我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では空座高校の英語教師「GTT」。砕蜂に甘い妄想を抱かせつつ、夜一(黒猫)を「タマ」としてペット化し、さらに空座町にまつわる「裏の任務」を適当かつ真面目っぽく語って砕蜂を完璧に操る。
戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
二番隊隊長。古男との甘い夢から目覚め、ツンデレな葛藤を繰り広げるも、古男の「一番仲が良い女だから呼んだ」の一言で一発撃沈。体育の授業では異常なほど優しくなり、プレゼントされた猫(夜一)を「タマ」と名付けて溺愛する。
四楓院夜一(しほういん よいち)
元・二番隊隊長。黒猫の姿で潜伏中だったが、古男に捕まって首輪をつけられシャンプーされ、かつての部下である砕蜂の「ペット(タマ)」として飼われるハメになる。
有沢たつき
空座高校1年。体育の授業中、いつもと違ってやたら優しいシャオ先生(砕蜂)の様子に違和感を覚える。
井上織姫(いのうえ おりひめ)
一護のクラスメイト。無邪気にシャオ先生の機嫌の良さを喜ぶ。
薄暗い寝室で、古男の声がすぐ近くから聞こえていた。
『蜂の子よ………。良いのか?』
『……。ああ。私たちは夫婦なんだろう?? ……んっ♡』
『お前………思ったよりも良い体をしておるな』
『戸川………。……古男。私………』
『力を抜け………痛いぞ』
『………はい……』
「はっ!!!!…夢??」
砕蜂は勢いよく顔を上げた。
身体はベッドの上でうつ伏せになっており、頬の下には枕がある。
背後を振り返れば、白衣の袖を肘までまくった古男が、何事もなかったような顔で立っていた。先ほどまで耳元に聞こえていた声も、身体に残る妙な感覚も消えていない。
「クックック………蜂の子よ。マッサージの最中に寝るとは、隠密機動として修行が足らんな。その貧相な体を少しは鍛えるとよい……」
一気に顔が熱くなった。
「き、貴様ーーーーーっ!!!!」
跳ね起きざまに拳を叩き込む。だが古男は上半身をぬるりと横へ流し、二発目は腰をくねらせ、三発目は首だけを妙な角度へ曲げてかわした。砕蜂の拳は一度も当たらず、古男の白衣の裾だけがひらひらと揺れている。
「なぜ何もしない!!!!」
「カーカッカッカッ! ちゃんとマッサージをしておるではないか!!」
「だから!! 夫婦なのだろう!? その……!!」
そこから先が出てこない。
古男はしばらく砕蜂を見ていた。
「なんだ、やって欲しかったのか?」
「!! あ、愛のない行為はダメだ!!! 絶対にダメだぞ!!!」
「クックック………ならば良いではないか。何をそうおこおこしておる。山本からの指示も『夫婦の体裁を保て』であって、そこまでやれとは書いてないぞ」
「ん〜〜〜!!!!」
砕蜂は頭を抱え、そのままベッドへ額を押しつけた。しばらく動かなかったが、やがて顔だけを上げる。
「ならば何故、私を現世に呼んだのだ!? 隠密機動のトップたる私を!!」
古男の視線が少し遠くへ向いた。
「むう……。一番仲が良い女が……蜂の子だったからだが……」
「!!! そ…………そうか」
いつの間にか背筋が伸びている。口元まで僅かに緩んだ。
古男はその変化を見ながら、何も言わなかった。
◇◇
その日の体育は鉄棒だった。
グラウンドに並んだ生徒たちの前で、梢綾は軽く地面を蹴った。細い身体が鉄棒へ上がり、そのまま勢いよく回転を始める。一回、二回と速度を増し、最後は大車輪から身体を放して、ほとんど音も立てずに着地した。
「よーしお前達、今日の授業は鉄棒だ。見本を見せてやる」
生徒たちは今しがた見せられたものを見て黙っていた。
「……よし、順番にやってみなさい。補助してやるぞ。……気にするな、力を抜いて頑張れば必ずできるぞ」
梢綾は鉄棒へ手を掛けた生徒の背中へ手を添え、柔らかく笑った。
少し離れた鉄棒では、たつきがぶら下がったまま織姫へ顔を寄せていた。
「……なんか今日のシャオ先生、めちゃくちゃ優しくねえ? いつもなら『死ぬ気で回れ!』とか言うのに……」
「うん、たつきちゃん! なんかいいことあったのかな〜? お料理の実験が成功したのかな?」
背後では梢綾が、生徒の腰を支えながら鼻歌を歌っていた。
「♪〜」
たつきの背中に妙な寒気が走った。
「……なんか怖いんだけど!!」
◇◇
放課後。
薄暗い路地裏で、夜一は嫌なものを見た。
大きなタライ。
シャンプー。
ブラシ。
そして、それらを一式抱えてこちらへ近づいてくる戸川古男。
逃げようと身体を起こした時には遅かった。首根っこを掴まれ、そのままぶら下げられる。
「と……戸川!!! 儂をどうするつもりじゃ!?」
「クックック……いい猫を見つけた。現世では家庭で猫を飼うのが普通なのだろう!?」
「それで何をやるつもりじゃ!? 離せ!! 儂は風呂など嫌じゃーーーっ!!」
しばらくして、路地裏には水音と夜一の怒声が響き渡っていた。
古男は容赦なく毛を濡らし、泡立て、洗い流し、最後には蚤取り首輪まで装着した。
抵抗する黒猫を毛布でくるむと、そのまま戸川家のマンションへ持ち帰る。
「クックック、蜂の子よ。お前にプレゼントだ」
ソファーに座っていた砕蜂が振り返った。
「な…なに……プレゼント……♡」
毛布が開かれる。
中から、洗いたてで毛並みの整った黒猫が顔を出した。
「あ……可愛い猫……だな。まるで……夜一様のような……」
『ウッ……!! 砕蜂……!!』
夜一は声に出さなかった。
今の自分は、尸魂界から姿を消した四楓院夜一ではない。ここで正体を明かせば、話が面倒になる。
その夜、一度だけ窓から逃げた。
だが数十分後。
「タマ……? タマ、どこへ行ったのだ……?」
探している砕蜂の声が聞こえてきた。
「タマ……」
ソファーの下を覗き、カーテンをめくり、玄関まで確認している。
夜一はベランダの手すりの上でしばらく動かなかった。
やがて無言で室内へ戻った。
「あっ! タマ!!」
見つけた砕蜂の顔が一気に明るくなり、そのまま抱き上げられた。
「どこへ行っていたのだ。心配したではないか……」
夜一は抵抗しなかった。
◇◇
夜。
リビングのソファーでは、砕蜂がタマを膝へ乗せ、黒い毛を指先でゆっくり撫でていた。古男は向かい側に座り、何やら紙を眺めている。
「で、古男。とりあえず現世への潜入は成功したが……私たちは具体的にどのような任務を帯びているのだ……?」
「ケケケケケ……蜂の子よ。貴様は我が求めに応じて、股を開いていれば良い」
砕蜂は少し目を伏せた。
「そ………そうか………、こうで…良いか?」
ソファーから降り、床に座って脚を左右へ開く。
言われた通りの姿勢を取った。
『砕蜂ーーーーー!!! 騙されるな、その男の言うことを真に受けるなーーーっ!!!』
もちろん声には出せない。
古男は何事もなかったように砕蜂の背後へ回り、腰から太腿の付け根へ手を添えた。
「……蜂の子よ。この街には色々あるのだ。尸魂界の最高機密が多分に含まれる。一切他言無用だぞ?」
砕蜂の顔から赤みが引いた。
「ああ」
真っ直ぐ説明すれば数分で済みそうなところへ、よく分からない比喩や『深淵より這い寄る黒き手』だの『星なき夜に眠る高貴なる血』だのが混ざる。
砕蜂は途中で何度か眉を寄せたものの、話が核心へ入ると身体を起こした。
「なんだと!!!!!! 貴族関係の醜聞によって、この街が五大貴族の方々の避難地になっているだと!!?」
「その通り。我々の任務は、最近それに探りを入れたりちょっかいを出してくる者がいるのでな。その護衛と、敵の正体の調査だ」
「うむ!! 任せておけ!! で、その貴族のお方というのは具体的にどなたなのだ??」
「それは機密だ。だから俺たちはこの街での虚や霊的な事件に気を張って解決しながら、裏があれば探せばいいのだ」
砕蜂は腕を組んだ。
「なるほど……それほど高位の者が潜んでいるのか……」
膝の上では、夜一がじっと動かずにいた。
砕蜂の目が大きくなる。
「……まさか……! 夜一様……夜一様もこの街におられるのか!!?」
夜一の身体が跳ねた。
「ビクッ!」
「あ……ごめんねえ。タマに怒鳴ったのではないのだぞ〜。よしよし、怖かったな〜」
砕蜂は慌てて黒猫を抱き上げ、胸元へ寄せて頬を擦りつけた。
『解せぬ……解せぬぞ砕蜂……!!』
古男はその光景を眺めながら、口元を吊り上げた。
「クックック………」
蜂の子(はちのこ)
古男が砕蜂につけた愛称。胸も尻もくびれもない幼虫の意味だが、古男に「一番仲が良い女」と言われたことで、砕蜂の中では愛着のある呼び名へと昇華しつつある。
タマ(四楓院夜一)
黒猫の姿に変化した夜一のこと。古男によって勝手に洗われ、首輪をつけられて砕蜂のペットにされた。喋ると正体がバレるため、素直に猫のフリをしているが、砕蜂のチョロさに絶望している。
五大貴族の避難地
古男が砕蜂に語った現世(空座町)の隠された設定。志波一心(黒崎一心)や四楓院夜一が潜伏している事実を、古男なりに「極秘任務」として砕蜂に信じ込ませるためのハッタリ(あるいは超訳)