我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座第一高校一年生。死神代行兼十番隊隊長代行。最近は敵であるはずの破面まで身の回りの日常へ入り込み始めている。
井上織姫
一護の同級生。第四十刃ウルキオラと交戦した後も彼を「ウルキちゃん」と呼び、再戦をゲーム勝負として受け入れている。
ウルキオラ・シファー
第四十刃。藍染惣右介の命令とは別に、織姫との再戦へ強い関心を持つようになっている。
茶渡泰虎
一護の親友。全身完現術『勝利の悪魔』を用い、先の破面襲撃ではヤミーと交戦した。
ティア・ハリベル
十刃の一人。冷静な観察力を持ち、他者の能力や戦闘結果を慎重に分析する。
ノイトラ
十刃の一人。好戦的で粗暴な性格を持つ破面。
バラガン
虚圏の王を自称する強大な破面。他者を老いによって朽ちさせる力を持つ。
黒板の返り点をノートに写して、頬杖をつく。
「……えー、この文章は……漢文では割と……難しい表現になるので…………主語と述語の係り結びに注意して……」
眠くなる声だ。普段なら欠伸を噛み殺すところだが、一護の背中には冷たい汗が伝っている。
後ろを見たくない。
見たところで、白い服の男は消えない。朝、教室に入った時からロッカーの前に立っている。ホームルームを終え、授業が始まり、今もそこにいる。椅子に座るつもりもないらしい。
どうして登校してきたんだ。昨日は家に来て、飯を食って、ゲームをして帰った。帰る場所を間違えたわけじゃないよな。
「なあ…………一護…………」
「どうしたよ、啓吾?」
「あのさ………あの、教室の後ろに直立不動で立っていらっしゃる……白いお召し物の方は……一体いつまでいらっしゃるので……??」
「……………俺にもわからん」
「昨日の勝負の後……俺たちはすでに再戦の約束を交わしている。――ならば、俺がここにあるのは至極当然のことだろう」
聞こえていた。
………当然ではないだろう。どう考えても、おそらく絶対に。
井上と約束したんなら、井上と待ち合わせろ。校門の外とか、公園とか、場所はあるだろう。
黒板へ向き直る。さっき写した字を、もう一度書いてしまった。
背後から斬りかかってくる気配はない。隣の席からは震える息が聞こえる。
その向こうでは、ノートの端を水色の指が押さえていた。紙をめくる音すらしない。
昨日の勝負に負けたのが、そんなに悔しかったのか。
あそこで、もう一回くらい付き合っておけばよかったのか。
いや、誰と再戦の約束をしても。
教壇から教科書をめくる音が響く。続いて、何ページを開くか指示が飛ぶ。
どこだった。返り点を写す前のページか。
隣へ目を向けると、啓吾の教科書は逆さになっていた。
……こいつに聞いても無駄か。
◇◇
ようやく肩の力が抜けた。
授業が終われば、誰かに相談できる。戸川先生なら、待機場所くらい決めてくれるだろう。昨日は放っておけと言っていたが。
「じゃあ黒崎君、また後でね〜」
体操着袋を持った井上から手を振られる。
「おう、また後――」
そのすぐ後ろを、白い服が通り過ぎた。
待て。
行き先は一つしかない。右の引き戸を開けたら、女子更衣室だ。迷いのない足取りに、伸ばす手も遅れかける。
襟を掴み、廊下側へ引き戻した。
「おおいッッ!!! なんでテメエは当たり前の顔して普通についていこうとするんだァッッ!!!!」
「………俺は井上織姫に用があるからだ。監視対象に逃げられるわけにはいかん」
「女子はこれから着替えなんだよ!! 一歩でも入ったら覗きになるだろうが!!」
「理解不能だな。破面に、人間の雌に対して欲情するような機能は備わっていない」
欲情するかどうかを聞いてねえ。
入るなって言ってんだ。そんな顔で返されたら、何から話せばいいんだよ。
カーテンが動いた。
「な………なに〜!? 黒崎の奴、アタシらの着替えについてこようとしてるッ!?」
違う。ついていこうとした奴を止めている。
「いやーーー! 変態!! ………でも、黒崎なら……まあ、見せてもいい……かも?」
「ちょっと、アンタ何言ってんのよ! でもちょっとドキドキするかも……」
許さなくていい。そもそも疑うな。
「なんだよ一護ォォッッ!!! 微妙に許されそうになってんじゃねえかァァッッ!!!! 羨ましすぎるだろチクショウッッ!!!!」
廊下の端から駆け寄ってくる啓吾を見て、今度は手を伸ばせなかった。
来るな。お前の声で話が広がる。
「キャーーーーーッッッッ!!!! 浅野が来たァァッッ!!!!! 痴漢よッ!! 警察呼んでェェッッ!!!!」
上履きが頬に当たり、続いて鞄が腹へ食い込んだ。
「ギャーーーーーーーーッッッッ!!!!!!」
もう体育を始めてくれ。走れと言うなら走る。何周だって走ってやるから。
◇◇
「…………結局、君は何が目的なんだ? 高校に入り浸ってまで一体何を企んでいる?」
「…………人間風情が知る必要はない」
なら教室で授業に集中しろとか言うな。敵として振る舞うか、客として振る舞うか、どっちかにしろ。
「…………ヤミーとやらが、力比べで俺に負けたことを忘れたか?」
「忘れる道理もない。だが、ヤミーよりも俺の方が遥かに強い。何の問題もない」
霊圧に変化はなかった。
チャドを信用していないんじゃない。中庭で始めるなよ。結界を張ってくれる白鷹も、今ここにはいない。
「ウルキちゃん〜。もしゲームで私に勝ったら、どうするつもりなの?」
それは聞いておきたい。勝ったら帰るのか。また違うゲームを探すのか。それとも、ようやく刀を抜くつもりなのか。
「決して悪いようにはしない。虚夜宮(ラス・ノーチェス)へ共に来てもらい、我々に力を貸して欲しいのだ」
……連れていくつもりか。
昨日、飯を出した時には言わなかっただろう。ゲームで負けていたから黙っていたのか。井上の顔を確かめる。驚く様子もなく、次の卵焼きへ箸を伸ばしていた。
そんな話、いつ聞いた。聞いていないなら、そこで箸を止めてくれ。
「へぇ……一護や石田の質問はガン無視なのに、織姫の言うことはちゃんと聞くのかよ」
たつきの口元には米粒がついていた。
「人間と交渉を行うには『誠意』が必要であると、貴様らの書物に記されていた。今朝、図書室とやらにあった本を読んだが……貴様らは読んでいないのか?」
ああ、読んでねえ。敵を学校に連れてきた時の本なんて、借りた覚えがない。
そもそも図書室に入れたのか。入口で誰かとぶつからなかったか。貸出カードに名前を書く気だったのか。
もう啓吾より真面目に学校へ通っている。あいつは今朝、教科書を探して鞄をひっくり返していたのに。
「へぇー! で、ラスノーチェスに行って何をするの?」
「藍染様が、新しい世界を創造する。その手伝いをするのだ」
「どんな世界?? 男の人がみんな黒崎君だけで、女の人がみんな私だけの世界とか??」
待て。
今、考えていたことが全部飛んだ。どんな世界を造るのかは知りたいが。
向かいでルキアの口からプチトマトが落ちた。弁当の蓋に当たり、転がって止まる。拾う手は伸びてこない。
「…………想像するだに恐ろしい世界だな。悪夢以外の何物でもないぞ」
「男が全員黒崎なら、路地のそこら中で喧嘩が起きて一日で文明が崩壊しそうだな……」
お前から殴ってやろうか、石田。
いや、今はやめよう。殴ったら、そいつの言った通りになる。
町中に自分の顔が並ぶ光景を、うっかり想像してしまった。通学路にも教室にも同じ顔がいる。そいつらの家へ帰れば、全員の親父も同じなのか。
……親父を増やすな。あれは一人で十分にうるせえ。
否定しろ。そんな世界を造る気はないと言え。
「…………わからん。新世界の詳細は俺の知る領分ではない。だが、まずは俺が勝負に勝ってからだ。――今日の勝負は『大乱闘』だ。今日こそは必ず勝つ。その後は『桃鉄』だ」
分からないのかよ。
それを聞いてから来い。順番が逆だろう。藍染に一言聞けなかったのか。
隣から、堪えきれなかった笑いが漏れる。
「おいおい……そのペースじゃ、お前らが真面目に戦闘するのなんて、きっと百年後くらいだぜ」
「百年後はおそらくお前たち人間は寿命で死んでいる。そこまで長引かせるつもりはない」
寿命の心配はしてくれるのか。
「突っ込むのも疲れてきたぜ……」
今日の大乱闘は、誰を使う気だ。技が出ないと言って、コントローラーへ霊圧を流すなよ。昨日と同じことを始めたら、今度は自分で新品を買ってこい。
そんな心配をしている自分に気づいて、箸を止めた。
何を馴染ませている。連れて帰っていいなんて、一言も言っていない。
まずは、藍染の所へ帰れ。
帰ったら、今日は何を報告するつもりなんだ。図書室の本の題名と、放課後に使うキャラクターか。
◇◇
グリムジョーの眼前を、ノイトラの武器が横切った。
「あァ?? アーロニーロのウスノロが死んだだと? はっ!! 弱え奴は死ぬだけだなァ!! で、どこだ? そのガルムルドって新しい野郎はよォ!!」
「いねえよ」
「あァ?」
「俺が部下を引き連れて現世から戻ってきた時には、とっくに何処かへ消え失せてやがったらしいぜ」
ガルムルドと名乗ったらしい。
戦った姿は見ていない。アーロニーロの所へ行けば、何か分かると思ったが、残っていた霊圧からでは技を確かめられなかった。
消えたのなら、どこへ向かったのか。
藍染様の許可は得たのだろう。勝手に立ち去れるはずはない。
「何でも奴は……『霧』を操る破面だそうだ。放たれた深紅の霧によって、周囲のあらゆるものを溶かし、ほどいてしまう男らしい」
振り向いたノイトラの顔から、笑みが消えた。
「けっ! 女が俺に気安く話しかけてんじゃねえよ!!! クソが!!」
また女と呼ぶのか。
ティア・ハリベルの名を、知らないわけではあるまい。呼ぶ気がないなら、こちらを見なければいい。
足元の破片を踏み越えた。ノイトラとの距離は変えない。
アーロニーロを倒した相手を、先に見ておきたい。
霧の範囲はどれほどか。刀で払えるのか。触れた箇所からほどけるなら、鋼皮の硬さで防げるものなのか。
帰刃を使ったのかすら、まだ知らない。
「カッカッカッカ。随分と愉快な話をしているではないか」
上段から笑い声が落ちてきた。
「バラガン………!!」
「『様』をつけぬか、下衆が。……儂はこの虚圏の唯一絶対の王だぞ」
藍染様の前で、その呼び名を求めるつもりか。
聞くたびに気になる。あの玉座から降りる気は、毛頭ないらしい。
「王は藍染様だ。……まあ、貴様に今更言うまでもないことだがな」
鼻を鳴らす音が響いた。
視線を逸らさず、待つ。気安く呼ぶなと怒るのか。女は黙れと続けるのか。どちらも、今日はすでに聞いた。
「……ふん。で、その消えた新顔とやらは、どのようなものなのだ??」
今度は話を聞く気らしい。
手元の情報は少ない。自分で見ていない戦いを、確かめたことのようには語れない。
「何でも…………大気中に展開した霧によって、触れたあらゆる事象や物質をほどき、霧散させる能力を使う奴だとか。――アーロニーロは、わずか3秒で霧散させられたらしい」
「へえ……………3秒で霧散、ねえ」
ノイトラの口元が吊り上がる。
最初の斬り合いを含むのか。霧を放ってからなのか。それすら確かめられていない。
アーロニーロの姿が消えた瞬間を、見ていた者に聞く必要がある。
「……ふむ。あらゆる物質を老朽化させ朽ち果てさせる儂の『老い』には到底及ばんだろうが……。ふん、中々に興味深い獲物だな」
■ 人間社会における『誠意』
ウルキオラが現世の図書室で得た知識。
本人なりに人間との交渉方法を学習した結果、織姫からの質問にはきちんと返答するようになった。
ただし、人間社会における一般的な距離感まで理解したわけではない。
■ 虚夜宮
ラス・ノーチェス
藍染惣右介らが拠点としている虚圏の巨大建造物。
十刃をはじめとする多数の破面が集められている。
■ 雷太の卍解に関する噂
アーロニーロ撃破後、虚夜宮では新たに現れたガルムルドの能力について様々な情報が広がり始めている。
現在語られている「触れたあらゆる事象や物質をほどく」「アーロニーロを三秒で霧散させた」といった内容は、雷太本人から正式に説明された能力ではない。
実際の能力とどこまで一致しているのかは、十刃たち自身もまだ把握していない。
■ 斯く漂泊らうならば、須らく揺籃にほどかれらんかし
かくさすらうならば、すべからくようらんにほどかれらんかし
緋山雷太の斬魄刀『漂泊』が到達した卍解。
霧状に展開した力によって霊子的構造をほどき、ほどかれた霊子を把握・再構成して利用する。
虚夜宮側にはまだ、その正確な性質は伝わっていない。
■ バラガンの『老い』
バラガンが持つ力の根幹。
対象へ老いを与え、時間の経過による劣化や崩壊を急速に進行させる。
雷太の卍解とは原理が異なるものの、対象が崩壊していく外見上の結果が似ているため、バラガン本人も新たなガルムルドへ興味を示している。