我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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卯ノ花烈
四番隊隊長。治療・救護を担う四番隊の最高責任者であり、護廷十三隊創設以前から生きる古参の死神。

虎徹勇音
四番隊副隊長。卯ノ花を深く敬愛し、その隊務を実務面から支えている。

山本元柳斎重國
護廷十三隊総隊長。一番隊隊長を兼任し、千年以上にわたり護廷十三隊を率いる。

雀部長次郎
一番隊副隊長。山本とは護廷十三隊創設以前からの長い付き合いを持ち、現在も「元柳斎殿」と呼ぶ。

戸川古男
八番隊五席。現世では空座第一高校の教師を務める。砕蜂の夫であり、卯ノ花とも遥か昔から深い関係を持つ。

砕蜂/戸川梢綾
二番隊隊長兼隠密機動総司令官。現世では戸川梢綾を名乗り、空座第一高校の体育教師を務めている。

黒崎一護
空座第一高校一年生にして死神代行。護廷十三隊の事情を知る数少ない現世の高校生。

平子真子
一護のクラスへ転入してきた謎多き生徒。古男とも面識を持つ。


初代剣八の越境と白衣の保健室

「卯ノ花隊長〜! 卯ノ花隊長ーーッ!! ………あれ?? いらっしゃらない……?」

 

隊長室にも、薬品庫にも姿がない。

 

今朝、お会いした時にお願いすればよかった。

食事のお邪魔は悪いと思ったのが間違いだったのか。

いや、朝食の席へ重症患者の一覧を持ち込むのは、やはり気が引ける。

 

曲がり角から足音が近づき、隊士の姿が見えた。

よかった。見つけてくれた。

 

「虎徹副隊長! 隊長なら、先ほど『急用ができたので留守にします』と言い残して外出されました!」

 

よくなかった。

 

「ええっ!!? 今日は他隊からの重症患者の受け入れと、医療物資の棚卸しがあったのに……!! 一体どこへ行かれたのですか!?」

 

「それが……『一番隊へ直談判に行く』と……」

 

「ああ…………一番隊…………嫌な予感しかしない……!」

 

何を直談判に行ったのか、聞きたくない。現世へ出かけたいという話なら、先日断られたはずではなかったか。

 

却下されたら諦める。

上官からそう言われたら、勇音なら引き下がる。帰り道で少し落ち込んで、仕事へ戻る。

 

見習うべきなのか。今回は、見習いたくない。

受け入れ時刻を確かめる。患者は待ってくれないし、棚の薬も数えなければ減った量が分からない。

 

今いる人数で進めなければ。

そう判断してしまう自分が、少し嫌だった。結局、何とかしようとしてしまう。

 

せめて、お戻りになる時刻を聞いておいてほしかった。

口に出しかけてやめる。隊士に困った顔をさせても、仕事は片づかない。

剥がれかけの付箋を押さえ、廊下の先へ向き直る。

一番隊から急患が来ませんように。

祈ってから、縁起の悪いことを考えてしまったと首を振った。

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

「――私も、現世に行かせて頂きます」

 

執務室の入口で、雀部の手が止まる。

届ける書類は三枚。机へ置いて一礼すれば済む用事だった。

今、入るべきか。

 

「ならぬと申したはずじゃ」

 

「こうしている間にも……あの泥棒猫が古男さんを独占しているのです。もう一刻の猶予もなりません」

 

入るべきではなかった。

しかし、下がるにも遅い。戸口に立ったことには気づかれている。気づいた上で、この話を続けておられる。

 

書類の角を揃える。

せめて、用件が済むのを静かに待とう。

 

「お主のそれは、公務ではなくただの『不倫』じゃ。諦めるのじゃ」

 

「いいえ、違います。先約は私です。後からしゃしゃり出てきた小娘の方こそが泥棒猫なのです」

 

そこを争点にされても。

 

視線を落とした先には、隊務に関する至極まともな報告書がある。

これを読んでいただきたい。今すぐでなくてよい。できれば今日中に。

 

「……仮に行かせたとして、隊長業務はどうするつもりじゃ」

 

「黒崎隊長が十番隊の業務を現世からリモートでこなしているのですから、私にできぬ道理がありません。基本は勇音にやらせ、勇音の手に余る場合のみ、私が現世から出張りますので」

 

「……虎徹副隊長が過労死するぞ?」

 

「勇音は私のために喜んで働いてくれるでしょう」

 

虎徹副隊長。

今日の会議でお会いしたら、茶を一杯お勧めしよう。少し座っていただく時間が要る。

副官として、ひどく他人事とは思えなかった。

 

「じゃが、ならぬものはならぬ」

 

ようやく終わったか。

書類を持ち直した時、柄へ添えられる手が見えた。

 

待っていただきたい。

却下の返答に対して、その手は何をなさるおつもりか。

 

「――では、私と一戦交えますか? ……山本元柳斎重國」

 

「……儂を脅すか……卯ノ花八千流よ……!!」

 

その名を聞き、喉が詰まった。

書類を抱えている場合ではない。脇へ置こうとして、適当な場所が見つからない。机へ寄れば二人の間に入る。

 

床へ置く。

報告書には申し訳ないが、今は命の方が大事だ。

 

「――はッッ!!」

 

刃がぶつかり、机がずれる。

咄嗟に後ろへ跳ぶと、さっき顔のあった位置を斬撃が通り抜けた。

 

頬に触れる。切れていない。

安心する間もなく、熱が押し寄せる。

 

「むうッッ!! 万象一切灰燼と為せ……『流刃若火』ッッ!!!!」

 

元柳斎殿。

ここは執務室にございます。

 

声にする前に炎が噴き上がる。戸口を離れ、廊下の隊士へ退避を促す。

 

「はああああああッッ!!!!!」

 

屋根が持ち上がった。

次の瞬間には、空が見えていた。

 

修繕の稟議を誰に上げればよいのか。承認するはずのお方は、今まさに次の一撃を構えておられる。

 

「いい加減に年を考えよッ!! お主はもう千年以上生きておる立派なババアじゃろうがッッ!!!!」

 

元柳斎殿、それはいけません。

 

「恋に年齢など関係ありませんッッ!! このクソジジイッッ!! 私だって女として幸せになりたいのですッッ!!!!」

 

ほら。

口に出さずに済んだのは、降ってきた瓦を払うために息を止めたからだった。

 

「古男は儂の幼馴染じゃぞッ!! 奴だってとっくにジジイじゃろうがッッ!!!!」

 

「あの方は若々しく逞しいのです!! それに比べて貴方はただのシワだらけのムキムキジジイ!! 雲泥の差ですッッ!!!!」

 

聞かなかったことにしたい。

しかし、聞こえないふりをして下がれば、一番隊の建物がなくなる。

いや、もう屋根はない。

 

「おのれ小娘がァァッッ!!!!」

 

先ほどはババアと仰っていたのに。

どうか刀を収めてから相談していただきたい。

 

「やるかジジイッッ!!!!」

 

相談は無理らしかった。

焦げる床を踏み越え、厳霊丸へ手をかける。

 

「――『卍解』・『残火の太刀』ッッ!!!!」

 

それは駄目です。

 

「――『卍解』………………『皆尽』ッッ!!!!」

 

血のようなものが床へ広がり、足元へ迫る。

こちらも駄目です。

 

「元柳斎殿ォォッ!! 卯ノ花隊長ォォッッ!! おやめくださァァァいッッ!! 『卍解』ッッッッ!!!!」

 

雷を放ち、二人の間へ飛び込む。

腕に痺れが走る。かかる圧に、膝が沈む。

 

止められるか、ではない。

止まっていただくしかない。

 

せめて、こちらを見ていただきたい。

目の前で本気で死にかけております。

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

その夜、戸川邸は、騒ぎを知る由もなかった。

 

「むむ…………??」

 

天井へ目を向ける。

今、何か近づいてきた。

 

「はぁっ……はぁっ……どうしたのだ、古男……? ……も、もしかして、私の体に飽きてしまったのか……??」

 

胸元へ寄せられた顔を見下ろす。

ここで返答を間違えると長くなる。しかも、適当に答えるのも許されない。

 

「いやいや、何を言っている。お前の体はいつだって極上だ。……ただ、妙な霊圧が近づいているような……」

 

「う、うん……私、もう……いっちゃいそうで……霊圧が勝手に弾けてしまって……そのせいではないか……?」

 

「クックック………そうか。だが……誰かがマンションに侵入したような気配が――」

 

知っている霊圧だった。

 

「――古男さん、大変お待たせ致しました♡」

 

背中へ体が寄り添う。

正面の妻の顔色が変わった。

 

ああ。

今夜はもう、静かには終わらんな。

 

「き………貴様ァァッッ!! 情事に真っ裸で割り込んでくるなど、何の真似だ泥棒猫ォォッッ!!!!」

 

シーツが引き寄せられ、肩にかかっていた布も持っていかれる。

少しこちらにも残してほしい。

 

「あら、お邪魔でしたか? ……ですが古男さん、そんなペタペタの身体ばかりでは、お手元が退屈でしょう?」

 

余計なことを。

否定しなければならない。

 

ただし、褒め方にも気をつける必要がある。この場でどちらを立てればよいかなど、夫として迷うところではないのだが。

 

「…………………俺はどちらかと言えば、小さめが好みだと常々公言しているのだが……」

 

「誰が小さめだァァッッ!!!!」

 

拳が来る。

目を閉じたまま首を傾けると、頬の脇を風が抜けた。

 

今のは、確かに余計だったか。

喜ばれると考えたのだが。

 

背後からは離れてもらえない。

前からは殴られる。

 

とりあえず二人ともかわいがる方向で話そうか…。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

全校朝会で欠伸を噛み殺す。

校長の話は、まだ続くらしい。

 

一護の前で、啓吾の頭が左右に揺れている。眠いのなら大人しく立っていろ。つられてこっちも眠くなる。

 

「えー、生徒の皆さん、おはようございます。急な知らせとなりますが、これまでお世話になっていた養護教諭の佐藤先生が、一身上の都合により急遽ご退職されました。そのため、本日より新しい養護教諭の先生をお迎えしております。――卯ノ花烈先生です」

 

聞き違いか。

いや、壇上へ出てきた顔も知っている。

 

何で。

昨日、一昨日と保健室の前を通った時には、そんな話は聞かなかったぞ。

 

「うおおおおおおッッ!? めちゃくちゃ美人だァァッッ!!!!」

 

周囲の声に、肩が跳ねる。

白衣に三つ編み。見慣れた微笑み。

 

「新しく参りました、卯ノ花です。怪我をされたり、少しでも具合が悪くなったときは、遠慮なく保健室へ来てくださいね♡」

 

「毎日行きますッッ!!!!」

 

健康な返事だった。

少なくとも、今すぐ診てもらう必要はなさそうに聞こえる。

 

「……………う、卯ノ花隊長…………マジかよ…………」

 

「…………………不倫。完全に不倫だな」

 

隣から、容赦のない声が落ちてきた。

違うんじゃねえか、と言いたかったが、戸川先生が目に入る。

 

今朝に限って、妙に真っ直ぐ前を向いている。

隣のシャオ先生は、さらに真っ直ぐ壇上を見ていた。

 

これは口を挟まない方がいい。

 

「………………おいおいおい、高校はどうなっとるんや……護廷十三隊の幹部ばっかりやないか…………」

 

本当にな。

職員室へ呼ばれるのが、以前より嫌になった。

 

あの人に診てもらうなら、怪我の心配は少ない。

それは分かる。けどよ…。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

その見込みは甘かった。

休み時間、廊下に男子が並んでいる。どの顔にも見覚えがあり、今朝の体育館で元気に叫んでいた者ばかりだった。

 

腹痛を訴える声の後ろで、購買のパンを食っている奴がいる。

 

隠せよ。

せめて、その袋を鞄に入れてから並べ。

 

通り過ぎようとしたところで、中から柔らかな声が聞こえた。途端に、列の背筋が伸びる。

 

この調子で全員診るつもりなのか。

四番隊はどうなっているのだろう。

 

俺が現世から十番隊の仕事をしているのとは、事情が違う。あっちは患者が来るのだ。

……いや、ここにも来ているか。

 

ほとんど元気な顔ばかりだが。

 

授業の開始を告げるチャイムが鳴る。

列がなかなか解けない。

 

俺には真似できねえ。

翌日も、その翌日も、保健室の前には列ができた。




■ 卯ノ花八千流

卯ノ花烈が遥か昔に使用していた名。

護廷十三隊創設期以前からその名を知られ、初代『剣八』でもある。

現在は四番隊隊長として治療・救護を担っている。

■ 皆尽

卯ノ花烈の斬魄刀『肉雫唼』の卍解。

現在の四番隊隊長として見せる穏やかな姿とは異なる、卯ノ花の過去と深く結びついた切り札。

■ 残火の太刀

山本元柳斎重國の斬魄刀『流刃若火』の卍解。

極めて強大な熱量を持ち、その解放そのものが周囲へ甚大な影響を及ぼす。

■ 雀部長次郎の卍解

雀部長次郎は副隊長でありながら卍解へ到達している古参の死神。

山本元柳斎重國との関係も非常に古く、長年にわたりその傍らで護廷十三隊を支えてきた。

■ 空座第一高校・養護教諭

校内で生徒の怪我や体調不良への対応を担当する教職。

新たに卯ノ花烈が着任したことで、空座第一高校の医療体制は大幅に強化された。

なお、尸魂界側の四番隊における業務量が減少したわけではない。

■ 現在の空座第一高校

戸川古男、戸川梢綾に続き、新たに尸魂界関係者が教職員として加わった。

平子から見れば、一般の高校へ潜入したはずが、護廷十三隊上層部との遭遇率が異常に高い環境となっている。
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