我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では空座高校の臨時英語教師「GTT」。一護とルキアを居残らせ、尸魂界や死神の成り立ち、そして一護の両親にまつわる重大な秘密の「入り口」を、ふざけた態度と圧倒的なハッタリに包んで叩き込む。
黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年。古男の口から語られる「尸魂界の過酷な現実」や「親父の秘密」に翻弄されつつも、父親を庇う古男の言葉にどこか救いを感じている。ツッコミのキレは健在。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。死神の基本情報を古男から「おさらい」される。年齢を10倍以上にサバ読まれて一護に「ババア」呼ばわりされ、物理的制裁を下す。古男が底知れぬ情報網(あるいは真実)を隠し持っていることに気づき始めている。
放課後、クラスには一護とルキアだけが残っていた。
古男は二人が来るのを待ち構えていたらしい。
姿を確認するなり両腕を大きく広げ、これまで聞いたことのない笑い声を上げた。
「クハハハハハハハ!!! よく来たな!!」
「笑い方のバリエーションが増えてやがる」
「なんだか悪者にしか見えない……のはいつものことだが……」
「クックック……」
「あ、戻った」
古男は教卓の上に仁王立ちして、背後の黒板を叩いた。
「貴様らには、この十四番隊隊長自ら! 『死神』について、そして『尸魂界』について教えてやろう!!」
「なぜ私に……?」
少なくとも死神について教わる側ではないはずなのだが、古男はその疑問を待っていたかのように笑った。
「クックック………貴様が真央霊術院で聞いたこと全てが、真実だとでも……? 実に愚かな!! まあ良い。一応おさらいだ」
「おう!」
昨夜から知りたいことはいくらでもある。親父のことも、志波家のことも、自分が突然なってしまった死神というものについても。
古男は黒板へ大きく『尸魂界』と書いた。
「そもそも……ルキアや俺が来た世界のことを『尸魂界』と言う。が、これは別に『死後の世界』というわけではない」
「なにいい!!!!」
死神の方が驚いている。
「確かにこの世で死んだ者の魂は、尸魂界の『流魂街』という場所にたどり着く。だがな。そこの住民も生殖が可能だ。つまり流魂街……尸魂界出身の奴も少なくない」
「それは……そうだが……」
構わず黒板に『流魂街』と書き足し、その横に妙に上手い長屋の絵まで描き始める。
「しかも流魂街は、そうだな………現世でいう『江戸時代中期』くらいの生活水準だ。つまりだ!! この恵まれた現代の生活に慣れた現代人にとっては、地獄の底!!」
「まじか!!!」
一護の中で、死後の世界に対する夢がものすごい勢いで崩れた。
死んだ先で待っているのが、電気も水道もない江戸時代生活とは思っていなかった。
「まあ、死神になって『瀞霊廷』に入れればな。そこは割と快適だ」
「格差社会どころじゃねえな……」
「まあ、お前もその貴族の一員だ。死んだらもれなく『志波一護』として死神にさせられるぞ。今、志波家は人手不足だ。お前ほどの霊力を持つ奴を、海燕は絶対にほっとかないだろうなあ」
「海燕殿は…………そんなことを…………するな。間違いなく」
志波海燕の顔を思い浮かべたのだろう。否定するどころか、妙に確信している。
古男は黒板に円を二つ描き、片方へ『現世』、もう片方へ『尸魂界』と書いた。
「でだ。向こうで死んだらどうなるか? と言うと、記憶の連続性は失われ、現世でまた生まれるらしい……ということになっている。つまりは、俺たち死神にとっては『現世が死後の世界』だ」
「なるほどな。……でも、俺が一番聞きたいのは親父のこととか……『護廷十三隊』とか言う組織のこととかなんだけど……」
「カーカッカッカッ! 焦るな! 三心のことだ! 聞きたいことは聞かせてくれなかったのだろう??」
「そうなんだ!! はぐらかされちまって……」
「クックック……貴様も、それがなければ生まれていなかったろうに……。ということから分かると思うが、お前の母親は『人間』だ。っていうか、俺は会ったことはないがな」
「…………そうかよ」
「だが、人間であったお前の母親を助けるために、死神の力を注がねばならなかった……とは、あの義骸の製作者から聞いている」
「むう……。義骸の製作者…………」
ルキアの顔が上がり、何かへ辿り着きかけたその時だった。
「一護!!!!!!! のおおおおおおお!!!!!」
「な、なんだよ!!!」
「いや、眠そうな顔をしていたのでな」
「考え込んでただけだっての!! 急に大声出すな!!」
「………大人には、いや、親には、か。子供に『自分の馴れ初め』なんて話したくないものだ。それがどれほど重要だと分かっていてもな」
一護が机から身体を起こした。
「!! だがよ!!」
「お前が、おふくろさんを亡くしたことに何かを感じているなら俺は知らん。だがな。これだけは言っておく」
古男が一護へ向き直った。
それまで教室の隅々にまで散らばっていたふざけた気配が消え、代わりに一護の肌を押すような霊圧が満ちた。
「護廷十三隊・十番隊隊長、志波一心は……自分の身可愛さに責任から逃げる男ではない…!」
一護は何も言えなかった。
昨夜、何度尋ねても笑って誤魔化し、最後まで肝心なところを話そうとしなかった父親の顔が浮かぶ。
「……戸川五席」
「今言えないなら、理由がある。それを待ってやれ。……繰り返すが、俺は細かい事情までは知らん」
どう見ても、何か知っている顔だった。
それ以上訊くなと言っていることも、なんとなく分かった。
◇◇
何事もなかったように教卓から立ち上がり、黒板の空いている場所へ向かった。
「でだ。護廷十三隊についてだったな。尸魂界ができてから大体百万年だが、護廷十三隊そのものは千年前くらいにできた、比較的新しい組織だ」
「千年が最近かよ……」
「ん? あ~。死神は長生きでな。普通に二千年くらい生きているヤツがいる。ほれ。そこのルキアなんぞ、すでに千五百五年ほど生きている」
「な……なにいいい!!!?」
「ふざけるな! 百五十年だ!! 十倍以上も盛るな!!」
どう見ても高校生くらいにしか見えない。
「どちらにしろババア――ごほうあ!!!」
最後まで言い切る前に、ルキアの踵が一護の後頭部へ落ちた。
「貴様……もういっぺん言ってみろ!!」
古男はそれを特に止めようともせず、黒板に人の成長を表すらしい適当な曲線を描いている。
「ちなみに老化のスピードは人それぞれでな。霊力が高いやつほど遅い傾向はあるが……。超絶美人のナイスバディをナンパすると、千歳超えていましたなんてこともざらにある」
床に這いつくばったまま、一護が顔だけ上げた。
「………どうやって見分けるんだ??」
「それは私も知りたい……!」
「一応、自己申告と記録があるからな。そこから判断するしかないが……。測定機みたいなものもある。だが、戸籍を見るのが早いのは現世も同じだろう??」
「まあ……そりゃそうだが……」
ようやく起き上がった一護が椅子へ戻る。
次に黒板の中央に大きく『護廷十三隊』と書いた。
「護廷十三隊だったな。これは千年前に『山本元柳斎重國』というハゲジジイが作った組織だ」
ルキアの顔から血の気が引いた。恐れを知らないにもほどがある。
「……、は………ハゲジジイ………」
「ちなみにまだ生きてるぞ。ハゲジジイだが」
「もうやめてくれ五席……」
「仕事は【護廷】の名の通り、瀞霊廷を中心とした尸魂界の護衛、及び現世における魂魄の保護――浮遊霊『整』の成仏の手助け、虚の退治などだ。基本的には瀞霊廷や流魂街の住人たちによる志願制で入隊する。流れは以下の通りだから覚えておけ」
黒板の左端へ『真央霊術院』と書き、その下へ矢印を伸ばしていく。
「まず真央霊術院。育成機関に入学して、座学や現世での実習を受ける。ルキアはここに入った。次に見習い期間。この時、『浅打』が一人ひとりに渡される。お前が持ってるそのデカいのもそうだ。そして正式配備。各隊へ配属される。海燕など、院での成績優秀者にはこの時点で席官が内定する者もいる。アイツは優秀だったな」
ルキアが小さく頷いた。
古男のチョークはそのまま黒板の端まで走り、今度は『脱退不可』『休隊』『除籍』『蛆虫の巣』と次々に文字を増やしていった。
「『護廷十三隊は高尚な組織である』という中央四十六室――特権階級のジジイたちだ。一護、お前も死神になればそれくらいにはなれるぞ――の建前上、隊士本人の意思で隊を離れること、つまり脱退は認められていない。休隊および復隊制度はあり、復帰の見込みが立たなければ『除籍』扱いになり、引退時には斬魄刀を返却する。ただし、危険人物と判断された死神は地下特別檻理棟、通称『蛆虫の巣』に収監され、名目上『脱退』として扱われる」
一護はいつの間にかノートを取り始めていた。
ルキアも横で聞き入っている。
真央霊術院で学んだ内容と重なる部分も多いが、古男の話は妙に細かいところまで続いていた。
「組織は十三の部隊で構成されており、幹部として各部隊に隊長・副隊長・三~二十の席官達が任命される。最高責任者は総隊長で、一番隊隊長が兼任する。隊長の就任要件は以下の三つだ」
「一つ、隊首試験に合格。二つ、複数の隊長からの推薦。六名の隊長からの推薦に加え、残る七名のうち三名以上の承認。三つ、隊員二百人以上の立ち合いの下、現隊長を決闘で倒す」
「決闘で倒すって……そんなのでいいのかよ」
「いいのだ。強ければな」
古男はそのまま黒板の上へさらに一つ枠を作った。
「このうち一つを満たせば良いが、隊の任務内容上、戦闘能力の高さが求められる。そして、その上位組織として王属特務、通称【零番隊】が存在する。……とまあこんなところだ。質問は?」
ルキアの手が勢いよく上がった。
「零番隊とは!?」
「そうか………お前は知らんか。じゃあ兄様にでも聞け」
「そこは教えてくれないのか!!」
手が腰の魁湛へ伸び、刃が僅かに鞘から覗く。
途端に教室の景色が消えた。
黒板も机も窓も、果てのない宇宙へ浮かぶように遠ざかり、頭上には巨大な銀河が渦巻く。壮大なオーケストラが鳴り響き、一護のノートまで意味もなく光を帯び始めた。
「そして最も重要なのが!! 我ら『十四番隊』だ!! その歴史は五千年に及び……!!」
「護廷十三隊は千年前にできたんじゃねえのか!?」
「その霊圧は三界を震わせる!!」
「あと一つ世界があるのか!?」
古男は両腕を広げた。
背後の銀河までそれに合わせて回転する。
「そして俺は、その十四番隊の『第三万四千三百四十三代隊長』なのだ!!!」
指を折る。
五千を三万四千三百四十三で割る。
「……待て、五千年で三万四千三百四十三代ってことは、一人あたり約〇・一四年……数ヶ月で代替わりしてんじゃねえか!! どんだけブラックな隊だよ!!」
ルキアは感心したように頷いた。
「結構、代替わりしているのだな……」
「お前は納得すんなバカ!!」
「クハハハハハハハハハ!!!!」
「また笑い方変わってんじゃねえか!!!」
尸魂界(ソウル・ソサエティ) / 流魂街(るこんがい) / 瀞霊廷(せいれいてい)
死神や死者の魂が住まう世界。古男の言う通り、大部分を占める「流魂街」の生活水準は江戸時代程度であり、快適な「瀞霊廷」に入れるのは選ばれた者のみという超格差社会である。
浅打(あさうち)
真央霊術院の院生に貸与される、名前を持たない斬魄刀。死神はこれと寝食を共にし、自身の魂の精髄を写し取ることで己の斬魄刀を創り上げる。
中央四十六室(ちゅうおうしじゅうろくしつ)
尸魂界の最高司法機関にして特権階級。古男は「ジジイたち」と吐き捨てた。
零番隊(ぜろばんたい)
王属特務。霊王宮を守護する、護廷十三隊のさらに上位に位置する部隊。ルキアのような一般隊士にはその存在や詳細はほとんど知らされていない。
第34343代隊長
古男が自称した十四番隊隊長の代数。5000年の歴史に対して代数が多すぎるため、一護に「数ヶ月で代替わりする超絶ブラック部隊」とツッコまれた。単に適当な数字を言っただけであろう。