我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では英語教師「GTT」。正体は山本総隊長と同年代の超古代死神。自身の結婚式会場としてなぜか「虚圏(ウェコムンド)」を選定し、全隊長格を巻き込む。
戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
二番隊隊長・隠密機動総司令官。晴れて古男の花嫁となるが、卯ノ花からの不穏な既得権益主張や、とんでもない会場設営に振り回される。
黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年・死神代行。古男や砕蜂たちのシゴきにより戦闘技術は向上中。黒崎家総出で尸魂界&虚圏へ招待される。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。一護の鬼道指導係。非常識極まりない結婚式に頭を抱える。
黒崎一心(くろさき いっしん)
元・十番隊隊長。久々の尸魂界帰還を果たすも、元部下たちからの苛烈な「愛の制裁」を受ける。
黒崎夏梨・黒崎遊子(くろさき かりん・ゆず)
一護の妹たち。初めて訪れる死後の世界と、賑やかな志波家の親戚たちに大興奮する。
志波海燕・志波空鶴・志波岩鷲(しば かいえん・くうかく・がんじゅ)
志波家の面々。黒崎家の訪問を大歓待し、一護たちと即座に打ち解ける。
松本乱菊・日番谷冬獅郎(まつもと らんぎく・ひつがや とうしろう)
十番隊の副隊長と隊長。前触れもなく消えて二十年放置されていた元上司・一心へ、怒りの同時ドロップキックを叩き込む。
藍染惣右介・雛森桃(あいぜん そうすけ・ひのもり もも)
五番隊隊長と副隊長。仲人兼司会進行として完璧なスピーチ原稿を用意する藍染。
卯ノ花烈(うのはな れつ)
四番隊隊長。花嫁の砕蜂に対し、「彼のマッサージは週2回」という謎の既得権益を笑顔で突きつける。
山本元柳斎重國(やまもとげんりゅうさい しげくに)
護廷十三隊総隊長。古男の古い本名を知る唯一の幼馴染。
京楽春水・浮竹十四郎(きょうらく しゅんすい・うきたけ じゅうしろう)
八番隊・十三番隊隊長。虚圏で行われる前代未聞の披露宴に引き気味でツッコミを入れる。
涅マユリ(くろつち まゆり)
十二番隊隊長・技術開発局局長。古男の稚拙な挑発にまんまと乗せられ、虚圏での防衛結界維持を押し付けられる。
市丸ギン・東仙要・狛村左陣・更木剣八・草鹿やちる
参列した各隊の隊長・副隊長たち。
六月に入った頃には、一護の死神としての動きもだいぶ様になっていた。
週末ごとに続いた古男たちの特訓は、本人の意思とは関係なくきっちり成果を出しており、瞬歩はもう実戦の中でも迷わず使える。白打も砕蜂に叩き込まれたおかげで、少なくとも喧嘩の延長ではない体術として形になり始めていた。
鬼道だけは別で、暴発しなくなっただけでも大進歩という段階だったが、ルキア曰く「数年やれば人並みにはなるかもしれん」とのことだった。
その合間には、改造魂魄だのいつの間にかコンという妙な存在が黒崎家へ増えていたが、その騒動に限って古男は一切関わっていない。本人も後から聞いて「知らん!! 我が関与していない事件など暗黒史に記す価値もない!!」と言い切ったので、そのまま放置された。
そんな六月上旬の放課後だった。
「はあ!? 来週から1週間、学校も死神も休む!!?」
一護は思わず声を上げた。目の前の古男は白衣の裾を風に揺らし、いかにも重大な秘密を告げるように腕を組んでいる。
「ああ、そうだ。尸魂界にて『魔の集会』が開かれるのでな。俺はそこに漆黒の身を晒し、迷える出席者どもに福音の炎を灯さねばならないのだ……!」
「……なんだそれ……」
意味が分からないので、一護は隣にいた梢綾へ視線を向けた。こちらはジャージ姿のまま、すでに呆れている。
「私たちの『結婚式』のことだよ、一護」
「あんたら、もうとっくに結婚してたんじゃないのかよ!?」
「クックック……籍(戸籍)と魂を結んだとはいえ、厳粛なる儀式を執り行うのは初めてなのだ……」
「……古男……」
「……蜂の子よ……」
二人で見つめ合い始めた。
以前ならここで砕蜂が怒鳴るか古男を蹴るかしていたはずなのに、今では完全に別の空気が流れている。ルキアももう驚かず、生暖かい目で二人を見ていた。
「そうですか……ついに挙式ですか。おめでとうございます」
「お前たち黒崎家もぜひ参列するがよい! 日取りは6月10日の大安吉日だ!!」
一護はカレンダーを確認した。
「……おい。カレンダー見たけど、6月10日は『仏滅』だぞ」
古男は鼻で笑った。
「クックック…………愚問だな一護。我が暗黒の契りに、仏の慈悲など不要なのだ……!!」
――こいつマジでブレねえな……。
◇◇
数日後、黒崎一家は穿界門を抜け、瀞霊廷にある志波家の屋敷へ到着していた。
一心にとっては、二十年近く離れていた尸魂界へ、家族を連れて正式に足を踏み入れることになる。一護にとっても、死神として話だけは聞いていた世界を歩くのは初めてだった。
「まさか俺が、こんな形で尸魂界へ足を踏み入れることになるとはな……」
「へぇー……! これがあの世か。思ってたより普通の江戸時代っぽいじゃん」
夏梨は道の両側を見回しながら、想像していた「死後の世界」との違いを確かめている。
「本当に、お父さんも一兄も死神だったんだねぇ……!」
遊子はまだ半分くらい夢の中にいるような顔で、一心と一護を交互に見ていた。
そして屋敷へ着くと、今度は一護が足を止めた。
「…………でけえな」
五大貴族の一角とはいえ、志波家は非常に大きかった。門をくぐるだけでもそこらの民家とは比べものにならず、奥にはいくつもの建物が連なっている。
玄関から海燕が姿を見せた。
「よく来たな、みんな! まあ上がって寛いでくれよ。うちの家族を紹介するからよ!」
「海燕、久しぶりだな……」
一心が笑って近づくと、海燕の口元も笑った。
ただし、歓迎の笑顔ではなかった。
「一心叔父さん、あんたはゆっくり茶を飲んでる場合じゃねえだろ? ……行くところがあるはずだぜ?」
「?? どこへ……」
「あ」
次の瞬間、二つの影が飛んできた。
「志波隊長ぉぉぉぉぉぉーーーーーーッッッ!!!!」
「志波隊長ぉぉぉぉぉーーーーーーッッッ!!!!」
左右から飛来した松本乱菊と日番谷冬獅郎の両足が、ほぼ完璧なタイミングで一心の顔面と胸へ突き刺さった。
「ごふぅぅぅぅぅああああああああっっっ!!!??」
元十番隊隊長は綺麗な放物線を描いて庭の向こうへ飛んでいった。
二十年間。連絡なし。説明なし。部下を置いて消えた。
現在の十番隊隊長と副隊長が、その積年の感情をどう処理するかについて、一心には選択権がなかった。
その頃、一護たちはすでに屋敷の奥へ案内されていた。煙管をふかす空鶴に迎えられ、岩鷲と夏梨がすぐに意気投合し、遊子まで珍しい料理に目を輝かせている。
庭の遠くから一心の悲鳴が聞こえた。
誰も戻らなかった。
◇◇
挙式の準備が進む中、別室では藍染が仲人としての最終確認をしていた。
几帳面に書かれた巻物には、式次第から挨拶の順序、祝いの言葉まで細かく整理されている。古男から仲人を押しつけられた当初こそ困った顔をしていたが、引き受けた以上は中途半端に済ませる気はないらしい。
「ふむ……仲人としてのスピーチの構成はこれで完璧だね。衣装の帯の結び目も乱れはないか……」
「藍染隊長!! もうすぐ新郎新婦との最終打ち合わせの時間ですよ!」
「ありがとう雛森君。今すぐ行こう」
穏やかに笑って立ち上がる姿は、どこから見ても面倒見の良い隊長だった。
◇◇
新婦の控室では、砕蜂が黒と金を基調にした婚礼衣装へ身を包んでいた。
白無垢ではない。
古男が「我が妻が白一色などあり得ん!!」と言い張った結果、金糸で蜂と渦巻きの紋様を縫い込んだ、どう見ても伝統的な婚礼衣装から一歩踏み外した代物になっている。
まあそれでも砕蜂にはよく似合っていた。
そこへ、卯ノ花烈が入ってきた。
「……………………」
いつもの笑顔だ。
だからこそ、砕蜂の背筋に冷たいものが走った。
「……あの………卯ノ花隊長? 何か御用でしょうか……?」
卯ノ花はしばらく砕蜂を見ていた。
「………………愛していますか?」
「はい?」
「あの方を……心から、愛していますか?」
何を聞かれているのか分からないほどではない。
砕蜂は少しだけ息を整えた。
「…………はい。愛しています」
やがて、いつものような柔らかい笑みに戻った。
「………そうですか」
「???」
そのまま近づいてきた。
耳元まで顔を寄せられた砕蜂は、何を言われるのかと身構えた。
「――彼の、私へのマッサージは『週2回』です。そこは譲りません」
「は、はい?????」
何の宣戦布告なのか理解できない。
それなのに卯ノ花は満足したように微笑み、そのまま静かに部屋を出ていった。
砕蜂だけが残された。
――な、何の話だ……!?
◇◇
新郎側の控室では、古男が羽織を整えていた。
背後に立っているのは山本元柳斎重國である。
「たわけめが………孫以上に年の離れた小娘を娶りおって。己の立場を弁えんか」
「クックック……尸魂界の歴史において、この程度の年の差など珍しく……はあるかもしれんが、前例がないわけではあるまい?」
「……お主がそこまで一人の女子(おなご)に入れ込むとはのう。昔のお主からは想像もつかんわ」
古男は窓の外を見た。
いつもの芝居がかった笑いはなかった。
「ああ……俺自身も不思議だよ、元柳斎」
山本もしばらく何も言わなかった。
「…………そうか。……■■■」
古男は苦笑した。
「おいおい、昔の名で呼ぶなよ。もうこの世界でお前たち以外、誰も知らん名だ」
「……めでたいことじゃ」
「………ありがとうよ」
それだけで十分だった。
◇◇
挙式には、護廷十三隊の隊長、副隊長だけでなく、貴族の重鎮や黒崎家、志波家まで揃っていた。
市丸は周囲に並ぶ顔ぶれを眺めながら、袖の中へ手を入れていた。
「へぇ〜……なんでこんなに四大貴族のお偉いさん方までゾロゾロ出席してはるんです?」
「彼は古い時代から生きる死神だからね。古い名家ほど、彼には頭が上がらないのさ」
藍染の説明に、東仙は首を傾げた。
「そんなものですか…………私は彼とはあまり関わりがありませんが……」
その横では、狛村が古男の方を見ていた。
「………………もう、頭を撫でられることはないのだな……」
東仙がそちらを向いた。
「狛村……? もしかして、寂しいのか……??」
◇
一方、更木剣八は早々に式そのものへ興味を失っていた。
「………ちっ……戦いがねえ宴会なんて、つまんねえな……」
「けんちゃんあっち!! ご飯いっぱいあるよ!! 肉食べ行こ!!」
「仕方ねえな……行くか」
肉があるなら話は別だった。
◇
会場の端では、浮竹十四郎がグラスを持ったまま、ずっと周囲を見回していた。
「京楽……………」
「言うなよ浮竹………。今日はめでたい席なんだから、細かいことは気にしちゃダメだよ……」
「しかし……見渡す限り白い砂と枯れ木……ここは…………」
京楽も、もう誤魔化せないと諦めた。
「……………うん。『虚圏(ウェコムンド)』だね」
そう。
祝言の会場は尸魂界ではなかった。
現世でもない。
どこまでも白い砂漠が続き、月の光すら不気味に見える虚圏のど真ん中に、赤い絨毯が敷かれていた。
絨毯の両側には椅子。
その周囲には巨大な結界。
さらに遠くでは、結界に近づいてきた虚たちが透明な壁へぶつかり、何度も弾き返されている。
古男はその光景を前に、心底満足そうだった。
「カーカッカッカッ!! 我が暗黒の祭典には、現世でも尸魂界でもない『異界の地』こそが相応しいのだ!!!」
「よくこの会場申請の書類を通したよね、山じいも……」
京楽が呟いたところへ、怒鳴り声が近づいてきた。
「何という不合理!! 何という危険極まりない体たらくか!! なぜ敵の本拠地のど真ん中で祝言を挙げねばならんのだ!! 私は帰るヨ!!!」
涅マユリだった。
ここまで来てから帰ると言い出すあたり、本気で不満らしい。
古男は待っていたように笑った。
「クックック………どうやら怖気づいたようだな、黒土(くろつち)よ……」
「貴様……!! 涅(くろつち)だと言っているだろうが!!! 怖気づいてなどいない!! 単にバカバカしくてやってられんと……!」
「なるほど………怖いんだな? いつメノスの群れに襲撃されるかと、足をガタガタ震わせているのだな……!」
「そんな事があるはずがなかろうがァァッ!! 私の研究成果と感知能力を侮るなヨ!!」
古男はそこで、あっさり本題へ入った。
「ならば、この会場の周囲に張られた『対虚・防衛結界』の維持と増幅に全面協力しろ」
「な……! なぜ私が貴様の結婚式のために労働せねばならんのだ!!」
「……そうか。技術開発局局長とはいえ……所詮は貴様程度の霊圧と頭脳では、この広大な結界維持など無理か」
マユリの顔色が変わった。実に単純である。
「誰が無理だとぬかしたヨ!!! 見ていろ、完璧な要塞結界を構築して貴様の鼻を明かしてやるヨォォォッ!!!!」
数分後。
技術開発局局長は自分から装置を持ち出し、結界の補強作業へ全力で取りかかっていた。
古男は何も命令していない。
最後には本人が勝手に「この結界では美しくない」と言い始め、さらに規模を拡大していた。
砕蜂は隣で溜息をついた。
「……お前、本当に人を顎で使うのが上手いな」
古男は婚礼衣装姿の妻を見た。
「クックック……我が愛する妻よ。これで邪魔者はおらん。……世界で最も危険で美しい宴を始めようではないか!」
白い砂漠へ、魁湛のパイプオルガンが響き始めた。
遠くでは虚たちがマユリの強化した結界を叩き続け、結界の内側では護廷十三隊と貴族たちが酒を酌み交わしている。
その真ん中を、黒と金の花嫁衣装を纏った砕蜂が歩き出した。
志波家への帰還
一心と子どもたちが足を踏み入れた名門屋敷。空鶴や岩鷲は甥・姪にあたる一護たちを大歓迎したが、十番隊を無断で蒸発した一心には相応の制裁(乱菊&日番谷のドロップキック)が下された。
卯ノ花のマッサージ既得権益
古男がかつてから卯ノ花個人に対して行っていたとされる施術。新妻となった砕蜂に対し、四番隊隊長としての威厳をもって「週2回のマッサージ枠」を死守した。
■■■■■■(古男の太古の本名)
山本総隊長が知る、古男の真の名。護廷十三隊創設以前、数千年前から生きる彼らの長きにわたる絆を示している。
虚圏(ウェコムンド)ウエディング
古男が勝手に指定した挙式会場。一面の白い砂漠と夜空が広がる虚の本拠地。異界の雰囲気を好む古男の趣味により選ばれたが、出席者にとってはただの超危険地帯である。
黒土(くろつち)煽り
古男が涅マユリを挑発する際の常套句。名前をわざと間違え、プライドを刺激することで、最高難度の結界維持作業をタダで押し付けることに成功した。