我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
一護の父。元・十番隊隊長。愛する妻・真咲の命を奪った仇を前に、「死神」としての真の力と、夫としての悲壮な覚悟を解き放つ。
黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年・死神代行。自らの手で母の仇を討ちたいと強く願うが、一心の圧倒的な霊圧と「夫」としての慟哭に触れ、父にすべてを託して妹たちを護る。
朽木白哉(くちき びゃくや)
六番隊隊長・朽木家当主。志波家の誇りある復讐を見届けるため、千本桜で虚の退路を断ち、見届人として名を名乗る。
黒崎夏梨・黒崎遊子(くろさき かりん・ゆず)
一護の妹たち。母の命日に墓地でグランドフィッシャーに襲われ、拘束されてしまう。
グランドフィッシャー
6年前に真咲を殺害した凶悪な虚。疑似餌を使って人間を狩る。圧倒的な死神の群れに包囲され、無惨な最期を遂げる。原作と違い、一護に顔を見られていたようだ。
墓地で、夏梨と遊子は地面から高く吊り上げられていた。
二人の身体には、黒い毛皮に覆われた巨大な虚――グランドフィッシャーの頭部から伸びた太い触手が幾重にも巻きついている。
「むふふ………。こいつはツイてるぜ。まさかこんな美味そうな女が二匹も同時に釣れるとはな……!」
夏梨は歯を食いしばり、巻きついた触手をどうにか引き剥がそうとしていたが、力を込めるほど締め付けは強くなった。
遊子も必死にもがいていたものの、息をすることさえ苦しいのか、その目には涙が滲んでいる。
「苦しいよ…………! お父さん……一兄……!!」
「鳴くな鳴くな。今すぐたっぷり時間をかけて食って――」
最後まで言わせることなく、夏梨と遊子を捕らえていた触手が根元から断ち切られた。
噴き上がった血とともに太い触手が宙を舞い、支えを失った二人の身体が落ちていく。
「ぎゃああああああああっっ!!? わ、わしの腕がァァッ!!」
一心は落下してきた娘たちを両腕で受け止めると、苦しそうに咳き込む二人を木の根元へ下ろした。
「……お前がマヌケで助かったぜ。俺の娘たちに傷一つでも付けてみろ、五体を引き裂いてから地獄へ送るところだった」
一心の背から炎が猛る。熱気が籠もっているというのに、汗などかきはしない。目の前にいるのは仇だ。ならば斬れ。血は冷たく、心は熱く、頭には怒りを沈めろ。ただ魂にある熱を込めて。
「き…………貴様は………!! ただの人間じゃないな!!?」
腰から抜いた斬魄刀の切っ先を、一心はグランドフィッシャーへ向けた。
「護廷十三隊・元十番隊隊長。黒崎一心が、お前を斬る」
「た、隊長だと!? なぜこんな現世の辺境に隊長格が……! ええい、冗談ではないわ!!」
グランドフィッシャーはまともに刃を交えることすら選ばず、一心に背を向けた。
その行く手を、桜色の光が横切った。
「……逃げられるとでも思ったか」
森を埋め始めた無数の光は、近くで見れば一枚一枚が小さな刃だった。木々の間を流れ、グランドフィッシャーの周囲へ広がっていく。
「散れ……『千本桜』」
無理に突破しようと踏み込んだ足が刃の群れに触れ、肉を細かく削ぎ落とされた。
「ぎゃああああああっ!!?」
反対へ逃れようとした巨体の前には、斬魄刀を構えたルキアがいた。
「ここから先……一歩でも下がれば……。容赦なく斬る」
「何だ何だなんだ!!? なんでこんなに次から次へと死神が湧いてきやがる!!」
白哉は一心の前へ出ようとはせず、逃げ道だけを千本桜で塞いでいた。
「本来であれば、貴様のような下賎な虚などに名乗る名など……持ち合わせてはいないが。……これは、奪われた誇りを取り戻すための儀式だ。見届人として、特例として名乗ろう。……護廷十三隊・六番隊隊長、朽木白哉」
「同じく、十三番隊隊員、朽木ルキア」
「夏梨!! 遊子!!」
一護の声が木々の向こうから響いた。
妹たちを見つけた安堵は、すぐに消えた。二人の傍にいる一心、その向こうで千本桜に囲まれている虚を見た途端、六年前の雨が一護の中へ戻ってきた。
「ふざけるな!!! 貴様ら如き死神の群れに、このわしが殺されるものかァァッ!!」
忘れたことなど、一度もなかった。
「……一護」
「親父!!」
「……済まねえが、下がっていてくれ」
「なんでだよ親父!! こいつは……こいつはお袋を……!! 俺が……俺が護れなかったから……俺が斬る!!」
「……夏梨と遊子を頼む」
「俺はお袋の仇を…………!!」
「………………頼む、一護」
一護が食い下がろうとしたところへ、それまで抑えられていた一心の霊圧が押し寄せた。
「お前の気持ちはわかる。母さんを護れなかったって、ずっと自分を責めてきたこともな。……でもな………………でもよ…………!!」
「おや……じ……」
「今ここで、俺がお前にこいつを譲ったら………! 俺は…………俺は…………!! 俺は二度と、真咲の夫を名乗れねえんだよ!!!!」
六年前から、一護は母親を護れなかったことを自分の傷として抱えてきた。
けれど同じ六年間を、一心も真咲を失った夫として生きてきたのだと、その言葉を聞いて初めて真正面から思い知らされた。
仇を斬りたいのは、自分だけではない。
「……………………わかった。……絶対に……………斬ってくれよ。親父」
「ああ……………」
夏梨と遊子はまだ気を失っていたものの、二人とも呼吸はしていた。一護はその傍を離れず、目の前に立つ一心へ妹たちを任された意味を噛み締めながら斬魄刀を握っていた。
「なんだァ!!? 家族の絆のお涙頂戴か!? 虫酸が走るわ!!! まとめて串刺しにしてやる!!」
「ああ……。お前がクズで本当に良かったよ。――心置きなく、灰にできる」
一心は斬魄刀の刃を己の掌へ押し当て、そのまま深く引いた。傷口から溢れた血が刀身を伝い、その赤を追うように炎が燃え上がる。
「卍解――『剡血月下陣(えんけつげっかじん)』」
刀身に灯った炎は腕へ移り、一心の全身へと広がった。皮膚の下では血の巡りに沿って赤い光が脈打ち、そのたびに炎と霊圧が膨れ上がっていく。
先ほどまで森に籠もっていた夏の暑さなど、もう比べものにならない。一護のいる場所まで熱気が押し寄せ、周囲の草が乾き、葉の縁が熱で丸まっていった。
「ぐおおおおおっ!!? な、なんだその異常な霊圧は!! ま、待て待て待て!!!」
逃げ道は千本桜に閉ざされ、別の方向にはルキアがいる。一心との距離だけが縮まっていく中で、グランドフィッシャーは残された触手を激しくうねらせた。
「ま、待て!! 待てと言っておるだろう!!」
触手の先端が大きく膨らみ、肉の塊だったものに人間の輪郭が生まれた。伸びていく髪とともに現れた顔を見て、一護の指が斬魄刀の柄へ食い込んだ。
真咲だった。
『あなた……! 私よ……お願い、私を斬らないで……!!』
「てめえっ……!!!」
一護が吐き捨てるように叫んだ。
「クックック!! どうだ!? どんな冷酷な死神でも、己の愛する者の顔をした存在を斬れる者など存在しない……!!」
『あなた……お願い、私を斬らないで……!!』
「……真咲は、そんな顔で俺を呼ばねえよ」
疑似餌の表情が崩れるより早く、一心を包んでいた炎が斬魄刀へ流れ始めた。全身を巡る赤い光まで腕から掌へ集まり、刃の周囲で荒れ狂っていた炎が圧し潰されるように密度を増していく。
「……『月牙』……」
「な、なんだ!? 待て!! わしを斬れば、この女も一緒に――」
「――『天衝』!!!!」
振り抜かれた斬魄刀から、真紅の月牙が放たれた。
燃え上がる三日月は真咲の姿をした疑似餌を正面から呑み込み、その背後にいたグランドフィッシャーの巨体まで一息に貫いた。
「ば……、ばかな…………!!!!!!!」
炎の斬撃が抜けたあとには、焼けた土から熱気が揺らめいていた。グランドフィッシャーの姿はどこにもなく、森に残ったのは燃えきらずに舞う火の粉と、一心の荒い呼吸だけだった。
「…………終わったぜ……真咲……。俺は……俺は…………!」
続くはずだった声は震え、握っていた斬魄刀が指の間から滑り落ちた。
一心はそれを拾わなかった。
頬を伝う涙も、拭わなかった。
「……黒崎一護。誇るがいい。卿が、黒崎一心の息子であることを」
一護は泣いている父親を見たまま、白哉の言葉に答えた。
「……………ああ。終わったぜ。……お袋……」
剡血月下陣(えんけつげっかじん)
黒崎一心の卍解(オリジナル設定)。己の血液に『剡月』の炎を宿し、血が燃焼・爆発する力を全身へ循環させることで、霊圧・速度・膂力・斬撃のすべてを爆発的に増幅する。流血するほど炎は激しくなるが、肉体の損傷が限界を越えれば、全身を巡る炎が傷口から噴出して連鎖爆発を起こす諸刃の剣である。
疑似餌(ルアー)
グランドフィッシャーが持つ、触手の先端を人間の姿に擬態させる能力。人間の記憶を読み取り、相手が最も斬りづらい者の姿(今回は真咲)へ変化させたが、一心の愛と覚悟の前には完全に無意味であった。
月牙天衝(げつがてんしょう)
己の霊圧を刀に喰わせ、刃先から超高密度の霊圧を斬撃として放つ技。一心が放ったそれは、燃え盛る炎と血の混じった圧倒的な一撃であった。
見届人
朽木白哉がグランドフィッシャー戦において自任した役割。志波家(一心)の誇りある復讐に敬意を表し、決して獲物を横取りせず、逃げ道だけを完全に塞いだ。