我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。現世では英語教師「GTT」。新婚旅行から帰還早々、日番谷の隊長羽織を勝手に持ち去り、旧知の修多羅千手丸に極秘で超強化の仕立て直しを依頼した。藍染より先に「あの名言」を口にする。
戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
二番隊隊長・隠密機動総司令官。古男の妻。古男の難解極まる暗黒厨二病言語を1ミリの狂いもなく完璧に日本語へ翻訳する「唯一の公式通訳」。
日番谷冬獅郎(ひつがや とうしろう)
十番隊隊長。大事な隊長羽織を盗まれてブチ切れるが、大好物の甘納豆で一瞬だけ買収される。仕立て直された羽織の規格外の霊圧・防御性能に驚愕する。
松本乱菊(まつもと らんぎく)
十番隊副隊長。激怒する日番谷を宥めつつ、砕蜂の異常な「古男語翻訳能力」にドン引き混じりの感銘を受ける。
修多羅千手丸(しゅたら せんじゅまる)
零番隊・大織守(おおおりがみ)。古男の太古からの昔馴染み。流魂街の片隅で、古男の依頼により日番谷の羽織を「零番隊仕様」に仕立て直した。
新婚旅行から瀞霊廷へ戻った翌朝、古男が十番隊隊舎前を歩いていると、隊舎から凄まじい殺気が飛んできた。
「………………おい」
聞こえているはずなのに、古男は腕を組んで空を見上げたまま何も答えない。
「おいコラ、無視すんじゃねえ!! どういうつもりだ、ああん!?」
それでも返事はなく、日番谷の手が氷輪丸の柄へ伸びた。
「なんとか言ったらどうだァァッ!!? 貴様、ぶった斬られたいのか!!?」
そこでようやく古男が日番谷へ顔を向けた。
「……あまり……強い言葉を使うなよ」
「ああん!?」
「――弱く見えるぞ」
「ぶっ殺す!!!! 誰が弱いかァァァッッ!!!!」
氷輪丸が鞘から抜きかけたところへ、書類を抱えた乱菊が駆け込んできた。
「た、隊長ぉぉぉっ!!? それと戸川五席! 何やってるんですか朝っぱらから!!」
「松本!! この野郎が、俺の『隊長羽織』をどこかへ持ち去りやがったんだよ!!」
「ええええっ!? 羽織がないなんて、……総隊長にバレたら怒られますよ!!」
「クックック………案ずるな、小僧」
「小僧って言うな!! 誰が豆クソチビかァァァッッ!!!!」
「隊長、そこまでは誰も言ってない……」
古男は裾を大きく翻し、ますます機嫌を悪くする日番谷を見下ろした。
「貴様の矮小なる体躯では想像もつかん深淵であろうが……あの白き闇の衣は、我が腕により至高の領域へと昇華するのだ……!」
「……はあ?? 何を言ってんだ貴様」
「良いか!! この三界の理はすでに限界に達している!! それを我が直々に地獄の底から千手を引きずり出し、黒く染め上げてやろうと言うのだ!!!」
「……わけの分からねえ電波を受信してんじゃねえ。いい加減にしねえと、本当に凍り漬けにするぞ……」
新婚旅行から戻ったばかりだからなのか、今日はいつにも増して言葉が通じない。日番谷がとうとう刀を半ばまで抜いたところで、古男は何事もなかったように懐へ手を入れた。
「クックック……まあ待て。これをやろう」
差し出されたのは、竹の皮で丁寧に包まれた小さな包みだった。
「なんだよこれ……」
警戒しながら開いた日番谷の手に、ころころとした豆菓子が現れた。
「……あ……甘納豆? ……チッ、これは受け取っておく」
散々殺気を撒き散らしていたくせに、甘納豆はそのまま懐へ入れた。
そこへきた砕蜂が、古男を見つけて声を掛けた。
「古男………ここにいたのか。探したぞ。私より先に十番隊に来ているとはな」
「砕蜂隊長!! 早くその重症の厨二病を引き取ってくれ!! こいつとこれ以上話してたら、すぐにでも卍解してぶっ飛ばしてしまいそうだ!!」
「何があったのだ日番谷? なぜそんなに怒っている?」
「こいつが俺の大事な隊長羽織を盗みやがったんだよ!!」
「クックック……」
事情を聞いた砕蜂は、それだけで納得したように背負っていた風呂敷を下ろした。
「ほら、これだろう」
「……俺の羽織?」
日番谷が風呂敷を解くと、中から折り畳まれた十番隊の隊長羽織が出てきた。
「こいつは、さっきこう言ったのだ。『隊長羽織が少し汚れていた。栄光ある十番隊の隊長羽織が汚れているなど、三界の恥である。よって、俺が自ら修多羅千手丸に頼んで仕立て直してやる』……とな」
「……しゅたら、せんじゅまる……?? 誰だそれ」
「私も今日初めて会った。古男から受け取りを頼まれてな。流魂街の奥で仕立て屋をしているそうだが、随分と昔からの知り合いらしい」
砕蜂が訪ねた場所は、瀞霊廷から遠く離れた流魂街の一角にあった。
古びた長屋の一室には布が幾重にも垂れ下がり、その奥で一人の女が煙管をくゆらせていた。背後では何本もの義手が生き物のように動き、針を運び、糸を引き、広げられた布を縫い上げている。
『ほほう……そちがあやつの妻か……。随分と小さく可愛らしい雀を娶ったものよのう』
『ああ。古男から、仕立て直した羽織を受け取りに行くように言われてな』
『今は「古男」と名乗っておるのだったか……。ふふっ、そちもあのような男によく甲斐甲斐しく仕えるものよ』
仕立て屋と聞かされて来たものの、向かいに座っているだけで気を抜く気にはなれなかった。砕蜂が持ち帰った羽織を受け取って帰ろうとした時まで、千手丸は何本もの義手を動かしながら楽しそうに笑っていた。
その時の顔を思い出したのか、砕蜂は古男へ目を細めた。
「……ところで古男よ。あの女とは、一体どういう関係なのだ?」
「クックック………蜂の子よ。あやつは地獄の底から這い出た、天の司書よ……」
乱菊は古男と砕蜂を見比べた。
「……砕蜂隊長、これも翻訳できるんですか?」
「うむ。『あいつのことは太古の昔から知っているが、女として見る気など毛頭起きない、地獄みたいに面倒な奴だから安心しろ』と私に言ってくれているのだ」
古男は何も訂正せず、「クックック」と喉を鳴らしている。
どう聞けば今の一言がそこまで長い文章になるのか、乱菊にはまるで分からなかった。
「……まあ、羽織が無事に戻ってきたならそれで……」
日番谷が仕立て直された羽織へ腕を通した途端、身体の内側から霊圧が噴き上がった。
「うおっ!? な、なんだこれは!!?」
抑えようとしても霊圧が暴れているわけではなく、普段と変わらない感覚のまま出力だけが押し上げられている。肩から裾まで確かめるように触れれば、見た目こそ以前の羽織と同じなのに、織り込まれた霊子の密度まで別物だった。
「霊圧が……内側から勝手に湧き上がってくるみたいだ……!? それだけじゃねえ、羽織の繊維自体が異様に引き締まってやがる……!」
「ちょっと見せてください」
乱菊が裾を摘まんで強く引いてみても、布はほとんど伸びなかった。
「ひゃっ!? これ、ものすごい霊子密度ですよ……! 下手な斬魄刀で斬りかかっても、刃が通らないんじゃないですか!?」
「クックック……」
古男は仕立て直された羽織を纏った日番谷をしばらく眺めていたが、やがて満足したように背を向けた。
「……まあ、それさえ纏っていれば……下手な奴には負けまいよ」
「あ? おい古男、今なんか言ったか?」
足を止めた古男が振り返った瞬間、白衣が大きく翻り、どこからともなく重々しい音楽が鳴り始めた。
「カーカッカッカッ!! 我が暗黒の加護にひれ伏すが良い、氷の申し子よ!!!」
「……チッ、相変わらず胸糞悪い野郎だぜ」
日番谷は肩に馴染んだ羽織の襟を直した。
「……だが、礼は言っといてやるよ」
あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ
古男が日番谷に対して放った煽り文句。後に藍染惣右介が放つ歴史的名言と一言一句同じであるが、現時点では藍染がまだ口にしていないため、完全なる古男のオリジナル発言(先取り)となっている。
修多羅千手丸(しゅたら せんじゅまる)
零番隊「大織守(おおおりがみ)」。死神の衣服(死覇装など)を生み出した存在。古男の古い昔馴染みであり、彼の頼みを受けて日番谷の隊長羽織に特殊な強化・仕立て直しを施した。
砕蜂の古男語通訳
古男の難解かつ意味不明な暗黒厨二病ポエムを、正確無比な日本語へと変換する砕蜂の特殊能力。夫婦としての絆と理解が極まった結果、十番隊一同を驚愕させる精度を誇る。
強化隊長羽織(零番隊仕様)
千手丸によって極秘裏に強化された日番谷の羽織。纏うだけで着用者の霊圧の循環を活性化させ、物理的・霊的斬撃に対して極めて高い防御力を発揮する。