我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では英語教師「GTT」。普段はふざけた演出ばかりだが、「母と子を弄ぶ外道」に対しては一切の冗談を捨て、底知れぬ本物の霊圧と冷徹な殺意を見せる。
戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
二番隊隊長。義骸に入っているため一般人に見え、シュリーカーに人質にされるがノーダメージ。激怒した古男の強大な霊圧に驚愕しつつも、彼を深く気遣う。
黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年・死神代行。シバタを守るために戦うが、古男の「本物の殺気」に言葉を失う。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。斬魄刀「袖白雪」でシュリーカーの爆弾を防ぐ。古男が放った規格外の「裏縛道」を見て、彼がどれほど古い時代の存在であるかに気づき戦慄する。
茶渡泰虎(チャド)(さど やすとら)
一護の親友。霊は見えないが、気配は感じ取れる。シバタを守るために満身創痍で同行する。
柴田勇一(シバタ)
連続殺人犯(シュリーカー)に母親を殺され、インコに魂を封じられていた少年。
シュリーカー
カエルとコウモリを合わせたような姿の虚。生前は連続殺人鬼。古男の逆鱗に触れ、地獄の底へと叩き落とされる。
夕暮れの町を抜け、一護たちが辿り着いたのは、とうに使われなくなった廃工場だった。
崩れかけた外壁の向こうには錆びた鉄骨がむき出しになり、割れた窓から差し込む夕日が、埃の積もった床を赤黒く染めている。茶渡が抱える鳥かごの中では、ここへ近づくにつれてシバタが落ち着きをなくしていた。
『……来る……。あいつ、来るよ……!』
その声に重なるように、工場の奥から笑い声が響いた。
「はーはっはっは! てめえら死神か? 死神の魂は美味いからな……たっぷり食わせてもらうぜぇ〜!」
柱の陰から姿を現した虚は、獲物が増えたことを喜んでいるようだった。
大きく裂けた口から舌を伸ばし、その先にぶら下げた無数の小型のヒルを、床や鉄骨へ次々と撒き散らしていく。
一護は斬魄刀を構えた。
「はあっ!!」
同時に、その横を白い刃が走る。
「舞え……『袖白雪』初の舞……『月白』!!」
ルキアを中心に白銀の冷気が広がり、空中へばら撒かれたヒルをまとめて呑み込んだ。
凍りついた小型爆弾は炸裂する前に白く砕け、夕暮れの廃工場へ細かな氷片となって散っていく。
「き…聞いてねえよ!! なんだその威力は!! こんな奴らなんてよ……!!」
「ナイスだルキア!!」
いつもなら虚を相手に一人で斬り込むしかなかった一護も、今日は背後を気にする必要がない。
袖白雪の冷気を抜けてくるものだけを斬ればよく、シュリーカーは自分が仕掛けたヒルを一つも爆発させられないまま後退を始めていた。
その戦いを、茶渡は鳥かごを守りながら必死に目で追っていた。霊を見る力がまだ十分に開いていないため、一護とルキアの姿は見えても、その先で何が起きているのかまでは分からない。
「………シャオ先生。何が起きてるんだ??」
「お前は霊が見えないのか……だが素養はありそうだな。今、シバタを追ってきた敵と一護たちが戦っているのだ」
そこまではよかった。
問題は、そのさらに後ろだった。
少し離れた鉄骨の上に古男が腰を下ろし、どこから持ってきたのかラジカセを置いていた。
大音量で流れているのは『O2』
夕暮れの廃工場。子供の魂を弄ぶ外道虚との決戦。
そのど真ん中へ、やけに爽やかな疾走感のある曲が響き渡っている。
「ノリが違う!!! ここでなぜそのBGMを流すのだ!!」
ルキアの怒鳴り声にも、古男はラジカセの音量を下げなかった。
「クックック……戦いには音楽が必要であろう」
「選曲の話をしているのだ!!!」
そんなやり取りまで始まったせいで、シュリーカーにとってはたまったものではない。
逃げようとしたシュリーカーの目に、そこで別の人影が入った。
霊圧を完全に抑え、義骸のまま茶渡の隣に立っている梢綾だった。
見た目だけなら、小柄な女性教師でしかない。
シュリーカーは迷わなかった。
「く………動くな!! 動けばこの女を殺す!!!」
一護もルキアも足を止めた。
だが、驚いたからではない。
シュリーカーの爪が梢綾の首筋へ突きつけられているのを見て、一護はむしろ肩から力を抜いた。
「はっはー! 動くなよ。こんな女の細い首なんか、俺が一捻りすれば……」
「……やってみろよ」
「できるものならな。……手首が飛ぶぞ」
「く……!? なんだこいつら! 動くな……! ぐえっ!!!」
梢綾が後ろへ肘を引いた。
それだけだった。
次の瞬間、シュリーカーの巨体は腹から折れ曲がり、錆びた鉄板を数枚巻き込みながら工場の奥へ吹き飛んでいた。
一護は斬魄刀を肩へ担いだまま、呆れたようにそちらを見た。
「まだチャドを人質に取った方がマシだったぜ……?」
茶渡は何とも言わなかった。
自分なら人質として多少は役に立つらしい。
吹き飛ばされたシュリーカーは、瓦礫の中から這い出しながら周囲を見回した。
「く…………ならこれでどうだ!!!」
床へ落ちていた鳥かごへ腕が伸びた。
茶渡が反応するより先に、シュリーカーの爪が籠を掴み上げる。
『ごめんなさい……捕まっちゃった』
「くっ……」
「お前………!! ガキを盾にしやがって……!」
シュリーカーは初めて勝ち誇った。
「ハハハ! これで形勢逆転だ。死神ども、武器を捨てろ! さもないと、こいつの母親のように殺してやるぜえ!!!」
鉄骨の上から流れていた音楽が止まった。
古男がラジカセから手を離した。
「……ほお。……お前、その子の母親を殺したのか?」
「そうさ………俺がまだ生きていた頃にな! 俺は連続殺人鬼としてニュースにも出たちょっとした有名人だったんだぜ?」
シバタを捕まえたまま、シュリーカーは得意げに喋り始めた。
「こいつの母親は面白かったぜえ。もう虫の息だってのに、子供のことだけは離さないんだ……ゾクゾクしたね。だがその先がいけねえ。このガキ、俺の靴紐を掴みやがった。俺があんなことで転んで死んじまうなんてよ……! だから俺は、罰を与えることにした。生き残ったガキの魂をインコに押し込んでこう言ったのさ……『三ヶ月、そのままの姿で逃げ切れたらママを生き返らせてやる』ってな!」
一護の手に力が入った。
「……てめえ……」
シュリーカーは止まらない。
「この罰ゲームの最高に面白いところはよ。ガキを守ろうとした奴を俺が次々に殺していくことよ。その度にガキは弱音を吐きやがる……だがそこで決め台詞だ!『ママがお前を待ってるぜ?』ってな!! ギャハハハハ!!!」
「この外道野郎!!! ゆるさ…………!!」
踏み込もうとした一護の身体が、その場で沈んだ。
「ぐっ……!?」
膝が曲がる。呼吸が詰まる。
まるで頭上から巨大な岩でも落とされたように、全身へ重みが乗った。
ルキアは立っていられず、地面へ両膝をついた。
「ぐあ…………っ!」
霊が見えない茶渡にも関係なかった。
何が起きているのか分からないまま、身体だけが地面へ押さえつけられる。
「ぐぅっ……」
梢綾はかろうじて立っていた。
それでも呼吸は浅くなり、額には汗が浮かんでいる。
「なんだ…………これは………!!」
一番ひどかったのはシュリーカーだった。
「ぐげえええええ………!!?」
シバタの鳥かごを掴んだ腕ごと地面へ押しつけられ、まともに顔すら上げられない。
その中を、古男だけが歩いてきた。
「…………やはり………外道は虫酸が走るな………」
一護は歯を食いしばりながら古男を見た。
これまでにも何度も見た。
地鳴り。
重低音。
煙。
身体を押し潰すように錯覚させる、魁湛の馬鹿げた演出。
「いつもの……の演出……………か……?」
「違う…………!!!」
ルキアの声が震えた。
「霊圧が本物の重圧になって、体中が………押し潰される……!! これが、五席の霊圧か……!?!」
梢綾にも分かっていた。
古男がこれまで見せてきたふざけた演出とは違う。
隊長である自分にまで、抑え込むだけでなく身体の芯へ食い込むほどの霊圧が届いている。
――私にまで…………これほど無差別に重圧が響くなど…………。古男………!
シュリーカーの前まで来ても、古男は笑わなかった。
「貴様は………殺しが楽しいのか??」
「が…………かは…………。俺は……………へへ……へへへへ。そんなに殺して………ねえ……。じょ、冗談だよ」
「………だが、シバタの母親を殺し、子を弄んだのは貴様だろう??」
魁湛が鞘から抜かれた。
音楽はない。
煙もない。
光も出ない。
始解の解号すら口にしなかった。
「俺はな…………。子供と母親を殺す外道は、絶対に許さん。……地獄の底へ、直接俺が落としてやる……!!」
「か………は…………た………助けてくれ………!」
「…………そう言って泣き叫んだ女子供に、貴様はどう答える??」
一閃。
それだけしか見えなかった。
一護には、古男が一度刀を振ったようにしか見えない。
だが、シュリーカーの身体には一筋の傷では済まなかった。
巨体のあちこちへ同時に斬線が走り、崩れた肉体が細かな欠片となって落ちていく。
「じ………冗談じゃねえ………こいつの………顔は…………………本物の……死……………神……」
最後まで言い切る前に、地面が開いた。
そこから伸びた巨大な腕がシュリーカーを掴み、開いた地獄の門の向こうへ引きずり込んでいく。
門が閉じても、しばらく魁湛を下ろしたまま立っていた。
やがて周囲を押さえつけていた霊圧が消え、一護はようやく大きく息を吸った。
鳥かごの扉が開いていた。
その上には、もうインコではない、小さな少年の魂が浮かんでいた。
◇◇
「……………ダメだ。因果の鎖が完全に断ち切られている。これでは元の肉体には戻れん……」
ルキアはシバタの胸元を見ていた。
魂魄から伸びているはずの因果の鎖は、途中からなくなっている。
古男はその断面を見ながら言った。
「いわゆる『植物状態』の原因の何割かはこれだ。因果の鎖がなくなり、魂が体に戻れず、肉体だけが現世で生き続けている状態だ」
「………………。でも、シバタ。尸魂界(ソウル・ソサエティ)に行けば、きっと母ちゃんに会えるぞ」
「……本当?」
「嘘だ」
一護が古男を見た。
「!!」
「いや、甘いぞ一護。死んだ魂は確かに流魂街に送られる。だが、その中でどの地区に送られるかは全くの運だ。途方もなく広い世界で、心中でもしない限り、肉親がどこに行ったのかなど絶対にわからない。それが尸魂界の現実だ」
「そんな………」
「なんと…………過酷な……」
「古男! まだ幼い子供に向かって、そういう言い方は……!」
「だから、体に戻るがよい」
ルキアは眉を寄せた。
「だから因果の鎖が切れているから無理だと……!」
「まずは、体の無事を確認してからだ」
古男はそれ以上説明しなかった。
◇◇
空座総合病院の病室には、シバタ――勇一の身体が残っていた。
生命維持装置に繋がれたまま、眠り続けている。
魂を抜かれてから時間が経っているとはいえ、肉体そのものが死んだわけではない。
古男はベッドの傍らで勇一の身体を確認した。
「ふむ………これなら大丈夫だな」
「何を……どうするつもりだ?」
古男は答えず、勇一の魂を肉体の上へ導いた。
いつものように突然音楽を鳴らすことも、意味の分からない煙を出すこともなかった。
言葉だけが病室へ静かに響いた。
「『白砂の揺籃 逆しまなる瑠璃の門 揺らぎ・滲み・離れ・還り 声なき水面を渡る 七つの影 九つの虚舟 名を失くした常世の客 違えよ 重なれ 結べ 天に背きその晩鐘を鳴らせ』」
聞いたことのない詠唱だった。
ルキアにも、梢綾にも分からない。
「――裏縛道『玉響』」
古男の指先から淡い黄金の光が流れた。
勇一の魂の胸元に残っていた因果の鎖の断端へ光が触れる。
切れていたはずの鎖が伸びた。
まるで、そこにあったはずの続きを思い出したかのように、途切れていた鎖が肉体へ向かって伸びていく。
胸へ届く。繋がる。
梢綾は言葉を失っていた。
ルキアも、何を見せられているのかすぐには理解できなかった。
「こんな…………ことが……!!! 切れた因果の鎖を繋ぐなど……!!」
ベッドの上で、小さな指が動いた。
やがて、閉じていた瞼がゆっくり開く。
「……、…ぼく……」
「勇一…!!」
「良かったな。チャド、シバタ!」
茶渡の声を聞いた勇一が、まだ覚醒しきらない目で周囲を見回した。
「クックック……それで良い。あのような外道に無残に殺されたまま、母親にも会えず魂を送られるなど……決してあってはならないことだ」
「おじさん……! 助けてくれて、ありがとう」
「『お兄さん』だ。俺は見た目は若いと評判でな」
勇一が小さく笑った。
一護も茶渡も、ようやく肩の力を抜いた。
「戸川五席!!! …………これは………『禁術』……ですよね?」
「いいや。そんな指定ができる前の時代の術だ」
「ち……ちょっと……待て……貴様は、一体いつの時代から……!?」
ルキアが踏み込もうとしたところへ、梢綾が入った。
「ルキア………それ以上は踏み込むな。私が、後で彼から聞くから」
古男は何も答えなかった。
ただ、まだ寝ぼけた顔で自分たちを見ている勇一へ目を戻した。
月白(つきしろ)
ルキアの斬魄刀『袖白雪』の初の舞。指定した円陣の中の天地を全て凍りつかせる。
シュリーカー
生前は連続殺人鬼だった虚。シバタの母を殺し、シバタの魂をインコに封じて弄んでいた。古男の「子供と母親を傷つける者への逆鱗」に触れ、瞬殺された。
因果の鎖(いんがのくさり)
肉体と魂魄を繋ぐ鎖。これが断ち切られると肉体に戻れず死に至るか、虚化のプロセスが始まる。
裏縛道『玉響』(うらばくどう・たまゆら)
古男が使用した、切れた因果の鎖を強制的に結び直す規格外の術。ルキアは禁術だと疑ったが、古男は「禁術指定ができる前の術だ」と語り、自身の古すぎる歴史の片鱗を匂わせた。