我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座高校英語教師「GTT」。悪辣なる死神ヒーロー「キング・ドアリバー」として悪役(ヒール)を完全怪演。魁湛のスーパーボールで地縛霊を魂葬しつつ、特撮級の超ド派手エフェクトでドン・観音寺を最高の「本物のヒーロー」に仕立て上げる。
ドン・観音寺(どん・かんおんじ)
超人気心霊番組『ぶら霊』のカリスマ霊能者。目の前の怪物を前にしても「子供たちの前で逃げる者をヒーローとは呼ばない」という本物の黄金の魂(ヒーロー精神)を見せつけ、観音寺キャノンボールで怪獣を撃破する。
戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
空座高校体育教師。二番隊隊長・隠密機動総司令官。古男の妻。古男が観音寺の男気に惚れ込んで粋な演出をしたことを見抜きつつ、湯上がりのような甘いお仕置き(尻揉み)を受け入れる。
黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年・死神代行。古男のあまりの茶番劇と自作自演のマッチポンプに、ツッコミすら放棄して完全沈黙する。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。地縛霊を魂葬しながら全国放送の特撮ショーを成立させた古男の異常な手腕に呆れ果てる。
井上織姫(いのうえ おりひめ)
一護のクラスメイト。キング・ドアリバーのド派手な悪役っぷりにすっかり魅了され、完全なるファン第1号となる。
有沢たつき(ありさわ たつき)
空手部。古男の露骨なしらばっくれと織姫の天然っぷりに頭を抱える。
刀身のない魁湛を天へ掲げたキング・ドアリバーは、死神とは到底思えない悪役ぶりで高らかに宣言した。
「さあ!!!! 我が暗黒の深淵より出でし下僕よ!!! 真の姿を現し、この愚かな現世に絶望と恐怖を振りまけぇぇぇぇッッッ!!!!」
『ボスッッッ!!!!』
暗黒の深淵から出てきたにしては、ずいぶん安っぽい音だ。
原因は魁湛の柄の先端にガチガチに固定された漆黒のスーパーボールであり、世界へ絶望と恐怖を振りまくどころか、それを地縛霊の頭へ容赦なく叩き込んでいた。
「あ、あれ……? 痛みが消えて……なんか……めっちゃ気持ちいい……天国が見え……」
地縛霊は、その一撃で苦痛から解放され、青白い光に包まれながら綺麗に尸魂界へ還っていった。
絵面にはかなり問題があるものの、魂葬そのものはコンマ一秒で完璧に終了しているので、死神として文句をつけられるところは何もない。
普通なら、これで終わりである。
もちろんキング・ドアリバーなので終わらなかった。
『ズドドドドドンッ!! ピロリロリロリロ――デデーンッ!!』
地縛霊が消えた途端、廃病院一帯に禍々しい戦闘音楽が鳴り響き、闇の中から全高五十メートルを超える三つ首の巨獣が出現した。
六つの眼を光らせながら夜空を埋め尽くすほどの巨体を晒しているが、当然ながら魁湛による超高精度ホログラムであり、実際に巨大生物が空座町へ降臨したわけではない。
その「当然ながら」を知っている人間は、観客の中にはほとんどいなかった。
「「「ぎゃあああああああっっ!!? なんだあのバケモノはァァァッッ!!??」」」
「う、映ってるぞ!? カメラに完全に巨大怪獣が映ってる!! 放送事故だ、いや特大のスクープだァァッ!!」
霊体ならカメラに映らないという言い訳も使えない。魁湛は一般人の肉眼にもテレビカメラにも平等に映る親切設計であり、斬魄刀として何を目指しているのかはともかく、映像機器としての完成度は異様に高かった。
そして、その巨大怪獣を生み出した張本人は、
「続き知りたいかい~~♪ この物語は~~♪ 週替わりの奇跡の神話~~~~ッッッ!!!!」
大音量で主題歌まで歌い始めた。
世界を滅ぼす悪役が、自分の登場回で自分から挿入歌まで担当しているのは珍しい。
役割分担という概念は、キング・ドアリバーには存在しない。
「歌うなァァァッッ!! 気持ちよく歌い上げるんじゃねえええええっッ!!」
一護の訴えは全面的に正しいのだが、巨大怪獣の咆哮と観客の絶叫と古男の熱唱が同時に響く現場では、まともな人間の声ほど通らない。
そんな中で、ドン・観音寺だけは観客と一緒に逃げようとはしなかった。
「……くっ! ベイビー達!! 早く逃げるんだ!! ここは危険すぎるぜええええッッ!!」
逃げても誰も責められないどころか、それが普通の判断なのだが、彼が気にしているのは自分の逃げ道ではなく、後ろにいるベイビーたちだった。
『クックック……!! 我が終末の巨獣と貴様の霊力、力の差は歴然だぞドン・観音寺!! ……貴様は逃げないのか!? 命が惜しくはないのか!?』
いつの間にか怪獣の肩にはキング・ドアリバーの立体映像まで追加されている。
怪獣だけでも十分に画面は埋まっているのだが、魁湛に「盛りすぎ」という概念はないらしい。
「……ふっ……フハハハ!! 私は、ヒーローだ!! ベイビーたちの前で背中を向けて逃げるものを………子供達は『ヒーロー』とは呼ばんのだよおおおおッッッ!!!!」
「…………………これだから………人間というやつは……」
派手な音楽と観客の悲鳴に紛れた古男の声を、観音寺が聞くことはなかった。
古男から見れば、観音寺は放っておけば被害を増やしかねない厄介な男である。
それでも、ただの道化と笑って終わらせるには少々惜しかった。
「カーカッカッカッ!! ならばゆけ!! 我が下僕よ!! 哀れなピエロを叩き潰せぇぇぇぇッッッ!!!!」
どうやら完全に気に入られたようだ。
その結果として怪獣と戦わされるのだから、古男から好意を向けられることが幸福なのかどうかについては議論の余地がある。
『ズバァァァァンッ!!』
三つ首の巨獣が吐き出した紫色の破壊光線を、観音寺は転がりながら間一髪でかわした。光線自体は無害なレーザー演出だが、避けた直後に道路が『ドガァァァンッ!!』と盛大に爆発したように見えるため、観客からすれば殺意しか感じられない攻撃である。
もちろん実際の道路には傷一つない。魁湛は公共物には優しかった。
「ボハハハハ!! そんな攻撃など、このドン・観音寺には通用しないぜえええッ!!」
観音寺の霊気が巨獣へ叩き込まれるたび、魁湛は律儀に『ズガガガガガァァァンッ!!』と大爆発を追加してくれた。
ついには廃病院の屋根まで吹き飛んだように見え始めたが、観音寺本人の霊力が突然建物を破壊できるほど増えたわけではない。
魁湛が盛っている。
しかも本人以上に本気で盛っている。
そんな事情を知らない観客たちには、ドン・観音寺が巨大怪獣を相手に互角以上の戦いを繰り広げているようにしか見えず、逃げようとしていた人々まで足を止めて声援を送り始めていた。
テレビの前でも同じことが起きており、心霊番組を見るつもりだった数千万の視聴者が、気づけば怪獣から地球を守る霊能ヒーローの戦いに夢中になっている。
番組スタッフも途中から乱入者を止めることを諦めた。
視聴率が上がり続けていたからである。
テレビ局にとっては怪獣より数字の方が強い。
「おおおおおおっ……! ベイビーたちの未来のために!! 我が魂のすべてを喰らいなさい!! ――『観音寺・キャノンボール』ォォォォォッッッ!!!!」
観音寺の右手に集まった黄金の光は、魁湛が作った偽物ではなかった。
『ドガァァァァァァァァァンッッッ!!!!』
ただし命中した後については、明らかに魁湛が余計な仕事をしていた。
「グワアアアアアアアッッッ!!!」
三つ首の巨獣は観音寺・キャノンボールを受けて大爆発し、夜空いっぱいに光の粒子を撒き散らしながら消滅した。観音寺自身も自分の技にここまで派手な威力があった記憶はないだろうが、数百人の観客が感動している真っ最中なので、今さら「こんなに強かったかな」と首を傾げるわけにもいかない。
「クックック………!! やるな、ドン・観音寺……! だが……安心するなよ……! 貴様が今倒したのは、我が『終局の獣・四天王』のなかでも……最弱……ッッ!!」
爆煙の向こうから聞こえてきたのは、敗北した悪役が一度は口にしてみたい台詞を何の捻りもなく採用したキング・ドアリバーの声だった。
「負け惜しみがテンプレすぎるんだよ!!」
一護からも即座に採点された。
「次こそは、貴様の魂を我が暗黒の胃袋に収めてくれよう……! ――ジュワッッッ!!!!」
『ボシュウウウウウウッ!!』
大量の煙幕が廃病院前を覆い、直後には夜空へ一筋の光が飛んでいった。本当に古男本人がウルトラな何かのように飛び去ったのか、魁湛がそう見せているだけなのかについては、今夜発生した疑問の中でもかなりどうでもいい部類に入る。
「……くっ…………何という強敵か……! だが、キング・ドアリバーよ!! この私が生きている限り!! バッドスピリッツに……この星の未来はやらせないぜええええッッ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!! 観音寺ィィィッ!! 観音寺ィィィッッ!!!!」」」
除霊するはずだった心霊ロケは、いつの間にか地球の命運を賭けたヒーローショーへ変貌していた。
観客は何の疑問も抱かず総立ちで観音寺を讃え、スタッフまで一緒になって拍手しているのだから、テレビ番組にとって企画書より現場の勢いが強い瞬間というものは確かに存在するらしい。
ロケ終了後、興奮の冷めない観客たちが帰り始めた頃には、先ほどまでキング・ドアリバーを名乗っていた男も、何食わぬ顔で一護たちのところへ戻っていた。
「いやはや……あの『キング・ドアリバー』とかいう謎の仮面……一体何者だったのだ!? 敵ながら、なんとも痺れるほどカッコよかったではないか!!」
白衣は同じ、声も同じである。だがここまで堂々と別人を装われると、むしろ訂正する側が野暮に思えてくるから恐ろしい。
「…………………………」
「…………………………」
一護とルキアからは何も返ってこなかった。
「うんうんっ!! あのキングドアリバーさん、すごくカッコよかったよねぇ〜! 悪者なのにマントがヒラヒラしてて素敵だった! 来週もまた来てくれるのかなぁ!?」
訂正する必要がある人は、もっと近くにいた。
「織姫…………世の中にはね、触れちゃいけない大人の悪ふざけってのがあるんだよ……」
たつきも、そこまでしか言わなかった。親友の夢を完全に破壊しない程度には優しかったのだ。
キング・ドアリバーの正体など最初から問題にしていない梢綾には、別に聞きたいことがあった。
「……なあ古男。最初で、あの地縛霊を魂葬したのは分かったが……なぜ、あんな茶番を演じてやったのだ?」
「クックック………蜂の子よ。淑女が殿方の深謀遠慮に余計な詮索をするでない。……さあ、夜風で体が冷えた。我が手を温めるべく、お前のその引き締まった桃尻を存分に揉ませろ!!」
『ギュムッ』
「あんっ……♥」
妻の尻へ移動する会話術は最低だったが、残念ながらこの夫婦には通用したようだ。
梢綾にとっては、それで十分でもあった。命が惜しくても誰かを守るために立てる男を、古男が嫌うはずがない。
この日の『ぶら霊』は、瞬間最高視聴率四十五・八パーセントを記録した。
当然、翌週の番組会議は荒れた。
ただの心霊ロケを続ける案と、カリスマ霊能者ドン・観音寺が漆黒の怪人キング・ドアリバーの送り込む巨大怪獣と毎週戦う案を並べてしまえば、四十五・八パーセントという数字の前では勝負にならない。
こうして『ぶら霊』は怪獣バトルエンタメ番組へ大幅な路線変更を遂げ、全国の子供たちを熱狂させる名物コーナーを手に入れることになった。
ただし、テレビ局はキング・ドアリバーと出演契約を結んでいない。
にもかかわらず、翌週も普通に現れたのであった。
スーパーボール魂葬(こんそう)
魁湛の柄の先端にスーパーボールを取り付け、霊の額へ叩きつけることで、苦痛を一切与えずに一瞬で成仏(魂葬)させる古男のオリジナル技。外見はただのギャグだが、技術的には超高等な霊圧制御である。
終末の獣(四天王最弱)
古男が魁湛のホログラムと霊圧爆破を用いて作り出した全高50メートルの怪獣。見た目は凶悪極まりないが、すべて無害な光と音のエフェクトであり、観音寺を最高のヒーローとして全国に魅せるための完璧な舞台装置。
観音寺キャノンボール
ドン・観音寺が自らの霊力を練り上げて放つ必殺の霊気弾。威力自体は低級な虚を吹き飛ばす程度だが、古男の見事なリアクションと爆破演出により、世界を救う究極の必殺技へと昇華された。
ジュワッ!!
キング・ドアリバーが敗走する際に発した謎の掛け声。某光の巨人の変身・飛行音を露骨に意識している。
新生『ぶら霊』
この日の放送をきっかけに、単なる心霊ロケ番組から「ヒーロー観音寺 vs 悪の死神キングドアリバー」の特撮アクション番組へと完全リニューアルされた番組。毎週の魂葬ノルマをエンタメで消化できるため、現世の治安維持(?)にも地味に貢献することとなる。