我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では空座高校の英語教師「GTT」。長々とした古事記の祝詞(ポエム)詠唱と「魁湛(かいたん)」の演出エフェクトで一護を極限まで恐怖させた挙句、単なる「柔道の投げ技(白打)」で吹き飛ばす。
黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年。全員「始解」解禁という理不尽な格闘無差別ルールにより、味方(?)全員の始解技を全身に叩き込まれてボロボロにされる。
志波海燕(しば かいえん)
十三番隊副隊長。斬魄刀「捩花(ねじばな)」を解放し、一護に襲いかかる。
戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
二番隊隊長。斬魄刀「雀蜂(すずめばち)」を解放。弐撃決殺の手前で手加減しつつ一護を打ちのめす。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。斬魄刀「袖白雪(そでのしらゆき)」を解放。冷気で一護を凍らせる。
黒崎一心(くろさき いっしん)
一護の父。斬魄刀「剡月(えんげつ)」を解放。親の威厳を見せつけるように灼熱の霊圧で一護を圧倒する。
浦原喜助(うらはら きすけ)
浦原商店店主。斬魄刀「紅姫(べにひめ)」を解放。どさくさに紛れて一護を攻撃する。
浦原商店 地下修練場
岩場へ仁王立ちしている古男は、完全に授業参観でも始めるつもりらしい。
「カーカッカッカッ!!! よく聞け!! 死神の戦法には大きく分けて4つある!! 【斬・拳・走・鬼】だ!!」
海燕、ルキア、砕蜂、一心、浦原が揃って頷く。
一護だけが嫌な予感を覚えた。
これだけ死神が集まっているのだから、もっとまともな誰かに教わればいいのではないか。
だが、今日は古男が教師役らしい。
「まずは『斬』!! これは斬魄刀による斬術を指す!!! 死神のなかでダントツの一番人気がこれだ!! なぜか?? 単純に『刀を振り回すのがカッコいいから』だ!!」
「ブー―――ッ!!」
周囲から一斉に不満が飛んだ。
「違うだろ戸川さん!!」
「もっと他に説明があるだろう!」
「それが第一の理由ではなかろう!!」
海燕だけでなくルキアと砕蜂まで本気で抗議している。
一護は何も言わなかった。
――死神って、結構みんなそこ気にしてんのか……?
「クックック……だが、斬魄刀にはそれぞれ固有の『能力』が存在するのだ!!!」
そこから古男は、始解と卍解、斬魄刀の真名、解放に必要な対話や同調について一気に喋り始めた。
珍しく内容自体はまともだった。
問題は、途中から黒板もないのに宙へ光の文字を浮かべたり、『卍解』の説明に入った途端なぜか背後に巨大な炎の文字が燃え上がったりすることくらいである。
一護は自分の巨大な斬魄刀へ目を落とした。
今まで、ただデカくてよく斬れる刀としてしか扱ってこなかった。
「マジか……! これにはどんな能力が……!?」
「知らん!!」
「????」
「と言うか始解の解号も知らず、卍解も知らん状態で発動できるわけなかろう!! 己の斬魄刀の名すら知らぬ赤子が、能力だけ知ろうなど百年早いわ!!」
――知らねえのかよ!!
しかも少しだけ正論なのが腹立たしい。
古男は満足そうに一護の顔を眺めると、魁湛の柄へ手を置いた。
「というわけでだ!! 一護に死神の厳しさを教えるため、本日の手合わせでは我々全員『始解』まで使わせてもらう!!」
「なに!!!?? ズルい!! 卑怯者ーーーーーっっっ!!!」
一護の抗議を聞いた者はいなかった。
むしろ、それが開始の合図になった。
「舞え!! 『袖白雪』!!!」
最初に動いたのはルキアだった。
白い刀身が描いた円に沿って冷気が走り、一護の足元から地面が白く染まった。
「ぎゃーーーーー!!!! 冷たっっ!!?」
逃げようとした足が滑る。
そこへ横から声が飛んだ。
「尽敵螫殺……『雀蜂』!! 殺しはしないから安心しろ!!」
「その前置きがもう怖えよ!!」
背後に回った砕蜂の指先が一護の背中を突いた。
痛みより先に妙な熱が走り、振り返ろうとしても姿はもうそこにない。
「ぐわあああああ!!!! なんか背中に蜂の紋章ついた!!?」
「二度目は刺さん。安心しろ」
「一回目も刺すなよ!!!」
休む暇もなく、海燕の声が響いた。
「水天逆巻け!! 『捩花』!!!」
三叉槍が回転する。
次の瞬間には、一護の正面を波涛が埋め尽くした。
「ぐほおおおおおお!!!! 水圧が凄ぇ!!」
岩場を転がった一護が、ようやく立ち上がろうとしたところへ、一番聞き慣れた声が降ってきた。
「一護………すまねえ! 燃えろ!! 『剡月』!!!」
「親父待て!! お前まで普通に参加すんのかよ!!」
炎を纏った刀が振り下ろされた。
一護はどうにか自分の斬魄刀で受けたが、腕ごと押し込まれる。
「親父が一番手加減ねえし強ええええええ!!!!!!」
「男同士の稽古ってのはこういうもんだ!!」
「絶対違うだろ!!!」
「おや、私もッスか?? 哭け、『紅姫』」
一護は絶望した。
「まだいんのかよ!!」
浦原の前に赤い光が広がった。
霊圧の光弾まで飛んでくる。
「あんたも死神かよおおおおお!!!! 全員で寄ってたかってイジメか!!!」
教育という言葉の意味を一護は疑い始めていた。
やがて岩場の一角に倒れ込んだ頃には、死覇装は土埃だらけになり、身体のあちこちが痛み、立ち上がるだけでも息が切れた。
だが。
まだ一人。
何もしていない男がいる。
「クックック………………一護よ。まだ『俺』が残っていることを忘れるなよ……機は熟した」
その声に、一護はゆっくり顔を上げた。
古男がいた。
日頃からパイプオルガンを鳴らし、スモークを撒き散らし、呪文を吐く男。
学校ではGTT。
自称十四番隊隊長。
席次は五席。
どこまで本気でどこから冗談なのか分からない。
だが、今日ここにいる連中は違う。
元十番隊隊長。十三番隊副隊長。二番隊隊長。
その誰もが、古男をただの馬鹿として扱ってはいない。
少なくとも、一護にはそう見えた。
――こいつ……もしかして……。
今までで一番嫌な汗が背中を流れた。
――この中で一番ヤベえんじゃねえのか……?
「くっ……来いよ、GTT……!」
「クックック…………とくと見よ。……我が秘術を!!」
両手が魁湛の柄へ添えられた。
それまで流れていた音楽が消えた。
代わりに、腹の底へ響く低い音が地下全体を揺らし始める。
古男は目を閉じた。
「『かれその神避りたまひし伊耶那美は 出雲の国と伯伎の国、その堺なる比婆の山に葬めまつりき ここに伊耶那岐 御佩せる十拳剣を抜ぬきて その子迦具土の頚を斬りたまひき』」
一護の喉が鳴った。
――古事記……!?
意味までは完全に分からない。
だが、今までのデタラメなポエムとは違う。
知っている言葉が混ざっている。
伊耶那美。
伊耶那岐。
迦具土。
それだけで、何か本当に古い術を目の前で起動されている気がしてきた。
「魅せよ……『魁湛』!!!!」
刀が抜かれる。
同時に、大量の白煙が岩場を覆った。
「うおっ!?」
地面まで震え始めた。
低音。
風。
白煙。
光。
そのすべてが一気に襲ってきて、一護にはもう何が本物で何が魁湛の能力なのか分からない。
煙の向こうに、漆黒の刀身が浮かび上がった。
柄頭には、この前浦原商店で付けたばかりの黒いスーパーボール。
そんなものが付いていることを一護は知らないので、異様なほど禍々しい宝珠にしか見えない。
刀身には金色の古代文字が走っていた。
実際の霊圧がどれほどあるのか。
そんなことを考える余裕すらなかった。
「…………あ…………」
息が詰まる。身体が重い。
逃げろと頭では思うのに、足が動かない。
古男は煙の向こうで魁湛をゆっくり構えた。
「クックック………滅びの露と消えよ。……食らうがよい。『神威』!!!!」
視界が光で埋まった。
赤。青。金。紫。
何色なのかすら分からない巨大な光の刃が、こちらへ落ちてくる。
「うう……………うわああああいああああ!!!!!!」
爆音。
衝撃。
身体が宙へ浮いた。
次に一護が分かったのは、背中から岩場へ叩きつけられたことだけだった。
「がはっ……!」
しばらく起き上がれなかった。
だが。おかしい。
痛いことは痛い。死ぬほど痛い。
けれど、それはさっき親父に殴られた時や海燕の水圧を食らった時と大差ない。
一護は自分の胸や腹を触った。
「………………あれ?」
死覇装は裂けていない。
血もない。胴体もちゃんと繋がっている。
「……斬られて……ねえ……? 血も出てねえ……?」
煙の向こうで、海燕が顔を覆った。
一心は額へ手を当てた。
浦原は扇子を口元へ持っていった。
三人には見えていた。
光が一護の視界を完全に塞いだ瞬間。
古男は魁湛を振っていない。
一護の懐へ入り。
襟を掴み。腰を落とし。
見事な一本背負いで放り投げた。
それだけだった。
「クックック……我が『神威』の威力を前に、よく耐えたな一護……!」
煙の向こうから現れた古男は、あたかも天地を割る奥義を撃ち終えた達人の顔をしていた。
一護は荒い息を整えながら、何とか身体を起こした。
「……す、すげぇ……なんて威力だ……」
海燕、一心、浦原は何も言わなかった。
――あいつ、また演出だけで押し切りやがった……。
その三人の視線にも気づかず、一護は魁湛を見つめていた。
柄頭のスーパーボールだけが、地下の照明をまったく反射せず黒々と輝いていた。
斬・拳・走・鬼(ざん・けん・そう・き)
死神の戦闘における四つの基本要素。斬術(剣術)、白打(体術)、瞬歩(歩法)、鬼道(魔術)
神避りたまひし伊耶那美……(かみさかりたまひしいざなみ)
古事記における「イザナミの神避り(死)」と「イザナギによるカグツチ殺害」の一節。古男が雰囲気を出すためだけに暗記して詠唱した神道ポエム。
神威(かむい)
古男が叫んだ謎の大技。派手な光と爆煙、重低音の振動で相手の視界と感覚を奪い、その隙に単純な白打(投げ技)を叩き込むという、古男のハッタリ戦闘スタイルの真骨頂。