我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では空座高校の英語教師「GTT」。特訓の第二段階として「拳(白打)」と「走(瞬歩)」の講習を開始。魁湛の幻覚エフェクトを悪用し、地下修練場を地獄の阿鼻叫喚へと叩き落とす。
黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年。喧嘩慣れしている自信を海燕の白打で粉砕され、さらに古男が放った「全裸の身内たちが目をハートにして迫り来る幻影」に追い回されて精神と体力の限界を迎える。
志波海燕(しば かいえん)
十三番隊副隊長。一護を白打で圧倒して格の違いを見せつけるが、古男の演出で自分の全裸幻影を投入されてブチ切れ、追走劇に巻き込まれてバテる。
戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
二番隊隊長。瞬歩のお手本を見せる。日頃から古男に長時間の鬼ごっこ(という名のマッサージ講習)を強いられていたため、凄まじい持久力を発揮して唯一涼しい顔で完走。古男の「褒美」の提案に猛烈な妄想を膨らませる。
黒崎一心(くろさき いっしん)
一護の父。元・十番隊隊長。自分の全裸幻影を出されて古男を追撃するが、長年のブランクが祟ってスタミナ切れで倒れる。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。カオスな追いかけっこの末、自身の全裸幻影まで投入されて巻き添えを食らい、息も絶え絶えに倒れる。
浦原喜助(うらはら きすけ)
浦原商店店主。全裸幻影の被害者その四。
背負い投げで岩場へ叩きつけられた一護が、腰をさすりながらようやく立ち上がると、古男は魁湛を鞘へ収めて二度ほど手を叩いた。
つい先ほどまで地下修練場を満たしていた荘厳な音楽も煙も綺麗に消え、本人だけは何事もなかったような顔で授業を再開する。
「良いか? 斬の次は『拳(けん)』だ。つまりは素手による格闘――『白打(はくだ)』だな」
剣術では散々な目に遭った一護も、今度ばかりは少し自信があった。斬魄刀を握るようになったのはつい最近でも、素手の喧嘩なら子供の頃から嫌というほど経験している。
拳を構え、まだ身体中が痛むのも忘れて口元を上げた。
「おう! 喧嘩なら昔からやり慣れてるぜ。負ける気はしねえ!!」
「カーカッカッカッ!!! ならば海燕に一発でも当ててみるがよい!!!」
その数分後には、言わなければよかったと思っていた。
殴ろうとすれば腕を流され、蹴れば軸足を刈られ、距離を取れば次の瞬間には懐へ潜り込まれている。
喧嘩なら相手の癖を読んで強引にねじ伏せることもできたが、海燕の動きにはそこへ付け込むための隙がなかった。
最後には拳を振り抜いた勢いまで利用され、頬を殴られ、腹へ一発、足を払われたところへ容赦なく追撃まで入り、砂利の上を派手に転がった。
「…………強え……っ!!!」
「喧嘩と殺し合いの体術は別物だ。俺に当てるにゃ、あと十年早いな!」
海燕はほとんど息も乱していない。
一護が腫れた頬を押さえて起き上がる横で、古男はそれを当然の結果として受け流し、今度は少し離れた場所に立っていた砕蜂へ顔を向けた。
「次は『走(そう)』だ!! 蜂の子よ、手本を見せてやれ」
「うむ。志波のご子息、よく見よ。死神には『瞬歩(しゅんぽ)』という高速移動の歩法がある。霊圧を足の裏に集中させて……こうだ!!」
声が聞こえた時には、まだ目の前にいた。
ところが次の瞬間にはもういない。
一護が顔を向けると、十間ほど離れた岩の上に砕蜂が立っていた。
「………速えな」
「………今の私の動きが、見えているのか?」
「?? ああ、目で追えたぜ」
一護には特別なことをしたつもりはなかった。消える直前の踏み込みも、途中の軌道も、岩の上へ現れるところまで普通に目で追えていた。
「クックック………やはり志波の血筋、動体視力と霊覚のポテンシャルは高い。鍛えがいがありそうだな……!」
その言葉と同時に魁湛へ手を掛けたので、一護は嫌な予感しかしなかった。
「おい。待てよ。瞬歩の練習なんだろ?」
「ほらほら!! 全力で逃げないと、恐ろしい怪物が追ってくるぞ〜!!!」
魁湛が光った。
岩陰の向こうから、巨大な人影が飛び出してきた。
筋骨隆々。全裸。
顔だけは嫌というほど見慣れている。
両目を爛々としたピンク色のハートに輝かせ、両腕を広げながら一護だけを見ていた。
『ウホッ♥ 一護ぉぉぉ〜〜〜〜ッッッ!!!』
「ぎゃあああああああ!? なんだあれえええええ!? 頼むから寄るなあああああ!!!!」
一護は反射的に逃げた。
どうやったのかなど本人にも分からない。足元へ霊圧が集まり、一度踏み込んだだけで何十歩分もの景色が後ろへ流れた。
その一方で、本物の一心は別の意味で絶叫していた。
「あれ俺!? 俺だよな!!! どういうつもりだ戸川てめええええええ!!!!」
「はーーハッハッハ!!!! 傑作だな!! もっとやれ戸川さん!!」
腹を抱えて笑っていた海燕へ、古男の視線が移った。
「クックック……海燕、貴様もだ」
「え?」
黒い煙が膨れた。
そこから新たに飛び出した巨体は、一心と同じく一糸纏わず、やはり両目だけが無駄に愛情深いハート型に輝いていた。
『愛してるぜええええええ一護ぉぉぉ♥』
「……………やめろコラァァァァァァ!!!! 俺の威厳を返せえええええ!!!!」
笑っていた海燕も瞬歩で飛び出した。
こうして、逃げる一護を全裸の一心と全裸の海燕が追い、その二体を消そうと本物の一心と海燕が追い、そのさらに前方を古男が駆け抜けるという、何を鍛えているのか分からない追走劇が地下修練場いっぱいに広がった。
「カーカッカッカッ!! 遅いぞ若人たちよ!! 我が闇の走法を見よ!!」
しかも古男は前を向いていなかった。
後ろ向きである。
一護たちの顔を見ながら、時には両手を腰へ当て、時には片足で跳ね、完全に人を馬鹿にした姿勢のまま瞬歩を繰り返している。それでも誰も追いつけない。
「戸川ぁぁぁ!! 止まれ!! その親父を今すぐ消せえええ!!」
「一護!! 逃げるな!! いや逃げろ!! でもそいつらからじゃなくて戸川さんから逃げろ!!!」
「知らねえよ!! なんで俺が一番追われてんだよおおおお!!」
古男が笑うたび、魁湛から煙が上がった。
やがて三体目が増えた。
『一護〜〜〜〜♥』
「なっ……私ではないかーーーーーっ!!!」
全裸のルキアだった。
本人は一秒たりとも耐えられず、一護を追う側から古男を殺しに行く側へ回った。
さらに煙が上がる。
『黒崎サ〜ン♥』
「おやおや、今度はボクッスか」
全裸の浦原まで追加された。
「全員裸にすりゃいいと思ってんじゃねえぞおおおおお!!!」
「クックック……ならば衣装を着せよう」
次に現れた一心の幻影だけ、なぜか蝶ネクタイをしていた。
「そういう意味じゃねええええええ!!!!」
地下修練場から悲鳴と怒号が絶えなくなった。
◇◇
十時間後。
岩場には死体のようなものがいくつも転がっていた。
「ぜえ…………ぜえ………………」
一護は白目を剥き、指先だけが時々痙攣している。
少し離れた場所では海燕が大の字になっていた。
「はあ……………はあ………………」
「長年の……ブランク持ちには……きつすぎる…………ぐえっ……」
一心は途中から息子を追っていたのか古男を追っていたのか、自分でも分からなくなっていた。
ルキアに至っては途中で増殖した自分の幻影を見た精神的な被害の方が大きかったらしく、口元から泡を吹いている。
浦原はいつの間にか帽子を失い、岩壁にもたれたまま動かない。
幻影はすでに消えていた。服を着た本物が無惨に転がっている。
その中で、まだ普通に立っている者が二人いた。
「……ふう……。良い汗をかいたな」
砕蜂は額の汗を拭っただけだった。
古男に至っては白衣すら大して乱れていない。
「ケケケケケ、蜂の子よ。少しは見ない間に持久力がついたようだな」
「うむ……。貴様に付き合わされ、ああも毎度毎度、長時間にわたって瞬歩で追いかけっこをさせられればな。嫌でも身体が適応する」
砕蜂にとっては、今日の数時間だけが特別長かったわけではない。
尸魂界にいた頃から古男を見つければ追い、逃げられれば追い、魁湛の演出で視界を潰されても追い、気づけば半日近く走らされることすらあった。腹立たしいことに、それを繰り返すほど瞬歩の無駄が削れ、呼吸も乱れなくなっている。
古男はそんな砕蜂の頭へ手を伸ばした。
「よしよし……よくぞついてきた。褒めて遣わすぞ。何か望むものはあるか??」
「…………!」
望むもの。
今朝。ベッド。マッサージ。
夢。
『力を抜け………痛いぞ』
――望み……!? 望みと言えば……今夜こそ、その……あの夢の続きを……いやいやいや! 何を考えているのだ私はーーーっ!!
両手で頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。
「ん〜〜〜〜〜!!」
少し離れた岩場では、一護が薄く目を開けた。
「……何やってんだ……シャオ先生……」
返事をする者はいなかった。
古男だけが、頭を抱えて悶絶している砕蜂を眺めながら、満足そうに笑っていた。
「クックック……」
白打(はくだ)
死神の体術・素手格闘術。一護は喧嘩のノリで挑んだが、副隊長である海燕の技術の前には手も足も出なかった。
瞬歩(しゅんぽ)
死神の高速移動歩法。足裏に霊圧を込めて瞬時に長距離を移動する。一護は古男の放った全裸幻影の恐怖により、短時間で実戦レベルの瞬歩を強制習得させられた。
後ろ向き瞬歩
古男が披露した謎の高等技術。前方を向いたまま背後へ向かって一切のブレなく最高速度で瞬歩を連発し、追手を煽るための完全な魅せ技。
砕蜂の持久力
尸魂界で古男に斬魄刀を奪われて以来、3日に一度のペースで丸一日中追いかけっこ(鬼ごっこ)をさせられていたため、知らず知らずのうちに隊長格の中でもトップクラスのスタミナが身についていた。