我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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戸川古男(とがわ ふるお)
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では空座高校の英語教師「GTT」。特訓二日目に「鬼道」の講義を担当。自作の厨二病詠唱と術名改変で欠陥鬼道(裁断閃光)を放つが、爆風から砕蜂をスマートに守り、強烈な殺し文句で二番隊隊長を完全にオトす。

戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
二番隊隊長・隠密機動総司令官。古男の壊滅的なオリジナル詠唱のセンスをベタ褒めし、海燕から「地雷女」疑惑をかけられる。爆発から守られたことで好感度がカンストし、文通の提案を口にするも、古男の壁ドンならぬ抱擁に完全撃沈する。

黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年。極限の鈍感ボーイ。鬼道に挑戦するも、霊圧の集中だけ突出して制御が全く追いつかず、自爆大爆発を引き起こす。

朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。鬼道の模範演習として「赤火砲」を放つが、古男に縛道プレイや三角関係の疑いをかけられ激しく取り乱す。

志波海燕(しば かいえん)
十三番隊副隊長。一護の暴走に巻き込まれて爆死しかけつつ、古男と砕蜂の歪んだ夫婦漫才に的確なツッコミを入れ続ける。

浦原喜助・握菱鉄斎(うらはら きすけ・つかびし てっさい)
浦原商店組。古男が放った意味不明なオリジナル鬼道(実はただの改変蒼火墜)の構造的欠陥を冷静に分析・解説する。

タマ(四楓院夜一)
黒猫。目の前で元部下の砕蜂が古男の甘言と抱擁にトロトロに溶かされていく地獄絵図を見せつけられ、怒りの威嚇(シャーッ)を放つ。


裁断閃光と神の抱擁

前日の追走劇で身体中を酷使した翌朝、一護は地下修練場へ降りてきた時点ですでに帰りたかった。

 

歩けば脚が痛み、腕を上げれば肩が痛み、何より昨日の記憶がまだ鮮明に残っている。

 

古男は一晩寝ただけで完全に回復したらしく、白衣を羽織って岩場の上に立ち、昨日と変わらぬ大声を地下いっぱいに響かせた。

 

「極限の修行により一日目は終わってしまったが……一護よ!! 日曜日の今日は『鬼道(きどう)』について教えてやろう!!!!」

 

「鬼道……。ああ、初日にルキアが俺の動きを止めた、あの縛ったやつか?」

 

「その通りだ!!! ……………ところでルキア、お前……出会って早々に一護を縛ったのか??」

 

「うむ……! 暴れるから『縛道の一・塞(さい)』でな」

 

そこで古男の口元がゆっくり吊り上がったので、ルキアは自分が何か致命的な言い方をしたことだけは悟った。

 

「クックック…………ルキアよ。若い男を縄(霊子)で縛り上げて楽しむプレイがお好みとは……。恋次はたぶん喜ばんぞ」

 

「なぜそんな話に繋がるのだ!!! 一護を虚から守るためにやったことだと言っておろうが!!!」

 

「……………おいおいルキア、まさか恋次から一護に乗り換えたのか〜?」

 

海燕まで愉快そうに口を挟んできたので、ルキアは二人まとめて睨みつけた。

一護にしてみれば顔すら合わせたことがないのに人の幼なじみを奪ったことになっているのが分からない。

 

ところが古男の興味はもう別の方向へ移っていた。

 

「クックック…………それにしても一護、お前は本当にモテるな。クラスの井上の好意など、周囲から見れば丸わかりだろう」

 

「あ? 井上が俺を? そんなわけねえだろうが。あいつは誰にでも優しい普通の友達だぞ」

 

ルキアは何も言わなかった。

ただ一護を見た。

 

その顔をしばらく見てから、今度は古男を見た。

古男も黙って一護を見ていた。

 

「………………。鈍感というものは、時に悪意よりも恐ろしいな。なあ、蜂の子よ」

 

「そうだな…………。私はもう一人、同じくらい救いようのない鈍感な男を知っているからな。二人まとめて叩き直してやりたい気分だ」

 

「クックック………誰かな? そいつは……。いや待てよ……五番隊の雛森だな! 日番谷からの想いにこれっぽっちも気づいていない!」

 

古男は咳払いを一つして、ようやく本来の授業へ戻った。

 

「コホン。……鬼道には大きく分けて二つある。敵を直接攻撃・破壊する『破道(はどう)』と、敵を拘束・防御・通信する『縛道(ばくどう)』だ。クックック……さてルキアよ、お前に講師役を任せよう。霊術院での鬼道の成績は良かったな」

 

「な、なぜ貴様が私の学生時代の成績まで知っておるのだ……。まあいい。いくぞ一護、よく見ておけ。鬼道の基本は言霊(詠唱)を唱えて霊圧を練り上げ、狙った形に変換して放つことだ。手本を見せる」

 

ルキアが岩場へ向けて右手を伸ばす。

 

「『君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽ばたき・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と騒乱 海隔て逆巻き南へと歩を勧めよ』――破道の三十一・『赤火砲(しゃっかほう)』!!」

 

掌から放たれた赤い火球は、そのまま正面の大岩へ突き刺さった。轟音とともに岩が砕け、破片が周囲へ飛び散る。

 

「おおっ! すげぇ、岩が一撃で砕けた!」

 

一護が素直に感心した、その横で古男だけが不満そうだった。

 

「ククククク……ルキアよ。貴様、そのような『ダサくて長い公式詠唱』でよく恥ずかしげもなく撃てるな」

 

「むむっ、確かに詠唱を破棄すれば即座に撃てるが、威力は下がるのだぞ! ……『破道の三十一・赤火砲』!」

 

今度は詠唱を省いて放たれた火球が岩へ当たり、岩を割った。先ほどの一撃と比べれば明らかに威力は落ちている。

 

「クックック……そうではない。真の強者の鬼道とはこうやるのだ。よく見ていろ」

 

足元から紫色の煙が噴き出した。

 

誰も何もしていないのに、どこからともなく低い鐘の音まで聞こえ始める。

古男は両腕を大きく広げ、天井の遥か上を仰いだ。

 

「『天は稲光に満ち、黄泉の国の入り口に我は立つ……! 出でよ、我が旋律の戒めよ!! ――裁断閃光(さいだんせんこう)!!!!』」

 

その指先から飛び出したのは、青白い光だった。

 

ふらふらと数尺ほど飛んだ。

 

弱々しく弧を描いた。

そして、地面へ落ちた。

 

ポシュッ。

 

消えた。

 

一護はしばらく地面を見ていた。

 

古男は両腕を広げた姿勢のまま動かなかった。

浦原だけが妙に真面目な顔で考え込んでいる。

 

「ん〜……ベースは『破道の三十三・蒼火墜』っすかね? 詠唱も術名も全部勝手にオリジナルに改変・破棄して、よく形として発動できましたねぇ」

 

「うむ……。ですが恐らく、威力は通常の100分の1以下かと。その割に込められている霊圧は通常の倍以上……完全に無駄遣いですな」

 

鉄斎の診断は容赦がなかった。

 

「ただの欠陥技じゃねえか!!!」

 

「カーカッカッカッ!! 凡夫どもめ、この言霊の素晴らしさと様式美を理解できぬとは……!」

 

「……古男……お前、めちゃくちゃセンスが良いな!!」

 

砕蜂だけが目を輝かせていた。

 

一護はそちらを見た。

 

浦原も見た。

 

一心と海燕も見た。

 

「クックック……蜂の子よ。貴様にはやはり、高尚な芸術の見どころがあるようだな」

 

砕蜂は満更でもなさそうに胸を張っている。

少し離れた場所で、一心が海燕へ顔を寄せた。

 

「……似たもの夫婦であった、ということか……?」

 

「いや……『好きな男がタバコ吸ってたら、体に合わないのに自分も吸い始めるタイプの地雷女』かもしれないぞ、あれは」

 

本人の耳に入れば間違いなく殺されるので、二人とも声だけは小さかった。

古男は何も聞かなかったことにして、一護を岩場の中央へ呼んだ。

 

「よし。一護よ、とにもかくにも実践練習だ。まずはやってみろ。形にならなくてもいい。体内の霊圧を一点に集中して繰り出すのが基本だ」

 

「おう!! やってやるぜ!!」

 

一護が右手を前へ突き出した。

 

形にならなくてもいい。霊圧を一点へ集中する。

 

そこだけは分かった。

 

だからやった。

 

本当に、言われた通りにやった。

 

青白い霊圧が全身から噴き出した。

 

最初は掌ほどだった光が腕を覆い、それでも止まらず周囲の空気まで巻き込み始める。一護本人には「集めろ」と言われたから集めているだけなのだが、見守っていた死神たちの方が先に異常へ気づいた。

 

「い……一護、やめろーーーーっ!! 集めすぎだ!!」

 

「バカ野郎!! ただ集中させるだけじゃなくて、霊圧を制御(コントロール)すんだよ!!!」

 

もう遅かった。

 

 

 

ちゅどーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!

 

 

爆音が遅れて追いついた。

しばらくして煙が薄くなると、さっきまであった岩場の一部が消えていた。

 

「………………こほっ……」

 

一護は髪を逆立てたまま地面へ転がっていた。

 

「…………………けはっ……」

 

近くにいたルキアも全身煤だらけになっている。

海燕は破れた服の端を見ながら、一護と抉れた地面を交互に眺めた。

 

「………………あいつ、鬼道に関しては才能ゼロ……か?」

 

「くくクククククク……」

 

煙の奥から笑い声がした。

 

古男の前には霊子障壁が展開されており、その内側には砕蜂まで一緒に収まっていた。爆発が起きた瞬間に引き寄せたらしく、砕蜂の身体は古男の腕の中へすっぽり収まっている。

 

「鬼道は才能よりも努力よ。センスはないかもしれんが、死ぬ気で反復練習すれば何とかなるかもしれんぞ」

 

縛道の三十九・円閘扇は傷一つない。

その内側にいる二人も同じだった。

 

砕蜂はしばらく周囲の惨状を見ていたが、やがて自分の腰へ回されている腕に気づき、古男を見上げた。

 

「…………古男。私を、守ってくれたのか……?」

 

「ん? 蜂の子よ。夫が妻を守るのは、当然のことであろう」

 

頭の中で何かが弾けた。

 

「………♥♥」

 

顔だけでは足りず、耳まで一気に熱くなった。

 

「どうした蜂の子よ。また俺に惚れ直したか??」

 

「………………はい……。……って、いやいやいや!!! 惚れ直してなどおらん!!!」

 

慌てて離れようとしたところで、古男の顔から笑みが消えた。

 

「むう……そうか……」

 

平然としていたくせに、その横顔だけ妙に寂しそうに見える。

 

「………残念、なのか……?」

 

「うむ。実に残念だ」

 

どうすればいいのか分からなくなった指を胸元で絡ませながら、古男の顔を窺った。

 

「………お前が……その………そこまで本気で私に惚れているのであれば………だな。その…………尸魂界に帰ってからも……いや、まずは『文通の相手』として認めてやらなくも……」

 

最後まで言い切る前に、後頭部へ手が回った。

 

「なっ……!?」

 

そのまま胸元へ引き寄せられる。

 

「な………なにを……!?」

 

逃げようと思えば逃げられるはずなのに、身体が動かなかった。

耳元へ古男の声が落ちる。

 

「勘違いするな、シャオ。俺が貴様に惚れるのではない。……まずは貴様が、俺に惚れるのだ」

 

「……………♥♥♥♥♥」

 

砕蜂は何も言えなくなった。

古男の胸へ顔を埋めたまま完全に力を抜いている。

 

古男はその状態の砕蜂を抱いたまま、岩陰へ顔を向けた。

 

「クックック……! そこな黒猫(タマ)よ!! 悔しかろう!! 我が妻のこのデレデレ具合が!!」

 

「しゃーーーーーっっっっ!!!!」

 

――貴様あああああ! 儂の可愛い部下に何をしとるんじゃーーーっ!!

 

砕蜂は古男の胸へ顔を埋めたまま、まだ赤くなっていた。




赤火砲(しゃっかほう)
破道の三十一。火球を放つ中級の攻撃鬼道。ルキアが得意とする鬼道の一つ。

裁断閃光(さいだんせんこう)
古男が開発(?)したオリジナル鬼道。破道の三十三「蒼火墜」をベースに詠唱と名前を勝手に厨二病仕様に改変したもの。威力は100分の1、消費霊圧は倍という完全な欠陥技だが、見た目のポエム感と砕蜂へのウケだけは抜群。

円閘扇(えんこうせん)
縛道の三十九。円形の強固な霊子盾を展開して前方の攻撃を防ぐ防御鬼道。古男は詠唱破棄でこれを瞬時に展開し、一護の自爆から砕蜂をスマートに守った。

地雷女(じらいおんな)
海燕が砕蜂に対して抱いた疑惑。「好きな男の悪い癖や奇行に無批判で染まってしまう女性」のこと。砕蜂の古男に対する盲目的な肯定ぶりがこれに該当している。

まずは貴様が俺に惚れるのだ
古男が放った傲岸不遜かつキザすぎる台詞。少女漫画顔負けの強引な抱擁と相まって、純情な砕蜂の乙女心を完全にノックアウトした。
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