我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では空座高校の英語教師「GTT」。適当な言動と禍々しいポエムで場を混乱させつつ、一護の特訓のために浦原商店の地下修練場を強引に借り上げる。
志波海燕(しば かいえん)
十三番隊副隊長。総隊長との根回しを済ませ、一護に「正式な死神代行証」を手渡す。一護の覚悟を認め、週末の特訓を提案する熱血漢。
黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年。海燕から死神代行証を受け取り、調子に乗って特訓の免除を賭けた一本勝負に挑む。シャオ先生(砕蜂)が死神だと知って驚愕する。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。海燕の根回しによって処罰を免れそうだと知り安堵するが、白哉(怪鳥)への報告が残っていると聞いて青ざめる。
戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
二番隊隊長。浦原商店へ「タマ(夜一)」を抱いて殴り込み、夜一の居場所を問いただす。古男の「任務で夫婦をやっているだけ」という言葉に激怒し、「夫婦だ!!!」と主張する。
浦原喜助(うらはら きすけ)
浦原商店店主。地下修練場を勝手に特訓場にされ、目の前で「タマ(夜一)」が抱っこされているカオスな状況をスルーしながら結界を張る。
タマ(四楓院夜一)
黒猫。砕蜂に抱っこされながら浦原の目の前で「にゃ〜」と鳴くハメになり、必死に暴れる。
黒崎一心(くろさき いっしん)
一護の父。古男が巻き起こす修修羅場と勝手な言動に陰でツッコミを入れる。
黒崎家では、先ほどまで一心を追及していた海燕が、すっかりいつもの調子を取り戻していた。
もっとも、座卓の端には古男まで当然のような顔で陣取っているため、一心にとって平穏が戻ったとは言い難い。
「クックック………海燕よ。よく来たな。ここはまさに地獄の釜の底! グラウンド・ゼロも真っ青な修羅場!!!」
一心は湯呑みに手を伸ばしながら、何も言わなかった。
――てめえが作った修羅場だがな……。
「戸川さん! 今回は本当ありがとうございます」
「ふ………副隊長が五席に敬語を……!?」
ルキアが目を見開いた。五席に副隊長がごく自然に頭を下げている。
古男は古男で、それを当然のこととして受け取っていた。
「ルキア! 災難だったな! 金欠のときは金平糖や饅頭くらいは買ってやるよ」
「あ、どうも………」
海燕にとっては本気の気遣いらしい。
一護は台所から湯呑みを運んできて、海燕の前へ置いた。
「どうも、いらっしゃい」
「お前が一護だな。話は一心叔父さんから聞いてる。よく頑張ったな。お前は志波家の誇りだ」
「……へへっ」
真正面から褒められるとどうにも落ち着かず、一護は頬を掻いた。
その顔を見た古男が、すぐ横から声を落とした。
「クックック……………油断するなよ一護。海燕は今のうちから懐柔し、貴様を十三番隊に勧誘しようと……!」
「はっ!」
一護は反射的に海燕から距離を取った。
「戸川さんは容赦ないな!! 大丈夫だ。一目見て分かった! 一護はもう自分で覚悟を決めてやがる。ほら、これが『正式な死神代行証』だ。これを使えば、いつでも自由に死神になれる!」
差し出されたのは木札のような手形だった。一護は受け取るなり表裏を眺めたが、これまで死神の道具らしいものといえば斬魄刀くらいしか知らない。
木札一枚で自由に死神になれると言われても、実感はまだ追いつかなかった。
「…………随分と、準備が良い……ですね」
ルキアの声に、海燕は少しだけ笑った。
「まあ、そのあたりはな。総隊長殿とも話をつけてある。『ルキアは任務で死神になれる素養のある人間を探していた。そこで偶然、現世で養育されていた志波家の分家の嫡男に出会い、虚の襲撃に対して緊急避難的に死神の力を貸与した』ってストーリーになってる」
「クックック……山本め、上手く動いたではないか」
「じゃあ、ルキアはお咎めなしか?」
一心がそう聞くと、海燕はすぐには頷かなかった。
「このまま上手くいけばな。あと二ヶ月くらいは上への根回しにかかると思うけどな」
「クックック………『怪鳥(朽木白哉)』は納得したのか??」
「いや、まだ話してないですよ。そこが一番面倒になりそうですね。あの人はこういう政治的な忖度が大嫌いですから」
「ひっ……!!」
ルキアの顔から血の気が引いた。
古男はそれを見て、むしろ楽しそうに笑い始めた。
「カーカッカッカッ!! 減給にすらならなさそうとは……実に残念だ」
「なんで残念なんだよ!?」
「クックック……………減給……つまりは身を切られる漆黒の枷………謹慎……幽閉されし加護の鳥……。一護よ………尸魂界に殴り込みをかける、実に良い『大義名分』になろうものを……」
「おお!? 一護、お前なかなかいい根性してるじゃねえか! ルキアを助けるために殴り込みたいのか!? ……二人の心次第で応援してやるよ!!」
海燕まで乗った。
しかも魁湛から、どこで調達したのか分からない甘ったるい男女の恋愛を盛り上げるような曲まで流れ始める。
一護だけが勝手に恋愛ドラマの主人公へ押し込まれていた。
「ちがうわ!! 俺はそんなこと一言も言ってねえ!!!」
古男は満足そうに曲を鳴らしたまま、何事もなかったようにルキアへ向き直った。
「クックック…………で、ルギアよ。力は戻ったのか?」
「ルキアだ!! ああ、もう2週間になるからな。9割型は戻っている」
「そうか…………海燕、ではそろそろ一護に『戦い方』を教えてやるとしようか。いつまで現世にいる?」
「ん? そうだな………あと2日くらいだな」
古男の目が光った。
「カーカッカッカッ!! よし!! ならば明日からの週末は特訓だ。我ら隊長格が一護に『闇の極光術』を教えてやろう!!!」
「………てめえは五席だろうが」
一心がすぐに訂正した。
「私は席官ですらない」
ルキアまで加わった。
それでも古男だけは一切揺るがない。
「……………もの凄く不安だ。っていうか特訓なんていらねえよ!! 今だって普通に虚に勝ってんだ!」
「そうか!! 強いんだな! じゃあ俺に一本取れたら、特訓は免除してやるぞ!!」
「へえ………言ったな!」
海燕の挑発に、一護もすぐ乗った。
そこで古男が、実に楽しそうに口を挟んだ。
「クックック……………俺も参加させてもらう」
一護はさっきまでより後悔した。
◇◇
翌朝、浦原商店の地下には、岩山と荒れた大地が見渡す限り広がっていた。
その中央で浦原喜助は扇子を仰ぎながら、目の前の一団をどう帰したものか考えていた。古男だけならまだしも、海燕、一護、ルキアまで揃い、どう見ても「少し場所を借ります」で終わる人数ではない。
「いや〜………地下室を貸せって言われましてもねぇ……」
「クックック…………お前は大人しく、俺たちが全力で戦っても壊れないように強力な結界を張れ!! 鉄斎にも手伝ってもらえ!!」
「そういう話ではなくてですねぇ……」
浦原の意見は最初から採用される予定がないらしい。
そこへジャージ姿の砕蜂が降りてきた。胸元には大切そうに黒猫のタマを抱えている。
「浦原………貴様……! 夜一様をどこに隠した!! ……言え!!」
腕の中の黒猫と浦原の目が合った。
「……、に…にゃ〜」
どう聞いても猫の鳴き声としてはやる気がなかった。
しかし砕蜂はまったく疑わず、腕の中で小さくなった黒猫を胸へ抱き寄せた。
「あ……タマ、ごめんねえ。大声を出して驚かせたな。大丈夫だからね。よしよし」
浦原は扇子の向こうから夜一を見た。
夜一も見返した。
何も言えない。
そこへ、事情を全部知っている古男が堂々と割り込んできた。
「蜂の子よ。夜一は浦原の現世への逃亡を助けた後、姿を消したようだ。つまりは現世にいると思われる……。奴は浦原を愛しているからな。この町にいればすぐに現れるだろう」
夜一が砕蜂の腕の中で暴れ始めた。
爪は浦原へ、次に古男へ。どちらにも届かない。
「た……タマ、どうしたというのだ!! 浦原が嫌いなのか!?」
浦原はしばらく夜一を見つめた。
夜一も必死に何かを訴えていた。
だが砕蜂の中では、タマが浦原を嫌っているという結論が着々と固まりつつある。
「……………その酷い冗談は置いておくとして。地下を壊さないでくださいッスよ……」
浦原はもう、それ以上触れないことにした。
一護はそのやり取りを眺めていて、ようやく別のことに気づいた。
「はっ! 普通にスルーしてたけど……シャオ先生も『死神』なのか!?」
「クックック……我が妻なのだから当然だろう。まあ、任務で夫婦をやっているだけなので、別に本気というわけでは……」
「夫婦だ!!!!!!」
地下全体に砕蜂の声が響いた。
古男まで一瞬黙った。
「むう……しかし蜂の子は……」
「夫婦だ!!! そう言ったらそうだ!!!!」
夜一はその腕の中で、なんとも言えない顔をしている。
「……なあ、俺、今日無事に帰れるのかな……」
死神代行証(しにがみだいこうしょう)
死神の力を得た人間に与えられる許可証。これを使うことで自力で霊体化し、死神の姿になることができる。
怪鳥(かいちょう)
古男が朽木白哉につけた異名(あるいは悪口)。白哉の厳格で忖度を許さない性格を指している。
浦原商店の地下修練場
浦原商店の地下に広がる、巨大な崖や岩場が存在する特殊な空間。死神たちの激しい戦闘訓練にも耐えられる設計になっている。
夫婦だ!!!
古男が「任務上のポーズだから本気ではない」と予防線を張ろうとした際、砕蜂が食い気味に返した叫び。彼女の中で「夫婦設定」は既に決定事項となっている。