我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
第四十刃。藍染惣右介に仕える破面。井上織姫との再戦を目的に現世を訪れたが、最近では彼女とゲームで勝負することが多い。本人は至って真剣。
井上織姫
空座第一高校一年生。盾舜六花を操る少女。ウルキオラを「ウルキちゃん」と呼び、敵味方の区別をあまり気にせず接している。独創的な美的感覚の持ち主。
黒崎一護
死神代行兼十番隊隊長代行。尸魂界での戦いを終え、現世での生活を再開した。最近は周囲の人間関係がますます複雑になっている。
朽木ルキア
護廷十三隊十三番隊所属。朽木家の養女であり、白哉の妹。一護に対して強い好意を抱いている。
朽木白哉
六番隊隊長。朽木家の当主にしてルキアの義兄。普段は寡黙で冷静だが、妹の将来については強い関心を持つ。
阿散井恋次
六番隊副隊長。ルキアとは流魂街時代からの幼馴染。彼女に対する想いは長年変わっていない。
有沢たつき
一護の幼馴染。暗黒魔闘術を修得した武闘派の少女。一護を巡る正妻争いにも参加している。
コン
改造魂魄。普段はぬいぐるみを依り代として活動する。ルキアへの執着は相変わらず。
ウルキオラは立ち止まり、赤い裾をつまんだ。
妙に風通しのよい服だった。一歩踏み出すたびに脚が出る。そのくせ、首に巻かれた毛皮は暑い。腕にも首にも飾りをつけられ、少し動くだけで金属の音を立ててしまう。
虚夜宮を出た時には、こんなことになる予定ではなかった。
「織姫」
「なにー? ウルキちゃん」
「……これは何だ??」
「え? 聞いてなかったの??」
織姫は先へ歩きかけた足を戻し、下から顔をのぞき込んだ。見上げる目には一点の曇りもない。ウルキオラは、自分の疑問のほうを疑いたくなった。
「聞いていた。今日の勝負は『外装(衣服の着こなし)』だと貴様が言ったはずだ」
「うん! すっごく可愛いよ!」
「俺は…………男だ」
「男の人だって女の人の服を着ても良いんだよ! 似合っていれば全部オッケーなんだから! ウルキちゃん、すっごく似合うもん!」
「……………そうなのか?」
「そうだよ!!」
勢いに押されて、また店の窓を見る。
深紅のチャイナドレスは、よく似合っていた。青白い肌にも、黒い髪にも映える。ウルキオラは襟元を引いた。少しゆるめれば、落ち着くかもしれない。
少し首を傾けただけで、窓の向こうの店員に笑いかけられた。ウルキオラは無言で顔を戻す。褒め言葉を向けられるより、刀を向けられるほうが返事に困らない。
「……ねえ、あの子……男の子よね??」
「うん……でもめちゃくちゃ似合ってない……? ていうか私よりスタイル良くない……?」
「いわゆる『男の娘』ってやつ……? なんか女として自信なくすわ〜……」
すれ違う女性たちの声を聞き、織姫は嬉しそうに隣を見上げた。自分で選んだ服を褒められたのだから、鼻も高い。
一方、ウルキオラには喜ぶべきところが分からなかった。こちらを見て自信をなくされても困る。しかも、目が合うと連れの腕をつかんで小さく騒ぐ。何を間違えたのかと、自分の服を見直した。
「織姫。どうやら、周囲の人間どもの認識は貴様の主張とは少々異なるようだが……」
「えー! こんなに可愛いのに!」
「……で、この勝負はどうやって決着をつけるのだ? 俺にこれを着せた以上、お前自身はどのような外装で挑むつもりだ?」
「ちょっと待っててー!」
織姫は店へ引き返し、試着室へ飛び込んだ。
その背中を見送り、ウルキオラは腕を組む。さっきから褒められてばかりだが、勝ったとは言われていない。今度こそ決着をつけてやるつもりで、カーテンを睨んだ。
店員に椅子を勧められ、腰を下ろした。裾を踏んで立ち上がれなくなる姿など見せたくない。慎重に布をよけたところで、鏡に映る自分と目が合った。
この姿をグリムジョーに見られたら、少々面倒なことになる。
その時は始末すればいい。
「じゃ〜ん!!」
「…………………………」
振り袖の上に黒い革ジャンを羽織り、足元にはピンヒールを合わせている。
着物の柄は華やかで、革ジャンにも艶がある。靴も細く綺麗に見える。なぜ一度に着てしまったのか。どこか一つ脱げばよくなる気もするが、何を残せばいいのか分からない。
織姫は満足げに腰へ手を当てた。ウルキオラは一度目を閉じ、もう一度見た。見間違いではなかった。
「………………これは、人間の文化圏においてもあまり見ない組み合わせだな」
「じゃあ行こー!」
「お、お客様……そのまま外へ出られるのは……」
店員の呼びかけも、弾んだ足取りには追いつかない。織姫は振り袖を揺らして外へ出た。
ウルキオラは店員と顔を見合わせた。何か言いかけると、気の毒そうに微笑まれた。尋ねるのをやめ、そのまま織姫を追った。
通りへ出ると、織姫はもう先で手招きしていた。ピンヒールには慣れていないらしく、歩幅が小さい。追いつくのは簡単だったが、並んだ途端にまた注目を浴びる。
今度は二人まとめて見られている。ウルキオラは眉を寄せ、織姫は楽しそうに笑った。今日の勝負に限っては、気後れしたほうから負けていくらしい。
◇◇
一護は、まだ何にも乗っていないのに疲れていた。
ルキアは隣でチュロスを食べている。入口で買った時から機嫌がよく、園内の案内図を見つけるたび、あれこれ指さしていた。普段より歩くのも少し速い。
人混みですれ違うと、一護のそばへ寄ってくる。そのたびに触れる腕を、妙に意識してしまう。何か話しかけようとして、後ろを振り返った。やはり駄目だった。
「なあ、ルキア」
「なんだ? 一護??」
「……俺たち、何してんだ??」
「何を言っておるのだ?? これは俗に言う『デート』というものであろう。楽しくないのか??」
「……………遊園地は昔から苦手なんだよ。それによ……」
十メートルほど後ろで、恋次は植え込みに身を潜めていた。
隠れる場所の選び方は悪くない。背を低くして、通路から顔も見えないようにしている。だが、赤い髪をあれほど葉の上へ突き出されると、知らないふりにも限度があった。
一護はわざと足を止めた。赤い頭も止まる。歩き出すと、また動く。ルキアのほうへ少し体を寄せた途端、植え込みの奥で枝を折る音を聞いた。
売店には、たつきもいた。柱の陰に収まっているつもりらしいが、黒い闘気を漏らしていては無駄だった。試合の前にも感じたことのない圧に、一護は首の後ろをさすった。
そして、足元にはウサギがいる。
丸い頭と長い耳で愛想を振りまきながら、ルキアの周りを何度も回っていた。コン以外には務まらない執着だった。小さな子供に袖を引かれた時も、目を離したくないらしく、体を半分ねじったまま手を振っている。
一護はウサギの耳をつかみ、進路からどけた。すぐに反対側へ回り込まれる。殴れば子供の夢を壊してしまう。今日は随分と弱点を心得ていた。
「………あいつらの露骨すぎる尾行は百歩譲って無視するとしてもだ……」
隣へ顔を戻すと、白哉と目が合った。
こちらは堂々としている。尾行に比べれば潔いが、ありがたくはなかった。
ルキアの隣を歩けばいいのに、一護から離れない。なぜこの並びになったのか、入口からずっと分からない。
「なんで白哉……の兄貴がここにいるんだよ??」
「?? 兄様も『たまには現世の見聞を広めたい』と仰っていたからだが?」
「普通のデートに、嫁の兄貴が同伴してくる家庭がどこの世界にあるんだよ!?」
「気にするな、一護殿。たまの非番だ。貴殿には今日という日を存分に楽しんでもらい、ルキアと早く既成事実を作ってもらわねば困る」
「に、兄様ったら……ッ!」
「堂々と言うなよ……!」
ルキアは赤くなって兄の袖を引いた。一護には、その反応も不満だった。
抗議してほしい。せめて、ここで言う話ではないという点では味方になってほしかった。
白哉は気にも留めず、園内を見渡している。
見物を楽しんでいるらしいのが、かえって不気味だ。
一護はポケットへ手を突っ込んだ。ルキアはしばらく俯いていたが、やがてチュロスをかじり直した。
立ち直るのが早い。
二人で来たつもりだった。誰か一人くらい、そういうことにしておいてほしかった。
◇◇
ウルキオラはプールの縁で足を止めた。
水の匂いと、はしゃぐ声に包まれる。どちらを向いても人間がいる。潜ったり浮かんだり、濡れるためにわざわざ水へ入ったりしている。虚夜宮にはない光景だった。
チャイナドレスを脱いで少し落ち着いたところへ、今度は水着を渡された。織姫には迷いがない。
「………織姫」
「なーにー??」
「ここはどこだ?」
「プールだよ??」
浮き輪を抱えた織姫は、もう水の中にいた。呼ばれたので戻ろうとしたらしいが、うまく近づけず、横へ流れていく。本人はそれも面白いらしく、足で水を蹴って笑っていた。
「水が張られている空間であることは視覚で理解している。俺が問うているのは、なぜここに来たのかという理由だ」
「えっとね! 外のプールは十月だからもう寒いじゃない? だから温水プールにしたんだよ!!」
「なるほど……気温の低下に対する合理的な判断だな。理解した」
納得してから、ウルキオラは眉を寄せた。何か大事なことを聞きそびれた気がする。
薄いゴムに身を任せるのは、ずいぶん不用心に見えた。
こちらを見る目も違う。待ち構える様子はなく、早く来てほしいと顔に出ていた。
少し前なら、考えるより先に刀へ手をかけていただろう。
ウルキオラは水へ入った。
冷たくはない。底も浅い。何をそれほど喜ぶのか確かめる前に、顔へ水をかけられた。
織姫は口元を押さえて笑っている。睨むと、浮き輪を抱え直して逃げ始めた。その速さなら歩いて追いつける。背後へ回り、縁をつかむと、今度は驚いた顔で振り返った。
笑いをこらえた顔だった。
ウルキオラは浮き輪を少し押した。織姫は水の上を滑り、振り返って大きく手を振った。もう一度、と言われているらしい。
その程度のことなら、別に構わなかった。
プールサイドでは、女性二人が声を潜めていた。
「……ねえ、あのカップル、レベル高すぎない……!?」
「わかる……! 女の子もスタイル抜群で可愛いし、彼氏の方も細マッチョで肌白くて超カッコイイ……!」
織姫は浮き輪に座り直し、両足を水から出した。途端に後ろへ傾き、慌てて身を起こす。
腹を抱えて笑う人間を、これほど近くで眺めた覚えはない。何がおかしいのか聞こうとして、やめた。
水面には、二人の顔が映っていた。織姫の足にかき乱され、すぐに見えなくなる。
「二人ともすっごく楽しそうだし……何より、彼氏のあの優しい笑顔が素敵よねー!」
ウルキオラは自分の口元に気づいていなかった。
織姫を見ていると、先ほどの失敗をもう一度見たくなる。
傾けられた織姫は両手で踏ん張り、抗議するようにこちらを見る。
その顔を見て、また少し口元を緩めた。
次の瞬間には、両手いっぱいの水を浴びせられた。避けるのは簡単のはずなのに、なぜか顔を拭っていた。織姫は得意げに逃げ出す。
追いついた時には、もう刀のことなど考えていなかった。
◇◇
一護は、ルキアにどの遊具へ乗りたいのか聞こうとしていた。白哉の気を別の方向へ向ければ、少しは二人で話せるかもしれない。
そんなささやかな期待も、袖を引かれて途切れた。
「一護殿。あれは何だ??」
「………コーヒーカップだけど」
「ふむ。あれに乗ろう」
指さされた先には、色とりどりのコーヒーカップがあった。子供を膝に乗せた父親も、笑い合う女の子たちも、音楽に合わせて回っている。
白哉の顔を見直した。乗り場を眺める目は真剣だった。一護をからかっている様子はない。少しは冗談を言ってほしかった。
「………マジかよ……」
「あ、兄様……私は、あまり視界がぐるぐる回る遊具は得意ではないのですが……」
「ならばルキア、お前はここで待っていろ。――一護殿、行こう」
「待て待て待て!! なんでルキアを置いて男二人で行く流れになってんだよォッッ!!」
腕を引かれ、一護は乗り場へよろめいた。振り返ると、ルキアはほっとした顔をしている。助けを求める相手を間違えた。
よりによって、カップはピンク色だった。
向かいには白哉が座っている。背筋を伸ばし、膝を揃え、いつもの澄ました顔でハンドルに手を置く。妙に収まりがいい。
柵の向こうでは、ルキアも手を振っている。
本人は楽しそうだった。兄と一護を見比べ、何やら満足そうにうなずいている。
もう好きにしてくれという気分になり、一護は座席へ背中を預けた。
その油断は、すぐに後悔することになる。
「行くぞ、一護殿」
「ちょ……回すな回すな! 本気で回すなァァッッ!!」
視界からルキアが消えた。
すぐに戻ってきた。また消えた。
一護はカップの縁にしがみついた。止めろと叫ぶたび、風が口へ飛び込んでくる。
向かいの白哉は、長い黒髪をなびかせながら涼しい顔をしていた。
一護は早くも、家のソファが恋しくなった。あれなら、少なくとも床ごと回ることはない。
柵の外から何か言われている。ルキアの声らしい。
◇
二人の女性は、通路で足を止めていた。
「……ねえ、あのカップル?……」
「男同士でコーヒーカップ乗ってるわね……。あんなに猛烈に回して……」
「でも、二人とも顔のレベル高くない……? 黒髪のクール系と、オレンジ髪のワイルド系……」
「うん……尊いかも……」
■ 義骸(ぎがい)
死神などの霊的存在が現世で活動する際に使用する、人間の肉体に相当する器。
通常の人間にも認識されるようになり、現世での日常生活を送る際にも利用される。
■ 改造魂魄(かいぞうこんぱく)
特殊な能力を付与された人工の魂魄。
コンもその一体であり、通常の魂魄とは異なる身体能力を持つ。
依り代として使用する身体によって、外見や行動できる範囲も変わる。
■ 朽木白哉と黒崎一護
かつては敵対関係にあった二人。
尸魂界での一連の事件を経て、白哉は一護を高く評価するようになっている。
特にルキアとの関係については、一護を将来の家族として受け入れる姿勢を見せている。
■ 破面と人間の文化
破面は虚としての力や知識を持つ一方、人間社会の生活習慣や娯楽に必ずしも精通しているわけではない。
ウルキオラも人間社会の知識を自ら学習しているが、得た情報をどのように解釈するかについては、依然として独特の判断基準を持っている。