我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では空座高校の臨時英語教師「GTT」。強引に早退して尸魂界へ戻り、山本総隊長に直談判して二番隊隊長の砕蜂を現世へ拉致。厨二病の裏に隠された極めて高度な鬼道の実力を垣間見せる。
砕蜂(ソイフォン)
二番隊隊長・隠密機動総司令官。本名は「蜂 梢綾(フォン・シャオリン)」。夜中に自室でくつろいでいたところを古男に襲撃・拉致され、現世で可愛い服を着せられた上に「GTTの妻であり体育教師」という強烈な設定を押し付けられる。
黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年。古男の滅茶苦茶な授業と情報漏洩に耐えかね、放課後に文句を言おうとするが逃げられる。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。一護と共に古男を問い詰めようとしたが、すれ違いに終わる。
山本元柳斎重國(やまもと げんりゅうさい しげくに)
護廷十三隊総隊長。古男の持ってきた重大情報(志波一心の生存)に対し、感謝と引き換えに砕蜂の現世派遣(実質的な拉致)をあっさりと許可してしまう。
大前田希千代(おおまえだ まれちよ)
二番隊副隊長(※名前のみ)古男から「砕蜂を現世に連れて行く」と事前(1時間前)に伝えられていたのに、砕蜂本人には報告していなかったため、後で殺される運命にある。
放課後のチャイムが鳴り終わるや否や、一護とルキアは職員室へ飛び込んだ。
朝から好き放題やられた挙げ句、昼休みを境に古男の姿が見えなくなっていた。
授業が終わるまで待ったのは、一護にしてみれば相当に我慢した方である。
ところが職員室を見渡しても、あの男の姿どころか、撒き散らす妙な光も、どこからともなく流れてくる荘厳な音楽もない。
「すんません、戸川先生は!?」
声を掛けられた教師は、特に不審そうな顔もせずに答えた。
「ああ、戸川先生なら『漆黒の右腕が共鳴を始めたため、魔界のゲートを閉じてくる』って言って、お昼休みに早退したよ。なんかすごく苦しそうだったけど……」
「どこ行きやがったんだあのアホは……!」
「おのれ……。次会った時は、必ず一度とっちめてやらんと……!!」
ルキアも拳を固めている。
その頃にはもう、本人は空座町にすらいなかった。
◇◇
古男が座っていたのは、一番隊の総隊長執務室だった。
現世で確認した志波一心のことを話し終えるまで、山本元柳斎は口を挟まなかった。かつて姿を消し、尸魂界では殉職者として扱われている志波家の男。
その一心が黒崎一心として現世に生き、さらに息子までいる。
白髭を撫でながら、山本は静かに目を細めた。
「……なるほどのう。志波家の倅が現世で生きておったか」
「ああ。一応、お前には言っておく必要があるだろうと思ってな。貴族絡みのことは面倒だろうが……」
「なに。わざわざ報告してくれたのじゃから気にするでない。あの時殉職扱いとしたのはワシじゃ。……で、その見返りに何が望みじゃ?」
古男の口元が吊り上がった。
「フッ……一人ばかり、こちら(現世)に引っ張ってほしい」
「ふむ……誰じゃ?」
「そうだな……『蜂の子』を頼む」
山本は古男の顔を見たまま、わずかに間を置いた。
「……二番隊隊長か。それはまた骨が折れるのう。だがよかろう。ただし、隊長格の現世赴任じゃ。霊圧限定はしっかりとするのじゃぞ」
「クックック……無論だ。強大すぎる力を抑え込む『封印』は、俺の好物だからな」
古男はそこで満足そうに笑った。
◇◇
その夜。
二番隊の隊舎も深夜になれば静まり返っていた。
隊務を終えた砕蜂も自室へ戻り、ようやく一人の時間を過ごしていたが、不意に背後の空気が揺れた。
「………………何奴!!!」
振り返るより早く、闇の中から低い声が届いた。
『――縛道の七十九・九曜縛』
「がっ!!?」
九つの黒い霊力が砕蜂を囲み、その身体を一息に拘束した。
腕も脚も止められたが、それだけで諦める砕蜂ではない。全身から霊圧を噴き上げ、黒い拘束を内側から押し返す。
――詠唱破棄!! だが……!! この程度で私を止められると……!
九曜縛が軋んだ。
そのまま力任せに砕きかねない霊圧が膨れ上がる。
だが、闇の向こうにいる男は、それを待ってはくれなかった。
『――縛道の九十九・禁』
先ほどとは比較にならない重圧が落ちた。
幾重もの霊子の帯と杭が身体へ重なり、砕蜂をそのまま床へ縫い止める。七十番台に続いて放たれたのは九十九番。それも長大な詠唱を挟むことなく、一息で。
「ぐっ………ば、馬鹿な……! 九十番台の詠唱破棄だと……!!?」
視界が霞んだ。
最後まで拘束を破ろうと霊圧を高め続けたものの、やがて目の前の闇さえ輪郭を失い、そのまま意識が途切れた。
◇◇
「……はっ!!」
目を開いた砕蜂の前にあったのは、見慣れた隊舎の天井ではなかった。
広い洋室。柔らかな寝具。大きな窓から差し込む朝の光。
身体を起こしたところで、肉体の重さにも気づいた。すでに義骸へ入れられている。
だが、それ以上に視線を奪ったのは自分の格好だった。
「な……なんだこの服は!!」
普段なら自分から手を伸ばすことなど絶対にないような服だった。フリルやリボンがあちこちに付いている。腹立たしいことに身体にはきちんと合っており、誰かが事前に寸法まで把握していたことになる。
「クックック………目覚めたか」
部屋の奥から、バスローブ姿の古男が現れた。
手にはコーヒーカップ。
昨晩、自分へ九十番台の鬼道を叩き込んだ男だ。
「貴様は今日から、この英語教師GTTの『妻』……戸川 梢綾(とがわ しゃおりー)だ!」
「な、なんのつもりだ貴様は!!! 隊長を拉致するとは犯罪者め!! 隠密機動が黙っていないぞ!!」
古男はまるで気にせず高笑いした。
「カーカッカッカッ!! 山本の許可証なら既に貰っているわ!! 留守を任せる大前田にも伝えてから来たぞ!!」
「ならばなぜ私に伝えんのだ!!!」
「クックック。いきなり『我が妻になるのだ』と言っても……お前、照れて嫌がるだろう?」
「え……?」
砕蜂の動きが止まった。
古男も黙った。
「…………?」
砕蜂が、なぜか視線を逸らす。
「いや……その……総隊長からの正式な任務ならば………別に嫌がるとか……そういうことではなくてだな……」
頬が赤くなっていく。
言葉は止まらない。
「だからその、妻という設定も、潜入任務において必要不可欠であるならば、私は隠密機動として決してやぶさかでは……」
「よし! ではお前は、今日から空座高校の『体育教師』ということになっている。出勤だ!!」
古男はすでにコーヒーカップを置き、出掛ける準備へ入ろうとしている。
「……っっ何を勝手に決めているんだ貴様はぁぁぁっ!!!!」
空座高校にはすでに戸川梢綾という名の体育教師を受け入れる準備が整えられている。
そして当人だけが、そのことを今知ったばかりだった。
九曜縛(くようしばり)
縛道の七十九。九つの黒い霊子で対象の動きを封じる。
禁(きん)
縛道の九十九。極めて強力な拘束力を持つ最上級の縛道。古男はこれを一切の詠唱なし(詠唱破棄)で連続発動させ、隠密機動のトップである砕蜂を力技で完封した。
霊圧限定(れいあつげんてい)
隊長・副隊長格が現世へ赴く際、現世の霊子に悪影響を与えないよう、霊圧を本来の20%に制限する処置。古男は「封印」という響きに惹かれてノリノリで受け入れた。
戸川 梢綾(とがわ しゃおりー)
古男が現世で作った砕蜂の偽名(設定)。砕蜂の本名である「蜂 梢綾(フォン・シャオリン)」の「シャオリン」を「しゃおりー」ともじり、戸川の姓を与えて「妻」とした。
大前田への伝言
古男は拉致の件を大前田に伝えていたが、大前田は隊長へ報告しなかった。大前田の命日は近い。