我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では空座高校の英語教師「GTT」。井上の兄(虚)の件を経て覚悟を決めた一護を評価しつつ、ルキアの「死神の力無断譲渡」をコネと権力で完璧に揉み消す算段をつける。
黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年。井上の兄を救ったことで死神代行としての道を歩み出す。古男の「尸魂界殴り込み願望」の濡れ衣にブチ切れつつも、彼のコネと身分を駆使した解決策に救われる。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。重罪を覚悟していたが、古男から「朽木家と志波家のコネなら減給と謹慎程度」と言われて拍子抜けする。
戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
二番隊隊長。いつの間にか自分の名も「共犯」に組み込まれていたが、山本総隊長の関与と古男のマッサージ(神の指)の約束であっさり手打ちにする。
志波海燕(しば かいえん)
十三番隊副隊長。一心の生存を聞きつけ、早速現世の黒崎家を電撃訪問。気まずそうにする一心に威圧感を放ちつつも、姪の遊子や夏梨には親切に接する頼れる従兄貴。
黒崎一心(くろさき いっしん)
一護たちの父親。音信不通で飛び出した手前、突如現世に乗り込んできた甥の海燕からの無言のプレッシャーに胃を痛め、息子一護の帰宅を心から切望する。
黒崎遊子・黒崎夏梨(くろさき ゆず・かりん)
一護の双子の妹たち。突然現れた従兄の海燕を「またお父さんが悪いパターン」と察してあっさり受け入れる。
夕日が差し込み、窓際の机から長く伸びた影が床を横切っていた。
井上織姫の兄との一件を終えた一護は、そのまま帰る気にもなれず席に腰を下ろし、教卓にもたれている古男へ、自分が見たものと戦いの顛末を話していた。
ルキアも少し離れた席で口を挟まずに聞いている。
「で、一護。井上の兄が虚になっていたと?」
「ああ……」
「覚悟を決めて、祓ったか?」
「………『斬った』とは言わねえんだな……先生」
一護はそこで窓の外へ目を向けた。織姫の前で人の姿を取り戻した兄のことを、わざわざもう一度言葉にする必要はなかったし、古男も追及してこなかった。
普段なら頼まれもしないことまで喋る男が、しばらく何も言わずにいてくれたことだけはありがたかった。
「まあ、お前の気持ちくらいは分かるつもりだ。で、死神になる気持ちはあるのか?」
「ルキアにも言われたけどよ。大層な覚悟なんてものはねえ。だが……目の前で傷ついているヤツを放っておけるほど、クズでもねえよ」
古男は教卓にもたれたまま一護を見ていた。
「……そうか……」
「死神の仕事……手伝うことにしたよ」
返事を聞いた古男はしばらく黙っていたが、次の瞬間には大きく胸を反らした。
「カーカッカッカッ!!!! ルギアよ!」
「ルキアだ!! 何だそのなんか任天堂のモンスターっぽい名前は!!!」
「死神の力の無断譲渡は、重罪だぞ!!」
「え……あ……はい……。重罪……最悪は処刑と……」
勢いよく訂正したばかりのルキアから、みるみる声の力が失われていった。
一護に死神の力を渡したのは家族を守るためだった。それでも、尸魂界から許可を得てしたことではない。
「席官として、黙っているわけにもいかんからの……」
「ちょっと待ってくれよ!! ルキアは俺と家族を助けるためにこうなっちまったんだぜ!!」
「一護よ。知らなかった、仕方なかったと……『拳銃』を子供に手渡した大人を、お前は許すのか??」
「……いや……」
自分が助けられた側だからといって、それだけで何でも許されると言い切ることはできなかった。
「同じことだ。だがルキア、法に照らせば……『減給半年』と『謹慎一ヶ月』と言ったところかな」
「……はい?」
ルキアは聞き間違いを疑ったのか、古男を見たまましばらく動かなかった。
「え……? と、もっと極刑とか、極小の霊泡に封じられるとか……そういう恐ろしいことになるのでは……?」
「クックック………お前は極端から極端に走るな……。そんな重罰は、平の一般死神の場合に決まってるだろうが!!」
「なに!? どういうことだよ!!」
古男は黒板の前まで行くと、残っていたチョークを拾った。
「一護、お前が五大貴族の一つ、志波家の人間であることは言ったな」
「………おう」
「あとの4つは……『朽木家』、『四楓院家』、『綱彌代家』……あと……何だっけ?」
「知るか!!」
五大貴族について説明を始めた本人が忘れていることに、一護はもう驚かなかった。
古男も思い出す努力すらせず、チョークを置いて話を進める。
「……とにかく、渡したのが養女とはいえ『朽木家』、渡された側も『志波家』だ。分家でも貴族だ、中央四十六室も口を挟めまい。何の問題もないわ。精々が現世で『逢い引き』でもしていたか? と疑われる程度だ。一心の雲隠れについても元柳斎には話を通してあるしな。そのうち上手く揉み消すさ」
「思いっきりコネと身分じゃねえか!!!」
「そうだが? なんだ……ルキアが処刑された方が良かったのか??」
「いや! そんなことはねえ!!」
一護に迷う余地などなかった。
「迷わずいれるなら受け入れろ一護。……むむ!!! そうか………わかったぞ!! 貴様!! ルキアを助けるために尸魂界に殴り込みとかしたかったんだろ!!」
「な……やめろ一護!! 命がいくらあっても足りないぞ!!! 相手は隊長格だぞ!?」
ルキアまで、突然一護の心配を始めた。
「うるせえ!! 俺はそんなこと一言も言ってねえ!!! 濡れ衣着せんな!!!」
「カーカッカッカッ!! 流石は15歳! 厨二病はまだ治まっていないようだな!!!」
「てめえだけには……てめえだけには言われたくねえ!! 絶対に言わせねえ!!!」
学校へ来るたび自分専用の効果音と音楽を鳴らし、キング・ドアリバーだのGTTだのと名乗る男からだけは、その言葉を受け入れられなかった。
古男は一護の抗議を楽しそうに聞き流し、さらに悪いことを思いついたような笑みを浮かべた。
「クックック………そんなに戦いたいなら、三度の飯より戦いが大好きなやつを二人ほど紹介してやろう……」
その言葉を聞いただけで、ルキアの顔から血の気が引いた。
「ま……まさか……!」
「ケーッケッケッケ!! 斑目一角と更木剣八と言ってな。愉快な奴らよ」
「絶対にやめろ!! 命が紙よりも軽くなる!!!」
一角の名だけでも十分嫌な予感はしたが、剣八まで出てくれば話は別だった。ルキアの必死な制止を聞いてなお、古男は愉快そうに魁湛を鳴らした。教室へ突然『大脱走』を思わせる軽快な音楽が流れ始め、その曲に合わせて陽気にステップを踏みながら廊下へ消えていく。
残された一護は、遠ざかっていく音楽を聞きながら机へ背中を預けた。
「……まったく、何なんだあいつは……」
「………すまんな、一護。苦労をかける……」
「お前が謝ることじゃねえだろ」
今回に限っていえば、処刑の可能性をちらつかされた挙げ句に恋愛疑惑まで蒸し返されかねなかったルキアも、十分すぎるほど古男の被害を受けていた。
◇◇
校舎を出ようとした古男を待っていたのは、ジャージ姿の砕蜂だった。
廊下にはもう生徒の姿も少なく、壁際で腕を組んでいた砕蜂は、近づいてきた古男を見るなり口を開いた。
「随分とあやつのために手を回してやるのだな」
「クックック…『蜂の子』も裏で手を回した共犯ということになっている。怒るか?」
「………いや、総隊長が関与しているなら仕方あるまい。遺憾ながらな。」
山本自身が承知している以上、異を唱える理由は残っていなかった。
古男はそれ以上何も言わずに手を伸ばし、砕蜂の頭へ掌を乗せた。軽く二度、三度と撫でられても、砕蜂は振り払わなかった。
「今日は礼に、我が『神の指』で3割増で極楽に連れて行ってやろう」
「…………。」
古男の手が頭から離れても、砕蜂はすぐには顔を上げなかった。
◇◇
その頃、黒崎家では、一護の帰宅を待っている男が二人いた。
片方は自分の家であるにもかかわらず小さく正座している一心。もう片方は座卓を挟んだ向こう側で腕を組む志波海燕だった。
一護と並べれば血縁を感じさせる顔立ちをしている青年だが、その普段の明るさを一心へ向ける気は今のところないらしい。
「……………………」
「……………………」
一心はこの沈黙に耐え続けられるほど強くなかった。
「………………あの……海燕……」
「あ!!??」
「……………………」
話しかける前より状況が悪くなった。
海燕は再び黙り、一心も余計なことを口にできなくなる。
連絡を絶っていた男には、かつての叔父としての威厳など残っていなかった。
「ただいまー」
玄関から聞こえた声に一心は顔を上げたが、現れたのは待ち望んでいた一護ではなく遊子だった。後ろから夏梨もお茶を持って入り、座卓の向こうに見知らぬ青年がいることに気づいた。
「えっと……どなたですか?」
海燕は遊子たちへ向き直ると、一心へ向けていたものとはまるで違う笑顔を見せた。
「お! 叔父さんの娘か!! 俺は志波海燕っていうんだ!! お前たちの従兄になる。よろしくな!」
「従兄?」
夏梨は海燕の顔を見ながら、一護の顔でも思い出しているようだった。
「へー、一兄に似てる……かも。でも、初めて会うな」
「ああ! 実はな、この一心叔父さんは結婚する時に実家を飛び出してな……」
海燕は最後まで爽やかな笑顔を崩さなかった。
「連絡の一つもよこさねえから!! 俺も今日まで知らなかったのよ!!」
そこだけ声に凄まじい圧が乗った。
遊子と夏梨は海燕の顔から父親へ視線を移し、一心の様子を見ただけで特に深く考える必要もなかったらしい。
「あ……お父さんが悪い、いつものやつね」
「ち、違うんだ……これには深〜い事情が……!!」
一心が必死に訴えても、娘たちの反応は薄かった。日頃の行いというものは、こういうところで効いてくる。
「へえ。じゃあ叔父さん、その深〜い事情とやらを、一護が帰ってくるまでたっぷり聞かせてもらおうか」
「…………」
一心は玄関へ目をやった。
まだ一護の帰ってくる気配はない。
――一護ぉぉぉぉぉ!! 早く帰ってきてくれぇぇぇぇぇ!!
朽木家・四楓院家・綱彌代家・志波家(くちきけ・しほういんけ・つなやしろけ・しばけ)
尸魂界の最高位に君臨する「五大貴族」。古男の言う通り、ルキア(朽木家養女)と一護(志波家分家筋)の間での事件となれば、中央四十六室も安易に口出しできず、政治的決着(揉み消し)が極めて容易になる。
減給半年と謹慎一ヶ月
一般死神が軽微な違反を起こした際の標準的な処罰。重罪であるはずの「能力譲渡」を、古男は貴族のコネと総隊長への根回しでこの程度に押し込めようとしている。
志波海燕(しば かいえん)
十三番隊副隊長。一心の甥であり、一護たちの従兄。一心が出奔して以来音信不通だったため、古男から生存と居場所を聞かされて早速現世へ乗り込んできた。
神の指(かみのゆび)
古男のマッサージ技術のこと。絶妙なツボ押しと霊圧調整により、砕蜂を完璧に骨抜きにする。