我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座第一高校一年生。盾舜六花を操り、事象そのものを拒絶する能力を持つ少女。黒崎一護への不満から、現在はウルキオラとともに虚圏の虚夜宮を訪れている。
ウルキオラ・シファー
第四十刃。藍染惣右介に仕える破面。織姫との再戦を約束して以来、現世の文化や娯楽に親しむようになった。現在は虚夜宮で織姫の案内役を務めている。
ノイトラ・ジルガ
第五十刃。好戦的な性格で、強者との戦闘を好む破面。十刃の中でも特に硬い鋼皮を誇る。
バラガン
第二十刃。かつて虚圏の王として君臨していた破面。老いを操る特殊な能力を持つ。
コヨーテ・スターク
第一十刃。常に気怠げな態度を見せる破面。十刃の中でも突出した霊圧を持つ。
黒崎一護
死神代行兼十番隊隊長代行。現世での生活と護廷十三隊の仕事を両立している。織姫が虚圏へ向かったことを知り、仲間たちと行動を開始する。
緋山染華
十一番隊十席。緋山雷太の母。危険な仕事や痛いことを極端に嫌う。現在は伝令任務を終え、現世に滞在している。
白鷹光四郎
六番隊四席。現在は現世に滞在しており、黒崎一護たちを支援している。染華へ百年以上にわたり想いを寄せている。
茶渡泰虎
一護の親友。寡黙で落ち着いた性格の持ち主。織姫の家出について、誰よりも早くその動機を推察していた。
窓から吹き込んだ風に、私は手すりへ駆け寄った。
柱の向こうにも窓が並び、その先にまた建物が続いている。
どれがお部屋で、どれが廊下なんだろう。首を伸ばして下をのぞいたら、背中を引っ張られた。
振り向くと、ウルキちゃんが服をつまんでいた。はいはい、落ちませんよ。
ちゃんと足を床へつけ直してから、今度は手すりの隙間へ顔を寄せた。
「ここが虚圏なんだね〜。なんにもない砂漠みたいなところかな〜と思ったんだけど、結構いろいろあるじゃん!」
「織姫、ここらあたりが虚夜宮の外縁になる」
「そうなんだね〜。外は本当に砂ばかりみたいね」
見渡しても、木が一本も見えない。風が吹くたびに砂が流れて、遠くの丘の形が少しずつ変わっていた。足跡をつけて遊んだら、帰り道がなくなっちゃいそう。
ここで迷子になるのは嫌だなあ。
「ああ。藍染様はこの見事な宮殿をお作りになったのだ」
「そうなの!? こんなに大きいのを作るのに、何年くらいかかるのかな??」
「藍染様は五十七年ほどかけられたと言っていた。元々はバラガンの城だったものを改装して――」
五十七年って、私が生まれるよりずっと前だよね。
最初に直した所がまた古くなっちゃわないのかな。
ウルキちゃんの話を聞きながら歩いていると、前の柱から長い足が出てきた。
目を上げたら、丸い襟の上に見覚えのある顔があった。
「あ、あそこにいるのはのっぽさんだ! おーいのっぽー!!」
「……………あれはノイトラ・ジルガ、第五十刃だ」
「へー! カブトムシみたいだね〜」
大きいなあ。私の頭より上に肩がある。
「あぁ?? いきなり何言いやがるんだアマ!!」
あれ、怒ってる? カブトムシは格好いいと思うんだけどなあ。
そういえば、さっきのお部屋でも不機嫌そうだったね。
もしかして、まだご飯を食べていないのかな。
「お腹が空いてるのかな? 何か欲しいものある? 私が作ってあげるよ!」
「織姫、やめておけ。お前の作る料理は控えめに言っても独創性がありすぎる。ノイトラのような単純な男には理解できないだろう」
「え? そうなの? ごめんね、のっぽさん。私の料理を食べても味が理解できないおバカさんだったんだね。本当にごめんなさい」
知らないで勧めちゃった。
頭を下げたところで、がん、と足の裏に響く音がした。
顔を上げると、鎌の先が床へ刺さっている。
「…………テメエらは二人揃って、オレを怒らせに来たのかよ? あぁ!?」
狭いお部屋へ入るのは大変そう。今も、私たちに近づくたびに刃の先が動いている。
「ノイトラ、今は織姫に虚夜宮を案内するきわめて重要な仕事の最中だ。貴様は何の用だ?」
「……………テメエらが話しかけてきたんだろうがよォッッ!!」
よくお話しするんだねえ、二人とも。
私も間に入れてもらおうと思って、二人の間から顔を出した。
「井上織姫です!!」
「…………ここに来た時に名乗っただろうが、女」
「井上織姫です!」
「聞こえてるよ」
「井上織姫です!!!」
「だから何なんだよ女ァッッ!!!」
「井上織姫です!!!!!!!!」
女じゃなくて、織姫。
私のことも呼んでほしいなあ。にっこり笑って待っていると、ノイトラさんのお口が少し開いた。何か言いかけて、また閉じてしまう。
覚えてくれるのを待ってるんだよ? 最初は井、だからね。
「………………井上織姫だろ…………わかったよ!!」
「覚えてくれたんですね!! ノイトラさん!!」
嬉しくなって両手を合わせた。これで次に会った時は、お互いにお名前を呼べるね。
「………ホントに殺してやろうか、テメエ……」
……えー。せっかく仲良くなれそうだったのに。
さっき第五十刃って言ったよね。ウルキちゃんの番号と、ちょっと近いよね。
「ねえ、ウルキちゃん??」
「なんだ? 織姫」
「ノイトラさんって、十刃なんだよね?」
「ああ」
「じゃあ、ノイトラさんって強いんだね!!」
「まあ………な。ふん!」
今度は怒らないんだ。強いって言われるのは好きなんだね。あの大きな鎌で戦ったら、遠くにいる相手にも届きそうだもんね。
「でも…………十刃の番号ってどうやって決まるの?」
「強さの順だ」
「じゃあ、ウルキちゃんより弱いんだね??」
「ああ」
「おいッッッッ!!!!」
すぐ目の前で怒鳴られて、耳の奥がきんとした。思わず耳を押さえると、ノイトラさんはもっと怖い顔になった。私に怒ったところで、番号は変わらないんじゃないのかなあ。
「やだなあ……、ウルキちゃんより弱いなら、私には逆立ちしたって勝てないよ? めっ、だよ。ノイトラさん」
「この………、……クソアマがァァッッ!!!!」
鎌が肩から消えた。顔の横で風が鳴って、髪が頬へ張りつく。首へ届く前に右手を差し入れると、刃が三天結盾を擦って甲高く鳴った。
「なッ!? ……素手で受け止めただとォッッ!!??」
素手だったら痛いよ。握った柄を引かれたので、指に力を入れ直した。
空いている左手へ椿鬼ちゃんを呼ぶと、細い光が手の中へ収まった。
「『孤天斬盾』?」
硬い。力を抜いたら滑りそうになって、親指をかけ直す。もう少し押し込むと、ようやく刃が通った。
白い袖が落ちて、床で重い音がした。
「ぐがあああああッッ!!!! テメエ!!! 女の分際でッッッッ!!!!!」
……また女って言った。さっき、お名前を覚えてくれたのに。
まだ指先がじんじんしている。ウルキちゃんと戦った時より、硬かったなあ。
あれが鋼皮なんだっけ。鎌を受け止めるより、腕を切るほうが大変だった。
逃げようとしない。まだ戦うつもりなんだね。それなら、一度ちゃんと終わらせたほうがいいのかな。首を切って、治して、それから落ち着いてお話ししてもらおうかな。
「ぐっ!!!!! な、なんだ……この霊圧は……ッッ!!!!」
肩へ手が乗った。ウルキちゃんが隣に立っている。視線を上げると、いつもの目と合った。
「織姫、抑えろ。今は案内の途中だ」
「え? あ………そうね〜。――『双天帰盾』」
そうだった。まだお部屋への帰り道も教わっていないんだよね。
元に戻った指が動くのを確かめてから、盾を解いた。
「………はい! 治ったよ〜」
「はッ?? ……あ??」
うん、大丈夫そう。床の血も気になるけれど、ウルキちゃんが歩き出したので、小走りでその横へ戻った。
「じゃあね〜! 今度から、もう少し強くなってから遊ぼうね?? 見た感じ、あっちにいたあのおじいちゃんくらい強くならないと、私の相手にもならないよ〜??」
おじいちゃんは、バラガンさんだったよね。あの人のそばは、少し嫌な感じがした。戦ったら、盾を出す前に一回くらいやられちゃいそう。直したところを狙われるかもしれないから、三回くらいかなあ。
お昼寝していたおじさんは、もっと強そうだった。五回くらいは覚悟したほうがいいのかな。あのお姉さんなら、やられずに勝ちたいけれど……。
「…………俺には勝てるか? 織姫」
気になるんだね。私は左手を背中へ回して、少し顔を傾けた。
「私が、負けるつもりで戦うように見えるの??」
「………………そうだな」
口元が緩んだ。あ、と思った時には戻っていたけれど、今のは見逃さなかったよ。
指摘したら笑っていないって言いそうだから、今日は黙っておこう。
歩き出そうとしたところで、ウルキちゃんの腕が私の腕に触れた。何か引っかかったのかと思って見下ろすと、肘が絡んでいる。
「あれ? ……腕組んで……?? どうしたの?」
「自分より強い相手となれば、あらかじめ腕を拘束して警戒する必要があると言ったのは、お前自身だ」
あの時のこと、覚えてたんだ。とっさに言っただけだったのに。
試しに肘を動かしてみると、簡単に離れられる。……それを教えてあげるのは、やめておこうかな。私は腕を抜く代わりに、少しだけ隣へ寄った。
「……………そっか………。ウルキちゃん……………本当に優しいね」
さっきは広すぎると思ったけれど、次のお部屋は、少し遠くてもいいかな。
◇◇
「助けに行くのよッ!! 織姫ちゃんが敵に連れ去られたのよ!? 早く助けに行かないと大変なことになるわ!!」
黒崎君が湯呑みを口から離した。ようやく立つのかと思ったら、お茶を置いて、ソファへ座り直してしまった。
ちょっと。今、私の話を聞いていたでしょう? お茶が足りないって言ったんじゃないのよ。
「そうは言うけどよ、染華さん。井上の行き先に心当たりでもあるのかよ?」
「そりゃあ………ないけど………。でも、アンタたち心配じゃないの!? 仲間でしょ!?」
足を踏み替えたら、ソファがふかっと沈んだ。よろけて背もたれにつかまると、茶渡君が手を伸ばしてくれた。ああ、ありがとう。あなたは優しい子ね。
そこでもう一歩、玄関へ向かってくれれば、私、とっても嬉しいんだけれど!
黒崎君はテーブルのお茶を押さえていた。そっちを守るのね!? 美人が転びかけているのに!? いえ、茶渡君が助けてくれたからいいけれど。
「いやあ………心配と言うか……ある意味では、あっちの連中がぶっ壊されないか心配だけどよ。――ルキア。井上を力ずくで攫える奴なんて、この世にいると思うか?」
「うむ……おらんな。まず抵抗されて、我らがその霊圧の余波に気づかぬはずがない。と言うか、万が一井上を攫えたとして、あやつを閉じ込めておける奴の存在が想像できん」
閉じ込められた織姫ちゃんが、扉を叩く。返事がないので、もう一度叩く。扉がなくなる。ついでに壁もなくなる。『開いたよ〜!』って、にっこり笑って出てくる。
……ありそう。あの子、本当にそんなお顔で出てきそう。
いけない、つられちゃ駄目よ、私!
顔だけ見れば可愛い女の子なのよ!? いえ、顔以外も女の子なのだけれど!!
「なんか…………随分と薄情なのね」
「信頼していると言って欲しいね。……だいたい、染華さんは何でまだここに居座っているんだい?」
私は今、仲間を心配して立ち上がっているの。滞在期間について問い詰められる筋合いは……あ、そのお皿は下げないで。お菓子が一つ残っているわ。
「いいじゃない! このお屋敷、広くてお風呂も大きくて、ものすごーく快適なんですもの!」
お仕事は終わっているわ。お手紙も渡したわ。だったら、その後で少しくらい休んでいったっていいでしょう。
お風呂もお部屋も空いているし、ご飯だって余って……余っていなくても、私の分を用意してくれるって言ってくれたもの!
廊下から足音が近づいてきた。光四郎さんが、お盆を両手で持っている。
まあ、いい時に来てくれたわ。私が泊まっていても構わないって言ってくれるわよね。
「ええ…………染華さん…………! ぜひ……いえ……ずっと、一生ここに居ていただいても構いません……!! 俺は………貴女のためなら……!!!」
あら、一生だなんて。随分気前がいいのねえ。
ほら、聞いた? 私、歓迎されているのよ。そんなに不思議そうなお顔をする必要はないでしょう、石田君。
「光四郎さん、お茶のおかわりありがとう!」
お盆が動かなくなった。まだ何かあるのかと思って顔を上げると、光四郎さんは口を開けかけ、そのまま閉じた。あら、私が立っているせいで渡しにくかった? それは失礼したわね。
「白鷹……強く生きろ……」
朽木さんが、妙にしみじみと頷いていた。そんなにお疲れなのかしら。このお家、広いものね。
◇◇
「さて……と」
柱時計が鳴った。思わず障子の向こうを振り返ったが、誰も来ねえ。
居間ではまだ染華さんが騒いでいて、白鷹の声がその合間に聞こえていた。
音を立てないように手を離す。……悪い。今はその大声がありがたい。庭へ下りると、夜露を含んだ草が足袋へ触れた。
月明かりで、庭石も塀もよく見える。縁側の影に混ざっていた靴先も、隠れちゃいなかった。
「助けには行かないんじゃなかったっけ?」
たつきが壁から背を離した。もう準備は終わっているらしい。
俺の返事を待たずに歩いてくるので、こっちも足を止めて、その顔を見た。
「俺は別に行かねえなんて一言も言ってねえよ」
「そういうのを世間では『揚げ足取り』って言うんじゃないのかい?」
反対側から石田が出てきた。
こいつら、俺が部屋を出る前からここで待っていたんだな。
声をかけるなら、わざわざ一人ずつ出てくる必要はねえだろ。
「うるせーよ。グダグダ言うなら置いてくぞ?」
「……だから言っただろう。俺の言う通り、一護が構ってやらないから拗ねて家出したのだと」
背後からチャドの声がした。振り向くと、いつもの真面目な顔で見下ろしてくる。
お前も来るのは分かっていたが、最初に言うのがそれかよ。
「……まだ虚圏にいるとは限らねーだろ。それに、藍染さんにも直接聞きたいことがあるしな」
何だよ。行くつもりで集まってきたんだから、もうそれでいいじゃねえか。
「ふっ……素直ではないな、我が旦那様候補は」
縁側からルキアが飛び下りた。着地した拍子に鞘が鳴り、俺の前で足が止まる。
こっちを見上げる顔も、ほかの連中と同じだった。
全員がこっちを見ている。逃がしてくれそうにねえ。
「良いさ。……別に、自分の女を迎えに行くのに、そう気張る必要もねえだろ?」
「へぇ……? 妬けるねえ。……じゃあ、アタシのことはどう思ってんだよ?」
顎を上げて、俺を見ていた。
「テメエは、もう俺の女になったんだろ?」
「ッ……! ば、バカ……ッ!」
胸へ拳が当たった。いつものつもりで腹に力を入れていたから、軽さに少し拍子抜けする。拳が離れる前に、今度は反対側の袖を引かれた。
「ならば、私はどうなのだ?」
ルキアが、すぐそばから見上げていた。さっきより近い。
テメエら、出発する気はあるんだよな。
「さっき自分で『旦那様』って言ったじゃねえか」
「う、うむ……言ったな……」
ルキアは俯いてしまい、月明かりに耳が赤く見える。たつきも横を向いたままで、さっきからこっちを見ようとしなかった。
夜風が当たっても、大して涼しくねえ。先にこの話を始めたのはそっちだろうが。
黙られると、こっちが余計なことを言ったみたいじゃねえか。
「やれやれ…………」
「……これを見たら、ハーレム野郎と浅野あたりは血涙を流して狂い死ぬだろうよ」
吹き出しかけた。やめろ、チャド。その顔で言うな。
あとは、本人に会ってからだ。
「行くぞ!!」
「おうッッ!!!!」
■ 三天結盾
井上織姫の盾舜六花による防御術。
霊的な盾を形成し、対象へ向けられた攻撃を拒絶する。
織姫はこの能力を防御だけでなく、格闘戦において自身の身体を保護する目的でも利用している。
■ 孤天斬盾
盾舜六花の一人、椿鬼による攻撃術。
対象の物質的な結合を拒絶することで、斬撃のように対象を切り裂く。
相手の霊圧や防御能力によっては抵抗を受けるため、使用者の技量や霊力の運用も重要となる。
■ 双天帰盾
盾舜六花による回復術。
対象に生じた損傷や変化を拒絶し、以前の状態へ復元する能力。
本作では、肉体の切断や重大な欠損に対しても、高い復元能力を発揮している。
■ 鋼皮イエロ
破面の肉体を覆う、極めて硬質な皮膚。
霊圧によって強度が高められており、通常の斬撃では傷をつけることが難しい。
第五十刃ノイトラ・ジルガは、十刃の中でも特に硬い鋼皮を持つことで知られる。
■ 十刃の序列
藍染惣右介に仕える十刃には、戦闘能力に応じた番号が与えられている。
ただし、序列がそのままあらゆる戦闘状況における勝敗を保証するわけではない。
個々の能力の性質や相性によって、戦闘結果が左右される場合もある。