我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
新たに五番隊隊長へ就任した死神。かつて虚ガルムルドと死神・緋山雷太の魂が融合したことで現在の存在となった。本人にとって、ガルムルドも雷太も等しく自分自身である。
藍染惣右介
かつて五番隊隊長を務めていた死神。現在は市丸ギン、東仙要とともに虚圏へ渡り、虚夜宮を拠点としている。
コヨーテ・スターク
藍染に仕える十刃の一人。常に気怠げな態度を見せる破面。
アーロニーロ・アルルエリ
第九十刃。特殊な能力によって他者の霊子や能力を取り込み、自身の力として利用する破面。
緋山染華
雷太の母。十一番隊十席。雷太にとって現在も最も大切な家族の一人。
白鷹光四郎
六番隊四席。雷太とは長年の親友であり、染華へ百年以上にわたって想いを寄せ続けている。
おうみんな!! 飯食ってるか? 俺だ! オレオレ!! ガルムルド・ジュードスタインだ。新五番隊隊長、緋山雷太でもあるぜ!!
俺が今、こんな真っ白な砂漠で何してるかって?? よくぞ聞いてくれました!!
読者諸君、俺は今、虚圏のド真ん中にいるのよ!
何?尸魂界を裏切ったのかって?? おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ! 俺が誰を裏切るって? 俺は誰も裏切ってないぞ?? 藍染サマも、護廷十三隊もな! 今回はあくまで、「虚圏に逃亡した藍染サマの捜索および偵察任務」っていう、由緒正しい名目での出張なのさ!!
危険な敵地に、なんで新米隊長が単独でそんな任務を??
ああ、皆は覚えているかな?? そもそも、かつて破面の「ガルムルド」が、死神の「緋山雷太」の魂を食って融合したのは何故か?
思い出したか? そう! あれは「虚圏への単独潜入任務」の最中だったのさ!! つまり俺は、虚圏捜査の第一人者であり、単独潜入を何度もこなしている超一流エージェントにして三界最強の美少年ってわけ!! だからこそ、隊長になってもこの隠密スキルは健在でぇ〜。
※以下、自慢話が3時間ほど続くためカット
◇
……でけえ。
母さんに見せたら、掃除するのが嫌だって言うな、これ。
でだ!! 結局俺がここで何をするかと言うとだな。俺の最終目標は、「最高の死神」であり、同時に「最高の破面」になることだ!! 死神としては、晴れて隊長になった!! ――そうなれば当然、破面としても『十刃』の称号をもらわないと、俺の中で釣り合いが取れないよなあ!?
「…………ここが、虚夜宮か………。来るのは初めてだぜ。さて……」
探査神経を広げる。
壁の向こうに、強い霊圧がいくつか引っかかった。
「見張りは……いない。だが……中には十刃クラスの霊圧がひい、ふう、みい……。意外と少ないな………。4体だけか?? 他の連中はどこかへ散ってやがるか……。ま、ちょうどいい。いくつか藍染サマに直に聞かないといけないこともあるしな………」
捜索は終わったな。
あとは偵察か。十刃になって内部事情を調べましたって書けば、報告書としても申し分ねえだろ。
◇◇
「ほう…………ふふっ」
「……どうしたよ? 藍染サマ。いきなり一人で笑い出すなんて、趣味が悪いっていうか……気持ち悪いな」
柱の脇に、長い髪を後ろで束ねた男がいた。
片目を開けた顔も、肩の落とし方も、やけに眠そうだ。
「いや、スターク。少しばかり……楽しいことを思い出してね」
「思い出し笑いかよ。ふあーあ……。誰かお客さんが来たみたいだし、俺は自室で昼寝でもさせてもらうか………。リリネットもうるせえしな」
「気を遣わせたかな??」
「いーや。旧交を温めるほど、あんたらも長期間離れてもいないだろうからな。ごゆっくり」
◇
……こいつ、強えな。
さっき数えた四体の一つか。眠そうな目に釣られると、面倒なことになりそうだ。
「……どうした?? 入りなさい。緋山三席……いや、今は『五番隊隊長』になったのだったな」
「おう。流石は俺を一度殺しただけのことはありますね。お見通しだ、藍染隊長」
この顔も、この声も変わっちゃいねえ。
「……好きにするようにと言ったが………君は、こちら側に来ることにしたのかな??」
「前に言ったでしょう? 俺はどちらにもつく、と」
「ほう………」
母さんにも雛森にも、帰るって言って出てきた。
そこを変える気はねえ。
「――『十刃』の称号………頂きに来ました」
「十刃を名乗るということは、『虚の力』をコントロールし、引き出せるようになったのかな?」
「いんや! 全然!! 死神としての『雷太』の力が強すぎるのは相変わらずで〜、まだちょっとバランスが悪くてですね!」
「……………」
返事が消えた。
笑みは残っている。何を言ってもいいわけじゃなさそうだ。
……そこから聞きますか。
出来るようになってから来いって言わねえでしょうね。
「すいません」
「いや………構わないよ。君の魂の在り方は、それ自体が稀有な実験結果だ」
実験結果、ね。前なら、それを聞いて喜んだかもしれねえ。
今は、別に聞きたいことがある。
「……ところで、藍染隊長。貴方は何故…………」
「……裏切ったか? と?」
首を横に振る。
そこじゃない。
欲しい物を手に入れ、虚圏へ来た。それで満足なら、俺から聞くことなんかねえんだよ。
「いいえ。長年の悲願だった『崩玉』を手に入れたくせに……何故、今の貴方はそんなにも『つまらなそう』にしているのか? ですよ」
「…………! そうか………」
「そもそも、あのタイミングで、貴方が都合よく崩玉を持てたのも……冷静に考えればどうにもおかしいですしね………」
聞かねえで帰ったら、また気になって眠れなくなる。
こっちを見てくださいよ。俺はもう、三席じゃねえんだから。
「…………力を示さない者には語る舌を持たないよ」
「……………なるほど………。で? 十刃の座を貰えば?」
「力は示したことになるだろうね」
「じゃあちゃっちゃと戦いますかねぇ」
そう来るなら、話は早え。
称号を貰い、答えも貰う。帰りの報告書は、ずいぶん長くなりそうだ。
「今ここには1、5、7、9がいるがどうする??」
「そうですね…………」
一番は、さっきの眠そうな奴か。
あれと戦ってから話を聞くのは、少し骨が折れそうだな。
五、七、九。
小さい数字から取らなきゃいけねえ決まりもないんだろ。
選んだ数字を口にして、玉座の笑みを見上げる。
まずは一つ。
十刃の数字を並べてやろうじゃねえか。
◇◇
「……藍染様。お呼びとのことですが………」
「ああ、アーロニーロ。実は……君を殺して十刃になりたいと言うものが現れてね」
「ほう……ふふふふふふ。身の程知らずがいたようですね」
「君がそう思うなら殺して力を示すといい」
「はっ」
……殺す、か。
まあ、席を寄越せって言いに来たんだ。向こうが黙って譲るわけねえよな。
「……………お前が十刃か…………」
顔を上げる。足が止まった。
……は?
髪の色。
目。
口の端から覗く八重歯。
毎朝、顔を洗う時に見ている。
母さんと同じだって、何度も言われた。
あの顔が、こっちを見て笑っている。
「………………」
「へえ……俺と同じ顔……アンタも俺と同じような能力持ちの破面かい? なら運が悪かったな。俺のほうが上だぜ?」
「……そうかよ!!」
擬態か。
こっちへ来る前に、何かされたのか。
探査神経を広げても、眼前から消える気配はない。
「ん………その羽織………隊長かよ!! お前………死神の霊圧のまま潜入でもしてるのか??」
「はん! 俺様が護廷十三隊五番隊隊長!! 藍染サマのあとを継いだ緋山雷太様だ!!」
見せつけるように肩を開く。
この羽織は俺の物だ。
その顔で、勝手に俺を名乗るんじゃねえぞ。
「…………へえ。うまく化けてやがるな………。なら………これはどうだ??」
向こうの刃が鞘を離れた。
切っ先が上がる。
「天地悉く我が白に染まれ、万象遍く彼の朱に還れ――『漂泊』」
光の帯が刀身を走った。
両側へ刃が伸び、同じ形が眼前に収まる。
……解号もかよ。
知っている。
毎日、手にしている。
刃の角度も、柄を握った指の位置も。
「俺の名は第九十刃!! アーロニーロ・アルルエリだ!! この死神の体は極上だ!! それを以前に手に入れた霊子融合能力で取り入れた!!! 俺さまは最強の破面だ!!!!」
迫る刃へ抜き放った刀を合わせる。耳元で金属音が鳴った。
「…………っ!!」
手の中の重さが減る。
接触した箇所から霊子が散り、細かい粒になっていく。
ちっ、離せ。
後ろへ跳び、刀身を確かめる。
こいつ、本当に漂泊を使いやがる。
顔を真似たんじゃねえのか。
体を取り入れたって、いま言ったか。
「俺の名はガルムルド・ジュードスタイン。この死神、緋山雷太の魂を喰ったメノスだ」
「はっ! 魂を喰らったか! ならその姿は納得だな」
「だが………緋山雷太の心はここにある!! テメエはムカつく!! ここで死んでいけ!! ニセモノ野郎!!!」
考えるのは、こいつを倒してからでいい。
俺の顔で笑うな。
「――天地悉く我が白に染まれ、万象遍く彼の朱に還れ――『漂泊』!!!!」
手に馴染んだ両刃を、真っ直ぐ振り下ろす。
同じ刃が下から上がってきた。
接触した両方の刀身から、霊子がほどける。
頬に細かい傷が走り、すぐに塞がった。向こうの顎にも、同じ傷が見えた。
押し込め。
同じ刀なら、俺が勝つ。
俺の振り方を真似した程度で、使いこなせると思うなよ。
「俺は緋山雷太!! 今年で150歳!! 護廷十三隊始まって以来の天才隊士だ!!!」
「はっ! 好物はライチ!! 3度の飯よりもお姉さんの胸が大好きなモテモテ美少年とは俺のことよ!!!」
……それは俺の台詞だろうが。
好物を知ってるのが、そんなに偉いか。
母さんに聞きゃ、誰だって分かる。
右から斬る。
肩を沈められた。
続けて返した刃も、既に待ち構えた刀へぶつかる。
低い蹴りが足首へ伸びた。
踵を引き、踏み直す。いつもなら、こっちが使う動きだった。
「くっ……体の記憶かよ……!!」
「そうさ!! 体には技が!! 脳には記憶が!! 鮮明に残っている!!! 俺はそれを完璧になぞらえることができる!! テメエはどうよ!! ガルムルドさんよう!?」
俺は知ってる。この刀で、何度も戦った。
考えなくたって、腕が動く。
……動けよ。
「くぅっ………!!!! 俺は………ガルムルドであり、雷太だ……!!」
「あ? 破面のくせに、食った奴の心に乗っ取られてんのか? 情けねえな……! ならなんでここに来た!?」
「は…………どちらも俺なんだよ!! なら……どちらの道でも上を目指さないでどうなんだよ!?」
上から打ち込み、返す刃を胴へ向ける。
同じ角度の一撃が、その途中へ割り込んだ。
刀を弾かれる。
体は知っている。この後、左足を出せばいい。
だが、向こうの足も既に出ていた。
「そうか………そのあたりは『ガルムルド』の特性ってわけだ。雷太はそんな向上心は持っていなかったもんなあ」
「…………なに??」
「冬獅郎に先を越されたのは仕方ねえ……。だけど俺はモテる!! なら俺の勝ちだぜってな!!」
……言った。
そんなことを、言ったことがある??
冬獅郎に追い抜かれて、腹が立って。
誰かに聞かれた時、笑って流した。
その時、何を考えていた。
本当に、それでいいと思ったのか。
「いや!! 違うぞ!! 俺は…………冬獅郎に勝つんだ!!」
「あ? だからそれがお前なんだろ!? ガルムルドよ!!!」
肩が熱くなった。足が、遅れて砂を踏む。
血が落ちた。
傷口の周りから、霊子がほどけていく。
塞がれ。
何やってんだ、早く塞がれよ。
膝が曲がる。刀を握る手を上げ、顔の前へ刃を置いた。
「くっ………!!! 藍染隊長!!! 俺は………俺は!!! アンタに追いつこうといつも努力をして………。母さんにも………??」
お前は雷太だって、一言言ってくれりゃいい。
……俺は、努力していた。
したはずだ。
稽古をして、負けて、また立って。誰に褒めてほしかった?
母さん。
隊長。
冬獅郎に、次は俺の番だって。
「母さんに光四郎のやつがいつも言い寄って来るからな!! 変な虫がつかないようにしてやっていたよな!?」
母さんの隣に、光四郎がいた。
その間へ、割り込んだことがある。
……待て。なんで嫌だった?
あの人を見て、なんで。
「光四郎は………親友だ。俺は………母さんが幸せになれるなら……、? 俺は………あれ?」
現世へ行く母さんに、何を言った。
光四郎とデートしてこいって、俺から言った。
喜んでくれりゃいいと、本当に思った。
あれは嘘じゃねえ。
ふざけて言ったわけでもねえ。
なのに。母さんのそばに来るなって。
俺がいるんだから、余計なことをするなって。
「どうやら魂の情報をうまく受け取れていないみたいだな。やはり俺の勝ちだ。吸収能力も半端。擬態も半端じゃあな……」
擬態?俺が?
柄から離れた手が、額へ触れた。
髪がある。皮膚がある。
いつもの顔だ。
母さんに触られた時も、この顔だった。
「嘘だ!!! 俺は……!!! 緋山雷太だ!!!」
「ガルムルドと名乗ったろうが!!! 破面の誇りを忘れたか!!!!」
胸に踵がめり込んだ。
「ぐわああああああッッ!!!!!!!」
背中から砂へ落ちる。
起き上がろうと肘を立てた途端、肩の傷が開いた。腕が折れ、頬に砂がつく。
刀は握っている。
離すなよ緋山雷太。これを離したら、もう。
「十刃になりたいだと? 自惚れもいいところだ。とっとと喰って終わらせてやる……」
上から霊圧が押し寄せた。
左手の周りで、黒いものが膨らんでいく。
帰刃か。避けろ。
起きろよ。さっきから、何やってんだ。ガルムルドよ。
膝を引く。羽織が砂に埋まっていた。そこに五の字が見えた。
俺が貰った羽織だ。俺に似合うって、母さんも。
「――喰い尽くせ………『喰虚』!!!!!」
砂の上を、触手が這った。足元が隠れ、壁が隠れる。
膨れ上がる肉塊の奥に、自分と同じ顔が見えた。
逃げろ。あれに喰われたら。
……喰われたら、俺に何が残る。
「……あ……………」
刀を持ち上げようとする。手首に力が入らなかった。
見上げた先で、闇が広がっていく。
■ ガルムルド・ジュードスタイン
かつて虚として存在していた雷太の名。
死神・緋山雷太の魂を取り込んだ後、両者は単純な憑依や人格交代ではなく、一つの存在として融合している。
■ 漂泊
緋山雷太の斬魄刀。
接触した霊子的な構造へ干渉する性質を持ち、雷太自身が長年使い続けてきた武器でもある。
■ 第九十刃
アーロニーロ・アルルエリに与えられた十刃としての序列。
特殊な吸収能力を持ち、取り込んだ対象の情報や能力を戦闘へ利用する。
■ 雷太の記憶と現在
現在の雷太は、過去の緋山雷太の記憶を失った別人ではない。
一方で、融合後の経験や価値観によって、かつてとは異なる考え方や目標を持つようになっている。
その変化が何を意味するのかについては、雷太自身もまだ完全には整理できていない。