我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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戸川古男(とがわ ふるお)
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。八番隊五席。なぜか山本総隊長や卯ノ花隊長をはじめとする古参の隊長たちから異常なほどの厚遇(あるいは完全な放置)を受けている謎多き男。

京楽春水(きょうらく しゅんすい)
八番隊隊長。「なぜ古男は昔からずっとあのままなのか」という疑問を抱き、あちこちで彼の過去や実態を聞き回り始める。

伊勢七緒(いせ ななお)
八番隊副隊長。古男の身元や過去の記録を調査するよう京楽に促す苦労人。

浮竹十四郎(うきたけ じゅうしろう)
十三番隊隊長。京楽の同期であり親友。古男を「戸川先輩」と呼ぶ数少ない人物の一人。

山本元柳斎重國(やまもと げんりゅうさい しげくに)
護廷十三隊総隊長。古男にどれほど不躾なおねだりをされても、文句を言いながら菓子を取ってやる謎の包容力を示す。

卯ノ花烈(うのはな れつ)
四番隊隊長。古男の怪しいマッサージや奇妙なボディタッチを仏の微笑みで受け入れる。

涅マユリ(くろつち まゆり)
十二番隊隊長・技術開発局局長。古男の「幻影の六本腕」に科学者としての探究心を激しく刺激される。

狛村左陣(こまむら さじん)
七番隊隊長。古男に毛並みを絶賛され、拒絶しきれずにモフモフされるがままになる。

朽木白哉(くちき びゃくや)
六番隊隊長。古男と至近距離で一切言葉を交わさず、ひたすら無言で見つめ合う謎の時間を過ごす。


古男という男

執務室から庭を見下ろすと、今日も古男が何かをやっていた。

 

数人の隊士を前に従え、片手を天へ、もう片方を胸元へ添え、見るからに怪しげな格好で立っている。腰に差した魁湛が淡く光るたびに、背後へ実体のない漆黒の翼が広がり、庭にはどこからともなく黒い羽根が舞っていた。

 

「我は深淵より来たりし禁忌の裁定者……! さあ!! 貴様らも己が内なる暗黒を解き放て!!」

 

集められた隊士たちは、どう反応したものかと互いの顔を見合わせている。

その中で、先日の現世任務に古男と同行した隊士だけが妙に真剣な顔をしていた。

 

「俺にも……まだ眠っている力が……?」

 

「ないよ」

 

隣の隊士が冷たく切り捨てる。

 

窓辺でその様子を眺めていた京楽は、頬杖をついたまま小さく唸った。

こんな光景なら何度見たか分からない。

古男が意味不明なことを言い、魁湛がそれを全力で盛り上げ、周囲が疲れる。

それが八番隊では日常になっていた。

 

ただ、七緒に言われて改めて考えてみると、妙なことが一つある。

 

「う〜ん……。あの人、なんで昔からずっとああなんだろうねぇ……」

 

翌日、京楽は十三番隊を訪ねた。

 

縁側では浮竹が茶をすすりながら庭を眺めていた。向かいに腰を下ろし、古男の名を出すと、浮竹は意外そうに京楽を見た。

 

「戸川先輩のことか? 京楽、お前以上に知っている奴なんていないと思うがね……ゴホッ! 俺たちが護廷十三隊に入ったときには、もうあのお方があの席にいたんだから……」

 

「そうだよねぇ……僕らが真央霊術院を出た頃には、もう『十四番隊隊長』って名乗ってあの場所にいたもんねぇ……」

 

若かった頃を思い返してみても、古男の姿は今とほとんど変わらない。

京楽たちがまだ隊士ですらなかった時代から、あの男は八番隊の五席であり、勝手に十四番隊隊長を名乗り、誰にも頼まれていない大仰な演出を撒き散らしていた。

 

「それで今も五席」

 

「今も五席だな」

 

「……変だねぇ」

 

「今さら気づいたのか?」

 

浮竹の返しに、京楽は苦笑して茶をすすった。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

それから少しして、一番隊へ用事があった京楽は、総隊長執務室の前を通りかかったところで聞き慣れた声を耳にした。

 

「クックック……そのような些事、五年後にでもやればよかろう……」

 

思わず足を止める。障子がわずかに開いていたので中を覗いてみると、山本のすぐ隣で、古男が我が家のようにくつろいで茶を飲んでいた。

 

「たわけ!! 今すぐやれ!!」

 

「ふむ……元柳斎、そこの菓子を取ってくれ」

 

「お主の目の前にあるではないか!」

 

「俺は今日、お前を使うと決めてここへ来たのだ」

 

山本はしばらく古男を睨んでいたが、やがて盛大なため息をつき、わざわざ手を伸ばして菓子を一つ取ると古男の皿へ置いた。

 

「ほれ」

 

「うむ」

 

「食ったら掃除へ戻れ」

 

「善処しよう」

 

「今すぐ行けと言うておる!!」

 

京楽は障子の陰からその一部始終を眺めていたが、途中から笑うことすらできなくなっていた。

 

「……普段気にしてなかったけど、改めて見ると恐ろしい光景だねぇ……」

 

総隊長に菓子を取らせている八番隊五席。しかも山本は本気で怒鳴りこそするものの、追い出しもしなければ叩き斬りもしない。

 

古男が何者なのかを知るどころか、疑問だけが一つ増えた。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

次に四番隊へ足を運んでみると、今度はもっと理解しがたいものを見ることになった。

 

総合救護所の奥で、卯ノ花の周囲を古男が怪しげな動きで回っていた。

両手をうねうねと動かしながら肩口や背中へ手を這わせているが、卯ノ花は少しも気にした様子を見せず、いつもの穏やかな笑みを浮かべている。

 

「クックック……卯ノ花ちゃんよ!!! 貴様の肢体は泣いているぞ!!! 霊子の滞りが視えるわ!!」

 

「あら、古男さんは相変わらず楽しそうですね……」

 

「さて、鈍った身体を揉みほぐしてやろう!!!! この『神の指』でな!!!!」

 

「ふふ、ではお願いいましょうか」

 

卯ノ花がにっこり笑って肩を差し出した。

 

物陰から見ていた京楽は、思わず半歩後ろへ下がった。

 

「うわああ……なんで卯ノ花隊長、全く怒らないんだろう……」

 

知らない方がいい気がして、その日はそこで引き返した。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

さらに翌日、十二番隊へ行けば研究室からマユリの怒声が響いていた。

 

「『涅』だ!!! 漢字が違っているだろうヨ!! 邪魔だ、消えてくれたまえ!!!」

 

「カーカッカッカッ!! 細かい男だな黒土よ!!!」

 

「黒土ではない!! 涅だ!!!」

 

「カーカッカッカッ!!! 我が不吉なる『六本の腕』から逃れられるとでも思ったか!!!」

 

「何!? お前に六本の腕があるだと!?」

 

古男が不敵に笑った瞬間、魁湛が怪しく発光した。

 

その背中から、ぬめるような動きで漆黒の腕が現れる。一本、二本と増え、やがて六本。皮膚の皺や筋肉の盛り上がりまで見えるほど生々しいというのに、伸ばした指は机の上の器具を何の抵抗もなくすり抜けた。

 

「愚か者には見えない霊圧の腕よ……!」

 

「な……何という突然変異的霊圧表現……!? いや、これは映像……? 質量がない……?」

 

「ククク……貴様の浅はかな科学では理解できまい……!」

 

「何だと!? おい! その現象をもう一度見せるのだヨ!! 詳しく解析させろ!!」

 

「断る!!」

 

「待て!!」

 

古男が笑いながら研究室を飛び出し、測定器を抱えたマユリがその後を追っていく。

研究員たちは止めるどころか、慣れた様子で二人のために道を空けていた。

 

少し離れたところで見ていた京楽は、とうとう肩をすくめた。

 

「……どこへ行っても自由だねぇ……」

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

その翌日には七番隊である。

 

稽古場を覗けば、古男が狛村の真正面に立ち、その頭を見上げていた。

 

「クックック……そこな人狼よ……貴様の毛並みは実に良い!! 我が至高の手で触らせてもらう!!」

 

「……また貴殿か。断る」

 

狛村が拒絶した頃には、すでに古男の両手はその頭をわしわしと撫で回していた。

頭頂から耳の付け根へ、そこから首筋へ。

最初は渋い顔をしていた狛村も、耳の裏を掻かれたあたりから徐々に目を細め始める。

 

「やめ……貴殿……そこは……」

 

「ククククク!! ここか!! ここがよいのか!!!」

 

「…………」

 

京楽はそっと目を逸らす。

 

「…………五分だけだ」

 

「ハーーーッハッハッハ!! 我が神技の前に屈したか!!!」

 

「……見なかったことにしよう」

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

そうして六番隊まで足を運んだところで、京楽はとうとう意味の分からない場面に出くわした。

 

廊下の中央で、白哉と古男が向かい合っている。

 

何も喋らない。

 

白哉が古男を見る。古男も白哉を見る。

 

十秒。

 

二十秒。

 

三十秒。

 

白哉の霊圧がほんの僅かに揺れ、古男の口元が薄く上がる。すると白哉の眉も目を凝らさなければ分からないほど僅かに動いた。

 

それからまた沈黙が続く。

 

通りかかった京楽はしばらく二人を眺めていたが、結局何も分からなかった。

 

「ふたりで見つめ合って何をしているんだろう……」

 

やがて白哉が無言で一歩横へ退き、古男も同じように一歩退いた。

 

そのまま二人は互いに背を向け、何事もなかったように反対方向へ歩き去っていく。

 

京楽だけが廊下に残された。

 

「……本当に何だったの?」

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

数日後。

 

八番隊の執務室で、七緒は京楽から聞かされた一連の話を最後まで黙って聞いていた。

 

「というわけで七緒ちゃん。戸川五席について色々調べてみたんだけどね……とりあえず『本当にどこに行っても自由な人だ』ってことしか分からなかったよ」

 

七緒は額へ手を当てた。

 

「それは調査ではなく、戸川五席の奇行を見物して回っただけです! せめて過去の職務記録とか、何か残っていなかったんですか!?」

 

「ああ。それなら一番隊の大書庫も調べてみたよ」

 

京楽が懐から取り出したのは、端が崩れかけた古い記録だった。七緒はそれを受け取り、書かれている年号を確認してから、その少し下にある名前へ目を落とした。

 

そこには確かに、

 

『八番隊第五席 戸川古男』

 

と記されている。

 

「……これ、五百年前の記録じゃありませんか」

 

「そうなんだよねぇ」

 

「五百年前から五席!?」

 

七緒の手から書類が滑り落ちた。

 

「昇進も降格もなしにですか!?」

 

「確認できた範囲ではね。僕らが入隊した時にはもういたし、その五百年前にも五席。その前になると古い記録がかなり欠けててさ」

 

京楽は椅子へ深く腰掛けたまま、窓の外へ目を向ける。

 

「ねえ……本当にあの人、何者なんだろうねぇ……」

 

答える者はいなかった。

 

代わりに庭の方角から、

 

「ハーーーッハッハッハ!!!!」

 

と、聞き慣れた高笑いが響いてきた。

 

続いて魁湛の荘厳なファンファーレが鳴り始める。

 

七緒の眉間に皺が寄った。

 

窓を開けると、庭の中央で古男が竹箒を杖のように掲げ、周囲の隊士たちへ向かって何かを宣言していた。

 

「聞け愚かなる民よ!! 今宵、我が失われし第七の封印が――」

 

「戸川五席!!」

 

古男の声が止まる。

 

「掃除は終わったんですか!!」

 

「……ククク。まさか我が過去を知る者が、まだ残っていたとはな」

 

「戸川五席?」

 

「今、何と?」

 

古男は不敵に笑った。

 

「掃除は五年後にする!!」

 

「今すぐやってください!!!」

 

次の瞬間、庭いっぱいに荘厳なファンファーレが鳴り響き、古男は竹箒を抱えて全力で逃げ出した。




真央霊術院(しんおうれいじゅついん)
死神を育成するための士官学校。京楽や浮竹もここの卒業生であるが、彼らが在学していた頃には既に古男は「十四番隊隊長」を自称していた。

魁湛(かいたん)
戸川古男の所持する斬魄刀。今回はマユリの科学的探求心を激しく刺激する「不可視の六本腕」というリアルなホログラム風演出を生み出し、十二番隊を混乱させた。

涅(くろつち)
十二番隊隊長・涅マユリの姓。古男が「黒土」と誤表記したため、マユリから激しいツッコミを受けた。
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