我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
六番隊隊長・朽木家現当主。総隊長と海燕から「一心の極秘任務」と「ルキアが一護と恋に落ちて現世に滞在している」という話を聞かされ、妹の相手を見極めるべく黒崎家を電撃訪問。真面目すぎるが故に壮大な勘違いをしたまま、一護の素質を高く評価する。
黒崎一心(くろさき いっしん)
一護の父。生存が尸魂界に知られたため、普通の義骸へ乗り換えて死神への復帰準備を進める。突然現れた白哉の重厚な威圧感と、ルキアとの熱愛疑惑に冷や汗を流す。
黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年・死神代行。週末の特訓を経て瞬歩を実戦投入しつつ、夜な夜なルキアと鬼道の練習に励む。放った「白雷」が弱すぎて虚に煽られるも、一刀両断する。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。相変わらず一護の部屋の押し入れに生息。一護の繊細さに欠ける鬼道にダメ出しをする。兄が見張りに来ていることにはまだ気づいていない。
黒崎夏梨・黒崎遊子(くろさき かりん・ゆず)
一護の双子の妹たち。月曜日に死神や親父の事情を一通り説明されたため、夜中にやってきた美形貴族(白哉)にも動じず対応する。
戸川古男(とがわ ふるお)
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では空座高校の英語教師「GTT」。
戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
二番隊隊長。古男の抱擁以降、完全な「デレ期」に突入し、体育の授業が異常なほど甘々になっている。
激動の週末が明けると、海燕は予定通り尸魂界へ戻っていった。
一心の生存も上層部に正式に認知され、これまでのように「死んだことになっている元隊長」として身を潜める必要はなくなった。
浦原の手で霊力を回復できる通常の義骸へ乗り換え、医院の仕事を続けながら、少しずつ死神としての感覚も取り戻している。
空座高校では、古男が相変わらず暗黒英語なるものを教え続けていた。授業内容そのものは分かりやすいのに、例文へ突然「深淵」「漆黒」「黄泉」といった単語を混ぜるため、石田だけは毎時間のように頭を抱えている。
一方、体育教師の梢綾には別の異変が起きていた。
「よし、今日は無理をする必要はないぞ。跳び箱は怖いと思ったら一段下げてもよい。怪我をしては意味がないからな」
つい先週まで「恐怖心は踏み越えろ!」「足を止めるな!」と隠密機動式の指導をしていた教師とは思えない。失敗した生徒にも怒鳴らず、できれば普通に褒め、補助の際には微笑みまで見せる。
ルキアだけは、その原因に心当たりがあった。
――砕蜂隊長が……壊れた……!
週末の地下修練場で古男に抱き締められて以降、明らかに機嫌が良い。
ちなみに、そんなルキア自身の生活環境はほとんど変わっていない。
黒崎家に正式な居候として認められた後も、一護の部屋の押し入れを気に入り、そのまま寝床として使い続けていた。布団を敷けば意外に快適で、狭くて暗いところが妙に落ち着くらしい。
そんな日常が数日続いた、水曜日の夜だった。
黒崎医院の診療時間も終わり、居住スペースで家族が思い思いに過ごしていた頃、玄関のチャイムが鳴った。
「はいはーい。どちら様?」
夏梨が玄関へ向かい、何気なく扉を開けた。
そこに立っていた男を見て、一瞬だけ声が出なかった。
長身の男だった。整いすぎた顔立ちはむしろ近寄りがたいほどだった。夜分に民家を訪ねてきた人物とは思えない服装なのに、本人にはそれが普段着なのだろう。
「夜分に恐れ入る。こちらに志波……いや、黒崎一心殿がおられると聞いて参ったのだが……。御息女か?」
「は………はい。どういった御用でしょう?」
夏梨は思わず敬語になった。
――すっごいイケメンだけど、なんか寒気がする……。
「いえ……志波海燕殿から聞きましてな。挨拶にと」
「そうですか……どうぞ。……おーい、ヒゲ! お客さん!!」
奥から一心の返事が聞こえた。
「はいはい、どなたかな〜……って、お……お前はッ!!?」
玄関まで出てきた途端、顔が引きつった。
「久しいな、志波一心」
その声を聞いて、今度は遊子まで奥から顔を出した。
「お兄さん……どちら様ですか?」
「朽木……白哉と言う。ルキアの兄だ」
「「ええええええ!!!!?」」
夏梨、遊子の声が揃った。
ルキアから兄がいるとは聞いていた。
だが実際に現れたのが、どう見ても高校生の妹を持つ兄という年齢ではなく、しかも一心まで露骨に狼狽えている。
白哉はそんな反応を気にせず、一心へ向き直った。
「……総隊長殿より話は聞きました。志波一心、現世における長きにわたる極秘任務……実に見事だ」
「あ……ああ。まあ、色々とな……」
一心は笑った。笑うしかなかった。
――極秘任務。
古男と山本が何をどう話したのかは知らない。
だが目の前の白哉が完全に信じ切っている以上、今ここで「いや本当は違う」と訂正する勇気など一心にはなかった。
「でだ。私がここに来たのは、その任務の話ではない。……総隊長殿からの話では、ルキアが貴殿のご子息と恋に落ち、それ故に現世に留まっていると。志波家の方を疑うわけではないのだが……朽木家当主として、どれほどの男か見極めに来た次第……」
一心の背中を冷たい汗が流れた。
「そ………そうか……わざわざすまんな……」
――海燕と古男、どこまで話を盛ったんだよ!
白哉本人は至って真剣だった。
妹が現世で暮らしている。
しかも、名門志波家の血を引く少年と恋仲になっている。
当主として直接確かめに来る。
そこまでの理屈に、本人の中では何一つ不自然なところがないらしい。
「こちらこそ、妹を居候させてしまい申し訳ない。これは今までの生活費だ」
懐から取り出された封筒は、封筒と呼んでいいのか迷うほど分厚かった。
一心が受け取った瞬間、手首が僅かに沈む。
中身を確認しなくても分かる。
札束だ。
それも、ルキア一人が押し入れで寝泊まりした程度では到底消費できない額である。
「して、志波一心。ご子息とルキアはどこに?」
一心がどう答えるべきか考える前に、夏梨が普通に答えた。
「一兄なら、ルキアさんと一緒に悪霊退治に行ったよ?」
「なんか、新しい鬼道を試すとかなんとか言ってました〜」
遊子も続ける。
月曜日の夜、一心と一護から死神について最低限の事情は聞いている。最初こそ驚いていた二人も、一護が夜中に家を抜け出して虚を倒しに行くことについては、すでに「また一兄が変なことに巻き込まれている」程度の扱いになり始めていた。
「なるほど……座学にとどまらず、実戦の中で鍛錬を重ねるとは……なかなか剛毅なご子息だな。見どころがある。……では、私もその様子を見てみるとしよう」
「……お、俺も行く」
一心もすぐに立ち上がった。
――一護が変なこと口走らないか見張らねえと!
白哉一人を向かわせるより、どう考えても安全だった。
◇◇
公園の裏手では、一護が虚を相手に右手を突き出していた。
週末の鬼道修行で盛大に地下修練場を吹き飛ばして以来、まずは「爆発させない」ことを目標にしている。
「このっ……! 集中して……破道の四……『白雷』!!!!」
指先から白い光が走った。
ピチュン。
虚の皮膚に当たる。
パチッ。
それで終わった。
「……げぎゃゃゃゃゃや!! なんだ今の!? そんなものが効くかよバカ野郎ーーーっ!!」
一護はしばらく虚を見た。
自分の指を見る。
もう一度、虚を見る。
「……あっそ。じゃあな」
瞬歩で一気に距離を詰め、巨大な刃を横薙ぎに振り抜く。
虚は一撃で真っ二つになった。
「一護! 霊圧の暴走を抑えられるようになったのは良いが、あれでは弱すぎるぞ!! 鬼道には繊細なコントロールが必要なのだ!」
「そうは言ってもよ! 動き回る敵と戦いながらだと、そこまで細かく集中できねえんだよ!」
「ええい口答えをするな! 瞬歩はあっさり習得したくせに、鬼道はまだまだだな……!」
「うるせえ! お前だって赤火砲で岩しか壊せなかったじゃねえか!」
「岩を壊せれば十分だろうが! 今のお前の白雷は肩凝りすら治せんぞ!」
「だったら動いてる奴相手に手本見せろよ!」
少し離れた木陰から、白哉は二人を見ていた。
隣にいる一心には、一護とルキアがいつもの調子で言い争っているようにしか見えない。
白哉には違うらしい。
「うむ…………。瞬歩は見事だ。足裏の霊圧制御、基本が実によくできている。鬼道はまだまだ粗削りだが、斬術の踏み込みは良い。始解をしていないので真の評価はまだ出せんが……ルキアもあそこまで気兼ねなく、仲良く打ち解けているようだ」
「………………」
一心は息子たちを見る。
「鬼道が下手だっつってんだろ!」
「下手とは言っておらん! 未熟だと言っているのだ!」
「同じだろうが!」
「違う!」
――あれ、ただの喧嘩に見えるけど……シスコンには『仲睦まじい痴話喧嘩』に見えてるのか……?
見方を変えれば、確かに距離は近い。
遠慮もない。
互いの性格もかなり分かってきている。
だが恋愛かと言われれば、一心にはまったくそうは見えなかった。
「志波一心」
「……あ、ああ」
「明日、また改めて来よう。そのときは、ぜひご子息に直接挨拶をさせてくれ」
「………ああ」
一心は頷いた。
断る理由もない。
ただし心の中では、すでに別のことを祈っていた。
――頼むから穏便に済んでくれよ……。
その少し先では、一護とルキアがまだ鬼道について言い争っていた。
白哉はその様子を見ながら、どこか満足そうに頷いていた。
銀白風花紗(ぎんぱくふうかしゃ)
朽木家当主のみが着用を許される最高級の家伝の布。屋敷が何棟も建つほどの価値がある。白哉はこれを巻いた正装のまま黒崎家へやってきた。
白雷(びゃくらい)
破道の四。指先から強力な雷撃を放つ下級鬼道。本来は貫通力に優れるが、一護は暴走を恐れて霊圧を絞りすぎたため、静電気レベルの威力になってしまった。
通常の義骸
浦原が一心のために用意し直した義骸。以前の「霊力を完全に封じる特殊義骸」とは異なり、死神本来の霊力回復を妨げない設計になっている。
白哉の勘違い
「ルキアが一護に力を貸して現世に留まっている」という事実を、総隊長・海燕・古男の根回しによって「五大貴族の若者同士が恋に落ちたため」と説明された結果、白哉の中で一護は「妹の将来の伴侶候補(志波分家の嫡男)」として認識されている。