我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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戸川古男(とがわ ふるお)
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では英語教師「GTT」。流魂街の秘湯めぐりで新婚旅行を満喫中。自然体で混浴を楽しむあまり、色気より湯加減を優先して砕蜂をブチ切れさせるが、お仕置きによって妻に未知の性癖を開拓させかける。

戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
二番隊隊長・隠密機動総司令官。古男の妻。新婚の熱情から古男の誘い(混浴)を「夜の営み」と期待して身を委ねるも、あっさり肩透かしを食らって憤慨。しかしお仕置きで尻を叩かれ、新たな悦び(扉)を開きかける。

朽木白哉(くちき びゃくや)
六番隊隊長・朽木家当主。義弟(仮)となった一護に「始解」を教えるべく、由緒正しき正攻法「刃禅(じんぜん)」を8時間付き合うが、教え方がエリートすぎて野生児の一護には全く合わない。命日には真咲の墓参りに同行する。

黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年・死神代行。白哉の指導で8時間座禅を組まされ、巨大な斬魄刀の重みで膝と太ももを破壊される。母・真咲の命日を迎え、ルキアと共に墓参りへ向かう。

朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。兄・白哉の前で完璧な「一護の婚約者」を演じきるべく、ぎこちなく腕を組んで墓参りへ出発する。

黒崎一心(くろさき いっしん)
一護の父。元・十番隊隊長。白哉の「死ぬ寸前まで真剣で斬り合えば覚える」という過激すぎる代替案に真っ当なツッコミを入れる。


秘湯の扉と沈黙の刃禅

街道を外れ、さらに山へ入った先に、その温泉はあった。

 

古男が新婚旅行用のしおりに『霊峰深奥・天地陰陽合一の湯』などと勝手な名前を書き込んでいたため、砕蜂は到着するまで多少なりとも警戒していたのだが、実際には山肌から湧き出した湯を岩で囲っただけの静かな秘湯だった。

杉林の向こうから沢の音が聞こえ、時折鳥が鳴く。宿からも離れているため、露天風呂には二人しかいない。

 

そこまでは、砕蜂も素直に気に入っていた。

 

古男が腰の手ぬぐいを放り捨てるまでは。

 

「ひゃっ……!? こ、古男!! こんなところで………その………全部、見えているぞ……!!」

 

反射的に手で顔を覆ったが、指の間は完全には閉じていなかった。

 

「クックック……何を今さら狼狽えているのだ、蜂の子よ! 大自然の秘湯に男湯も女湯もあるものか!! 夫婦となった今、恥ずかしがる必要など微塵もなかろう。とくと見よ、我が雄々しき肉体を!!」

 

「……大きい」

 

口から出てしまった。

 

古男は聞こえなかったのか、聞こえたうえで無視したのか、そのまま湯へ入っていく。砕蜂の方だけが今さら自分の言葉を理解し、耳まで熱くなった。

 

だが、夫婦なのだ。

 

戸籍上だけではない。あれだけ大勢を集めて式まで挙げた。今朝だって宿で散々――そこまで考えたところで、砕蜂は顔を覆っていた手ぬぐいを下ろした。

 

こんな山奥まで二人だけで来て、古男の方から混浴へ誘ったのである。

 

――そ、そうか……。こんな山奥の秘湯で混浴……これはつまり、そういうことなのだな……!

 

覚悟を決めれば、あとは早かった。

 

湯衣を脱いで岩風呂へ入り、古男の隣まで寄る。湯の熱とは違うものが胸のあたりへ集まってくるのを感じながら、腕へ身体を預けた。

 

「……そうか……良いぞ、古男。私も……その……したい。お前の好きにしてくれ……可愛がって……」

 

古男は気持ちよさそうに目を閉じていた。

 

「そうだな。実にいい湯加減だ。……おい蜂の子、あまり密着するな。肌と温泉の間に隙間がなくなって、せっかくの薬効成分がお湯から染み込まんではないか」

 

「………………なに!!??」

 

砕蜂は思わず身体を離した。

この男は本当に温泉へ入りたかっただけらしい。

 

「折角良い雰囲気というのに、なぜ手を出してこないのだ貴様はァァッ!!?」

 

「……なんだお前? 白昼堂々、露天風呂でやりたかったのか……? 隠密機動の総司令官ともあろう者が、そんな露出狂染みたプレイを好むとは……正直、引くわー」

 

「き、貴様ァァァッッ!!! 誰のせいで女の恥じらいを捨てたと思っているのだァァッ!!」

 

古男は肩まで湯に浸かり、ひどく呆れた顔をしていた。

 

「だいたい、今朝も宿で散々したではないか。覚えたてで四六時中したくなる気持ちは分からんでもないがな……淑女たるもの、もっと慎みというものを持たねばならんぞ? クックック……」

 

「覚えたてだとォォッ!? 誰が初心(うぶ)な小娘かァァッ!! 許さん、万死に値する!! 雀蜂で――」

 

最後まで言えなかった。

 

雀蜂を抜こうとした腕を取られ、そのまま身体ごと引き寄せられる。次に砕蜂が状況を理解した時には、古男の膝の上へうつ伏せになっていた。

 

乾いた音が山中へ響いた。

 

「ひゃぅんっっ!!??」

 

「クックック……夫に向かって針を抜こうとは、不届きな妻め。お仕置きが必要なようだな」

 

「なっ……貴様、どこを――痛っ……! やめ……んっ……あ……!」

 

叩かれるたびに痛い。

当然、痛いはずなのだ。

 

ところが何度か続くうちに、それとは別の熱が背筋を這い上がってきた。

これまでなら怒りしか湧かなかったはずなのに、身体の方が妙に落ち着かない。

 

古男の手が止まる。

 

「反省したか、シャオ?」

 

砕蜂はしばらく答えられなかった。

 

どうしてこんなことを口にしようとしているのか、自分でも分からない。それでも古男を見上げた時には、もう言葉が出ていた。

 

「あ……ぅ……。も、もっと……叩いて……も……良いのだぞ……?」

 

「……おい、急に気味の悪いデレ方をするな。引くわー」

 

砕蜂の中で何かが切れた。

 

「古男ォォォォォッ!!!」

 

山鳥が一斉に飛び立った。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

現世では、一護の方にも長い修行が始まっていた。

 

巨大な斬魄刀を膝へ横たえた一護と白哉が向かい合っている。始解を教えると言った白哉が最初に選んだのは、技を打ち込むことでも、剣を振ることでもなかった。

 

「……おい、白哉の兄貴。これで本当に『始解』ができるようになるのか?」

 

「うむ。これは『刃禅(じんぜん)』と呼ばれる、由緒正しき死神の対話法だ。まず己の内面と深く向き合い、精神世界へと潜る。そこで斬魄刀の本体と対話し、その真の名を聞き出すのだ」

 

「対話ねえ……。精神世界か……」

 

理屈は分かった。

斬魄刀には名があり、その名を知らなければ始解できない。ならば刀そのものと話せばいい。

 

一護も最初のうちは真面目に目を閉じた。

 

雑念を消す。

 

呼吸を整える。

 

刀の声を聞く。

 

しかし、一時間もすると精神世界より先に足の痺れが気になり始めた。二時間、三時間と過ぎれば、痺れは痛みに変わっていく。

 

それでも正面の白哉は動かない。

 

一護が薄目を開けても、最初に見た姿勢のままだった。

 

五時間を過ぎたあたりからは、自分が何と対話すべきなのかも分からなくなった。斬魄刀の声など聞こえない。ただ膝の上に横たわる巨大な刀の重さだけは、嫌というほど伝わってくる。

 

普通の死神なら浅打を膝へ置けば済む。

 

一護の刀は、普通ではない。

 

六時間を越えても白哉は何も言わなかった。

 

一護も意地で黙っていた。

 

八時間目に入った頃には、精神を澄ませるどころか、太腿の骨が本当に折れるのではないかということしか考えられなくなっていた。

 

「………………あの……兄貴……」

 

ようやく白哉が目を開けた。

 

「…………私は…………幼少の頃より、この対話の反復によって千本桜の始解を習得した…………」

 

「……………は、はい……」

 

――この修行法、俺には合わねえええええっ!!!

 

声に出せば、さらに八時間追加されそうな気がしたので黙っておいた。

 

結局、その日は千本桜の名を聞いた白哉の昔話だけが増え、一護の刀は最後まで一言も喋らなかった。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

六月十七日。

 

真咲の命日の朝、一護は昨日の修行の代償を引きずったままリビングへ下りてきた。

 

足の痺れなら一晩寝れば治ると思っていたが甘かった。階段では手すりが要り、椅子から立つだけでも太腿が軋む。八時間もの間、あの巨大な斬魄刀を膝へ載せ続けたせいである。

 

そんな歩き方を見れば、結果を聞くまでもないようなものだった。

 

「一護、結局のところ始解はできたのか??」

 

「いんや……まったく。精神世界どころか、俺の斬魄刀はデカすぎて、8時間も膝の上に乗せてたら太ももの骨が軋んで地獄の苦痛だっただけだ……」

 

白哉はその答えを静かに受け止めた。

 

「…………すまない。私の指導が卿の型に合わなかったようだ。……座禅による対話以外となると、あとは『互いに真剣を持ち、死の極限状態の中で斬り合う』くらいしか思い当たらぬが……」

 

台所から茶を運んできた一心が、そのまま会話へ入った。

 

「おいおい白哉、それって一歩間違えたら覚える前に死ぬってことじゃないか?」

 

「問題あるまい。一護殿ほどの誇り高き魂を持つ男であれば、肉体が果てる寸前に必ずや刀の名を聞き届け、覚醒するはずだ……」

 

白哉は本気で言っている。

一番怖かった。

 

「物騒すぎるだろアンタの教育論!! ……よし、もういい! 今日は母ちゃんの墓参りだ。墓参り行くぞ、ルキア!」

 

「はい! 一護様! お母様にしっかりとご挨拶を差し上げなければなりませんものね」

 

その返事を聞いた瞬間、一護はルキアへ顔を向けた。

 

理由はすぐに分かった。

白哉がいる。

 

ルキアはその視線を意識しながら一護の横へ来ると、いかにも自然にやっているつもりらしい動きで腕を絡めてきた。肩から肘まで妙に力が入り、関節の一つ一つを考えながら動かしているのが丸分かりだった。

 

「おい、腕の組み方が硬えよ」

 

「うるさい、慣れておらんのだから仕方なかろう!」

 

「だったら無理して組むなよ」

 

「兄様が見ているだろう!!」

 

二人とも最後には声を潜めていた。

白哉には、その内容までは届かなかったらしい。

 

「……うむ。実に仲良きことよ」

 

「……頼むからその勘違い、墓前で爆発しないでくれよ……」

 

一護はルキアの腕をほどこうとしたが、白哉の前で拒絶されたように見えるのはまずいらしく、今度は逆に強く掴まれた。

 

今日は六月十七日。

 

黒崎家にとって、一年で一番忘れることのできない日が始まっていた。




刃禅(じんぜん)
死神が斬魄刀を膝の上に置き、深く瞑想して己の内なる精神世界へと潜る正統派の修行法。斬魄刀の本体と対話して「真の名」を聞き出すことで始解を習得する。白哉のようなエリート向きの修行法であり、本能で戦う一護には全く合わなかった。

流魂街の秘湯
古男と砕蜂が新婚旅行で訪れた隠れた名湯。古男にとっては単なる良質な温泉だが、新妻の砕蜂にとっては甘い新婚生活の舞台(のはずだった)。

新しい扉(砕蜂の性癖)
普段は厳格な砕蜂が、古男に尻を叩かれるお仕置きを受けたことで目覚めかけたマゾヒズム的快感。

真咲の命日(6月17日)
一護の母・黒崎真咲が、虚「グランドフィッシャー」に命を奪われた日。黒崎家にとって最も重要な日であり、白哉も敬意を表して参列を申し出た。

白哉のスパルタ教育論
刃禅で覚えられないなら「死ぬ寸前まで真剣で斬り合えば目覚める」という、貴族とは思えないほどバーサーカーじみた実戦覚醒理論。
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