我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座高校1年・死神代行。ルキアとの「偽装婚約」を演じる羽目になるが、亡き母への想いを語ったことで白哉から規格外の好評価と敬意を勝ち取ってしまう。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。首を飛ばされないために必死で「良家のお嬢様」を演じる。白哉から恋次の抜け殻状態を聞かされ、激しい罪悪感に襲われる。
朽木白哉(くちき びゃくや)
六番隊隊長・朽木家当主。融通の利かない厳格さを持つが、一護の「魂の誇り」に深く胸を打たれ、妹の夫として正式に認めてしまう。
黒崎一心(くろさき いっしん)
一護の父。元・十番隊隊長。嘘を突き通すために息子たちへ演技を強要し、後に届く結納や援助金の山に頭を抱える。
阿散井恋次(あばらい れんじ)
六番隊副隊長。ルキアが「現世の男(五大貴族の御曹司)」と婚約したという噂を聞き、魂が抜けた残骸と化している。
戸川古男(とがわ ふるお)
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では英語教師「GTT」。この壮大な勘違い劇の元凶の一人。
翌朝、朝食の席で、一心が昨夜の来客について口にした。
「なに!? ルキアの兄貴が来てる!!?」
「ああ。昨夜うちに来てな、今日改めてお前に挨拶をしたいと言ってるんだが……」
「に、兄様が直々に現世へ……!?」
ルキアの反応を見る限り、ただの家庭訪問では済まなさそうだ。
一護には白哉と会った覚えすらないのだが、兄から見れば、十分に怪しい状況ではある。
「俺、なんか失礼なことしたか?? ……あ、もしかして死神の間では『他人に力を渡すことはプロポーズを意味する』とかいうイカれた風習でもあんのか!?」
「そんなものはない」
一心とルキアの声が重なった。
「なら何の用だよ!!」
「実はな……ルキアの処分をどうにかするために、総隊長たちが中央四十六室へ出した説明があるんだ。『ルキアは任務で現世に来て、そこで偶然、一護に出会い、虚の襲撃に対して緊急避難的に死神の力を貸与した』ってところまでは、お前も聞いただろ?」
「ああ」
「問題は、その後だ。力を貸しただけなら、なんでルキアが二週間も尸魂界へ帰らず、お前の部屋に住んでるんだって話になる」
「……嫌な予感がしてきたぞ」
「そこでな。二人は現世で恋に落ち、将来を誓い合った。だからルキアはお前のそばに残っている――ってことになった」
「何なんだよそのあり得ない言い訳はよぉぉぉっ!! 断ってくれよ!!」
「そうだ!! 私と一護が恋仲などと……そ、そんなこと、恋次になんと言えば……!!」
「お前、最近はあいつと疎遠だったんじゃなかったのか??」
「むむっ! そ、そうだ! あいつとは別にそんな仲ではない!!」
現世へ来てから古男と砕蜂のやり取りを散々見せつけられたせいで、男女の仲というものを以前ほど他人事として片づけられなくなっている。
もっとも、一護の方はそんな変化に気づく様子もなく、目下の問題である白哉の訪問しか気にしていなかった。
「しかしだな、その理由で中央四十六室まで書類が行っている以上、ある程度は『婚約者同士』の演技をしてもらわないと……」
「演技しなかったらどうなるんだよ?」
「最悪、虚偽報告の罪でここにいる死神全員の首が飛ぶかもしれん。白哉の奴はクソ真面目だからな、口裏合わせなんて絶対にやらんぞ」
一護とルキアの間から、それまでの勢いが消えた。自分たちが恥をかくだけなら好きなだけ否定できる。
しかし古男や一心、海燕まで巻き込んだ話が全部ひっくり返るとなれば、恋愛感情の有無など些細な問題だった。
一護がルキアへ向き直った。
「ルキア………今から俺達は『婚約者』だ」
「そうですわね!! 一護様!!」
驚くほど迷いなく結託した。
その瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
「来やがった……か」
◇◇
白哉を前にすると、一心から叩き込まれた最低限の礼儀作法くらいは守った方がよさそうだと、一護にも分かった。
隣のルキアも普段の制服姿とは違い、背筋を伸ばして静かに座っている。学校で一護と怒鳴り合っている時には忘れそうになるが、こいつも本当に貴族の娘なのだ。
「志波一護殿、お初にお目にかかる。朽木家当主、朽木白哉だ」
「黒崎一護です。先日は気づかないこととは言え、ご挨拶もせず申し訳ございませんでした」
「私も気づかず、自分の未熟さを恥じるばかりです」
「そう畏まらずともよい。ここは卿の家だ。朽木家の屋敷に来る時に礼法を守ってもらえれば、とやかくは言わぬ」
「それは……ありがたいです。こういう堅苦しいのは不慣れなもので」
「現世で慣れるようなこともあるまい。だが、わきまえた言動ができると言うだけでも良いことだ。……して、一護殿。先ほど『黒崎』と名乗ったようだが……?」
婚約の話をどう切り抜けるかばかり考えていた一護には、そちらを問われるとは思っていなかった。
「俺は黒崎で育ったからな。今さら貴族だ何だ……いや、黒崎はおふくろの姓だ。そうそう捨てられるもんじゃねーよ。……です」
「一護!! 兄様、すいません! 貴族の名を軽んじているわけでは……!」
「ルキア、控えよ。今は一護殿と話をしている。……一護殿、卿が思うよりも『志波』の名は重い。それでも、黒崎を名乗ると?」
五大貴族の一つだと言われても、一護にはまだ志波という名の重さを実感できない。
海燕や一心の態度から、軽いものではないことくらいは分かる。だが、それと黒崎を捨てることは別だった。
「ああ。黒崎は……俺を守るために死んだ、お袋の姓だ。だからだ」
白哉の前だから言ったわけではないし、婚約者を演じるためでもない。
姓を捨てる理由が、一護にはなかった。
「…………よし。まずは卿の気持ちを認めよう。肉親を想い……信念を己の口に乗せる。これこそが男の条件だ。だが掟は掟、その時が来れば、掟を守ることはよく考えてくれ」
「……俺の魂に逆らわない道ならな」
「良い答えだ。私にも………いや、詮無いことだ。黒崎一護殿、卿の誇り高き魂に敬意を表する。……妹を、ルキアをよろしく頼む。強がりな娘だが……心優しい娘だ」
朝から準備していた婚約者らしい台詞は、結局一つも役に立たなかった。
白哉から真正面に妹を頼まれ、隣のルキアを見た時、一護には気の利いた芝居などできなかった。
「……そんなことは………わかってるよ……です」
「うむ。志波……黒崎一心殿、邪魔をした。御暇させていただこう」
「もう帰るのか? 昼飯でも食っていけばいいのに……」
「少し無理をして出てきたのでな。だが……その価値はあった」
「兄様……」
「お前が決めた男なら、それで構わん。……だが、恋次には声をかけてやれ。魂が抜けた残骸のようになっていて、使い物にならん」
「…………恋次……」
白哉が帰ったあと、一護はようやく張っていた肩の力を抜いた。
白哉は疑うどころか、最後には妹を任せて帰ってしまった。
「なあ親父。……あれで本当に良かったのか?」
「白哉が納得したなら、今日のところはいいんじゃねえか?」
そう言いながらも、一心の声には妙な引っ掛かりが残っていた。
それが何だったのか分かったのは、数日後の朝だった。
黒崎家の前に大型トラックが一台停まり、続いて二台目、三台目までやって来た。
積み荷は高級な反物に食器、家具、食材、調度品。
ルキア一人の生活費としては明らかに桁がおかしい援助金まで添えられ、荷物の最後には、一護にも意味が分かるほど立派な文字で書かれた目録が残っていた。
『結納之品』
その隣には、さらに一枚。
『朽木家・志波家 両家顔合わせ日程調整書』
「誰がここまで話進めろっつったんだよおおおおお!!!!」
◇◇
尸魂界へ戻った白哉を待っていたのは、数日前からまともに仕事が手につかなくなっている恋次だった。
「恋次……」
「朽木隊長………………どうでした? 現世の……ルキアの婚約者は……」
恋次としては、何か一つくらい悪い話を持ち帰ってきてほしかった。
礼儀がなっていないでも、朽木家には相応しくないでも、まだ未熟だでもいい。
白哉が認めなかったという事実さえあれば、そこへ縋ることができた。
「実に良い男であった。ルキアの夫として、何一つ申し分あるまい」
――あの厳格な隊長にそこまで言わせるなんて……一体どれほどの化け物なんだ……。
それでも、強さならまだ勝負になるかもしれない。
恋次も六番隊副隊長まで上がってきた。
相手が志波家の血を引いていようと、それだけで負けたつもりはない。
「……つ、強いんですか? そいつは」
「――強い。……その『魂』がな」
――魂が強い……!? 勝ち目がねえ……!!
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
六番隊隊舎に、副隊長の号泣が響き渡った。
偽装婚約(ぎそうこんやく)
ルキアの死神能力譲渡を不問にするため、一護とルキアが咄嗟に結んだ婚約者のフリ。しかし白哉が本気で受け止めたため、後戻りできない事態へ発展する。
魂の誇り
一護が語った母への想いと自立心。かつて妻・緋真(ひさな)のために貴族の掟を破って結婚した白哉にとって、一護の信念は深く共感できるものであった。
魂が抜けた残骸
ルキアが五大貴族の男と婚約したという噂を聞き、ショックで生ける屍と化した阿散井恋次の状態。
朽木家の結納
四大貴族筆頭の格式に則った結納品と援助金。現世の黒崎医院を丸ごと買い取れるレベルの天文学的な額が動いている模様。