我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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戸川古男(とがわ ふるお)
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。八番隊五席。斬魄刀「魁湛」が紡ぎ出す重厚な音楽と劇的な演出により、ただの雑魚討伐を「世界の存亡を賭けた最終決戦」へと塗り替えてしまう男。

隊士A
古男の現世任務に同行した若手死神。古男の演出と演説にあおられ、雑魚相手に主人公さながらの大立ち回りを演じさせられた結果、心身ともに激しく摩耗している。

隊士B
隊舎で出迎えた留守番の死神。ボロボロになって帰還した隊士たちの異様な疲弊ぶりに困惑する。

魁湛(かいたん)
古男の所持する斬魄刀。持ち主の妄想を完璧な音響・光彩・雰囲気エフェクトとして周囲に放射する優秀(?)な刀。


聖戦の開幕ベルは鳴る(ただし雑魚三体)

現世での虚討伐任務から戻ってきた隊士たちは、八番隊舎へ入るなり、示し合わせたように廊下へ崩れ落ちた。

 

柱へ背を預ける者、床へ胡坐をかいたまま俯く者、斬魄刀を抱えて天井を眺めている者。誰も怪我らしい怪我はしていないのに、その顔つきだけを見れば数日間の激戦を潜り抜けてきたようである。

 

そんな中、古男だけは妙に晴れやかな顔をしていた。

胸を張り、腰へ手を当て、帰還した英雄そのものといった姿で隊舎の中央に立っている。

 

「ハーッハッハッハ!!」

 

留守番をしていた隊士が、その光景に目を丸くした。

 

「どうしたんだお前たち!? そんなに厄介な大物が現世に出たのか!?」

 

「……いや……相手自体は……そうでもなかったのだが……とにかく……疲れた……」

 

「何があったんだよ一体……?」

 

床へ座り込んでいた隊士はしばらく何も答えず、遠い目で古男を見た。

古男はちょうど腕を組み、何か満足そうに頷いている。

 

その姿を見ているうちに、隊士の顔から少しずつ血の気が引いていった。

 

「……聞いてくれ。現世に着いてすぐ、虚の気配を察知した時のことだ……」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

その夜、任務地となった住宅街は静まり返っていた。

 

人通りはほとんどなく、並んだ民家の窓から漏れる明かりだけが細い路地をぼんやりと照らしている。虚の気配もすでに捉えていたが、数は少なく、霊圧もさほど強くない。

 

隊士たちがそれぞれ斬魄刀へ手を掛ける中、古男だけは刀へ触れようともせず、路地の真ん中で空を見上げていた。

 

「……まったく……困ったものだな。まさか奴らが群れをなして牙を剥こうとは……」

 

「でも、わざわざ戸川五席が出張ってくれたんですから、大船に乗ったつもりで大丈夫ですよね!」

 

古男は答えなかった。

 

夜空の一点を見つめ、何かを待つように黙り込んでいる。

やがて、その口がゆっくりと開いた。

 

「…………十月十五日」

 

隣にいた隊士は眉を寄せた。

 

「え? あの……今は四月ですけど……」

 

「この日、この時にこそ聖戦の幕は上がり、世にも恐ろしき魔戦の開幕ベルが虚圏に鳴り響くのだ……!」

 

「いや、ここ虚圏じゃなくて、思いっきり現世の住宅街ですが……」

 

その言葉が終わる頃には、古男の腰に差された斬魄刀から低い音が流れ始めていた。

 

最初は地鳴りのような響きだった。

 

それが次第に重厚なパイプオルガンへ変わり、さらにその上から、どこから湧いて出たのか分からない女声の合唱が重なっていく。

 

静かな住宅街に、場違いなほど壮大で陰惨な音楽が鳴り響いた。

 

「な、何だこの音楽……!?」

 

古男の斬魄刀――魁湛の周囲からは、黒い靄がゆっくりと漏れ出していた。

 

その向こう。

 

路地の闇から、三つの影が現れる。

 

白い仮面を被った虚だった。

 

本来ならば、少し慣れた隊士なら見た瞬間に力量を測れる程度の相手である。

 

だが、その夜は違った。

 

三体の背後から黒い影が立ち上がり、民家の屋根を越え、さらに夜空へ向かって膨れ上がっていく。虚たちが一歩踏み出すたび、その巨大な影も同じように動き、足元では低い轟音が鳴った。

 

「な……!! まさか…………メノスグランデか!? いや、見た目が違う……これは一体何なんだーーー!?」

 

「クックック……うろたえるな」

 

「五席!!」

 

古男はようやく空から視線を下ろし、ゆっくりと虚たちへ向き直った。

 

風が吹き、死覇装の裾が大きく翻る。

 

その背後で合唱がさらに音量を増した。

 

「我らは迫り来る滅亡に立ち向かう、最後の英雄……。我らがここで負ければ、この三界は終焉を迎える……!!」

 

虚が吠えた。

ただの咆哮だったはずの音へ何重もの低音が重なり、路地そのものが震えているように響く。

 

「ほ、本当に……!? 俺たちが負けたら世界が終わるんですか!?」

 

古男は斬魄刀の柄を握り、ゆっくりと引き抜いた。

 

「故に…………負けられんのだ!!」

 

刀身が鞘から姿を現した瞬間、魁湛の表面へ見たこともない文字が次々と浮かび上がる。

 

「天地啼きて、揺籃に倒れよ――魁湛!!」

 

解号とともに刀身が漆黒へ染まり、浮かび上がった文字だけが青白く光った。

空気が軋む。

 

周囲の壁がわずかに歪んで見え、足元まで大きく揺れたような感覚が走る。

三体の虚が同時に口を開いた。

 

『オゴォォォォオオオン!!!!』

 

隊士たちは思わず身を竦めた。

虚の背後に立つ巨影まで同時に咆哮し、黒い波のようなものが路地を駆け抜けていく。

 

「う……うわあああ!! 死ぬ!! 世界が終わっちまう!!」

 

「や……やるぞ!! ここで俺たちが止めるんだ!!」

 

「世界を守るのは俺たちだーーーっ!!」

 

三人が一斉に飛び出した。

そこからの戦いは、本人たちにとっては紛れもなく死闘だった。

 

虚の爪を紙一重で躱し、壁を蹴って高く跳び、仲間の窮地へ割って入る。

転がされた者は土埃まみれのまま立ち上がり、背後ではパイプオルガンが鳴り続け、攻撃が交錯するたびに雷鳴や爆発音まで重なった。

 

「まだだぁぁぁぁ!!」

 

「俺に構うな!! 先に行けぇぇぇ!!」

 

「お前を置いて行けるかぁぁぁ!!」

 

三体しかいない虚を相手に、隊士たちは互いの名を叫び、励まし、時には庇い合いながら戦い続けた。

 

その姿だけを見れば、三界の存亡を賭けた決戦と呼んでも差し支えなかった。

 

やがて虚たちは古男の前方へ追い込まれた。

隊士の一人が膝をつき、息を切らしながら振り返る。

 

「はあ……はあ……っ! 戸川五席!!」

 

「頼みます!! 最後の一撃は、あなたに託します!!!!」

 

「おお!!!!」

 

古男は魁湛を高々と掲げた。

 

それまで鳴り続けていた音楽が、そこで一度途切れる。

突然訪れた静寂の中、隊士たちが古男を見つめた。

 

「ならば俺の絶対なる最強の技を見せてやる!!」

 

次の瞬間、夜空に黒雲が渦巻いた。

雷光が走り、古男の周囲には幾重もの光輪が浮かび上がる。

 

「天より高き地、地より低き天! 雷光は地下に響き、地鳴りは天へ蕩けん!!」

 

「おおおお! なんだか知らんが物凄い高位の鬼道か!? 禁術なのか!?」

 

「我が前に立ち塞がりし全ての愚かなるものに、等しく滅びを与えん!!!!」

 

魁湛が振り下ろされる。

夜空が真っ白に染まり、轟音が炸裂した。

 

「――轟雷将陣喝采砲!!!!」

 

隊士たちは反射的に腕で顔を覆った。

 

天から巨大な雷柱が落ち、三体の虚を呑み込んだ――ように見えた。

 

その眩い光の中、古男は普通に歩いていた。

とことこと虚の前まで近づき、人差し指を一体へ向ける。

 

「白雷」

 

小さな雷光が走った。

続いて魁湛を片手で持ち直し、残った虚へ近づく。

 

ちょん。

 

ちょん。

 

ちょん。

 

三度斬った。

 

『アアアアアアサバダバアーーーーッ!!』

 

妙に重厚な断末魔だけが盛大に響き渡り、三体の虚は眩い光と爆風の中へ消えていった。

 

隊士たちはしばらくその場から動かなかった。

 

やがて一人が震える拳を握る。

 

「……勝った」

 

別の隊士が夜空を見上げた。

 

「俺たち……世界を守ったんだ……」

 

古男は魁湛を鞘へ収めた。

その背後から、都合よく後光のような光が差し込む。

 

「フッ……当然の結果だ」

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「……というわけで、結局敵はただの雑魚虚三体だった」

 

話を終えた隊士はまた床へ深く沈み込んだ。

聞いていた隊士も、しばらく何も言わなかった。

 

「それで、最後の最強の技だなんだと言っていたのは……ただの『白雷』だったらしい」

 

「……それはまた……なんというか……お疲れ様……」

 

「うん……」

 

二人の視線が、少し離れたところに立っている古男へ向かう。

 

当の本人は腕を組み、誇らしげに胸を張っていた。

床へ座り込んでいた隊士は、その姿を眺めながら小さく息を吐く。

 

「でもな……なんか、めちゃくちゃ気持ちよかったのも確かなんだよ……。あの重厚な音楽の中で戦ってるとさ……自分が世界を救う英雄になったみたいな気分になれて……」

 

「毒されとる!! 完全にあいつのペースに毒されとるぞ!!」

 

その声を聞きつけ、古男が勢いよく振り返った。

 

「ハーッハッハッハ!!!! 今日も三界の平穏は、この俺と我が精鋭たちの手によって守られたのだ!!」

 

背後に眩い光が差し、妙に荘厳な合唱まで響き始める。

 

疲れ切った隊士たちが、揃って古男を見る。

 

その中の一人だけが、ほんの少し胸を張った。

 

「……精鋭か」

 

隣の隊士が即座に肩を掴んだ。

 

「戻ってこい!!」




魁湛(かいたん)
戸川古男の所持する斬魄刀。解号は一定しておらず、今回は「天地啼きて、揺籃に倒れよ」。攻撃力自体は上がらないが、多重魔法陣、専用BGM、空間振動の錯覚など、雰囲気を盛り上げる完璧な演出を周囲に付与する。

白雷(びゃくらい)
破道の四。指先から一筋の雷光を放つ、死神が使う初歩的な鬼道。古男の手にかかると「轟雷将陣喝采砲」という大層な名前に化ける。

虚圏(ウェコムンド)
虚(ホロウ)たちが生息する砂漠の異空間。古男は雰囲気づくりのために「ここが現世である」という事実を無視して名を挙げた。

轟雷将陣喝采砲(ごうらいしょうじんかっさいほう)
古男がその場のノリで叫んだ技名。仰々しい詠唱風の台詞がついていたが、実態は単なる白雷と剣の三連撃である。
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