我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座第一高校一年生。一護の仲間として数々の戦いを経験し、『拒絶』の力を応用するようになった。
ウルキオラ・シファー
第四十刃。藍染惣右介の命を受け、現世組の戦力を調査するため空座町へ姿を現した破面。
黒崎一護
死神代行兼十番隊隊長代行。死神・虚・滅却師という複数の力をその身に宿している。
グリムジョー・ジャガージャック
第六十刃。極めて好戦的な性格を持ち、強者との戦闘を好む。
有沢たつき
一護の幼馴染。暗黒魔闘術と気功闘衣による近接戦闘を得意とする。
ティア・ハリベル
第三十刃。冷静に相手の技術を見極める、高い戦闘能力を持つ破面。
茶渡泰虎
一護の親友。全身完現術『勝利の悪魔』を用い、極めて高い耐久力と近接戦闘能力を持つ。
ヤミー
巨大な体躯と怪力を持つ破面。今回の現世調査には自ら同行している。
刃を引くと、オレンジ色の光が追ってきた。
斬った腕が、元の位置に戻っている。
ウルキオラの視線は、まず傷口を探した。次に女の顔へ移り、最後に刀へ落ちた。
手応えはあった。
「はっ!! まともなのはスピードだけかよォッッ!! 斬撃が軽いんだよ、てめえの太刀筋はァッッ!!!!」
少し離れた場所で、黒い刀が何度も跳ね返されている。
正面、脇腹、首筋。続けざまに繰り出す斬撃へ、白刃が余裕を残して追いつく。グリムジョーの足元は、さほど動いていない。
「チッ………このままじゃ、ジリ貧かよ……!」
黒い裾が後ろへ流れ、二人の間が開いた。
「なんだァ? まだ奥の手があるってツラしてやがるじゃねえか。出し惜しみしてねえで、さっさと全部出してみろやッッ!!」
「……言われなくても、見せてやるよ」
顔へ伸びた左手の下で、白い骨が広がっていく。
赤と黒の模様が刻まれ、口元が隠れた。
虚の仮面か。
眼前の女から目を離さず、そちらの霊圧を探る。先ほどの卍解に、別の力が重なっていた。
「――うおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」
黒い月牙が地面を抉る。
「なっ……くッッ!?」
受ける刀を押し込み、閃光が胸を横切った。
後ろへ滑る足元に血が落ちる。上着が裂け、その下に傷が開いていた。
「……奥の手その1だ。少しは、お気に召したかよ……!?」
「――はっ!! 良いねえッッ!! 最高じゃねえか、そうこなくっちゃ面白くねえェッッ!!!!」
その一、か。
二も三もあるなら、先に出しておけばよいものを。
傷の深さを確かめる気もないらしい。血のついた切っ先が上がり、また黒い刀へぶつかった。
調査として、適切だったのか。
背後の足音に半歩ずれ、迫る小さな刃を刀の腹で逸らす。
井上織姫の手首が返った。
その光には触れさせず、肘を押し上げて斬り返す。
また、オレンジ色が灯る。
治るところを見せに来ているのか、この女は。
◇
「ちょこまかと調子こいてんじゃねえぞ!! 『虚弾(バラ)』ッッ!!!!」
「む…………早いな」
右腕が顔の前へ上がる。
直撃が続いた。肩へ、背へ、衝撃が抜けていく。踏み込んだ片足の周囲で地面が崩れ、踵が沈んだ。
倒れない。射線を外す気もない。
「この野郎……ッ!! なんで俺の虚弾をまともに食らって立ってやがんだァッ!?」
「……お前も、自分と俺との『力の差』が分からないわけではないだろう。無駄な消耗は避けるべきだ。降伏を勧める」
「ふざけんなァァッ!! てめえなんぞに!!」
とはいえ、あの受け方は気になる。
虚弾は消えていない。命中するたびに、身体へ衝撃が伝わっている。それを正面から受け続けて、息も乱さない。
右腕を避けて撃て。
そう指示しかけて、口を閉じる。
眼前へ伸びてきた指先を躱し、女の脇へ刃を滑らせる。振り切った先で光が膨らみ、すぐに閉じた。
こちらにも、考えることができてしまった。
もう一度、女の身体を確かめる。
不愉快だ。確かに斬った。
そこから先が、どうにも進まない。
◇
「――『波蒼砲(オーラ・アズール)』」
「――暗黒魔闘術・『魔人烈光殺』ッッ!!!!」
黒と深紅の砲撃がぶつかり、熱風が頬を叩いた。
巻き上がった煙の中で、刃と拳が交差する。
「………っ!」
赤い筋が走る。
引き戻された拳は低い。腹を狙ったか。
「……読めたぞ。その技……霊圧の圧縮と、局所的な集中だな。攻撃も防御も、インパクトの瞬間に一点へ集中させているに過ぎない。――ならば、フェイントでその『読み』さえ外せば、貴様の肉体にも刃は容易く通る」
「……ふん、御名答だよ。だけどよォ! アタシ相手に二度も通ると思うなよッッ!!」
「強がりを。所詮は脆弱な人間――かはッッ……!?」
口から落ちた血が、足元へ散った。
「な……っ……!? 貴様……いつの間に……!?」
「……置き土産で叩き込んでやった霊圧は……美味かったかよ?」
「……………なるほど……。ただの力任せではないというわけか……」
あちらの戦いには、まだ理解できる部分がある。
傷を負い、相手にも負わせる。動きを読み、読まれたことを利用する。
◇
では、こちらは何なのか。
目の前で、女の足先が軽く跳ねる。
痛くないはずはない。
一度目の切断には、確かに顔が歪んでいた。
次も、その次も。痛みを覚えない身体ではない。
ならば、なぜ距離を取らない。
先ほどと同じ間合いへ戻り、またこちらの刀を見る。
試されている気がした。
何回斬れば気づくのかと、待たれているような気さえした。
それを確かめるための一撃を、喉元へ向ける。
光が灯った。
五回目だ。
◇
刀を下ろす。
井上織姫の首には、傷一つ残っていなかった。
「…………井上織姫」
「何? ウルキちゃん」
呼びかけへの返事は早い。この調子である。
「単刀直入に問う。……もしかすると貴様は、『プラナリア』か何かの同類か?」
「えーーーっ!! ひどいよウルキちゃん! 私、立派な人間だよ! 単細胞生物じゃないもん!」
プラナリアも単細胞生物ではない。
そこから教えなければならないのか。
「俺の太刀筋は、すでに貴様の四肢を8回、胴体を3回、そして首を5回……確実に刎ね飛ばしている」
「え? そんなに切られてたっけ?」
数えていなかったのか。
こちらは途中から、斬った場所を覚えるようにしていた。見落としがないか、繰り返すうちに遅れが出ないか。それを確かめていた。
本人は覚えていない。
ならば、細かく数えていたこちらは何なのだ。
「切断した端から、光と共に新しい肉体が生えてくる……。空間の回帰か、はたまた時間の回帰か……。いずれにしても……」
手の中の柄を握り直す。
単なる再生として片づけられない。
どこを壊せば止まる。
「――いずれにしても……『この女……なんて美しく、そして愛らしいのだろう……』って言いたいのかな!? ねぇそうなの!?」
「――この女……ッ。何を俺に言わせようとしている」
「ちぇーっ。せっかく褒めてもらえると思ったのにー」
褒める話をしていたか。目の前で、唇が不満げに尖る。
こちらの顔を見て、返事を待っている。
まだ待つのか。
刀を持ち上げると、ようやく両手が頬から離れた。
逃げない。
また同じことを繰り返すつもりらしい。
刃先を向けたまま、空いた手へ霊圧を集める。細く斬り分けるので足りなければ、光に包まれる範囲ごと消す。
「おいウルキオラァッ!! こいつら全員、思ってたより骨が折れるぜ!! もう我慢ならねえ、『帰刃(レスレクシオン)』しても良いよなァッッ!?」
背後を見なくとも、今度の声に余裕がないことは分かった。
「ああッ!! 俺も全身の血が滾ってきたぜ!! このまま生身の死神ごとバラバラに刻んでやらあッッ!!」
グリムジョーの上着には、まだ血が滴っている。
元気そうで何よりだ。
「………………そうだな。ここまでのイレギュラーとなれば、解放して確実に処理すべきか……」
再生の限界を確かめる。そのつもりで、女の目を見た。
◇◇
頭上が開いた。
落ちてくる霊圧へ視線を上げ、すぐに人数を数え直す。
「一護! 無事かッ!!」
黒崎一護の近くへ小柄な姿が降りる。
「へっ、待たせたなァッッ!!」
赤い髪の死神も続いた。
「いやはや、ずいぶんと派手にやってるじゃないっすか〜」
下駄の音が鳴る。帽子を被った男の肩には、黒猫が乗っていた。
「にゃ〜ん」
猫を数えるべきかと考えかけて、次の声に意識が向いた。
「クックック……! 待ち侘びたぞ、我が闇の眷属たちの危機よ!!」
あれか。紅い歯車の意味を聞く機会が、思いがけず来てしまった。
「教え子たちに傷一つつけさせはせん!」
その隣へ、小柄な死神の姿が降りる。
「おやおや、怪我人はどちらにいらっしゃいますか?」
さらに、女の声が続いた。怪我人なら、こちらにいる。
胸から血を流して喜んでいる男と、腹に一撃もらったハリベルがいる。
刀を鞘へ収める。
「――退くぞ」
「……おい。散々暴れといて、もう逃げるのかよ?」
黒崎一護がこちらを向く。
「ああァ!? ウルキオラ、てめえ何言ってやがんだ!! こんなとこで逃げ出せるわけが――」
「ああ。多勢に無勢だ。ここは潔く逃げさせてもらおう」
言い終えてから、改めて眼前の女を見る。
ここで無理を通す理由もない。
「……………あの男が、噂の『戸川古男』か……」
ハリベルの視線を辿ると、男と目が合った。
「本日は調査に参りました」とでも挨拶すべきなのか。
やめておこう。
何を返されるか、報告書で十分に知っている。
「ああ。……これ以上の戦闘は無意味だ。直ちに藍染様へ報告に戻る」
「あれは…………藍染め。中々どうして、順調なようだな」
低い笑い声が聞こえた。今の戦いを見て、そう評するのか。
「古男…………」
「……ええ。『崩玉』は……無事に使えているようっすねぇ」
「にゃ〜……」
聞き捨てにできない名が出た。
だが、問い詰める場ではない。藍染様へ、そのまま伝えればよい。
これで、調査は終わりだ。
「――ウルキちゃーーん!! また遊ぼうねーーッッ!!!!」
振り返ると、大きく手が振られていた。
井上織姫の指にも、腕にも、傷はない。
あの女にとっては、そうだったのか。
いや、命を懸けると口にしていた。こちらの刃を見て、痛みに顔を歪めることもあった。
それを知った上で、次も来いと言っている。
「………………………ああ。またな」
裂け目が閉じる。
振られていた手が見えなくなり、ようやく前へ向き直る。
横からの視線には、気づかないふりをした。
◇
「……ウルキオラ。なぜあの女の呼びかけに……あんな律儀な答えを返したのだ?」
やはり、聞いていたか。
前を向いたまま、歩調を変えずに進む。
答える必要などなかった。無視して黒腔を閉じれば、それで済んだ。
その程度のことは分かっている。
「……いずれ、この手で殺す女だ。……そうだな。だからこそ、その時までの挨拶だ。それだけのことだ」
「?? なんだそりゃ。相変わらずワケの分からねえ変な奴だな、てめえは」
「……………クソがァァッッ!! あのデカブツのガキめ……ッ!! 次に会った時は、骨の一本残さず絶対にぶっ殺してやるッッ!!!!」
次の相手が決まったらしい。
こちらも、同じだった。
先に、あのオレンジ色の光について考えよう。
紅い歯車は逃げない。
井上織姫も、次は逃げないだろう。
■ 双天帰盾
井上織姫が使用する『拒絶』の能力。
一般的な再生や治療とは異なり、対象へ生じた損傷という事象そのものを拒絶する。
そのため、外部から観察しただけでは能力の正確な原理を把握することが難しい。
■ 虚化
黒崎一護が虚の力を表出させる状態。
仮面を装着することで、死神としての能力へ虚の力を重ね、戦闘能力を大幅に高める。
■ 波蒼砲
オーラ・アズール
ティア・ハリベルが使用する霊圧攻撃。
高密度の霊圧を放つことで、遠距離から相手を攻撃する。
■ 魔人烈光殺
有沢たつきが暗黒魔闘術によって使用する攻撃技。
圧縮・集中した霊力を打撃へ乗せ、高い破壊力を発揮する。
■ 帰刃
レスレクシオン
破面が斬魄刀を解放し、本来の虚としての力を取り戻す技法。
死神の卍解に相当する、破面にとっての大幅な戦闘能力解放となる。
■ 戸川古男と崩玉
古男は崩玉について何らかの知識を持っている。
今回の破面たちの姿を確認した際にも、その状態について独自の判断を示しているが、彼がどこまで事情を把握しているのかは明らかになっていない。