我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座第一高校一年生にして死神代行。死神、虚、滅却師という複数の力をその身に宿す。
井上織姫
一護の同級生。盾舜六花による『拒絶』の力を操り、尸魂界での戦いを経てその能力を大きく発展させている。
有沢たつき
一護の幼馴染。戸川古男から暗黒魔闘術を学び、霊力を用いた近接戦闘を得意とする。
茶渡泰虎
一護の親友。完現術によって両腕を武装し、現在は全身装甲形態『勝利の悪魔』へ到達している。
ウルキオラ・シファー
藍染惣右介に仕える破面。感情に乏しく、物事を冷静に観察・分析する。
グリムジョー・ジャガージャック
藍染に仕える破面。好戦的な性格を持ち、強者との戦いを好む。
ティア・ハリベル
藍染に仕える破面。大剣を携え、高い戦闘能力を持つ。
ヤミー・リカルゴ
藍染に仕える大型の破面。粗暴な性格で、力押しを好む。
着地の衝撃で砂が舞い、羊皮紙の上に降りかかった。
ウルキオラのペン先が止まる。
読んでいた行を指で押さえ、紙を傾ける。砂を払うと、書きかけの文字が少し擦れた。
ヤミーを連れてくる理由が、また一つ減った。
「……ふん、ここが現世かよ。メノスだった頃に何度かエサ食いに来たが、相変わらずつまんねーところだぜ。霊子が薄くて息苦しくて仕方ねえ」
「嫌ならついて来なければ良かっただろう。元より藍染様から直々に現世調査の命を受けたのは、俺たちだ」
「はいはい、悪かったよ……って、さっきから何やってんだよ、ウルキオラ? 現世に来てまで紙切れ睨みつけてよ」
「……藍染様より新たに下賜された、戸川古男の暗号報告書だ。『黄昏の奈落に咲く紅き歯車は、誰がために時を刻むのか』……実に難解だ」
歯車そのものに時を刻む機能があるのか。それとも、時計から歯車へ読み替えるべきなのか。
後者なら、紅いという指定が余る。
余らせてよいのか。
それを判断するために、すでに何枚も紙を使っている。解読済みの報告書を参照しても、同じ言葉が同じ意味で使われているとは限らない。
腹立たしいほど、作成者の気分が疑われる。
しかし、藍染様は解いた。
解けるはずなのだ。
「……お前は本当に勤勉だな、ウルキオラ」
「けっ! しっかし藍染様も、たかが現世のガキどもの様子見に十刃を4人も動かすたぁ、随分と過保護なこったぜ!」
「予定では、俺とハリベル、貴様の3人だった。ヤミーが勝手についてきただけだ」
「へいへい、すいませんでしたねっと……。――あ? なんだコイツら?」
目を上げる。
道路沿いに人が集まっていた。こちらを見ているようで、視線は足元の窪みへ向いている。何人かは携帯電話を掲げ、隣の者と話し込んでいた。
「気にするな。下等な人間どもには俺たちの姿は見えていない。ただの天変地異を見に来た野次馬だ」
「チッ、鬱陶しい蝿どもが……目障りだな」
見えていない相手へ、よくそれほど腹を立てられる。
人間より、こちらの二人を見張っておく方がよさそうだった。
「邪魔だしよォ、景気づけに魂でも吸い食らっちまうか――」
白金の光が地面を走る。
道路の人影とこちらの間に、霊子の壁ができていた。
「! なんだこりゃあ!?」
「結界……!! 街へを遮断している……!」
かなり強固だ。破壊するにはセロを撃ち込む必要があるか……?
継ぎ目を探る。
見当たらない。発動の速さに反して、粗い箇所がない。
ヤミーの食事を待つつもりもなかったようだ。
四つの霊圧が近づく。
今度は羊皮紙を畳み、懐へ収める。砂を払う手間を二度かける気はない。
◇◇
着地音が重なり、砂煙の中に四人の姿が見えた。
「………………虚の仮面に、腰には斬魄刀……か」
「それっぽいね。白鷹の結界を待たずにアタシらが先行してきたけど……なかなかの霊圧じゃないか」
「でも、私たちなら何の問題もなさそうだよ!」
女二人に男二人が揃っている。
報告にあった顔と一致する。黒崎一護は、前へ出てきた橙色の髪の男か。
「おい…………お前ら………何者だ?」
「……藍染様より、お前たちの現在の力を見極めるよう言われている。――我らは破面(アランカル)・『十刃(エスパーダ)』だ」
「破面……??」
聞き返す声に、わずかに目を細める。
名を知らない。それで、この距離へ来る。
無知なのか、相手を見て判断するつもりなのか。
「ん〜。ただの虚の霊圧だけじゃないね。黒崎君が持ってる仮面と似たような進化かも??」
「虚と死神の両方の力を使える連中ってことか? なんだ、一護の専売特許じゃなかったのかよ。まあ、虚が進化しないなんて道理もないよな」
なるほど。
怯えて来たわけではない。
「おいウルキオラー? 藍染様の言ってた標的ってのは、このガキどもか?」
「………ああ。そうだ。行くぞ」
「へえ………! ガキの集まりかと思いきや、どいつも美味そうなツラしてやがるじゃねえか!」
「…………抜け」
隣で剣の柄へ手がかかる。
こちらも腰へ意識を向けたところで、黒崎一護の切っ先が正面を指した。
「…………あの真ん中の、一番根暗そうな色白野郎は俺がやる」
根暗とは、ずいぶんな選び方をする。
「はいはーい! 私、あのウルキちゃんとやりまーす!!」
誰のことだ。
女の目が、まっすぐこちらを向いている。
呼び間違いではない。訂正すべきかと考えた間に、残る二人も相手を選び始めた。
「……なら、俺はあのデカいのにしようか」
「アタシはあの露出の多い女だな。この4人の中じゃ、一番強そうだし骨がありそうだ」
「………………おいテメエら。俺の声を、少しでも耳に入れていたか??」
「ちゃんと聞いてたよ〜! えと……黒崎君は、あの『残り物』をお願いね♫」
「ああん!? 誰が残り物だコラァァッッ!! ぶっ殺すぞアマァッッ!!!!」
隣がうるさい。
向こうの男も、こちらの男も、女の一言で機嫌を損ねている。
対戦相手を決めるのに、これほど騒ぐ必要があるだろうか。
「…………クソが!! 後で覚えてろよ井上!! ――『卍解』・『天鎖斬月』ッッ!!」
大きな刀が黒い小刀へ変わる。
霊圧の高まりを測ろうとした時、さらに別の圧が重なった。
「――『五天拡盾』!! 私は、霊圧の限界を……拒絶するッッ!!」
五つの光が女を囲む。
「――暗黒魔闘術・『気鋼闘衣』ッッ!!!!」
「――『勝利の悪魔(ディアブロ・デ・ラ・ビクトリア)』ッッ!!!!」
四人の霊圧が跳ね上がる。
「ぐっ……!?」
喉から漏れかけた息を抑え、足を踏み直す。
衣の裾が後ろへ引かれる。結界の内側を満たす圧が、先ほどとは違う。
修正が必要だった。
少なくとも、姿と年齢から判断してよい相手ではない。
懐の報告書が衣越しに触れる。
あの男の教え子たちか。
こんなものを育てながら、紅い歯車について書いていたのか。
◇◇
「調子に乗るんじゃねえぞ、この野郎ォォッ!!」
「………俺と力比べか………。良いだろう」
黒い右腕とヤミーの手が組み合った。
「ぬああああああああッッ!!!!」
押し合う足元に亀裂が走る。
黒い装甲の男は退かない。右腕で圧を受け、腰を落としている。
ヤミーの肩が前へ出た。
次の瞬間には、巨体が宙に浮いていた。
「ぎゃふうううううっ!?」
背中から地面へ落ち、土が跳ね上がる。
わずかに顔を逸らして避ける。砂ばかり飛ばしてくる。
「……力は弱めだ。皆、警戒する必要はない」
しかし、今の投げに無理はない。押し込む力を受けた上で、足を運んでいた。大きなものを持ち上げられたからといって、騒ぐ様子もない。
ヤミーに力比べを譲ったつもりだったのかもしれない。
◇
「チッ、ヤミーの野郎、無様に転がされやがって!!」
「いい踏み込みしてやがるぜ! テメエ、名前は!?」
「ああん!? 名乗りってのは自分からするのが礼儀だろうがァッッ!! 戦の作法も知らねえのか、この無礼なクソガキがァッッ!!!!」
「あ………ああ、わりい」
謝った。
今、斬り合っていたはずだが。
「礼儀のなってねえ死神風情が調子こいてんじゃねえぞッ!!」
「――黒崎一護。死神代行兼、護廷十三隊『十番隊隊長代行』だ」
「第六十刃(セスタ・エスパーダ)、グリムジョー・ジャガージャック!! てめえの首を刈る男の名だ、あの世でおぼえておきやがれッッ!!」
刀が再びぶつかる。
律儀なことだ。
黒崎一護の肩書にも引っかかった。
隊長代行。藍染様から名指しされた理由を、もう少し確かめる必要がある。
だが、そちらへ視線を向けたままにはできなかった。
眼前の女が、こちらを見て笑っている。
腰に刀はない。両手にも何も持っていない。
先ほどの光は、髪留めから出ていた。
どこを警戒すべきか。手先の動きと、周囲に浮く光の位置を確かめる。
◇
「おりゃあッッ!!!!」
横から蹴りの風が届く。
ハリベルの頭を狙った脚が空を切り、そのまま胴が開いた。そこへ大剣が振り下ろされる。
「愚かな……。武器も持たず、素手で刃に挑むとはな……!」
硬い音が響いた。
刃の下にあるのは、女の前腕だった。
「……な……ッ!?」
皮膚は切れていない。
霊圧が腕へ集まり、大剣を押し留めている。
「………ほう……。刃が……通らぬだと……?」
「へっ、アタシの暗黒魔闘術を舐めるなよ!!」
構えを崩さずに笑う顔が見える。
無防備に見えたのは、こちらの判断に過ぎなかった。
「……見事だ。第三十刃(トレス・エスパーダ)、ティア・ハリベルだ」
「空座高校一年、有沢竜貴だッ!!」
「有沢竜貴……覚えておこう」
こちらも名乗るのか。
高校一年という情報は、何を意味する。所属と階級を示しているのか。
だとすれば、二年や三年はこれ以上の力を持つのだろうか。
いや、今はよい。
報告の際に必要なら、後で確かめれば済む。
◇
「…………女。俺と自ら戦おうとは……よほど命がいらないと見える」
「えー、そんなことないよー。命は大切にしないといけないよ」
軽い返事に、目を細める。
仲間の勝負を見ていた時と、まるで調子が変わらない。こちらの声を聞いていることは確かなのに、刃を向けられる心配が見えない。
「ならば、なぜ退かぬ。弱者が強者に挑めば、待つのは無残な死だけだ」
「――あまり、人間を舐めちゃダメだよ」
笑みは消えていない。
目が変わった。
そう気づいた時には、正面から姿が消えていた。
「――なッ!?」
背後へ刀を抜く。
硬いものが当たり、柄を握る手に衝撃が響いた。
近い。
肩を返そうとして、刀身に走る罅が目に入る。
接触した部分から、刃が崩れている。
逆手に小さな光を握り、その先をこちらの刀へ当てたまま、耳元へ声が届く。
「戦うときは、誰だって命を懸けるよ。……でもね、それは死にたいわけじゃないの。勝てないと思うほど……私は弱くないよ、ウルキちゃん」
腕を引き、刃の角度を変える。
触れ続けるべきではない。
刀を守るために動かしたことが、自分でも気に入らなかった。
女の首を狙える位置だったはずなのに。
「…………なるほど。ただのゴミかと思ったが……少しはマシなゴミのようだ」
足音が離れる。
追って斬ることはせず、切っ先を向け直す。
罅は残っていた。
罅の縁が欠け、白い破片が落ちる。
今の光は、こちらの硬さを問題にしていなかった。力を込めれば防げる、と安易に考えるべきではないだろう。
その程度の区別はつく。
笑い続ける相手が気に障る。
速さを見誤った。
攻撃の性質も見誤った。
次はどこから来る。肩か、首か。それとも、この刀を狙うか。
目の前の笑顔からは、何も読み取れなかった。
右へ半歩ずれる。
向かいの足も同じ方向へ動く。踵は浮いていない。踏み出す直前の癖を探しても、先ほどの動きと結びつかない。
もう一度、仕掛けさせるか。
切っ先をわずかに下げると、女の視線が刃を追った。誘いには乗ってこない。罅を確かめているようにも見える。
折れるかどうか、向こうも試していたのか。
柄を握る指に力が入る。
次も同じ位置へ入れると思うな。
刀身を斜めに傾け、左手を空ける。指先に霊圧を集める間も、あの笑顔は変わらなかった。
「あはは! 向こうの皆、知らない人相手なのにすっごく律儀に名乗り合ってるね〜」
戦闘中だぞ。
そう言おうとして、言葉を止める。
そこについては、同じ感想を持っていた。
「……全くだ。戦場で無駄な名乗りなど……度し難いと俺も思う」
「あはは! 私たち、すっごく気が合いそう!!」
合うとは言っていない。
ただ、相手の顔から敵意を探そうとするのは、やめた方がよさそうだった。あの笑顔のまま、先ほどは背後へ回ってきたのだ。
笑っているかどうかは、攻撃する意思と関係がない。
視線を足へ落とす。
裾をつまむ手が見え、すぐに顔へ戻す。何かの構えかと警戒した自分に、また苛立った。
今のは、明らかに違う。
「――井上織姫!! 三界最強の美少女ですッッ♡」
名乗った。
たった今、何について同意したと思っている。
しかも、三界最強と来た。
大きく出たものだと切り捨てるには、手元に残った罅が邪魔だった。
少なくとも、この女はそう信じている。
こちらの名も力も十分に知らず、なお勝てると考えている。その自信を、どこで折れるのか。
確かめたくなった。
「……………。――第四十刃(クアトロ・エスパーダ)、ウルキオラ・シファー」
■ 破面(アランカル)
虚が仮面を外し、死神に近い能力と姿を得た存在。
多くは斬魄刀を携え、通常の虚とは異なる戦闘能力を持つ。
■ 十刃(エスパーダ)
藍染惣右介の配下である破面の中でも、特に高い戦闘能力を持つ者たち。
それぞれ番号を与えられ、虚夜宮における主要戦力を担う。
■ 五天拡盾
井上織姫が使用する盾舜六花の応用技。
霊圧に働く抑制を拒絶することで、自身の霊力や身体能力を大幅に増幅する。
■ 気功闘衣
有沢たつきが使用する暗黒魔闘術の技。
高密度の霊力を衣のように身へ纏い、攻撃力、防御力、身体能力を強化する。
■ 勝利の悪魔
ディアブロ・デ・ラ・ビクトリア
茶渡泰虎の全身完現術形態。
『巨人の右腕』で霊圧攻撃を物理的な衝撃へ転換して耐え、『悪魔の左腕』では直接触れた対象を破壊する。
■ 戸川古男の暗号報告書
古男が過去に作成していた暗号化報告書。
極めて複雑な比喩や暗号によって記されており、藍染は現在も未解読分の解析を続けている。
虚夜宮では一部の十刃にも解読課題として配布されている。
■ 白鷹の結界
現世での戦闘被害を一般人へ及ぼさないため、白鷹光四郎が展開した遮断結界。
戦場と市街地を分離し、一般人が破面との戦闘へ巻き込まれることを防いでいる。