我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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ウルキオラ・シファー
第四十刃。井上織姫との再戦を目的として再び現世を訪れ、現在は黒崎家周辺に滞在している。

井上織姫
空座第一高校一年生。ウルキオラを「ウルキちゃん」と呼び、敵であることをあまり気にせず接している。

黒崎一護
死神代行兼十番隊隊長代行。最近、自宅へ尸魂界や虚圏の関係者が頻繁に出入りするようになっている。

黒崎遊子
一護の妹。黒崎家の家事や料理を担うことが多く、家族や客人の食事にも気を配る。

黒崎夏梨
一護の妹。物怖じしない性格で、霊的な存在に対しても比較的冷静に接する。

京楽春水
八番隊隊長。護廷十三隊の古参隊長の一人で、山本元柳斎重國とは長い付き合いを持つ。

緋山染華
十一番隊十席。緋山雷太の母。痛いことや危険なことを何より嫌う。

緋山雷太
五番隊隊長。染華の息子であり、母と白鷹光四郎の関係をよく知る人物。


十刃のレースと一人だけの先遣隊

画面の中央で、数字が三、二、一と減っていく。

ウルキオラの親指が、教えられたボタンにかかった。

刀は腰に収まったまま。隣の手にも、握られているのは同じ形の機器だった。

 

……これで勝敗を決めるのか。

 

念のため画面を見直す。小さな車体の上に、帽子をかぶった男が乗っている。

こいつを走らせ、先に着けばいい。

単純な話だ。今朝から散々待たされたが、ようやく決着がつく。

 

「………………行くよ……ウルキちゃん! 手加減は一切しないからね!!」

 

「…………望むところだ……。こちらも十刃の誇りにかけて、容赦はせん……」

 

合図と同時に、画面の車輪が回った。

親指を押し込み、左のスティックを傾ける。隣の車体へ並びかけた瞬間、道が大きく曲がった。

 

速い。

この速度で、そこへ入る気か。

 

「くうううううっ!! ここでインを突くーーッ!」

 

車体が横を向き、火花を散らして内側へ滑り込む。

こちらの前輪も同じ角度へ向ける。遅れた。わずかに外へ膨らみ、目の前で後輪が遠ざかる。

 

「……ぬ……想像以上に………できる……! コーナリングのライン取りに一切の無駄がない……!」

 

次の曲がり角では、先ほどより早く指を動かした。

柵を擦らずに抜ける。距離が縮んだ。

 

なるほど。この速さなら、ここで曲がり始めればいい。

 

路面の矢印を踏むと、車体がさらに加速した。隣から短い声が漏れる。

 

見えているぞ、織姫。

その隙間を開けたのは失敗だったな。

 

「そんな………こうなったら奥の手をッ! 赤甲羅射出ーーッ!!」

 

赤い物体が路面を滑り、こちらへ曲がってきた。

右へ避ける。追ってくる。

ならば、速度を上げて振り切る。

 

指先へ霊圧を集中させた。車体の速度は変わらない。

 

……何故だ。

 

さらに流し込む。手の中で外装が軋んだ。

画面では赤い物体が後輪に迫っている。

 

「なに………っ!? 反応せん……! 貴様の放った紅き追尾弾を回避すべく霊圧を流し込んだというのに、このプラスチックの板が……言うことを聞かん……ッ!!」

 

衝突した。

帽子の男ごと車体が宙へ跳ね、路面に落ちる。

 

隣を抜けた車体の後ろ姿が小さくなった。加速のボタンは押している。動け。先ほどはもっと速く走っていただろう。

 

視界の端には、ソファに並ぶ黒崎一護と石田雨竜の顔があった。

 

何を見ている。

この機器の不調を直せ。

 

二人とも口を閉ざしたまま、こちらと画面を見比べている。

聞かなければ教えんのか。貴様らの家の道具だろう。

 

明るい音楽が鳴り、画面を旗が横切った。

 

「ゴーーーールッッ!!!! 1着:織姫!」

 

「いえーーい!! 私の勝ちーーーーッッ!!!!」

 

隣で両腕が高く上がった。

順位表の二番目に、こちらの名が並んでいる。

 

もう一度ボタンを押す。走行は再開しない。

 

……終わったのか。

 

「……こ…………この、人間どもの開発した『コントローラー』という機器が……俺の霊圧を一切受け付けず、ただ物理的な指先の圧力のみで作動するとは……。なんという不条理な戦場だ……」

 

裏返しても、霊圧を通す箇所は見当たらない。

穴はいくつかある。ここへ流せば動くのか。

いや、先ほどの軋み方では壊れる。

 

指の力を緩め、外装の継ぎ目を確かめた。亀裂はない。慎重に扱う必要があるらしい。

 

「へぇー! この色白のに〜ちゃん、結構やるじゃん! 負けはしたけど、このレインボーロードのタイム……私の自己ベストよりコンマ五秒速いよ」

 

背後で袋が鳴った。

黒崎一護より小柄な子供の指が、順位表の数字を示している。

 

コンマ五秒。

それがどれほど速かろうと、上に一人いる。

勝たなければ意味がない。

 

「ウルキさん、もうすぐ夜ご飯にするけど……何がいい?? お肉? それともお魚??」

 

台所から、もう一人の子供の顔が覗いた。

 

また食事か。

現世の人間は、一日に何度食うのだ。

昼に食ってから、さほど時間は経っていないはずだが。

 

「おい夏梨ッ!! 遊子ッッ!! そいつに気安く近づくんじゃねえッ!!」

 

それより、画面の前に立つな。順位表の下に、まだ読んでいない文字がある。

 

「えー? なにそれ。……もしかして一兄、織姫さんを取られそうになって嫉妬してんの? 器が小さいなー」

 

「そうだよお兄ちゃん、大丈夫だよ。お兄ちゃんも、あのウルキさんと同じくらいかっこいいから自信持って!」

 

伸びた小さな手が、オレンジ色の頭に触れた。

黒崎一護の口が開いたまま止まる。

 

何を驚いている。

妹に頭を撫でられた程度で、動けなくなるのか。

 

「…………な…………なに…………? 俺と…………『同じくらい』だと…………!? この、眉毛が八の字に下がった青白い根暗野郎と俺が同格なのかよッッ!!??」

 

貴様より上だ。昨日の戦闘で分からなかったのか。

 

……顔の話か。それなら俺に聞くな。貴様の妹に聞け。

 

「………まあ、客観的に見るとだな。お前も派手に髪をオレンジに染めて、年中しかめっ面をしたガラが悪すぎる不良に見えるからな。大差はあるまい」

 

向かいの椅子から、朽木ルキアの目が細くなる。

 

「確かに! 海燕さんは黒髪で笑顔が爽やかだからすっごく真面目に見えるけど、一護は黙ってるとカツアゲ犯みたいだもんな!」

 

有沢たつきの指には、揚げ物の一切れが挟まっていた。

 

そちらは既に食っているのか。

食事を待つという習慣も、別にないらしい。

 

「ぐはっ……」

 

ようやく見える。

 

順位表の下には、次のレースへ進む項目があった。

これを選べば、再び走れるのだな。

 

親指を動かしかけ、台所の方へ顔を向ける。先ほどの問いには、まだ答えていなかった。

 

「ふむ……遊子とやら。俺は先ほど石田から教わった、『霊子の入ったもの』を所望する。純粋な霊子を摂取できるのであれば、献立は何でも構わん」

 

「あ! やっぱりお兄さんも、ルキアさんたちと同じ尸魂界の関係者なんだね!! わかった! 遊子特製の、愛情と霊力をたっぷり込めたハンバーグ作ってあげるね〜♫」

 

愛情は要らん。

霊子の密度を揃えろ。昼の最初の一個は、ひどく食いづらかった。

 

石田雨竜の顔を見やると、眼鏡を押さえたまま口元が引きつっていた。

 

貴様の作り方は覚えた。

次に同じ物を食わされるなら、俺が作る。

 

「ちょ……待て遊子! お前、いつの間に霊力を料理に込められるようになってんだ??」

 

また大声が響いた。

黒崎一護。確認することが多いようだな。

 

そちらで済ませろ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

杖の先が床に当たり、乾いた音が会議室に響いた。

 

「――先日、空座町に『破面』を名乗る未知の虚共が出現した。これは、虚圏へ逃亡した藍染惣右介の差し金であることは明白。よって、事態を重く見、護廷十三隊より『現世先遣隊』を組織し、現地の状況を探るべく派遣するものとする」

 

……まだ送るのかい。

 

四番隊と二番隊の空いた場所へ目をやる。

帰ってくる人数の話なら聞きたいんだけどねえ。

これから送る方か。

 

隣へ視線を流すと、浮竹の顔にもわずかな困惑が浮かんでいた。

 

やっぱり、そう思うよね。

 

「いや〜、山じい。その件なんだけどさ……。現地にはもう、戸川先輩もいるし、砕蜂隊長も卯ノ花隊長もいるんだろう?」

 

「…………む」

 

返事が短い。

聞こえなかったわけじゃなさそうだ。だったら、数えてみようか。

先輩を一人として数えるのも、随分控えめなんだけど。

 

「これ以上、現世に隊長格を送る必要があるのかい? あっちには六番隊の白鷹くんに、阿散井くん、それに朽木隊長の妹さんもいる。黒崎隊長代行も含めれば……現世に常駐してる『卍解が使える死神』だけで、すでに合計7人だよ??」

 

指を折り終え、総隊長の顔を窺う。

こちらの人数も、数え直したくなる。

 

空座町に何かあるのかは知っている。藍染の狙いを放置するつもりもない。

 

「ええ。それに加えて、現世の高校生たちの中にも隊長格と渡り合う者たちが複数名いると報告を受けています。……正直に申し上げて、防衛戦力としてはすでに過剰戦力極まりない状態ですよ」

 

頷きながら、笠の縁から手を離す。

 

あの子たちもいたね。

狛村隊長の刀を折った子に、東仙を殴り倒した子。保護を頼む側も、そろそろ言い方を考えた方がよさそうだ。

迂闊に下がっていなさいなんて言ったら、こっちが後ろへ下げられかねない。

 

「…………むう………しかしじゃな。あ奴らは現地で教師やらにかまけておって、職務に関しては勝手気ままが過ぎるからのう……。正式な命令系統が機能しておらん」

 

……ああ、そっちか。

 

追加で送った隊長に、戸川先輩を呼びつけろと言うつもりかな。

僕は嫌だよ。

卯ノ花隊長に帰れと伝えるのも、他の人に頼んでほしい。

 

そもそも、送った相手が帰ってくる保証はあるのかい。

教師が、また一人増えるんじゃないの。

 

「ならば、大掛かりな先遣隊など組織せず、十三隊の意向を伝える『伝令役』を一名だけ送れば済む話でしょう。これ以上、瀞霊廷側の戦力を現世へ割くわけにはいきません」

 

助かった。

そう言ってくれると、こちらも頷きやすい。

 

手紙なら机に置いて帰れる。聞き入れてくれるかどうかは、受け取った相手に任せればいい。

説得して連れ戻せと言われたら、急に難しくなるけれど。

 

ここで余計なことを言うのはよそう。

君が行けと言われる前に、手も下ろしておこう。

 

「…………むううう…………。致し方あるまい……!」

 

肩から力を抜く。

 

あとは伝令の人選か。

強い人を選ぶ必要はない。先輩たちの顔を見て、手紙を渡せる人ならいい。

ただ、向こうへ着いてから遊び始める人は避けたいねえ。

 

……僕を見ないでくれるかな、山じい。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

十一番隊の道場から、踏み込みの音が続いていた。

雷太の手元には、現世へ渡るための指示書がある。

その宛名を読み直すたび、口元が緩んだ。

 

母さんかよ。

他にいなかったのか。いや、光四郎がいるなら、案外ちょうどいいのか。

 

「はっは! で、名誉ある『現世への伝令役』は、見事うちの母さんになったわけだ! おめでとう、母さん!!」

 

「なんでよォォッッ!! なんで私がそんな面倒な役にならなきゃいけないのよォッッ!! 痛いのも戦うのも、危ないところへ行くのも絶対に嫌よォォッッ!!!!」

 

声がでけえ。

道場の打ち合う音が、一瞬止まったぞ。

十一番隊でそれを叫べるんだから、母さんも大したもんだ。

 

指示書を広げ、任務の欄へ目を落とす。

戦闘に参加しろとは書いていない。

 

まあ、書いてあったら今頃こんな所にいねえか。受け取る前に逃げるよな。

 

「せんばっちゃん、大丈夫だよー! 剣ちゃんも山じいも、『危険なことは一切しなくていいから手紙だけ置いてこい』って言ってたもーん!」

 

頬へ押しつけられた桃色の髪が、左右に揺れる。

 

副隊長に言われりゃ逃げづらいだろ。

俺からも、もう一押ししておくか。

 

「ばっちゃんはやめて……やちるちゃん、私まだ二十代前半のピチピチの見た目なんだから……。うう…………わかったわよ……。行けばいいんでしょ、行けばァ……!」

 

お、引き受けた。

その返事を総隊長の前でやるんじゃねえぞ。

 

手紙を渡したら、ゆっくりしてくりゃいい。こっちのことを気にして、すぐ戻る必要もないんだから。

 

そんな顔をするなって。

死地へ送り出すわけじゃねえんだ。向こうには一護たちもいるし、何より光四郎がいる。

 

母さんが来たと知ったら喜ぶだろうな。

食う物も泊まる部屋も、頼む前に揃えてくれるに違いない。

 

「まあそう腐るなよ。現世には、母さんの大好きな光四郎もいるんだからさ。久しぶりに二人っきりで大人のデートでも楽しんできたらどうだ?」

 

途端に目が丸くなった。

照れたのかと思い、返事を待つ。

指示書を胸元へ寄せる手も、首を傾ける角度も、妙に落ち着いている。

 

……あれ。

 

「……え? なんで私が、白鷹さんとデートなんてしなきゃいけないの??」

 

「………………はあ」

 

ダメだ……百年間アプローチされ続けてるのに、本気で一ミリも気づいてねえ……。

哀れすぎるぜ、光四郎……。

 

空を仰ぐと、雲がゆっくり流れていた。

 

あの人にも、この顔を見せてやりてえ。

いや、やめよう。俺から知らせるのは、あまりに気の毒だ。

 

母の眉が寄り、こちらの顔を覗き込んでくる。

 

本当に分からねえのか。

なぜ溜息をつかれたのか、こっちへ聞きたそうな顔をしやがって。

 

言うか。

光四郎は母さんが好きなんだって、はっきり言っちまうか。

 

それを俺の口から聞かせて、どうする。

息子が先に言っちまうのも違うだろ。

 

……もう何度も言ってそうなんだよな。

そこが一番つれえ。

 

まずは現世へ行ってくれ。

顔を合わせりゃ、何かあるかもしれねえ。

 

頑張れよ、光四郎。

俺にはもう、何を言えばいいのか分かんねえわ。




■ 現世常駐の護廷戦力

現在の空座町周辺には、複数の卍解修得者や隊長格相当の戦力が滞在している。

そのため単純な戦闘力だけを基準とすれば、追加の大規模な先遣隊を派遣する必要性は低くなっている。

■ 現世先遣隊

虚圏や破面の動向を調査し、現世での異常事態に対応するため護廷十三隊から派遣される部隊。

今回は現地戦力がすでに過剰であることから、大規模派遣ではなく伝令役のみを送る方針へ変更された。

■ 伝令役

護廷十三隊本部の意向や命令を現地へ伝達する役目。

今回の任務では戦闘参加を前提としておらず、現世に滞在する隊長格との連絡が主目的となる。

■ 緋山染華

十一番隊十席。

実力そのものは高いが、負傷や痛みを極端に嫌うため、本人は危険な任務への参加を積極的には望まない。

■ 白鷹光四郎と染華

白鷹光四郎は長年にわたり染華へ好意を伝え続けている。

一方の染華は、光四郎を非常に信頼しているものの、その言葉を恋愛感情としてほとんど認識していない。
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