我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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戸川古男(とがわ ふるお)
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」現世では空座高校の臨時英語教師「GTT」圧倒的なマイペースさと厨二病全開の演出で、ルキアの転校初日を大混乱の渦に巻き込みつつ、なぜか的確な恋愛アドバイスを放つ。

黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年。古男のせいで父親の正体と自身のルーツ(貴族の血筋)を知らされ、ルキアから異常に畏まられて居心地の悪い思いをしている。

朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。海燕が存命であるこの世界線では「志波家」に強い敬意を抱いており、その血を引く一護に対してガチガチに緊張している。古男から恋次との仲を冷やかされて大慌てする。

石田雨竜(いしだ うりゅう)
一護のクラスメイト。朝のホームルームからフルスロットルで暴走する古男に対して、今日もキレのあるツッコミを連発する。

黒崎一心(くろさき いっしん)
(※回想でのみ登場)古男に正体をバラされたため、ルキアへ「嘘ではないが本当でもない事情」を説明する羽目になり、海燕への根回しも要求されて極度に疲弊している元・隊長。


五大貴族と転校生と幼なじみ

古男による怒涛の暴露から一夜明けた朝、一護とルキアは並んで高校へ向かっていた。

 

いつもと同じ通学路、いつもと同じ朝の街並み。

 

それなのに、二人の間だけは妙に空気が重い。

 

昨夜、一心は逃げ切れないと悟った末、自分がかつて死神だったこと、黒崎真咲と出会い、彼女と生きるために現世へ残ったことだけは認めた。

 

どうして死神の力を失ったのか、なぜ尸魂界では殉職扱いになっているのか、その辺りは「色々あった」の一点張りで押し通されたものの、少なくとも志波一心という男が実在し、自分の父親と同一人物であることについては、ルキアにも否定しようがなかった。

 

そのせいで、今朝からルキアの様子がおかしい。

 

「…………」

 

「…………あのさ、ルキア」

 

声を掛けた途端、隣を歩いていたルキアの肩が大きく跳ねた。

 

「はっ!! 何用でございましょうか、一護殿!!」

 

「…………あまり、そう畏まられてもな。気持ち悪いっつーか……。昨日は普通に呼び捨てだっただろ」

 

「何を言うか! ……おっしゃいますか! 海燕副隊長の従兄弟……志波家の……一護殿に礼を払うのは当然のことだ……です!」

 

途中から敬語なのか普段の口調なのか本人にも分からなくなっている。

 

一護にとっては、志波家だの貴族だのと言われても実感など皆無だった。

父親は朝から自分にドロップキックを仕掛けてくる変な町医者であり、自分はその息子でしかない。

 

だがルキアにとって志波家は、たとえ現在は往時ほどの勢力を持たなくなったとはいえ五大貴族の一つであり、何より志波海燕の家である。

目の前の少年が、その海燕と血の繋がった相手だと知ってしまえば、今まで通りに接しろと言われても頭がついていかなかった。

 

その原因を考えれば考えるほど、一護の苛立ちは一人の男へ収束していった。

 

「これもあれもそれもなにもかも…………全部あのクソ教師のせいじゃねえか!!」

 

「五席をクソ教師などと! ……しかし、確かにあの御方の言動は私にも予測がつきませぬ……」

 

「そこだけは否定しねえんだな」

 

「否定できる要素がない」

 

そこだけ急にいつもの口調へ戻ったので、一護は少し安心した。

 

もっとも、安心できないことは他にもある。

横を歩くルキアは、昨夜まで着ていた死覇装ではなく、見慣れた空座高校の制服を着ていた。しかも鞄まで用意してある。

 

「ていうか、なんでお前まで制服着て学校行く気満々なんだよ!」

 

「現世での調査において、学校というコミュニティへの潜入は必須なのだ……です! お前……一護殿の周辺で活動する以上、最も自然な選択であろう」

 

「最後まで普通に喋れよ……」

 

昨日だけで父親と自分の人生に関する情報を何年分も聞かされた気がする。それでも学校へ行けば少しくらい日常へ戻れるだろう。

 

そう思っていた。

古男が担任であるという事実を、一瞬だけ忘れていた。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

朝のホームルームが始まる時刻になっても、担任は教室へ現れなかった。

 

いつものように生徒たちが好き勝手に喋り、昨日の宿題を写す者や、友人同士で朝から騒ぐ者もいる。

 

やがて廊下からパイプオルガンが聞こえてきた。

 

一護が頭を抱える。

石田が眼鏡を押し上げる。

 

この一週間で、クラス全員がもう知っている。

これが鳴った時、まともなホームルームは始まらない。

 

ガラッバーーーーン!!!!

 

大爆発でも起きたような音とともに扉が開いた。

 

煙が晴れた時には、なぜか古男はすでに黒板の前に立っていた。腕を胸の前で交差させ、少し顎を上げ、背後からは朝日の角度では絶対にあり得ない後光が差している。

 

「クックック!!! 今日の英語は一味違うぞー!!」

 

「まだ朝のホームルームです!!!」

 

「転校生を紹介する!!」

 

「無視しないでください!! 先生!!」

 

古男は最初から石田など存在しなかったかのように扉へ手を向けた。

 

「入れ、朽木!」

 

教室中の視線が入口へ集まる。

ルキアは古男を睨んだ。

 

小柄な身体に空座高校の制服。緊張から少し硬くなっているものの、その整った顔立ちを見た男子たちの間からすぐに声が上がった。

 

「おお……」

 

「可愛くね?」

 

「転校生?」

 

古男は満足げに頷いた。

 

「朽木ルキアだ。半端な時期だが、深い闇に包まれた家族の事情でな。……黒崎とは一応、遠い親戚同士ということになる。ホームステイ先は黒崎の家だ」

 

一瞬、誰も意味を理解しなかった。

次の瞬間、教室が爆発した。

 

「ええええええ!? 遠い親戚!?」

 

「しかも一護の家に住んでるの!? 同棲!?」

 

その中でも啓吾の反応は群を抜いていた。

 

「いっ、一護ぉぉお!! お前いつの間にこんな可愛い親戚と同居イベントを発生させてんだよおおお!! ずるいぞ!! 何だその漫画みてえな人生!!」

 

「うるせえ……俺だって昨日まで知らなかったんだよ……」

 

どこまでが古男の事前準備で、どこからが思いつきなのかすら分からない。

 

しかも教室の反応を見る限り、遠い親戚という説明は完全に裏目へ出ていた。

男子たちは一斉にルキアへ質問しようとし、女子まで「いつから黒崎君の家に?」「部屋は別?」などと妙なところへ食いつき始める。

 

古男はしばらくその騒ぎを眺めていたが、やがて教卓を強く叩いた。

 

「だが、下手な詮索はやめておけよ!? 朽木には『恋人』がいるからな!!」

 

教室が凍った。

数秒前まで騒いでいた男子たちの表情が、見る見るうちに失望へ変わる。

 

そしてルキアの顔は、見る見るうちに赤くなった。

 

「なっ!!? だ、だから阿散井とは恋人ではないと!! 幼なじみだと言っているではないか!!」

 

古男はそんな抗議を受けても一切怯まなかった。

 

「クックック!! 照れるな照れるな。幼き日を共に過ごし、離れてなお互いを意識し、顔を合わせれば素直になれず、それでも他の誰かと親しくしていれば妙に気になる。これを世間ではそう呼ぶ」

 

「誰がそんな話をした!!」

 

「顔に書いてある」

 

「書いてない!!!」

 

クラスの視線が再びルキアへ集中する。

 

本人は否定すればするほど泥沼へ入っていくことに気づいていない。

 

古男はそこで急に教卓から離れ、窓辺へ歩いていった。

 

魁湛から、それまでの荘厳な音楽とは違う、どこか哀愁を帯びた静かな旋律が流れ始める。

 

「だがな、若人たちよ。よく聞いておけ」

 

窓の外へ目を向ける古男の横顔が、なぜか急に人生を知り尽くした男のように見えた。

 

「人間関係はしっかり結び直しておかないと、後々必ず後悔する。幼なじみならば、変に距離を置いて意地を張らずに早めに『確保』しておくんだな。近くにいることを当たり前だと思っていると、いつの間にか互いに違う場所へ進んでいる。いざという時、すれ違いが生じてからでは遅いのだ!!」

 

教室が妙に静かになった。

 

言っている本人はいつもの古男なのに、内容だけ聞けばやけに生々しい。

 

ルキアも反論しようと口を開き、そのまま言葉を失った。

脳裏に浮かぶのは、流魂街で一緒に暮らしていた頃の恋次だった。

 

真央霊術院へ入り、互いに別の道を進み、自分が朽木家へ迎えられてから少しずつ距離が広がった。

会えば昔と同じように話せると思っていたのに、実際には顔を合わせる機会すら少なくなっている。

 

「!!!! わ、私は別に、あいつとすれ違ってなど……!!」

 

声が上ずった。

古男がゆっくり振り返る。

 

「誰もお前の話とは言っていないぞ?」

 

「…………」

 

ルキアが黙った。

 

一護は横で顔を逸らした。

今笑えば殺される。

 

石田だけは、古男の人生相談に付き合う気がなかった。

 

「…………先生。さっきから何の授業をしているんですか?」

 

古男は少し考え、教卓へ戻った。

 

「ふむ。では本日の暗黒英語のテーマは『Childhood friend――幼なじみが、いかにしてLove interest――恋愛対象へと昇華するか』についてだ。ノートを開け!!」

 

「だからまだホームルームですってば!!!!」

 

それでも古男は構わず黒板へ、

 

Childhood Friend → Emotional Distance → Awareness → Jealousy → Love Interest

 

と流麗な字で書き始める。

 

「まずChildhood friendという言葉だが、単純に幼少期から知っている者を指す。日本の創作物でよくある『家が隣で毎朝起こしに来る』などという条件は必須ではない。重要なのは――」

 

「先生!!」

 

「そしてLove interestは必ずしも恋人そのものを意味しない。物語上、恋愛対象として位置付けられた人物を指す場合も――」

 

「ホームルーム!!!」

 

「石田は今日も熱心だな。特別に前へ出て例文を書け」

 

「なぜ僕が!!!」

 

一護はその騒ぎを聞きながら、机へ額を押しつけた。

昨日まで普通だったはずの学校生活が、凄まじい速度で壊れていく。

 

――マジで誰か、あの十四番隊隊長を尸魂界へ連れ戻してくれ……。

 

一護の切実な願いなど知る由もなく、古男は黒板いっぱいに「幼なじみから恋愛対象へ至る英文例」を書き連ね、その横ではルキアが顔を真っ赤にしたまま必死にノートを取っていた。

 

本人は絶対に認めないだろうが、誰より真面目に授業を聞いていたのである。




五大貴族(ごだいきぞく)
尸魂界の歴史を創ったとされる最高位の貴族たち(朽木・四楓院・綱彌代など)。本来は四大貴族だが、かつては志波家を含めて五大貴族と呼ばれていた。本SSの世界線では海燕が生存しているため、志波家はギリギリ貴族としての体裁を保っている模様。

遠い親戚(とおいしんせき)
古男がクラスの生徒たちを納得させるために使った設定。現世におけるルキアの滞在理由として非常に手っ取り早いが、一護へのヘイト(嫉妬)を一身に集める結果となった。

早めの確保(はやめのかくほ)
古男がルキアに送ったガチの助言。ルキアが朽木家の養子になって以来、身分差から生じていた恋次との「すれ違い」を、古男は(適当なカマかけから)見抜いて修復を促している節がある。
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