我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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戸川古男(とがわ ふるお)
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では英語教師「GTT」。自作のゴシップ新聞「暗黒の瓦版」を校内にばら撒いて一護を追い詰めるが、茶渡の負傷とインコに憑く霊(シバタ)の異変を即座に見抜き、一護へ虚(シュリーカー)の討伐を命じる。

戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
二番隊隊長。すっかり古男に毒され、ゴシップの号外配りにノリノリで加担する。巨漢の茶渡を片腕一本で軽々と担ぎ上げて保健室へ連行する怪力を見せる。

黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年・死神代行。偽装婚約の噂を学校中に拡散されて発狂寸前になるが、親友・茶渡の危機とシバタの叫びを聞き、死神として立ち上がる。

朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。教室で噂を必死に否定するが、教師夫婦(古男&梢綾)の連携プレーによる情報操作に完全敗北する。

茶渡泰虎(チャド)(さど やすとら)
一護の親友。驚異的な頑丈さを持つ大男。呪われたインコ(シバタ)を保護したことで命を狙われ、満身創痍の状態で登校してくる。


古男教師バージョン

【挿絵表示】



暗黒の瓦版と呪われし小鳥

金曜日の朝、高校の昇降口へ入った時から、一護は自分の名前がやけに聞こえることに気づいていた。

露骨にこちらを見てから声を潜める奴もいれば、視線が合った途端に笑いを噛み殺す奴もいる。髪の色のせいで昔から目立つことには慣れているが、今日のそれは明らかに種類が違う。

 

靴を履き替えて廊下へ出ても、階段を上がっても、その妙なざわめきは先回りするようについてきた。

 

「おい、聞いたかよ……!?」

 

「マジかよ、黒崎とあの転校生の朽木さんが……!?」

 

どう考えても自分とルキアのことだった。

 

昨日、白哉との顔合わせをどうにか乗り切ったばかりである。婚約の話は尸魂界側の揉み消し工作に必要な偽装で、現世の学校にまで広まるような話ではないはずだった。

 

それなのにクラスへ近づくほど人の声は増え、教室前まで来た頃には、もう聞き間違いでは済まなくなっていた。

 

「なんで学校中にバレてんだよおおおおお!!!??」

 

教室の中では、一護より先に登校していたルキアが人だかりの中心にいた。

質問を浴びせられるたびに必死で否定しているのだが、焦れば焦るほど言葉選びがおかしくなっている。

 

「ち……違うのだ皆の者!! 私たち二人は決してそのような破廉恥な関係では……!!」

 

よりによって破廉恥などという単語を持ち出したせいで、ただの婚約話だったはずの噂に余計な色まで付いたらしい。

周囲の興味が一段階上がり、今度は同棲だの卒業後だの、誰がどこから拾ってきたのか分からない話まで飛び交い始めた。

 

その向こうで、原因そのものが教卓の上に立っていた。

 

「クックック………!! 愚かな子羊どもよ、我が発行せし『暗黒の瓦版』をとくと見よ!!」

 

古男が掲げているのは、新聞紙ほどの大きさに刷られた真っ黒な瓦版だった。見出しだけで一護とルキアの名前が紙面の半分を占領し、余白にはどう考えても学校新聞には必要のない意匠まで入っている。

 

「『特報! 黒崎一護と朽木ルキア、電撃婚約!! 卒業後には婚姻を結ぶ予定だ!! 現在も同じ部屋で寝起きを共にしており……ククク、婚姻よりも子供が生まれる方が早いかも知れんぞ!!』」

 

「どこまで書いてんだてめええええええ!!!」

 

婚約までなら、まだ尸魂界でそういうことになってしまったという事実がある。

しかし、そこから先は一文字残らず古男の捏造だった。

 

押し入れまで含めれば確かに同じ部屋ではあるものの、それを「寝起きを共にしている」と書くあたりが悪質すぎる。

 

一護が教卓へ向かおうとしたところで、今度は前方の扉が勢いよく開いた。

 

「号外〜! 号外〜〜!! あの黒崎一護をめぐる女たちの血で血を洗う争いだ!! 朽木ルキアだけではなく、井上織姫、有沢たつきが黒崎を取り合っている!! モテる男は違うぞ!!」

 

梢綾まで、大量の瓦版を抱えて入ってきた。

 

古男だけならまだ一人を捕まえれば済んだものが、夫婦で印刷と配布を分担している。

しかも梢綾が新たに織姫とたつきの名前まで加えたせいで、朝から一護とルキアだけへ向いていた好奇の目が教室全体へ一気に散った。誰かが否定すれば「じゃあ本命は誰だ」と別の誰かが騒ぎ、瓦版を手に入れた連中が周囲へ内容を読み上げ、古男は教卓の上から追加分まで撒いている。

 

「何が『モテる男は違うぞ』だバカ夫婦ーーーっっ!! 何のつもりだあんたらは!!!」

 

「クックック……若者の色恋を陰ながら応援してやろうという、担任教師の深き慈愛よ」

 

「学校中に撒く慈愛があるか!!」

 

梢綾は古男の横で堂々と残りの瓦版を抱えていた。

 

「安心しろ黒崎。まだ職員室には三十部しか配っていない」

 

「安心できる要素が一個もねえよ!!!」

 

一護が本気で二人まとめて止めに行こうとした、その時だった。

 

「…………一護」

 

教室の後ろから聞こえた声に、一護は反射的に振り返った。

 

「チャド!! 頼むからお前まで信じないでくれ、そんなわけねえだ……ろ……?」

 

そこから先は、瓦版どころではなくなった。

 

茶渡はいつも通り大きかったが、いつものようにただ静かに立っているだけでは済まない姿になっていた。頭にも腕にも包帯が巻かれ、制服は何か所も裂けている。

 

その両手には、小さな鳥かごがあった。

 

中には一羽のセキセイインコがいる。

 

一護が鳥かごへ意識を向けた瞬間、教室のざわめきとは別のところから、幼い声が届いた。

 

『……ぼ、僕の名前はシバタ……。お兄さんの名前は……?』

 

一護は鳥かごの中を見たまま動かなかった。

 

声は確かにインコから聞こえた。だが鳥が喋ったという感じではない。そこにいる小さな身体とは別の何かが、自分へ語りかけている。

 

――……喋った!? 霊がインコに入り込んでやがるのか……!?

 

古男もすでに教卓から降りていた。

 

「………チャド。その怪我はどうした?」

 

「戸川先生……。これは昨日、工事現場の前を通ったら鉄骨が落ちてきて……これは今日、交差点でオートバイに突っ込まれて……」

 

茶渡はいつもの調子で説明した。

これだけの怪我をする事故へ巻き込まれている。それでも本人は運が悪かった程度に考えているらしい。

 

古男はそれ以上茶渡へ質問しなかった。

 

「…………シャオ。茶渡を今すぐ保健室へ連れて行け。場合によっては救急車を呼べ」

 

「分かった。おい、とっとと来い!!」

 

「いや……俺は大丈夫……うお!?」

 

茶渡の拒否は最後まで続かなかった。

 

小柄な梢綾に腕を取られたと思った途端、百九十センチを超える巨体がそのまま肩へ担ぎ上げられた。教室にいた生徒がまた別の意味で騒ぎ始めたが、梢綾は一切気にせず茶渡を運んでいく。

 

「下ろしてくれ。自分で歩ける」

 

「鉄骨を食らい、オートバイに轢かれた男の『大丈夫』など誰が信用するか。黙って診てもらえ」

 

そのまま二人は廊下の向こうへ消えていった。

 

一護とルキアも、残された鳥かごを見ていた。

 

朝から騒ぎ続けていた教室の中で、その小さなインコだけが、ずっと怯えているように見えた。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

放課後になる頃には、古男の瓦版は校内のほぼ全域へ行き渡っていた。

 

一護としては片っ端から回収したかったが、すでにコピーまで出回っているらしく諦めるしかなかった。どうせ月曜には別の噂が流れる。そう思うことにして、今は朝から気になっていた鳥かごの方へ意識を向けた。

 

生徒のいなくなった一年三組には、古男と一護、ルキアが残っていた。

 

鳥かごの中では、シバタが朝と変わらず大人しくしている。

 

「ククク……そのインコには、死んだ人間の子供の霊が乗り移っているな。一見すれば普通の霊だ。……一護、お前の『魂葬(こんそう)』の実践練習にはちょうど良い相手だが……?」

 

古男に言われ、一護は斬魄刀へ手を掛けた。

 

死んだ人間の魂なら、魂葬で尸魂界へ送ればいい。週末の特訓でも、虚を斬るだけでなく死神の仕事そのものについて教えられている。シバタがインコの中へ入っている理由は分からないが、普通の霊なら送ってやれば済むはずだった。

 

しかし、一護が近づこうとしただけで、シバタの声が激しく震えた。

 

『……だ、ダメだよ……!! 逃げなきゃ……あいつが追ってくるよ!!』

 

「あいつ?」

 

古男も鳥かごへ向き直った。

 

「……あいつ、だと? どういうことだ?」

 

朝から何度も見せていた怯え方が、今はさらに強くなっている。鳥かごから出れば危険なのではなく、どこへ行っても見つかると思っているようだった。

 

一護も急かさなかった。

しばらくして、ようやく幼い声が続いた。

 

『僕……お母さんと二人で暮らしてたんだ』

 

そこから語られた話を聞くうちに、一護は斬魄刀から手を離していた。

 

家へ知らない男が入ってきた。

 

母親が殺された。

 

それだけでも十分だった。

 

だが、その男も死んだ後に虚となり、今度は生き残ったシバタを追い始めた。

 

『あいつが言ったんだ。僕が逃げ切れたら、お母さんを生き返らせてくれるって……。だから僕、逃げたんだ。ずっと逃げた。でも……あいつ、楽しんでるんだ。僕が逃げるのも、怖がるのも……僕と一緒にいる人が怪我するのも』

 

そこで、一護には朝の茶渡の姿が繋がった。

 

鉄骨が落ちた。

 

オートバイに突っ込まれた。

 

ただ運が悪かったのではない。

 

シバタと一緒にいたからだ。

 

ルキアも話を聞きながら、途中から口を挟まなくなっていた。虚が人を襲うこと自体は珍しくない。

それでも、生前に子供と母親を殺し、死後までその子供へ母親を餌にした遊びを続けているという話には、いつもの任務とは違うものがある。

 

古男は鳥かごの前に立ったまま、一護へ言った。

 

「一護よ。十四番隊隊長として……いや、貴様の担任教師として、お前にその外道虚の『討伐』を命じる!!」

 

一護はすぐに答えた。

 

「ああ………言われなくってもな!!」

 

教室の扉が開いた。

 

「……一護。……俺も……行く」

 

茶渡だった。

 

朝よりさらに包帯が増え、身体のあちこちを固定されている。どう見ても虚退治へ同行する格好ではないが、本人はそんなことを気にしていない。

 

その後ろから梢綾も入ってきた。

 

「全く……人の忠告を聞きもしない頑固な生徒ばかりだな」

 

「チャド、お前、その状態で何言ってんだよ。今日は帰れ」

 

「……俺も行く」

 

「同じこと二回言えば通ると思うな!」

 

「三回止めたが無駄だったぞ、黒崎。保健室を抜けようとするたびに捕まえて戻したが、四度目で私も面倒になった」

 

「そこは最後まで止めろよ先生!!」

 

茶渡は一護の抗議には答えず、鳥かごの中へ向けて声をかけた。

 

「……シバタ。大丈夫だ」

 

『チャド……でも、僕と一緒にいると……また怪我するよ』

 

「俺は丈夫だ」

 

一護は包帯だらけの身体を上から下まで見た。

 

「説得力が死んでるぞ」

 

「大丈夫だ」

 

「だからその大丈夫を信用できねえんだよ!!」

 

「クックック……それでこそ我が教え子よ。行くぞ、闇の処刑の時間だ!!」

 

『……お兄さんたち、本当に行くの……?』

 

一護は鳥かごへ向き直った。

 

「ああ。お前はもう逃げなくていい」

 

シバタから返事はなかった。

 

ルキアは斬魄刀を取り、茶渡は包帯だらけのまま鳥かごを抱え直した。

一護が教室を出ようとすると、後ろから古男の声が追ってきた。

 

「クックック……一護よ!! 忘れるな!! 我らが向かうは外道を滅する漆黒の聖戦!! 名付けて――」

 

「普通に虚退治でいい!!」

 

夕方の廊下へ、一護の声が響いた。




暗黒の瓦版(あんこくのかわらばん)
古男が自作した空座高校の非公式ゴシップ新聞。一護とルキアの偽装婚約の噂を面白おかしく脚色してばら撒いた。

シバタ(柴田勇一)
生前に母親を殺害された上、連続殺人犯の虚によってインコの体に魂を押し込められた少年の霊。鬼ごっこと称して命を狙われ続けていた。

魂葬(こんそう)
死神が斬魄刀の柄頭(つかがしら)を整(プラス)の額に押し当て、尸魂界へと送り届ける儀式。

梢綾の怪力
小柄な体躯でありながら、隠密機動・二番隊隊長としての圧倒的な肉体強度と霊圧を誇り、巨漢の茶渡を片手一本で軽々と担ぎ上げることができる。
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