我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座高校1年・死神代行。ルキアとの偽装婚約の嘘が雪だるま式に膨れ上がり、朽木家の財力と行動力によって完全に外堀を埋められつつある。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。一護の婚約者(仮)。兄・白哉が六番隊の優秀な席官を世話係として現世に送り込んできたことで、嘘がバレる恐怖と逃げ道のなさに戦慄する。
朽木白哉(くちき びゃくや)
六番隊隊長・朽木家当主。義弟となる一護と黒崎家への礼儀として、最高級の送迎車や隣の家の買収、優秀な護衛の配備など、財力と権力を惜しみなく行使する。
白鷹光四郎(しろたか こうしろう)【※オリジナルキャラクター】
六番隊四席。朽木家の家臣であり、白哉の幼少期から仕える腹心にして幼馴染。白哉の命を受け、一護とルキアの「護衛兼お世話係」として現世へ派遣された。運転手風のスーツに身を包む。
黒崎一心(くろさき いっしん)
一護の父。元・十番隊隊長。白哉のあまりの規格外な差し入れ(隣の土地付き一軒家)にドン引きする。
黒崎遊子・黒崎夏梨(くろさき ゆず・かりん)
一護の妹たち。母の墓参りの途中で、何者かの襲撃を受け悲鳴を上げる。
六月十七日、黒崎家を乗せた黒塗りの大型車は、真咲の墓がある寺へ向かって坂道を登っていた。
毎年なら家から歩いて向かう。遊子が途中で疲れたと言い出し、一心が「がんばれ游子!」と大騒ぎして逆立ちしてりして夏梨に嫌がられるところまで、もう何年も変わらない。今年は白哉が車を用意したせいで、いつもならそれなりに時間のかかる坂も、家を出て間もなく半分以上を登ってしまっていた。
しかも、ただの車ではない。向かい合わせに据えられた革張りの座席の間には足を伸ばしても余るほどの空間があり、一護には黒崎家のリビングをそのまま車に押し込んだように見えた。
「へぇ〜……車で行くとこんなにあっという間なんだね! いっつも歩きだったから、この坂道きつかったんだよね〜」
遊子は座席へ身体を預け、いつもとは違う墓参りの道中を素直に楽しんでいる。
夏梨は窓の外を眺めながら、さほどありがたがる様子もなく肩をすくめた。
「そうか? 私は歩きでもそうでもなかったけど……。でもまあ、楽でいいや」
一護も窓の向こうを見た。もう少し進めば寺の屋根が見えるはずだ。そこで、この車の大きさと寺の狭い入口がようやく頭の中で結びついた。
「……だけどよ。白哉………の兄貴。あの寺には、こんなデカい車を停められる駐車場がねえぞ?」
「安心しろ。運転手には寺の周囲を一回りしてもらって、用が終わったら電話で呼ぶ手はずになっている」
「はい。白哉様、そのように手配いたします」
それまで黙って運転していた男が答えた途端、ルキアが前方へ身を乗り出した。
「お主…………! まさか、光四郎ではないか!!」
「はい、お久しぶりです。ルキア様。ご健勝そうで何よりでございます」
「なぜお主がここにいる!? 六番隊の四席であろう!! 上位席官が現世になど……」
「はい。隊長……いえ、当主様から直々のお召しですので。現世での特別任務を拝命いたしました」
白哉はそんな妹の反応にも構わず、いつもの調子で話を続ける。
「こ奴は席官である前に、我が朽木家の家臣だ。それに、現世の物事にも明るく便利な男だ。お前達の護衛と、日々の世話に適任だろうと思ってな」
「いやいや白哉! 世話係って言っても、うちはしがない町医者だぞ!? こいつを置く部屋なんてねえぞ?」
一心がすぐに口を挟んだ。一護もそこだけは全面的に同意だった。黒崎家にはただでさえ四人が暮らし、現在はルキアまで一護の部屋の押し入れを占拠している。
この男を追加したところで、寝かせる場所などどこにもない。
ところが白哉には、その問題すらすでに片付いていた。
「その点も抜かりはない。すでに卿の家の『隣の家』を土地ごと買い取っておいた」
「「「……は?」」」
「光四郎には当面そこを拠点とさせる。そして、一護殿とルキアが高校を卒業し、晴れて夫婦となった暁には、新居としてその家に住むがいい」
「ちょ、ちょっと待て!! 新居って……俺ん家の隣に!?」
「そう言った」
「いやそうじゃなくて!! なんでそこまで話が進んでんだよ!!」
ルキアも隣で何か言おうとしているが、口を開いては閉じるばかりだった。
「はっ。この白鷹光四郎、当主様のご期待に背かぬよう、若君様とルキア様に誠心誠意尽くさせていただきます」
「若君様!?」
今度は一護が運転席へ食いついた。
「いや待て、俺いつから朽木家でそんな呼ばれ方する立場になったんだよ!」
「婚約者なのだから当然であろう」
白哉だけは、そんな二人を満足そうに眺めている。
「……そう畏まるな。そこまで感涙にむせばずとも良い。これは我が妹を託す、誇り高き志波家への当然の礼儀だ」
――ちッ……違う!!! バレたら俺たち、絶対に消されるぞォォォッ!!!
一護は隣へ目をやった。
ルキアも、白哉には見えない位置で小さく首を横に振った。今は何も言うな、ということらしい。
「……一兄、着いたみたいだよ」
遊子に言われて窓の外を見ると、見慣れた寺の門がすぐそこまで来ていた。
「ああ」
さっきまで嫌というほど気になっていた隣家の話も、門の向こうに墓地が見えた途端、一護の中ではいったん後ろへ下がった。
車が止まる。
一護は先に降りた。
◇◇
墓前へ花を供え、線香に火をつけた。
細い煙の向こうに、「黒崎真咲」の名前がある。一護はその文字をしばらく見てから、手を合わせた。
去年ここへ来た時には、自分が死神になることも、親父がかつて死神だったことも知らなかった。たった一年なのに、知らなかったことばかり増えた気がする。
何か話そうと思えば、いくらでもあった。
墓の前に立つと、何から話せばいいのか分からなくなった。
――今年も来たぞ、母ちゃん。
一護はしばらくそのまま手を合わせていた。
墓前では誰も口を開かなかった。線香の煙が風に流れ、墓石の上をゆっくりと抜けていく。少し離れたところでは、白哉も真咲の墓へ深く頭を下げていた。
やがて墓参りを終えると、一心が住職に呼び止められた。
「黒崎さん、今年もいらっしゃいましたか」
「ああ。どうも、ご無沙汰してます」
昔からの顔馴染みらしく、そのまま二人の話が始まった。
遊子と夏梨も先に境内の入口近くへ戻っていく。
◇◇
「ルキア。ちょっと来い」
一護は声を抑え、本堂の裏までルキアを連れていった。
「どうすんだよこれ!!! 隣の家まで買われたんだぞ!? このままだと間違いなく、俺たちあと2年で本当に結婚させられちまうぞ!!」
「わかっておるわ!! まさか兄様が光四郎まで現世に連れてくるとは予想外だったのだ……!!」
「だいたい誰なんだよ、あの白鷹って人は……。すげえ手慣れた感じだったけどよ」
「光四郎は、朽木家の分家にあたる家臣の出だ。兄様の子供の頃から小姓として仕えていた人でな……。兄様の信頼も極めて篤く、実力も隊長クラスに近い。ごまかしなど絶対に通用せんぞ……!」
「子供の頃からずっと白哉の兄貴についてるのかよ……。そんな人が隣に住んで、世話まで焼くんだろ? どうやって誤魔化せってんだよ……!」
「それを私に聞くな! 光四郎まで寄越すなど、私も聞いておらん!」
「しかも隣に住むんだろ? ちょっと顔出しに来るとかじゃねえんだぞ。学校から帰ってもいるし、休みの日だっているんだろ?」
「分かっておる! いちいち言うな!」
「……つーか、待てよ」
「なんだ」
「お前、押し入れどうすんだよ」
「…………」
「光四郎さん、隣にいるんだぞ」
「…………まずいな」
「今気づいたのかよ!」
「お前も今気づいたのであろうが!」
「じゃあ俺が床で寝るか。お前がベッド使ってりゃ、とりあえず押し入れよりはマシだろ」
「駄目だ。一護、お前は兄様がどれほど余計なところまで気を回すか、まだ分かっておらん。光四郎がお前だけ床で寝ていると報告すれば、今度は『ルキアとの間に何か問題でもあるのか』と兄様が乗り込んでくるぞ」
「じゃあどうすんだよ。押し入れも駄目、床も駄目って……俺の部屋、ベッド一個しかねえぞ」
そこまで口にしたところで、一護はようやく残っている選択肢に気づいた。
ルキアも同じところまで考えたらしく、しばらく何も言わなかった。
「…………一護。これは、あくまで偽装を続けるためだ。妙な勘違いをするなよ」
「しねえよ。つーか、その言い方でだいたい分かったけど……マジで言ってんのか?」
「他に方法があるなら言ってみろ。押し入れも使えず、お前が床へ寝ることもできん。光四郎がすぐ隣にいる以上、今までのようには誤魔化せんのだ。……同じベッドで寝るしかない」
「…………二年も?」
「卒業までこの芝居を続けるなら、そうなるな」
一護は何か反論しようとしたが、代案が思いつかなかった。
「……この話、古男にどうにかさせられねえのか?」
「兄様相手にあの男を使えば、事態がさらに悪化する未来しか見えん」
「……だよな」
古男なら何かしらやってくれそうではある。だが、その結果どうなるかまで考えると、一護にも頼る気にはなれなかった。
「……なあ、ルキア。兄貴、俺たちが本当に結婚すると思ってんだよな」
「……ああ」
「これ、いつかは言わなきゃなんねえんだろ。ずっと婚約者のふりしてるわけにもいかねえし」
「兄様には……言えぬ」
ついさっき、白哉は真咲の墓前で何も言わずに頭を下げていた。
一護とは血の繋がりもなければ、真咲と会ったことさえない。それでもここまで来たのは、ルキアがこれから黒崎家の家族になると信じているからなのだろう。
「兄様は、私のためにしてくれているのだ。私が選んだ男だからと、お前のことも認めてくれている。……昔なら、こんなことはなかった」
「……そういうこと言われると、ますます言えねえじゃねえか」
嘘だと知れば白哉が怒る。それだけなら、まだ話は簡単だった。
「兄様は、私のためにしてくれているのだ。私が選んだ男だからと、お前のことも認めてくれている。……昔なら、こんなことはなかった」
「……参ったな」
「私もだ」
真咲の墓前で黙って頭を下げていた白哉の姿が、一護の頭に残っていた。
「今さら、全部嘘でしたって言えるかよ……」
「言えるものなら、とっくに言っておる」
「……だよな」
◇
「――一護殿、ルキア」
背後から聞こえた声に、一護は振り返った。
「「は……はい!!!」」
本堂の角に白哉が立っていた。
どこから聞かれていた。
一護が口を開くより先に、白哉は静かに言った。
「……仲が良いのは喜ばしいことだが。いくら若いとはいえ、故人を偲ぶ神聖な墓前の場で、あまり色事に及ぶのは感心しないな」
「「そ、そんなことはないです!! 誓って色事などでは!! はい!!!」」
「……まあ良い。一心殿の話が長引いているようだからな、迎えに――」
その先を、境内の向こうから響いた悲鳴が遮った。
「うわあああっ!?」
「夏梨!!」
続けて、遊子の悲鳴が響いた。
「きゃあああああああっ!!!」
「夏梨!! 遊子!!」
一護が駆け出したところで、虚の気配を感じた。
「この気配は……!!」
「……虚か。行くぞ!!」
白哉の声を聞くより早く、一護は妹たちのいる方へ走った。
隣の家の買収
白哉が志波家(一護)への誠意として、ポケットマネーで行った不動産買収。光四郎の拠点兼、二人の将来の新居として用意された。
6月17日
一護の母・黒崎真咲の命日であり、家族にとって最も悲しい日。しかし、過去の因縁である凶悪な虚(グランドフィッシャー)が再び一護の家族を狙う日でもある。