我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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緋山染華
十一番隊十席。緋山雷太の母。痛いこと、危険なこと、面倒な仕事を何より嫌う。護廷十三隊から現世への伝令役を命じられた。

白鷹光四郎
六番隊四席。現在は現世に滞在している。染華とは百年以上の付き合いを持つ。

戸川古男
八番隊五席。現在は現世の空座第一高校で教師を務める。山本元柳斎重國とは護廷十三隊創設以前からの旧友。

山本元柳斎重國
護廷十三隊総隊長。古男とは千年以上にわたる付き合いがあり、互いの性格もよく知っている。


駅前の女帝と千年の長電話

駅前で足を止め、店の窓に映る姿を確かめる。

 

髪を耳へかけ、襟元を整える。私服は、義骸によく似合っている。横を向いても、正面を向いても、直すところが見つからない。

 

あら、いいじゃない。現世の服も悪くないわね。

 

背筋を伸ばし、歩き出す。人通りが多い。すれ違う顔を眺めると、こちらを見ている人もいる。目が合えば、軽く微笑んでおく。

 

はいッ、皆さんこんにちは!! 緋山染華です!! 私は今、理不尽極まりない人事により、尸魂界から現世へと伝令役として危険な最前線へ派遣された、か弱いか弱い、哀れな死神です!! 私はこんなに弱くて痛いのが大っ嫌いなのに、なんで山本総隊長は私を行かせるのかしら……。一角やら弓親君やらで良いじゃない? あいつら最近出番ないんだし。

 

「あんだとォッッ!!??」

 

頭の中に一角の怒鳴り声が響く。眉間に皺を寄せた顔も浮かぶ。

 

聞こえないわ。ここは現世ですもの。言いたいことがあるなら、こっちへ来てちょうだい。そのままお仕事も代わってね。

 

鞄の口に預かった手紙は入っている。なくしたら怒られるので、穿界門を出てから何度も確かめている。

 

渡したら帰っていい。危険なことはしなくていい。

 

そう聞いたから、引き受けたのよ。刀を持って走れなんて言われたら、絶対に嫌。雷太なら喜ぶでしょうけど、あの子とは趣味が違うの。

 

 

 

◇◇

 

 

 

……というわけで、現世に到着して早一時間。私が今、何をしているかって言うと……

 

「お姉さん……どこから来たの?? 良かったら一緒にお茶でも行かない?」

 

あら、またお茶なのね。さっきも誘われたわ。現世の男性は、そんなに喉が渇いているのかしら。

 

口を開きかけると、反対側から名刺を差し出される。

 

「お姉さん…すごく綺麗だね! モデルとか興味ない? うちの店で働かない??」

 

今のお仕事より楽かしら。危ない場所へ行かずに済むなら、話を聞く価値はありそうね。お給料はどうなの。休みは多いの。痛い思いはしないの。

 

「お姉さん!!」

 

「お姉さん、ちょっとだけでいいからさ!!」

 

そう!! ナンパが止まらなくて困っちゃってるのである! ハッハッハッハ! 流石は私!! 美人すぎて困っちゃうわね!!

 

嫌な顔はしない。せっかく褒めてくれているんだもの。知らない男とお茶を飲むほど暇ではないけれど、礼儀は大事でしょう。

 

光四郎君なら、断った後もしつこく誘ったりしないわね。お茶も、こちらの好みを覚えていてくれるし。

 

そういえば、現世にいるんだったわ。

 

今のお仕事が終わったら、顔を見せに行こうかしら。雷太の様子も聞かせてあげないと。

まずは、この人たちをお断りしなきゃ。

 

「いや~、ごめんなさいね。これでも私、もう立派に働いてる息子がいるのよ」

 

息子と聞けば、遠慮してくれるはずよ。

 

驚かれるのは分かっている。そんな歳に見えないとか、お姉さんの間違いじゃないかとか、よく言われるもの。まあ、仕方ないわね。これほど若々しければ。

 

「えーーー!!! 見た目二十歳くらいと思ったらババアかよ!!」

 

……あ?

 

笑ったまま、右手を伸ばす。頭頂部へ指をかけ、そのまま持ち上げる。

 

「ぎゃっ……!?」

 

靴底が歩道を離れる。目の前で両足が動くので、少し腕を伸ばした。服を蹴られたら困る。

 

せっかく選んだ私服なの。汚さないでちょうだい。

 

「あ? ……なんつった?? この砂利が」

 

遠慮はいらないわ。聞き返しているでしょう。ほら、もう一度。

 

「ひ……い、いえ…………お、お姉さん………すごく…………若々しく…………!!」

 

手の中で顔の向きが変わる。視線を逃がそうとしているらしい。

 

こっちよ。

 

「私のどこがババアだ? あ?? 言ってみろよ」

 

「い……いえ……………………、た……たすけ……」

 

質問は難しくないわよね。

 

その目で私を見ていたでしょう。お茶に誘ったでしょう。ついさっき、自分の口でお姉さんと言ったでしょう。

 

答えるのに、そんなに時間が必要かしら。

 

「テメエ、自分の血を見ねえと収まらねえか?? あ???」

 

「ヒィィィィィッッッッ!!!!」

 

足元で、いくつもの膝が歩道につく。名刺を差し出した人も、後ろから呼んでいた人も、額を下げている。

 

あら、素直に言うことを聞くのね。

 

最初からそういう態度なら、こちらも穏やかにお話しできたのに。私だって、こんなことは好きじゃないのよ。腕も疲れるし。

 

頭を放す。靴の踵から歩道へ落ち、続いて尻がつく。顔を押さえたまま動かなくなったので、つま先で膝の横を軽く叩く。

 

立てるでしょう。さっき、随分と元気に蹴っていたもの。

 

 

 

 

◇

 

 

さて、笑顔に戻りましょう。

 

ごほん!! 失礼致しました。……なんと素晴らしい光景でしょう。私に声をかけた心優しい殿方たちが、このように自発的に私へ傅き、街の美化活動から奉仕してくださっているのです!

 

足元の吸い殻を見下ろす。

 

しゃがんだ手で一つ拾われ、袋へ入れられる。隣では空き缶も回収されている。植え込みの根元にあった紙屑も、もう見当たらない。

 

なかなか働き者じゃない。先ほどより、ずっと素敵よ。

 

私は痛いのが嫌いだし、面倒なお仕事も嫌いなの。人に嫌なことをさせられる気持ちは、よく分かるわ。だから、街を綺麗にしてくれる皆さんには、感謝しなきゃね。

 

手を止めた人と目が合う。にっこり笑ってみせると、すぐに次の吸い殻へ指が伸びる。

 

遠慮せず、続けてちょうだい。

 

「あ………姐さん………。こちらで……よろしいでしょうか……??」

 

両手で差し出された袋を覗く。

 

うん、十分ね。短い時間で、よくこれほど集めたものだわ。せっかくの昼下がりに、ご苦労さま。

 

「苦しゅうないぞよー!!! オーホッホッホ!!」

 

手の甲を口元に添える。こういう時には、少しくらい偉そうにしてもいいでしょう。皆さんも、褒められた方が嬉しいはずよ。

 

…反応が薄いわね。拍手くらいあってもよさそうなのに。

 

「その笑い方………やっぱりおば……」

 

聞こえた。

 

袋から目を上げる。声のした方へ顔を向けると、口が閉じた。

 

「あ?」

 

「いえ何もございませんッッ!!!!」

 

あら、残念。

 

何か言いかけたのなら、続きを聞いてあげようと思ったのに。私は人の話を途中で遮るような女ではないもの。

 

膝についた砂を払う手が止まり、背筋がぴんと伸びている。

 

よろしい。その姿勢でお話ししましょう。そのまま下を向かれると、道を訊くにも顔を覗き込まなきゃいけないわ。

 

「よろしい。じゃあ、貴方達に一つ頼みたいことがあるの」

 

「な、何でしょうッッ!!??」

 

そんなに身構えなくてもいいのよ。

 

戦ってこいとか、刀を抜けとか、嫌なお仕事を押しつける気はないわ。

誰かさんとは違うの。ちょっと教えてくれれば済む話なのよ。

 

「『クロサキ医院』って、どこにあるの??」

 

聞こえたでしょう。クロサキ医院よ。大きな病院ではないらしいけれど、この町にあるはずなの。

 

「え?? クロサキ医院……? 知りません……。おい、お前知ってるか?」

 

「いや………空座総合病院なら分かるけど……町医者か……?」

 

知らないの。肝心な時に役立たないわね。

道を訊けそうな人を探して、またナンパされたら面倒ね。

 

この人たちで済ませたいわ。もう仲良くなったんだし。

 

「小さな町医者でね。オレンジ色の髪の息子と、金髪の娘と、黒髪の娘がいるらしいわ」

 

これなら分かるでしょう。

 

一護君の頭は目立つもの。遠くから見ても、すぐに分かる。妹たちと三人で歩いていれば、もっと覚えやすいはずよ。

 

何を相談しているのかしら。

 

さっきの質問なら、ちゃんと聞こえていたはずでしょう。

 

「…………どういう遺伝ですか…………」

 

知らないわよ。

 

お父様に訊いてちょうだい。医院が見つかったら、私も付き合ってあげるから。

 

小さな町医者だものね。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

屋上のフェンスへ背を預け、耳へ携帯電話を当てる。

受話口からは、聞き慣れた声が続いていた。

 

また書類の話かと思ったら、人員を送ったらしい。

 

「伝令役?? いらんいらん。お前とこうして直接話すので済まないのか??」

 

「お主とはそれでよいかもしれんが、隊士たちへの示しがつかんからのう」

 

この話を、隊士の前でそのまま読み上げるか。

 

少し面白いことを言ってやろう。山本元柳斎重國のありがたいお言葉として、末端の隊士にも伝えてもらおうか。

 

「正論だな。まあ、つまらんが」

 

「正論を吐くとも。総隊長として、吐かねばならん立場じゃからの」

 

昔から、役目を背負うとこうなる。

 

「これだからジジイは……堅苦しくていかん」

 

「……儂と同い年のくせに、何を言いよるか」

 

そこは聞き流せ。毎度拾うから、同じ話になる。

 

「俺は見た目はまだまだ二十代だ。……このやりとりは前にもしたな。認知症か? 元柳斎」

 

「抜かせ、たわけが。……で、どう見る? 今回の藍染の狙いを」

 

「それを調べるのが、瀞霊廷のトップであるお前の仕事だろうが」

 

「……はて。お主なら、すでに全て分かっておるのではないかの??」

 

ほう。

 

そう来るか、元柳斎。

 

何を聞いた。誰から聞いた。

 

それとも、何も聞いていないのか。

 

「………どうしてそう思う??」

 

余計なことは言わん。

今度はそちらが答えろ。何を根拠にそう言った。

 

「……………どうしてじゃろうな?」

 

通話は切れていた。携帯電話を離すと、画面には通話時間が表示されている。

 

勝手に終わりやがった。

 

「……クックック。相変わらず、勘の鋭いジジイだ」




■ 現世への伝令役

破面の出現を受け、護廷十三隊本部の意向を現世組へ伝達するため派遣された役目。

現地にはすでに多数の隊長格戦力が存在するため、大規模な先遣隊ではなく伝令一名のみを送る方針となった。

今回選ばれたのが緋山染華である。

■ 緋山染華と現世

染華は義骸を使用しているため、現世の一般人からも通常の人間として認識される。

本人は自らを「か弱い死神」と認識しているが、これは主として本人が戦闘や負傷を極端に嫌うことに由来する自己評価である。

■ 古男と元柳斎

戸川古男と山本元柳斎重國は、護廷十三隊創設以前から付き合いのある旧友。

互いに千年以上生きているが、古男は自身の外見が若いことを理由として、山本のみを老人扱いすることが多い。

■ 山本の疑念

山本は今回、藍染の目的について古男がすでに何らかの事情を把握している可能性を示唆した。

ただし、それが具体的な情報に基づくものなのか、長年古男を見てきた山本自身の勘によるものなのかは明らかになっていない。
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