れ上がる。先ほど受け流された突きの感触を思い出し、握りを直す。今、同じことをされたら刀を保てるか。
盾を通る霊圧には、抑えが利いていない。さらに高まっていくのを前に、踏み込む機会を失った。
「そのままだと……………後ろにいるおじいちゃんまで、私の攻撃が通っちゃうよ?」
その指摘に、迷う余地はなかった。
「……ッ!! させるかァッ!!」
「孤天斬盾…………五つ星……」
「――『卍解』ッッ!!!!」
掲げた厳霊丸へ雷が集まり、練武場を照らす。撃ち出された椿鬼を正面から迎え撃つと、衝突した光の奥に織姫の姿が見えた。
「…………キレイ…………」
「……はぁっ……はぁっ……。し、しまった……思わず全力を……やりすぎたか……!」
煙の向こうへ駆け寄ろうとして、足が止まる。焼けた服の間から見える皮膚も、雷撃をまともに受けていた。
すぐに四番隊を呼ばねばならない。誰か走れる者はいないかと、大前田を探す。
声をかけようとしたところで、弱い声が聞こえた。
「――『双天帰盾』」
橙色の光に包まれた傷が消えていく。救護を呼ぶ指示を出す前に、立ち上がって服を払い始めた。
「すごーい! 今のかなり痛かったよー!」
化け物か……。
喉から出かかった言葉を呑み込み、厳霊丸を握り直す。
次の相手をする前に、修兵も治してもらえないだろうか。手合わせを続ける気なら、こちらの人数も元に戻してほしい。
背後から杖の音が聞こえ、総隊長の前を空ける。
「……で。儂の副官に卍解まで切らせて……一体、何をしに一番隊まで乗り込んできたのじゃ、井上織姫」
「おじいちゃん!! お願いします!! 私を十番隊の副隊長にしてください!!」
思わず厳霊丸を下ろしかける。十番隊には松本がいる。尋ねる前に、総隊長の返答があった。
「………………副隊長の任命権は隊長にあると、先ほど伝えたばかりじゃが……」
「黒崎君の専属の副隊長になりたいよ〜!! お願い!! おじいちゃんの一声でなんとかしてぇぇッ!!」
「……その直談判のために、わざわざこの手合わせを仕掛けたのか?」
「うんっ♫」
手間を省いて、現役の副隊長を倒しに来たらしい。
採用担当としては実力を疑いようもないが、面接の前に救護を頼むことになる。
この応募方法が広まるのは、何としても防がねばならない。
◇◇
一護の部屋の前で、入る機会を失っていた。
「ぐぬうううううううううッッ!!!、!」
「うおおおおおおおおおおおッッ!!!!」
扉越しに聞こえる声は、どちらも知っている。だからこそ、取っ手を握ったまま動けない。
「チャド…………テメエッ!! いつ、いつの間にこんなに太く……ッ!! かてえよ……!! 体の奥の奥までガンガン響いてきやがるぜッッ!!!」
「一護……俺の想いを受けてくれ………! 俺はお前を前にすると、どこまでも固くなる……!! 今日こそ、俺の熱い想いを全部お前にぶちまけてやるッッ!!」
「くっ……重い……ッ!! 勘弁してくれよ……ッ!」
何をしている、と尋ねれば済むはずなのに、その一言が出てこない。
聞かなかったことにして離れるには、あまりに聞いてしまった。隣へ顔を向けると、恋次からも目を逸らされる。そちらも聞こえているのは間違いない。
「……………………おいルキア、入らなくて良いのかよ……?」
「………何となく、開けてはならぬ禁断の扉のような……とてつもなく嫌な予感がするのだ……」
「こりゃあ……あれだろ? その………男同士で、こう……ベッドの上で激しく愛を確かめ合ってる……」
「言うなッッ!! 口に出すでない馬鹿者がッッ!! ……というか恋次、貴様はそもそも何をしに現世へやって来たのだ!?」
聞きたくない推測を遮り、取っ手から手を離す。部屋の中を確かめる前に、まずこちらを問いただしたい。
「あ? 俺は………その………現世で夫婦生活を始めたとか聞いてよ……テメエが一護に早速フラれて泣いてねえか、心配で見に来てやったんだよ!! ルキアは昔からガサツだし、男の扱い下手クソだからな!!」
励ます練習なら別の場所で済ませてから来てほしかった。
「余計なお世話だ阿呆!! 私だって染華から大人のイロハを学んで……だいたい――」
「う…………ううう!!! くそ………キツイ………ッ!! このままだと……抜けねえ……しまる……ッッ!!」
「もう少しだ……もう少しだけ耐えてくれ、一護………ッ!!」
「頼むから勘弁してくれ〜〜〜ッッ!!!!」
言い返すつもりだったことを忘れ、扉へ向き直る。まず落ち着こう。中を見ずに結論を出すわけにはいかない。
「――一護……ッッ!! 貴様、チャド相手に『受け』の方なのかァァァッッ!!??」
落ち着く前に、最悪の質問が出てしまった。
助けを求めて恋次を見たが、壁へ手をついたまま返事がない。さっきの推測を撤回してくれてもよさそうなものだが、目も合わせてくれない。
一護を責めるつもりはない。ないが、こちらに何も話さず、そんな大事なことを進められては困る。どう受け止めればよいのか、まだ教わっていないのだ。
ここで逃げ帰ったら、次にどんな顔で会えばいい。腹を決めて取っ手を掴み直す。まずは理解を示し、その上で説明を求めよう。
実物も確かめずに理解を示すと決めたあたり、少々順序を誤ってはいる。
「一護ッッ!! 私は貴様がそちらの趣味に目覚めたとしても、妻として最大限の理解を示す覚悟はあるぞォォッッ!!!!」
開けた途端、二人の声にかき消された。
「うおおおおおおおおおおおッッ!!!!」
「ぬおおおおおおおおおおおッッ!!!!」
机の天板が割れ、破片が床を跳ねる。
上半身裸で向かい合う二人の手は、固く組まれていた。それぞれ肘を机につき、腕相撲の決着をつけようとしていたのである。割れた机から肘を浮かせた一護にも、まだ状況が分かっていないらしい。
「……あ? ルキア……? 今、なんて言った……?」
返す言葉が出なかった。後ろから覗き込んだ恋次も、口を開けたまま黙っている。
腕相撲なら、先にそう言っておいてほしい。
取っ手を握り直す。今から扉を閉めれば、聞かなかったことにしてもらえるだろうか。
■ 複天滅盾
複数の六花を配置し、その間を結ぶ領域上に存在する物質の結合を拒絶する技。
配置や移動によって線や面を形成でき、攻撃だけでなく接近阻止や戦場分断にも利用できる。
■ 五天拡盾
五体の六花によって形成される強化技。
通過する霊圧の抑制を拒絶することで出力を増幅し、織姫自身の霊力や身体能力の強化にも使用できる。
■ 孤天斬盾
攻撃技。
対象の物質的な結合を拒絶することで切断力を生み出す。
■ 双天帰盾
回復技。
単なる治癒ではなく、対象に起きた事象そのものを拒絶することで、損傷以前の状態へ戻す。
■ 雀部長次郎の実力
長年一番隊副隊長を務める古参の死神。
普段は副隊長として山本を補佐しているが、実際には卍解へ到達しているほどの実力を持つ。
■ 十番隊副隊長
現在の正式な副隊長は松本乱菊。
副隊長の任命権は原則として各隊隊長にあり、総隊長が本人の希望だけで直接任命するものではない。